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2014.07.09

「インターネットと通信の秘密」第2期研究会報告書

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 「インターネットと通信の秘密」研究会は、情報セキュリティ大学院大学が主催し、電気通信事業者やインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の有力企業が参加して行われた。当研究所はこれに協力した。
 第1期研究会は、2012年11月から2013年5月まで行われた。個人の権利としての「通信の秘密」について、郵便や電話の時代に発展した論理がインターネットの時代に見直しを迫られているのではないかとの問題意識に基づき、憲法論的視点、事業法的視点、非対称(例えば、日米の規制環境の差によって電気通信事業者などの提供するサービスに差が生じていること)の解消の視点から検討を行った。その結果、「通信の秘密」「他人の秘密」「プライバシー関連情報」を区別して考えるべきこと、電気通信事業者の責務・ビジネスの規律などについて7つの提案を行った。研究成果は、「インターネットと通信の秘密」研究会報告書「インターネット時代の『通信の秘密』再考 "Rethinking'Secrecy of Communications' in the Internet Age"」(2013年6月)(PDF:384KB)にまとめられている。
 第2期研究会は、2013年11月から2014年5月まで行われた。第2期では、第1期の研究成果を受けて、英米独仏豪韓の各国について、「通信の秘密」の法的保護および制限の根拠・態様、ISPが関与するブロッキング、帯域制御などの実施状況・法規定・利用者の同意などを調査し、横断比較する中で、日本の法制度へのインプリケーションを検討した。研究成果は、「インターネットと通信の秘密」第2期研究会報告書「インターネット時代の『通信の秘密』各国比較 "International Comparison of 'Secrecy of Communication' in the Internet Age"」(2014年5月)(PDF:817KB)にまとめた。



「インターネット時代の『通信の秘密』各国比較-International Comparison of 'Secrecy of Communication' in the Internet Age」

