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2019.08.09

「韓国を失う」のは誰か

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2019年8月8日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 70年前、中華人民共和国が建国された頃、ワシントンでは「誰が中国を失ったか」なる議論が横行した。いわゆるマッカーシー旋風、赤狩りである。全米で数百人の官僚、学者が告発され失職した。

 それから30年後、イランでイスラム革命が勃発、「誰がイランを失ったか」が問われた。共和党は当時のカーター大統領に責任ありと断じたが、民主党はニクソン、フォード政権の対イラン政策が革命の原因だったと反論した。

 さらに40年後の今、北東アジアで似たような議論が起きつつある。2日、日本は韓国を正式に貿易管理の「ホワイト国」から除外、韓国はこれを政治的報復と捉え全面対決を宣言する。双方とも妥協の余地は少なく、争いは当分続くだろうが、筆者の関心事は韓国の将来だ。このままでは早晩「2020年代に誰が韓国を失ったか」の議論が始まるのではと懸念する。この黙示録的問いに対する筆者の勝手な見立ては次の通りだ。


日本は韓国を失うのか

 否、そもそも日本は韓国を得てすらいない。われわれは日韓が自由、民主、法の支配、人権などの普遍的価値を共有すると思ってきたが、韓国が「実はそうではなかった」ことを近年実感しつつあるだけだ。


韓国は日本を失うのか

 これも否、彼らはそう思っていないだろう。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、朝鮮半島の地政学的環境が変化しつつあること、冷戦が終わり中国が台頭しつつあること、そして何よりも、今の米国が頼りにならないことを知っている。されば、彼らに日本を失う意識はないだろう。


米国は韓国を失うのか

 恐らく。少なくとも今米国は韓国を失いつつある。しかし、もしその責任が日本にあると批判するなら大きな間違いだ。最近の日韓確執は「韓国喪失」の原因ではなく、その結果にすぎないからだ。

 米トランプ政権の責任は小さくないだろう。2018年3月に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談を示唆して以来、3回の米朝首脳会談を含む各種外交行事は斬新だが戦略がなかった。トランプ氏は韓国大統領をより大胆にさせ、日米韓連携より対中傾斜と南北対話を優先する原因を作っただけだろう。


韓国は米国を失うのか

 その兆候は既に始まっている。最大の悲劇は韓国現政権が、対中朝関係を改善させる一方、日米韓の同盟・連携を両立させることも可能だと本気で信じていることだ。

 このままでは韓国国民が自らの利益を失う可能性が最も高いだろう。日本を糾弾することは支持率向上と政権安定に資するだろうが、文大統領が望むような諸勢力間のバランス維持には逆効果だ。韓国はやり過ぎたのである。


誰が声高に笑うか

 この状況で高笑いしているのはもちろん、中国、北朝鮮、ロシアだ。これら3国にとって日米韓同盟・安保協力の弱体化は望外の利益である。

 1949年、中国を失ったのはマッカーシーが批判した米国内の共産主義スパイではなく、腐敗し堕落した中国の国民党ではなかったか。79年、イランを失ったのはカーター大統領でもニクソン政権でもなく、同じく腐敗し強権的だったパーレビ国王ではなかったか。

 されば、韓国についても同様のことが言えないか。今後10年、韓国内政はさらに変化していくだろう。真に自由で民主的な韓国が失われるとすれば、それは明確な戦略と現実的政策を提示できない大統領府を持ってしまった一般庶民の悲劇でしかない。韓国を失うのは韓国国民である。


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