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2020.01.23

災害税務を考える -被災・応援自治体の税務の対応と継続性-

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2020年1月号に掲載

  • 柏木 恵
  • 研究主幹
    柏木 恵
  • [研究分野]
    財政・社会保障

はじめに

 2019(平成31年・令和元)年も「令和元年佐賀豪雨」、「令和元年台風第15号」、「令和元年台風第19号」などの災害が発生し、東北、関東、中部、九州など多くの地域が被災した。まずは、被災された方々や自治体にお見舞いを申し上げる。

 2011(平成23)年3月の「東日本大震災」、広島市で土砂災害となった「平成26年8月豪雨」、鬼怒川の堤防が決壊した「平成27年9月関東・東北豪雨」、2016(平成28)年4月の「熊本地震」、福岡県朝倉市が孤立した「平成29年7月九州北部豪雨」、2018(平成30)年6月の「大阪府北部地震」、広島県、岡山県、愛媛県が甚大な被害を受けた「平成30年7月豪雨」、2018(平成30)年9月には「北海道胆振東部地震」と記憶に残る地震や豪雨が頻繁に発生している。この10年間は災害に次ぐ災害に見舞われた10年間といっても過言ではないだろう。

 日本は、財政難により、長らく地方公務員の採用を控えていた時期があり、どの自治体も余剰な人員は抱えていない。災害の度合いによっては、被災自治体が業務を継続するために、他自治体に応援を求めることになるが、毎年のように大規模災害が発生する昨今においては、応援自治体も度重なる職員派遣に応じることが難しくなってきている。災害支援を検討するには、被災自治体の業務の継続性だけでなく、応援自治体の業務の継続性も考える必要がある。

 「復旧は罹災証明がないと始まらない」と言われる。罹災証明書は、被災者生活再建支援金・災害義援金の請求、税金・保険料・公共料金の減免・猶予、災害援護資金、災害復興住宅融資などに必要となる。被災住宅の応急修理、仮設住宅への入居など被災者に対する支援措置の適用の判断材料として幅広く活用されている。罹災証明書を迅速かつ的確に交付できるかが、被災者の生活再建のスピードを左右する。

 2011(平成23)年3月の東日本大震災の経験をふまえて、2013(平成25)年6月に災害対策基本法が改正され、罹災証明書を遅滞なく交付することが市町村長の義務となった。災害対策基本法第90条の2第1項では「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があったときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面を交付しなければならない」と規定されている。第2項では、「市町村長は災害の発生に備え、罹災証明書の交付に必要な業務の実施体制の確保を図るため、前項の規定による調査について専門的な知識及び経験を有する職員の育成、当該市町村と他の地方公共団体又は民間の団体との連携の確保その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定されている。

 ここ数年の日本は地震災害というよりも風水害に見舞われることが多くなり、住家被害もこれまでとは異なり、複雑化している。住家被害認定要員の確保は重要であるため、被災地から職員派遣要請の際に、住家被害認定調査や罹災証明書発行業務の対応のために、土木・建築技師や固定資産税家屋担当経験のある職員を求むという条件が付与されることが多い。しかし、自治体における土木・建築技師は減少しており、また、固定資産税家屋担当経験のある職員数も決して潤沢ではない。通常の固定資産税業務でも、家屋評価の人手が足りず、県や他自治体との共同作業や民間企業の力を借りないと作業が回っていかない自治体もあるくらい人手不足になっている。

 人口減少社会によって、さらなる労働力不足が見込まれる中、大規模災害がこれだけ増えてくると、被災地応援派遣は突発的な業務として捉えるのではなく通常業務の一部と考えて、人材の適正配置を考えざるを得ないのではないか。通常業務を継続するために、応援派遣を含めた全体の税務業務として捉えていく必要があるのではないか。被災自治体と応援自治体だけでなく国全体で、通常業務を継続しながら、被災者支援と応援派遣も行える仕組みを検討する必要があるのではないかと考える。 最近では、被災自治体は、災害対応で忙殺される中、被災後概ね1か月を目途に罹災証明書を交付するよう国から求められている。罹災証明書発行業務を効率化するには、これまで以上に、応援自治体職員の適正配置を行い、応援職員を最大限活かす努力も必要だろう。より簡便かつ効率的な方法で調査をできるように運用を見直していく必要もある。また、専門知識を取得するための人材育成も必要である。ほかにもさまざまな課題がある。そして、何よりも重要なのは、税務業務全体の継続性を意識しながら、被災者支援を考えることなのではないか。

 本稿では、被災地での住家被害認定調査や罹災証明書発行事務に焦点をあて、被災自治体と応援自治体の税務の対応と継続性について検討する。

 第1章では、災害時の職員派遣スキームについて概観する。第2章では、税務職員および家屋評価経験者、住家被害認定調査経験者などの職員派遣の実態を把握する。第3章では、住家被害認定調査や罹災証明書発行業務など初期の被災者支援を効率的に行うための課題について検討する。・・・

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災害税務を考える -被災・応援自治体の税務の対応と継続性-PDF:511.6 KB

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