Executive Summary

1. 先進諸国においては「通信の秘密」は基本的人権の一つとして保護され、その侵害に対しては、刑事罰が科せられる。「通信の秘密」の根拠は、プライバシー保護の一環だとする考え方が一般的である。しかしプライバシー保護のあり方については、国ごとに歴史的・文化的な差があるため、保護の仕方や範囲などに微妙な差が生じている。そこで、米国・英国・オーストラリアという英米法系の国と、ドイツ・フランスという大陸法系の国、さらに隣国である韓国を加えて、それぞれの国ごとの実情を調査するとともに横断比較を行って、わが国への教訓を探ることとした。
2. 「通信の秘密」は絶対的保障を受けるわけではなく、「公共の福祉」の観点から、より高位の法益があれば制限される場合があることは、共通した理解である。わが国も理論的には同じ理解に立っていると思われるが、実際の運用は極めて厳格で、明確な「違法性阻却事由」がない限り「通信の秘密」が守られるとしている点は、先進諸国の間では「保護の程度が高い」類型になろう。「公共の福祉」の観点から、通信傍受などが違法性を阻却されるケースは、大きく分けて (a) 事業者のネットワーク制御に伴うものと、(b) 公権力の関与に伴うもの、に2 分される。後者はさらに、(b-1) 犯罪捜査に伴うもの、(b-2) 国家安全保障にかかわるもの、に分けられる。
3. このうち (a) について本調査では、ISP が関与する以下の5 つの個別事項に関して、各国での実施状況・法的規定・利用者の同意の3 点について、調査を行った。①迷惑メールのフィルタリング(ブロッキング)、②帯域制御、③サイバー攻撃などに対する情報セキュリティ対策、④違法コンテンツサイトへのアクセスブロッキング、⑤行動ターゲティング広告。
4. その結果、これらの事項は調査対象のいずれの国においても何らかの形で実施されているが、「各国ともほぼ同じようなレベルで実施されているもの」と「実施されているが、ISP が関与する程度が異なるもの」がある。また関与を認める法的根拠や実際の運用についても、必ずしも各国で足並みが揃っているわけではない。
5. このように一般的な傾向が明確でない中で、各国のISP の関与について強いて大きな分類をすれば、EU 型においては「ネットワーク中立性」が重視され、事業者の裁量が制限されているのに対して、アメリカ型ではネットワーク事業者の自由度が高いという対照があるように思われる。なお、ここでネットワーク事業者というのは電気通信事業者に限らず、コンピュータ・サービス提供者を含めた概念であり、後者において営業の自由度が高いのは「インターネット非規制政策」を取ってきた同国の特徴と考えられる。電気通信事業者に限って言えば、アメリカ型でも「ネットワーク中立性」の議論がある。
6. (b)に関する部分については、以下のような諸点が注目される。①関与の目的は、犯罪捜査とテロ対策を含む国家安全保障の二つ、②関与の方式としては、現に行われている通信過程に関与する通信傍受と、通信終了後に通信事業者等によって蓄積された情報(保存資料)へのアクセスの二つ、③関与の対象は、通信内容と、通信内容以外の通信に関わるトラッフィクデータ・通信データ・メタデータ・通信属性と呼ばれる情報および通信自体ではなく加入契約に基づいて得られる加入者情報の三つ、④関与の手続きとしては、裁判所の令状を必要とする司法傍受と行政機関・捜査機関の手続きで良い行政傍受に分かれている。
7. (b-1) の犯罪捜査に伴うものに関しては、サイバー犯罪対策で国際条約ができたように、国際的な制度の調整(ハーモナイゼーション)が最も進んでいるが、法制度は現実の各国の風土の中に存在するものだから、傍受に関する社会的受容度によって、実際の運用面ではかなりの差ある。とりわけ「令状主義」を貫徹し司法傍受しか認めないか、一定の条件の下では行政傍受を認めるかは大きな差であり、前者しか認めないわが国は「最も厳格な令状主義」を維持していると考えられる。
8. (b-2) の国家安全保障にかかわるものに関しては、各国のナショナル・セキュリティに関する感度(センシビリティ)が反映している。国家安全保障に係るインテリジェンス活動のための公権力の関与は、通信傍受と保存資料へのアクセスの二つがある。また手続き的には司法傍受と行政傍受と呼ばれる二つがある。犯罪捜査の場合とは違って、各国とも裁判所の関与なしで(行政・捜査機関だけの手続きで)傍受や保存資料へのアクセスを認めているが、基本的人権を必要以上に侵害することのないよう、手続き的な担保の規定もおいている。
9. とは言うものの、権限が濫用される危険と背中合わせであることに、より配慮しなければならない。いみじくもスノーデン事件で明らかになったように、歯止めのない傍受・アクセスが行われる危険があるからである。各国とも手続き的な工夫に努力しており(特にドイツにおいて顕著かと思われる)、インテリジェンス活動を一切止めよという声は少ないが、人権の保障にはなお努力が求められている。
10. 各国比較による日本の制度への教訓として、以下のような諸点を引き続き検討すべきかと思われる。①「通信の秘密」を第一義的な問題として論ずることの妥当性(他の視点での検討の方が適している場合があるのではないか)、② 事業者の正当行為(わが国の流儀では「違法性阻却事由」)を予め法定化することの妥当性と、その際に電気通信事業者やISP の財産権を根拠とすることの妥当性、③ 公権力の関与に関しても、これを法定化することの妥当性。
11. また本調査では手が回らなかったが、位置情報など、今後「通信の秘密」との関連で重要度が増すと思われる事項も多い。別途の機会を得て、これらも引き続き検討していきたい。


「インターネットと通信の秘密」第2期研究会報告書「インターネット時代の『通信の秘密』各国比較 "International Comparison of 'Secrecy of Communication' in the Internet Age"」(2014年5月)(PDF:817KB)

情報セキュリティ大学院大学、News2014/06/12に掲載)


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