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2020.02.04

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第130号(2020年2月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 新年を祝う晴天の東京に、中東で発生した衝撃的な事件に関する知らせが届いた。諸兄姉もご存知の通りイラン革命防衛隊(IRGC)のカセム・ソレイマニ司令官が米軍のドローン攻撃によって暗殺された事件だ。

 事件を知って脳裏に浮かんだのは、昨年秋のMIT Technology Review誌の記事だった("Drones and Robots Won't Make War Easier--They'll Make It Worse," Oct. 10)。The National Interest(TNI)等の国際政治関係のメディアは悲観的な記事を流し、New York Times紙までが「これまで米国が殺害した最後の外国の軍事指導者は山本五十六」と書き立てる始末だ。MIT Technology Review誌の記事が主張する通り、ドローンを含むロボット技術は戦争を一段と不幸にさせる。こうした理由から米国の陸海軍によるロボット開発を伝えるDefense News誌の記事に加え、同誌が伝えたイスラエル国防省によるレーザー技術でのドローン撃墜戦術に関する記事を読みつつ胸を痛めている(例えば"Assessing Israel's Tactical Laser Breakthrough," Jan. 17)。

 技術は使用目的次第で人類を幸福にも不幸にもする。従ってロボットの技術を人類に役立つよう努力すべきなのだ。"Robot"という言葉を創った作家カレル・チャペックの『R.U.R.』が、来年創刊100周年を迎えようとする今、日本は米中を中心に海外と密接に技術情報交換を行い、当該関連技術の平和利用を推進する必要があると考えている。

 昨年12月、中国ロボット産業連盟(CRIA)は長期計画(中国机器人产业发展规划(2021-2035年))に関し検討を行い、北京市経済・情報化局は中期計画(北京市机器人产业创新发展行动方案(2019-2022年))を通知した-北京市によると、社会民生分野の重点領域として①公共安全、②高齢者・障害者支援(养老助残)、③医療・リハビリ(医疗康复)、④家庭サービス(家庭服务)、⑤教育・娯楽(教育娱乐)が列挙されている。特に②③はNew York Times紙の記事が示す通り("The Chinese Population Crisis," Jan. 13)、日中が"同病相憐れむ"仲である事を示している。だが、これは日中だけの課題ではなく世界の課題だ--Financial Times紙は欧州に関して同様の記事を掲載した("Europe's Demographic Time-Bomb," Jan. 13)。また米国は今年3月アトランタで学会を盛大に開催する予定だ("Aging in America Conference")。かくして高齢者自律支援・介護者支援ロボットの開発は世界が目指す中核的分野なのだ。ところが現在、日本は介護問題を外国(インドネシア、フィリピン、ベトナム等)からの介護福祉士で"乗り切ろう"としている。だが、アジア諸国も20年後には高齢化し、国内でも介護が必要になる。従って"外国人"による解決策は、長期的な対応としては移民問題をはじめ様々な課題を抱える事になる(本ページ下部のPDF4ページ目の図が示す通り、2040年の世界で"若々しい国"はアフリカ諸国だけになりそうだ)。



 昨年末から正月にかけてMITのアセモグル教授と2015年にハーバードからシカゴに移られたロビンソン教授による本(The Narrow Corridor: States, Societies, and the Fate of Liberty, June)を通じ、友人達との意見交換を楽しんだ。

 このAcemoglu-Robinsonコンビはこれまで刺激に満ちた本(Economic Origins of Dictatorship and Democracy, 2006とWhy Nations Fail, 2012)を著しているが、本書は「狭隘なる自由への回廊(a narrow corridor to liberty)」を論じた本だ。同書のお陰で壮大な人類史を学びつつ、世界各地が栄えるために不可欠な自由の意義を再認識出来た。筆者が稀薄な知識しか持っていなかった中東の哲学者イブン・ハルドゥーンの業績や、筆者未読の中国古典(«儒林外史»と«紅樓夢»)の内容を垣間見る事が出来た。

 同書は、現在の状況が自由の危機に見舞われた1930年代に似ていると述べて、1940年にはNazi Germanyが欧州大陸の殆どを支配し、スイスとスウェーデンが孤立した歴史を綴っている。この時、スウェーデンで立ち上がった指導者ペール・アルビン・ハンソンの思想と行動は、現在に通じる教訓だ。現在の政策立案者達は、ハンソン率いるスウェーデンが採った政策よりも、ヒトラーの台頭を許す直前のヴァイマール・ドイツに似た政策を取っていると両教授は主張する。

 彼等の主張が正しければ、我々は適切な政策と同時に、適切な政策を採用出来る政治環境--即ちハンソンのような先導的・啓蒙的指導者とその周辺環境--とを検討する必要がある。これに関し、マクロン大統領の指導力を友人達と議論した時、筆者は故スタンリー・ホフマン教授からうかがった話を友人達に伝えた--「ド・ゴール以来、フランスには優れた指導力を持つ政治家に恵まれなかった」、と(嬉しい事にこの教授のお言葉をジョセフ・ナイ教授も覚えておられてご著書(The Powers to Lead)に記されている)。

 また優れたフォロアーがいなければリーダーは孤立無援になってしまう。1930年代、ヒトラーの台頭を許す環境を懸念したフォロアーは欧米諸国にいたが、残念ながら少数派であった--例えばマルク・ブロック先生は「我々はそうした事態を全て知っていた。だが怠惰と臆病からか、成り行きまかせにしてしまった(Nous savions tout cela. Et pourtant, paresseusement, lâchement, nous avons laissé faire)」と語り、また懸念しつつも座視したレイモン・アロン先生は「ヴァイマール憲法を分析すべきだった(J'aurais dû analyser la Constitution de Weimar)」と回顧している。そして今、我々がたどるべき自由への回廊を考えている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第130号(2020年2月)PDF:574.9 KB

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