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2019.12.20

日本の情報収集に限界/安全保障へ関係回復を

電気新聞「グローバルアイ」2019年12月17日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 日韓関係で悩ましい日が続いている。秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)に関し、筆者は安全保障分野の専門家からの話を努めて冷静に聞こうとしているが、いら立たしいのは両国間のコミュニケーションの難しさである。


 ◇ ◆ ◇

 北朝鮮の脅威に対する監視活動に関し日米韓の協力が重要である事は明白だ。諜報活動のうちシグナルズ・インテリジェンス(略してシギント)は通信や電磁波等を傍受し相手の動きを監視する活動で、これに関しては日米の技術が優れているから問題はない。

 しかし他の諜報活動、例えば官報やマスメディアなど合法的に入手した情報を丹念に調べるオープン・ソース・インテリジェンス(オシント)には、朝鮮語を中心とする語学力と極東問題を巡る知識、それも政治経済に加えて文化や歴史などの幅広い知識が必要だ。

 また"人間同士"の接触による諜報活動、すなわちヒューマン・インテリジェンス(ヒューミント)も不可欠だ。これにはオシント以上の語学力や資金力、更には信頼を築くための長い期間の交友関係を要する。

 残念な事だが日米ともに朝鮮語および極東に関する知識と教養を持つ人材に関して制約があり、韓国の協力がどうしても必要なのだ。こうした状況下で韓国との信頼関係を完全に失えば、我々が朝鮮語を理解できない事を見越して北朝鮮は跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、韓国は自国"のみ"に都合の良い形で誇張・歪曲した情報を拡散する危険性が発生する。

 国家レベルだけでなく、個人レベルでもこの種の危険は昔から知られ、マキャベリは「亡命者の言葉を信じる事は危険」と警告した。イラク戦争時、大量破壊兵器(WMD)の存在に関し、イラク人が亡命先のドイツ連邦情報局(BND)に伝えた虚偽情報に基づき開戦の決定が下されたことは衆人の知るところだ。諜報活動は情報を多角的かつ慎重に分析して判断すべきで、限られた情報源に頼りそれを鵜呑みにする事は危険極まりないのだ。

 歴史を顧みると島国日本は外国語を長年必要としなかったため、海外情報の判断には特に注意が必要だ。


 ◇ ◆ ◇

 日本国内の評判ではドイツ語会話が上手という大島浩・帝国陸軍中将は1935年から45年まで、途中で中断があったが駐独武官および駐独大使としてヒトラー総統やリッベントロップ外相と親しいように振る舞っていた。だが、相手に利用されただけで、事前に何の連絡もなく39年の独ソ不可侵条約が締結された。41年6月のソ連侵攻も4月下旬まで正式に伝えられることはなく、直前の41年春、松岡洋右外相の訪独時、陸軍の欧州駐在武官の中で独ソ戦を警戒していたのはスウェーデン駐在武官の小野寺信大佐ただ一人だった。

 興味深い史実として独ソ戦の計画を最初に察知したのは主要国のベルリン駐在武官ではなく、41年1月、言葉が堪能で多くのナチス高官を友人に持つ駐独米国商務官サム・ウッズだった。このように海外に駐在しても現地人との間に信頼関係がなければヒューミントは不可能なのだ。

 上記の理由で、好き嫌いは別として我が国の安全保障の観点から、隣国である韓国との信頼関係の回復を図るべきと考えている。

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