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2019.12.11

医療法人決算届集計の意義と結果

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 2019年4月、医療改革をテーマとする円卓会議に出席した際、国際機関勤務が長かった政府高官から「医療改革の方向は正しいが過去20年間何も実現していないというのが海外から見た日本に対する評価」という発言があった。筆者は、これと同じ指摘を共同研究している海外の医療政策研究者たちから受けてきた。それには2つの理由がある。

 第1の理由は、医療保険制度の資金繰りを赤字国債発行に依存しているからである。持続不可能な仕組みを模範と評価する国はどこにも存在しない。そもそも米国を例外として先進諸国は「医療の皆保障」を実現している。それは、財源確保と医療提供体制の両方が公中心で連結した仕組みである。わが国の医療団体幹部たちは未だに「世界に冠たる皆保険」と現行制度を支持している。それは、本レポートが示すとおり利益が出ており居心地がいいからと思われる。

 第2の理由は、医療分野におけるICT活用が先進諸国の中で最も遅れているからである。OECDが2015年10月に発行したPolicy Brief「Health Data Governance: Privacy, Monitoring and Research」によれば、日本は統計作成と調査研究のための診療情報の共有とアクセスの点でトルコ、イタリアと並んで最低評価である。これは、政府が2017年に公表した未来投資戦略で2020年までに構築するとしたPHR(Personal Health Record:個人が自らの電子診療録を携帯する仕組み)構想が全く進んでいないことにも表れている。

 11月5日に当研究所が開催したシンポジウム「世界の新潮流 全体最適を目指すPopulation Health とNew Technology」で示されたとおり、医療分野におけるAI活用やデジタルヘルスに関わる技術は日本にもある。しかし、2020年に米国で社会実装が始まる「AIによる患者指名制」を日本で実現するには医療制度の抜本的改革が必要である。患者が来るのを医療機関が待つのではなく、地域住民一人ひとりの健康情報・疾病リスクのデータベースを基盤にAIが患者を指名する仕組みを機能させるには、医療機関と保険者が協力し合う必要がある。米国でこれが実現するのは、Integrated Healthcare Network と呼ばれる非営利大規模地域包括ケア事業体が医療保険部門を兼営しているからである。したがって、財源と医療提供体制が公中心で連結している英国やオーストラリアでもAIによる患者指名制が近未来に実現すると予想される。

 実は、医療機関と保険者が対立するのではなく協力し合う仕組みの必要条件は、日本でも整いつつある。国民健康保険の運営責任は都道府県に集約された。協会けんぽも全国一律ではなく都道府県単位の保険料率に移行しつつある。したがって、患者情報共有のプラットフォーム機能を果たす大規模地域包括ケア事業体を設立すれば、都道府県が医療の財源と提供体制の両方を総合勘案して全体最適の経営判断を行う基本型ができる。これが成功するための鍵は、大規模地域包括ケア事業体に参加する開業医と基幹病院の機能分担、医療機関と保険者との信頼関係である。ここで政府に求められるのは、地域医療全体最適を科学するPopulation Healthの専門人材の育成である。・・・


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医療法人決算届集計の意義と結果 (PDF:2.5MB)

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