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2019.07.12

防衛装備品導入を巡る米韓・日韓関係

公益財団法人 日韓文化交流基金 『日韓文化交流基金NEWS』 第90号(2019年6月25日発行)より転載

米朝合意なし...文在寅政権の誤算

 本年2月末にベトナム・ハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談は、全面的な非核化を求める米国と段階的な非核化を求める北朝鮮が、双方自らの主張を譲らず合意には至らなかった。会談当日筆者は出張でソウルに滞在していた。韓国メディア、特にテレビニュースの生中継ではどの放送局でも、急遽キャンセルとなった28日のランチ・ミーティング直前まで、「今回どのような合意に至るのか」という成果ありきの期待感に満ち溢れていた。米朝会談の結果如何では、開城工業団地の操業や金剛山観光の再開が実現し、文在寅政権が注力する南北政策がより大きく具体的に進展するからである。

 しかし、「合意なし」という結果が判明するや否や、韓国メディアの関心の矛先はハノイからソウルの青瓦台へと向かった。「米朝合意なしという結果に対して、文在寅大統領はどのような反応を示すのか」という一点に集中した。報道によれば、会談当日青瓦台では文大統領が米朝首脳による合意文書署名式を生中継で見守るイベントが準備されていたとされる※1。どうやら韓国政府も米朝それぞれの真の思惑を把握していなかったようである。

 首脳会談翌日は3.1独立運動100周年という節目の日であった。文政権の想定では、前日の会談成功を受けて、北朝鮮の開城工業団地と金剛山観光の再開を皮切りに、南北協力を加速させ、「新韓半島体制」という新しいビジョンをアピールするはずだった。文大統領は記念式典でのスピーチで、想定通り「新韓半島体制」の構築を訴えたが、南北関係の現実が追い付いていない、南側の掛け声だけの構想提起となってしまった感が否めない。

 さらに、米朝首脳会談の結果、北の非核化で何の具体的な進展がなかったにも関わらず、米朝首脳会談後に、米韓合同軍事演習の規模縮小が両国政府によって決定された。在韓米軍だけでなく、在日米軍を含めた多くの米軍部隊が韓国軍と行う大規模演習が今後実質的に行われないこととなり、北東アジア地域の安全保障に重大な影響を与えることになった。それだけでなく、北の非核化プロセスを巡っても、韓国が部分的な制裁緩和にこだわり、米国との間で軋轢が生じているのではないかとの報道が多くされるようになったのである。

 そうした中、4月11日に訪米した文大統領とトランプ大統領による米韓首脳会談が行われた。同会談において、両大統領による個別会談が実質2分間しか行われなかったと報道された。青瓦台は否定したが、米韓関係が良くないためという見方が支配的であった。しかし、筆者が注目したのは会談の所要時間ではなく、会談後の記者らとのやり取りの中での以下トランプ大統領の発言である。

 「文大統領と韓国は、ジェット戦闘機からミサイル、その他多くのものまで、我々の軍事装備を大量に購入することに同意しました。我々は世界で最も優れた装備をこれまでになく製造しており、その購入に感謝します。 非常に大規模な購入です。我々は感謝しています」※2

 韓国は日本と同様に同盟国である米国から毎年相当な額の防衛装備品(以下、「装備品」)を輸入している。2014年には世界で金額基準で最も多くの米国製装備品を購入した国家になった。最近の報道によれば、文政権が今後導入する15兆ウォンに上る米国製装備品ショッピングリストの内容が明らかになった※3。仮に米韓関係が本当に悪化していて両国間に信頼関係がなければ、韓国が米国から最新装備品を購入することは不可能だろう。


日本が韓国装備品輸出先となる有望国家?

