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2020.01.17

弾劾手続きの真実とその背景

  • 小手川 大助
  • 研究主幹
    小手川 大助
  • [研究分野]
    海外情報・ネットワーク

 11月20日にソンドランド駐EU大使が米国下院情報委員会で証言し、トランプ政権のインサイダーがウクライナ疑惑の核心を暴露したとして、大きくマスコミに報道され、12月18日の下院本会議はトランプ大統領をウクライナ疑惑に関する「権力乱用」と「議会妨害」の弾劾訴追状文案を可決しました。

 合衆国憲法第2条第4節は、弾劾の要件として、「反逆罪、収賄罪その他の重要犯罪又は軽罪(不品行)」ついて弾劾され、収賄罪の判決を受けた場合はその職を免ぜられると規定しています。クリントン大統領は、偽証罪と司法妨害罪で弾劾訴追されましたが、2回にわたる上院での議決で弾劾に必要な3分の2の賛成は得られず、罷免はされませんでした。

 まずは下院情報委員会の証言です。この模様はC-Span(Cable Satellite Public Affairs Network)にて生中継で報道されています。ソンドランド大使への質疑は前半が民主党議員によるもの、後半が共和党議員によるものとなっています。前半部分では、民主党議員が「見返りを求めていたのか」と質問したのに対し、大使はこれを肯定したために、民主党のシフ下院情報委員会委員長が休憩中にCNNに生出演し、「ホワイトハウスでの(トランプとの)面会と(ウクライナへの)軍事協力を、(トランプ)大統領の希望する2件の(ウクライナ国内の)調査案件と取引材料にしたことを、ソンドランド大使が証言した」と発言しました。そしてCNNは「トランプ氏が全てを指揮していたことに疑いの余地はない」と報じました。日本のマスコミも、「ホワイトハウスのインサイダーで会った人物がウクライナ疑惑の核心を暴露したので、いよいよ弾劾か」と報じたのです。

 しかしこの報道には大きな誤りがありました。マスコミは弾劾についての決定的証拠が挙がったように報じたのですが、そうではありませんでした。それはユーチューブに掲載されている、シフ委員長の発表後に行われた共和党議員とソンドランド大使の質疑を聞けば明らかです。以下はソンドランド大使の答弁です。「トランプ大統領は自分に直接、(調査が)援助の条件だといったことはなかった」、「自分は一度もトランプ大統領から(調査を行うという)発表が援助の条件と聞いたことはなかった」、「軍事援助についてトランプ大統領が自分に話したという記憶はない」。これを聞いた民主党員は言葉もないほどびっくりしていました。結果的にシフ委員長は米国国民に対し嘘をついたことになってしまったのです。

 そもそも、ソンドランド大使はホワイトハウスのインサイダーではありませんでした。彼はもともとロムニー共和党大統領候補の周辺の人物でしたが、トランプの大統領就任式に100万ドルの寄付を行ってEU大使の職を得た(「買った?」)と言われている人物なのです。更に、共和党議員の追及を受けたソンドランド大使は、シフ委員長が決定的な証拠が見つかったとしたトランプ大統領の指示を自分が直接聞いたことはなく、伝聞証拠か、自分の推測に過ぎなかったと証言しました。下院はあくまで弾劾訴追をするかしないかの権限を有するだけで、有罪かどうかは上院が決定することなのですが、上院の審理においては、伝聞証拠に証拠能力はありません。この点は特に共和党のターナー議員がソンドランド大使との質疑の中で明確にしています。

 したがって下院本会議の採決においては共和党は全員が反対に回ったのに対し、民主党からは3名の造反者が出ましたし、大統領選挙に出馬中のギャバード議員は「出席」という形の賛否を明らかにしない投票をしました。このような中でペロシ下院院内総務は、「上院での審議の形式について共和党と同意するまでは上院へ訴追決議を送付しない」と言っていました。やっとクリントンの際の先例に倣うということで1月13日の週から上院での審議が始まります。上院で大統領周辺は、ジョー バイデン前副大統領やシフ委員長も証言させるべきと言っていましたが、マコーネル委員長はさっさと否決すればいいと言っています。いずれにしても、上院の審議が民主党の大統領候補選びと日程的に重なる可能性が高く、特に2月の民主党の候補者の討論会では5名の上院議員が弾劾裁判の関係で出席できなくなるのではないかという問題が取りざたされています。いずれにしても、そもそも弾劾訴追自体に無理がありますし、共和党からの離反者が見られない現状では、弾劾が成立する可能性はほぼありません。現在上院の構成は53対47であり、3分の2が賛成するため(67名)には共和党から20名の造反者が出ることが必要なのです。

 ところで、ウクライナ疑惑とは何なのでしょうか。騒ぎのもとになっているのは2019年7月25日のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の電話会談です。本件が問題になるとすぐにホワイトハウスは電話の内容を9月25日に公開しました。それだけトランプは電話の内容に自信を持っていたわけです。実際公開された電話の内容は、報道にあるようなバイデン前副大統領の息子の調査にウクライナが協力しないと米国の軍事援助をやめるといったものではありません。まずはウクライナのゼレンスキー大統領の当選を祝った後、トランプ大統領は2016年の民主党全国委員会のホームコンピューターの情報漏洩についての資料がウクライナにあるかを尋ねたうえで、本件について調査を行っているバー司法長官への協力をゼレンスキー大統領に依頼しています。そしてジュリアーニ氏が2019年1月以来、2016年の大統領選挙にウクライナがヒラリー クリントン元国務長官の利益のために介入したかについて調査していることにつきゼレンスキー大統領から言及があったのち、トランプ大統領は、バイデン前副大統領自身が公開の演説でウクライナのガス会社ブリスマに対する告発を自分が辞めさせたと自慢していることに触れて、「本件についてバー司法長官に話していただければありがたい」、と述べています。この会話の中では軍事援助の条件としてウクライナの協力を求めた部分はありません。

 なお、ブリスマの取締役にそれまでウクライナについて全く知見のないバイデン前副大統領の次男のハンター バイデン氏が2014年に就任しており、高額の収入を得ていたのですが、そもそもウクライナをロシアから切り離して東ウクライナのシェールガスの開発を行うべきだということを、バイデンは2011年のアトランティック カウンセルで演説していました。なお、ハンター バイデンについては、敵方の暴露戦術の先手を打って、彼がコカインなどの諸々の薬物中毒であること、なくなった兄の配偶者と特別な関係にあったことが、(恐らくバイデン側から)雑誌のニューヨーカーに2019年7月に掲載されました。また、大統領間の電話の内容を内部告発した人物についても明らかになってきていますが、彼はエリック チャラメラというCIAのアナリストです。彼はオバマ政権でバイデン氏やスーザン ライス元国家安全保障補佐官とともにウクライナ問題を担当し、2016年の米国大統領選挙にウクライナがトランプに関する怪文書を作成して大統領選挙に介入した際にもその中心人物と一緒に行動しており、これまでトランプに関する怪情報をマスコミに漏洩してきた人物です。最近では、彼の友人たちが弾劾を目指している下院情報委員会の民主党のシフ委員長に雇われてガイダンスをしていることが明らかになっています。

 

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