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2020.03.06

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第131号(2020年3月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 新型ウィルス(COVID-19)の登場で病気に加え"恐怖と不安"、そして"流言と偏見"が地球を駆け巡っている。しかもその"不安と偏見"が、人々の"理性"を吹き飛ばすほどの勢いだ。

 New York Times紙は先月18日の記事の中で、ウィルスよりも高速で地球を駆け巡っている事を伝えた("In Europe, Fear Spreads Faster Than the Coronavirus Itself")。罹患された方々の苦難を忘れてはいけないものの、我々は努めて明るく毎日を過ごすべきだ。

 少しでも明るく振る舞いたい筆者は、black jokesを飛ばし合う中国の友人に対し次のように語りかけた--「厳格な監視が得意な中国は凄い監視システムを持っている--Cyber空間を"Great Firewall (GFW)/防火长城"で防御し、人々の動きを"Skynet/天网"や"Sharp Eyes/雪亮"で追跡する。今度の悲劇を教訓に細胞レベルで監視する顕微鏡のような技術も開発したらスゴイよ」と。

 今回の緊急事態は危機管理に関して貴重な教訓を提供しているが、筆者は特にrisk communicationに関心を持っている。即ち伝達すべき情報に関し(a)誰もが理解出来る簡明かつ遅滞ない指示・説明の重要性、(b)罹患者数や潜伏期間の予測には不確定要素があるため、科学的に100%確実に言える事は殆ど無い。従って何事も断言出来ないかもしれない。だがたとえそうだとしても人々に不安・不信を抱かせるよりは、冷静な行動を促す説明の重要性を痛感した次第だ。

 COVID-19は世界中の"ヒト・モノ・カネ"の流れを劇的に変え、それが多くの企業のGlobal Value Chainsに現れている。だがそれは逆行的・後退的なDe-globalizationではなく、地域分布が変化するRe-globalizationだと考えている。残念なことに筆者は未だ名酒«珑岱(Lóng Dài)»を味わっていない--「フランスの醸造家(Domaines Barons de Rothschild (DBR))が丹念に育て上げた山東省のDomaine de Long DaiがCOVID-19騒動で劣化しないかと心配だ!!」とワイン愛好家の仲間に伝えた次第だ。



 さて欧州から別種の恐ろしい情報が断続的に届いている。それは小誌前号の最後にも触れた話題だ。

 反移民運動やNeo Nazismの胎動に関する情報が数多く舞い込んで来る。その中には販売価格が€18.88の或る旧東独地方のビールに関する独Die Welt紙の記事があった(次の2を参照)。歴史に詳しい方はご存知の通り、これは"Nazi礼賛"である--アルファベットの1番目はA、8番目はH。従って18.88はAHHH。即ちAdolf Hitler, Heil Hitlerとなる。こうした情報を注視する必要があろう。昨年末に訪れたヴィーンでは現地の友人達からオーストリアにおけるNeo Naziや反移民の現状と歴史的背景を教えてもらった--ヒトラーの親衛隊(SS)の隊員・全人口比率はドイツよりもオーストリアの方が遥かに高かったのだ!!



 Brexitに伴い英国を欠いた欧州連合(EU)が将来に不安を感じさせる中、EU内外のleadershipに関する定見が未だ見出せないのが現状だ。そして今、国内外の友人達と意見交換している情報は次の2つを巡るものだ。

①ウィーン大学のマグナス・シェラー氏の意見--昨年3月に発表した著書の中で「ドイツは国内政治の制約からEU域内でleadershipを発揮出来ない。だが、EUの意思決定過程で自国の望まない事に関しては阻止する権限がEU加盟国の中で最も強い」という見解を示している(Leadership in the Eurozone: The Role of Germany and EU Institutions)。

②ドイツのleadershipに関する英国の専門家の分析--昨年2月に発表した著書の中で「メルケルは極めて優れた実践的政治家だが、アデナウアー、ブラント、コールが嘗て示したようなEU全体の統一ヴィジョンを提示出来なかった。またEUが対外的にleadershipを発揮するためには、基盤として均衡した独仏関係が不可欠。だが現状ではフランス経済の力不足が足枷となり、そうした基盤が脆弱」という見解だ(Germany and the European Union: Europe's Reluctant Hegemon?)。

 ハーバード大学行政大学院(HKS)のグラアム・アリソン教授は、Foreign Affairs誌の最新号(3・4月)に小論を載せ、米国は大国の中露と同様に、各々各自の勢力圏内での関与に注力すべきと述べている("The New Spheres of Influence: Sharing the Globe with Other Great Powers")。では中露の勢力圏と接するEUや日本は、米国をはじめ如何なる国と如何なる形で処すべきなのか。

 実は以前(昨年末)、ベルリンで筆者は米独両国に関し、友人達と或る資料を巡って語り合っていた。その資料とは米独の機関が実施した世論調査だ--米国のPew Research CenterとドイツのKörber Stiftungがそれぞれの自国民の世界観を調べたもので、質問のうち次の5つの主要項目を本ページ下部のPDF4ページ目に掲載した("Americans and Germans Disagree on the State of Bilateral Relations, But . . . .," Mar. 2019)。


  •  1. 中露及びNATOに対する評価と全般的現状認識
  •  2. 米独関係の評価
  •  3. 外交上重要な国々
  •  4. (米国のみが調査対象)共和派・民主派別にみた米国にとっての重要な国々
  •  5. 主要相手国に対する今後の姿勢

  •  表のうち3, 4, 5の調査結果の中に、"日本"が記されていない事が気になっていた。筆者はドイツの友人に「この調査では、日本は"secret ninja (忍者) partner"なのかな?」と言うと、友人は「"silent and submissive"だろ?」と皮肉った。かくしてベルリンで筆者は気まずい思いをし、同時に海外からのお世辞抜きの日本の評価と日本の対外発信の重要性を改めて痛感していた。


    「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第131号(2020年3月)PDF:359.1 KB

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