 韓国は最新装備品を外国から購入するだけでなく、自国での生産も盛んである。かつて朴正煕元大統領が、自国生産できず米国頼りの装備品を導入するだけの状態に危機感を抱き、自らの力で装備品を作る技術と生産基盤を獲得するという「自主国防政策」を強力な政治力で展開した。その成果として、小銃から戦車、潜水艦、そして戦闘機を製造可能にする産業に成長したのである。海外への輸出もこの10年間でその額を大きく伸ばしてきた。


図表:韓国防衛産業輸出額の推移

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出展:防衛事業庁『2018年防衛事業統計年報』2018年5月10日、P.216

 昨年前半、韓国政府が最も力を入れた海外輸出案件は、米空軍の次期ジェット練習機導入事業であった。韓国はT-50という米国ロッキード・マーチン社からの技術支援を受けて、韓国航空宇宙産業(KAI)が製造している練習機を米国に対して必死に売り込んだ。同練習機はすでにインドネシアやイラクへの輸出に成功している代表的な韓国製装備品である。この売り込みの過程で興味深かったのは、韓国防衛産業業界の一部では、米国へのセールスが成功すれば、日本もそのセールス対象であるとの認識が存在したことである。

 一昨年の年末に韓国・産業研究院(KIET)から発表された『2018KIET防産輸出10大有望国家』という研究報告書は、韓国の装備品輸出へ向けた有望な国家として第1位が米国、第5位が日本と発表した※4。日本が5位である理由は、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」も使用していることで有名なT-4練習機が退役を迎えつつあり、韓国側は米国へのセールスが成功すれば、日本への売却も夢ではないと考えていたのである。日本の関係者にこの話をすると一様に「(韓国製装備品の導入など)有り得ない」という反応が返ってきたが、韓国側はロッキード・マーチン製のF-35Aを日韓が共に導入していることからも可能性はあると見ていた。

 加えて、筆者が日韓文化交流基金訪韓フェローとしてソウルに滞在していた昨年8月から9月前半までは、韓国国内での対日感情は悪くはなかった。むしろ、南北融和が進み、具体的な南北経済協力策が議論され始め、日本の役割を期待する声が上がるほどだったのである。さらに、同年10月に予定されていた日韓パートナーシップ宣言(1998年)20周年という節目を目前にしていたことで、日韓関係を良くしようとする機運があり、日本との安全保障協力を自由に議論できる雰囲気が存在したのである。

 しかしながら、9月27日に米空軍はボーイングとサーブ(SAAB)が共同開発したT-Xを練習機として導入することを決定した。この決定によって、韓国防衛産業の業界全体が大きく落胆した。もちろん、米国へのセールスチャンスが消滅したことにより、日本への売却という話はそれ以降全く出ていない。相関関係があるとは考えられないが、翌10月の済州での国際観艦式参加を巡る「旭日旗問題」以降、日韓関係が悪化の一途を辿ったのは記憶に新しいところである。米韓関係も韓国の対北政策を巡り不協和音が生じていた。

 以上のように、装備品導入を巡る二国間関係からは、平素の外交・安全保障上の側面から見える関係とは異なり、経済的側面など様々な要素を含む両国の思惑が見えてくる。文大統領は、民族主義に基づく真の意味での自主国防、つまり、強固な米韓同盟を基盤に押し進めた朴正煕元大統領の自主国防政策とは異なり、米韓同盟の意義を理解しつつも単なる米国依存ではない、独自の国防力を建設することに注力している。そのための装備品導入や防衛産業振興のための政策の重要性は増すばかりである。韓国の外交安全保障政策をより深く理解するためには、背景にある様々な観点からの分析も重要である。

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参考:韓国航空宇宙産業(KAI)製造のT-50練習機(左・筆者撮影)



脚注(外部のサイトに移動します)

  • ※1 「青瓦台、ノーディール察知できなかった? 会談決裂30分前にも『署名式』」言及」『中央日報』(日本語版)、2019年3月5日
  • ※2 "Remarks by President Trump and President Moon Jae-in of the Republic of Korea Before Bilateral Meeting(筆者による仮訳)", the White House, April 11, 2019
  • ※3 「15兆!文政府の米武器『ショッピングリスト』」『朝鮮日報』(韓国語版)、2019年4月21日
  • ※4 アン・ヨンス、キム・ミジョン『2018KIET防産輸出10大有望国家』2017年12月29日、産業研究院(韓国語)p.127

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