本文へスキップ

2020.06.03

医療改革:新型コロナ問題の指し示す道筋

機械振興協会 経済研究所(2020年5月22日)に掲載

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

1. はじめに

 現在世界の200カ国以上で総力を挙げた新型コロナとの戦いが行われ、その様子は日々テレビなどで紹介されている。例えば、新薬・新医療機器の開発、PCR検査体制、医療崩壊、医師・病院・ベッド・ICUなどの医療資源の問題などは、毎日のごとくメディアで取り上げられている。その結果、国際的な比較が進むとともに、データに基づく合理性の追求も身近なものとなっている。

 各国の医療サービス水準の比較は容易ではない。個々の医療行為のレベルは、医師等のスキル・モラール、医薬・医療機器などで決まるが、一国全体の医療サービスの水準は多くの関係者の活動の総和として現れる。

 通常のサービスでは、市場における切磋琢磨の結果、価格と供給量が決定され、その総額の大きさが意味を持ってくる。しかし医療サービスの場合には、情報の非対称性が極めて大きいことなどから、価格は市場ではなく政府が決定している。

 医療関係者は様々な制度から出るシグナルを受けながら行動している。

 医師は厳選され、卒業大学の医局の影響下で分野や働き方を決めていく。

 病院や診療所は、建前上、利益を追求することは抑制されているが、診療報酬制度や病床規制が採算に大きな影響を与え、競争環境下で事業拡大を目指している。また、これらの民間病院とは異なり、診療報酬以外からも補填がなされる公的病院なども多い。そして医療圏ごとに地域医療計画が立てられその中に位置付けられているが、その実効性は必ずしも担保されているわけではない。

 医薬・医療機器産業は、薬機法により製品の開発・生産・販売に厳しい安全規制がかけられている。また、公定の薬価の水準が経営計画の基礎となる。開発戦略では、各国の安全規制の質や開発コストの中核を占める治験環境が大きな影響を与える。

 保険者の代表は診療報酬の決定プロセスに参画するが、各保険者は受け身である。患者自身は医療費の多くの部分は保険から支払われることを前提に、利便性や評判をもとに、自由かつ頻繁に診療所・病院で受診している。


2. 日本の医療サービス提供システムの問題の背景

 日本の医療サービス提供システムを、質・コスト・アクセスを軸に主要先進国と比較してみると、1990年代までは日本は優れたパーフォーマンスを示している。しかしながら近年、新薬・新医療機器の承認の遅さ、医師の医療現場からの退出、財政依存と財政赤字の拡大による制度の持続可能性への懸念などの課題が明らかになってきていた。

 これらの問題が顕在化してきた背景には、90年代以降の急速な環境変化がある。IT・バイオなどの技術革新、生活習慣病対策へのシフト、患者のQOL志向が強まったことなどが、バイオ医薬品・遺伝子解析・個別化医療・ステントのような低侵襲性医療・高度な手術ロボットなどを生み出していった。これは、最新医療の高コスト化にもつながり、高齢化と合わせて医療費の増加圧力となっていった。またグローバリゼーションの進展により関係者がより良い環境に向けて国境を超えることが可能になり、既存制度に対し退出圧力をかけ始めた。日本はこのような変化への対応が遅れたことが、今回露呈した課題を噴出させた大きな要因となった。・・・


 → 続きはこちら ※「一般財団法人 機械振興協会」内へのページにリンク