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2019.12.23

米国政治に大きな影響を与える米国上院司法委員会における質疑

  • 小手川 大助
  • 研究主幹
    小手川 大助
  • [研究分野]
    海外情報・ネットワーク

1. 12月9日にロシアの2016年大統領選介入疑惑に関するマイケル・ホロウィッツ米国司法省首席監察官の調査報告が全面的に公表され、11日に上院司法委員会で彼の証言が行われた。彼の調査報告の公表は今回が2回目である。1回目の調査は、2017年1月に調査に着手することが発表されたが、調査対象は、ヒラリー・クリントンのEメールに関するコーミーFBI長官の扱いと2016年の米国大統領選挙への準備段階で司法省職員による情報の不適切な漏洩があったのではないか、という点であった。報告は2018年6月に行われ、ピーター・ストルザック(後述)ほか数名のFBI職員がFBIや自らに対する不信を招くような行為を行ったということが結論であった。コーミーについての結論は、彼がその場しのぎの決定を行い、FBIの手続きに従わなかったが、政治的なバイアスから行動したわけではないという結論であった。

2. 第2回目の調査については2018年3月に調査開始が発表された。今回の調査は、ロシアとのつながりがあるとされるトランプの元選挙アドバイザーのカーター・ペイジを監視するためにFBIと司法省がFISAの申請と更新を4回行ったが、この手続きに権限の濫用があったのではないかということが対象であった。
(注)FISAとは、Foreign Intelligence Surveillance Actを指し、原則盗聴が違法とされている米国市民に対し、盗聴が必要とされる根拠となる証拠を示して裁判所から特別許可を得る手続きをいう。

3. 12月9日に報告が公表されたが、11月18日に上院司法委員会のグラハム委員長がホロウィッツの証人喚問を12月11日に行うと発表していた。12月9日のホロウィッツ報告の結論は、カーター・ペイジに関する調査の着手については政治的なバイアスが立証されなかったが、17の不正行為が発見されたというものであった。

4. 12月11日の上院司法委員会の証人喚問で民主党側は、「カーター・ペイジに関する調査の着手については政治的なバイアスが立証されなかった」ことを強調した。一方、共和党側は17の不正行為に力点を置いた質疑を行った。なお、この証人喚問の映像と喚問結果についての米国テレビネットワークNBCのコメントは、米国ケーブルチャンネルC-SPANに全てが掲載されており、このペーパーは大部分この放送に基づいている。全体の放送は6時間半余りで、コメントを除いても5時間にわたるが、極めて重要な質疑となっているので、是非映像を見てほしい。

5. まず事実関係を説明すると、2016年の6月に民主党全国委員会(当時は民主党の大統領候補としてヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースがしのぎを削っており、7月25日からの全国大会でヒラリー・クリントンが選出された)のホームコンピューターの情報が漏洩し、これにロシアが関与しているのではないかという疑惑(いわゆる「ロシア疑惑」が取りざたされた。そして更に、民主党候補の選出だけではなく大統領選挙にロシアが介入しているのではないかという疑惑が持ち上がったのである。

6. FBIでは、副局長のアンドリュー・マッケイブが2016年7月にチームを選定して、クロスファイアー・ハリケーンというコードネームの下に、トランプの選挙スタッフのカーター・ペイジに着目して、彼に対する盗聴の許可申請をFISAに則り裁判所に提出したが、裁判所は2016年8月に、許可が必要な証拠が不十分であるとして申請を却下した。そこで元英国諜報部のロシア担当であったクリストファー・スティールが作成した文書を盗聴が必要な証拠として提出し、裁判所の許可を得ることに成功したのである。そしてこの許可は継続し、2017年に入っても2度更新されている。ところが、この裁判所の許可については、以下のような不正行為が働いていた。
(注)マッケイブは2018年1月末に更迭されたが、現在はCNNのコメンテーターをしている。
(1) スティールの作成した文書はフュージョンGPSという調査会社が、民主党全国委員会からの資金で作成したものであった。即ち、選挙を戦っているクリントンとトランプの一方の陣営の資金で作成された文書を証拠として、裁判所から他方の陣営の関係者を盗聴したわけである。
(2) スティール文書の唯一の情報源であるロシア人を、FBIは2017年1月にインタビューした。その結果分かったのは、文書に書かれていたことは、当該人物のトランプに関する伝聞や噂であり、果ては「バーで聞きかじったこと」であり、有名なモスクワのリッツカールトンホテルでの女性疑惑についても、スティール文書に書かれていた「従業員による当該事実の確認」という形跡は全く存在しないことが明らかになった。このように、少なくとも2017年1月の盗聴許可の更新の際にはスティール文書が信用できないものであることをFBIは知っていたにもかかわらず、これを裁判所には告げずに許可を更新してもらった。これは次の更新の際も同様であった。
(3) 2017年7月になって、盗聴対象となっていたカーター・ペイジはFBIから3人のロシア人を知っているかどうかについて聞かれ、「2名は知らないが1名は知っている。ただし、自分はCIAの協力者としてその人物に接触した」と回答した。これを受けて、FBIはCIAに確認を求めたところ、CIAより「協力者である」との回答を得たが、この回答をFBIのクラインスミスが「協力者ではない」と変更した。
(4) なお、スティールは文書の売込をマスコミなど多くの相手にしており、そのためFBIは彼との接触を公式には断ったが、その後もFBIのナンバー5であるブルース・オーアがスティールとのコンタクトポイントを務めており、オーアの妻のネリー・オーアはフュージョンGPSで働いていた。
(5) FBIチームのフロントであったストルザックは愛人でFBI弁護士であるリサ・ペイジに宛てて、トランプの大統領就任以前から「あいつはバカだ、あんな人物が大統領になれるわけがないし、なることを阻止しないといけない」という連邦職員にあるまじきメールを送っていたし、就任後は「彼を弾劾できないか、辞職を彼はしないだろうか」というメールを送っていた。

7. 以上のような問題を受けて司法委員会のグラハム委員長は、「本来大統領や米国国民を守るべきはずのFBIが、大統領や国民を監視している」という「組織的な大問題であり」このようなことは二度とおこなわれてはならないという強い口調で結んでいる。

8. なお、ホロウィッツ報告について、バー司法長官から本件についての調査を2019年4月から委託されている(本件は10月から刑事事件調査に切り替えられたので、CIAやFBIなどは調査への協力義務が発生している)連邦検察官のジョン・ダーハムは声明を出し、ホロウィッツの結論の一部については同意しないと言っている。これはホロウィッツの調査はあくまでも内部調査であり、告発する権限はないのに対して、ダーハムは告発できる立場にあることに起因するものと思われる。実際、ニューヨークタイムズはダーハムの調査が前CIA長官のジョン・ブレナン(彼はNBCのアナリストになっている)に及んでいることを報告している。こちらの調査の結論が出るのは数か月後と考えられているが、ブレナンのほかに前国家情報局長のジェームズ・クラッパー、上記のストルザック、クリストファー・スティールの名前がマスコミで捜査対象として取りざたされている。

9. 今回民主党が法律的に見て相当無理筋の大統領弾劾に走ったのは、ダーハムの調査報告の結論によるダメージを考えてのことではないかという説も唱えられている。いずれにしても、来年初めに予想される報告が、これまでの米国政治のエスタブリッシュメント、特にオバマ政権の関係者を大きく揺るがすことになることは間違いなく、ひいては世界情勢にも大きな影響を与えることは間違いないものと思われる。



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