本文へスキップ

2019.09.02

高まるコミュニケーション力への期待

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 バーナンキはFRB議長時代に「金融政策は98%がトークでたった2%がアクションだと気づいた」と述べているが、最近、コミュニケーションの役割に期待が高まっている。金融政策では、金利引き下げ余地がなくなると、非伝統的な政策に追い込まれる。それを副作用が懸念されるまで推し進めても物価安定目標達成は難しく、効果がありうる長期金利や予想インフレに直接働きかけるコミュニケーションに頼らざるを得ないということだろう。

 コミュニケーションへの関心は、より根本的な問題からも生じている。IMFはコミュニケーションに関するブログなどで、政府など諸機関に対する信頼の失墜が深刻化していると指摘している。その背景として、世界金融危機が残した爪痕の深さ、格差や国民のニーズに真摯に耳を傾ける姿勢の欠如などをあげている。政策当局者を信頼してなければ、国民が政策を理解し納得することはむずかしく、政策運営で所期の目的を果たせない。信頼構築にはコミュニケーションが大事であることはいうまでもない。

 知識格差の拡大からもコミュニケーションの再考が求められる。中央銀行は主に市場関係者、エコノミスト、マスメディアと対話をしてきた。経済活動の主役で、情報の最終的な受け手である国民には彼らを通じてという考えであったが、それではすまなくなった。情報が届かない人々が増えたからだ。また、現在、政策決定に不明確な部分があるので、中央銀行と市場関係者等との対話も不十分で、彼らの受け取り方もまちまちだ。中央銀行と国民との直接的な対話、それも知識レベルに合わせた対話が必要になっている。

 このような課題への対応を可能にするのが、双方向の対話ができるソーシャルメディアの発展だ。それを利用して国民との適宜適切な対話ができれば、彼らからみて政策当局者が近い存在になり、信頼度も増すかもしれない。関係性の認識が高まれば中央銀行の発信に鈍感ではなくなり、政策に対する反応も増す可能性がある。

 なお、コミュニケーションを巡る議論は日本では欧米ほど活発ではない。金融危機後欧米の主要中央銀行に対する信頼度は大きく下落したが、日本銀行は下がっていない。日本の格差も欧米ほどではない。日本の政府や日銀に対する信頼度は低いもののそれを上昇させることが重要な課題として意識されていない。また、日銀の非伝統的な政策の経験は長く、もはや長期金利への働きかけは限界的な効果しかなく、予想インフレへの働きかけもむずかしいというのが本音かもしれない。日本の経験からは、欧米がコミュニケーション効果に期待しすぎである可能性がある。

 他方、コミュニケーションで緩和効果が強まる可能性があるのであれば、日銀もこの面で努力が必要だ。文章を高校生が理解できるレベルにしたり、絵を用いて視覚に訴える取り組みを行っている中央銀行もある。行動科学的な知見の活用もみられる。

 既存の対話のやり方の評価と改善のための助言やソーシャルメディアの有効活用の仕方など、整合的な形で幅広くコミュニケーションに取り組むためには、日銀にもコミュニケーション全体を統括する部署が必要であろう。

役員室から > 「須田 美矢子」 その他のコラム

須田 美矢子 その他のコラムをもっと見る

役員室からトップへ戻る