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2019.11.07

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第127号(2019年11月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 先月初旬、米国の友人から人工知能(AI)を利用した詐欺に関する警告が届いた-コンピュータ・セキュリティ会社カスペルスキーのブログに掲載された「機械学習を使った詐欺("Machine Learning-aided Scams," October 4)」という警告だ。

 今回の警告とはAI利用型"オレオレ詐欺"とも呼べるもので、或る企業のCEOの声を合成して電話をかけ、部下を騙して巨額の資金を盗んだ事件に関する警告だ(事件の詳細はWall Street Journal紙、8月30日付記事"Fraudsters Used AI to Mimic CEO's Voice in Unusual Cybercrime Case"を参照)。現在Artificial Intelligence/Machine Learning (AI/ML)技術で人物像を"偽造"し、ネットでその"フェイク画像"を広く配信させるapplicationsは、deepfake appsとして知られている。10月4日のカスペルスキー・ブログは、音声中心のdeepfake appsで個人を対象にした新型の詐欺事件の概要と企業側の対応策を記している。 筆者は8月21日、Frankfurt空港で搭乗前にDeloitte Deutschlandによる記者会見をTVで観、同社のcyber crimeに関する報告書(Cyber Security Report 2019: Risiken werden groser)を読み、また9月初旬、日本でも冒頭の事件が報じられていたため、友人の警告に驚きはしなかった。ただ懸念した点はカスペルスキー・ブログの日本版が10月16日と米国版よりも1週間以上も遅れて発表された事だ。Cyber securityにとって1週間は致命的に"長い"時間だ。改めて気を引き締めて警戒したい。



 先月の24日深夜に電子配信されたMIT Technology Review誌の11/12月号の表紙を見て驚いた-"The Everything War: Why Amazon Is Poised to Become America's Newest Defense Giant"。

 この電子配信からおよそ1日後、Financial Times紙の記事"Microsoft Wins $10bn Pentagon Cloud Contract"が、筆者の目に飛び込んで来た-巨大な情報通信(ICT)企業が軍事産業の一角を形成しようとしている。こうした事態は果して米国だけの現象だろうか? また軍民併用を念頭にしたICTの発達は世界に如何なる影響を与えるのか? MIT Technology Review誌の最新号は、「戦争においても技術は悪よりも善の方向に役立つのか?」という問題意識から、全体として賛否の両論を掲載しており大変興味深い。改めて語る必要もないが、技術には善悪が存在しない。善悪が存在しているのは人の心と行為なのである。従って技術を善の方向に進め、悪の方向に進む事を極力防ぐ「制度設計」こそ、智慧を絞るべき重要な事なのである。

 科学技術の分野の栄誉として最も評価されているものの一つ、ノーベル賞を創設するため、遺言を残したアルフレッド・ノーベルが発明した爆薬も、使用次第で人類にとって善にも悪にもなる発明であった。フランスの新聞に"死の商人 (le marchand de la mort; the merchant of death)"と呼ばれ、心を痛めたが故にノーベルは「賞の創設」という制度を思いついたのだ。

 さて平和を愛する日本の願いとは裏腹に、9月に公表された令和元年版『防衛白書』を見ると、我が国の安全保障環境が一層厳しさを増している(最下段リンク先PDFのp. 4の図参照)。こうしたなか我が国の安全保障政策を維持・洗練させるためには、優れた政治家・政策担当者・自衛官等と共に、優れた技術・技術者が不可欠だ。我々国民は、指導者達がグローバルな視点から人材・政策・技術を適切に選択するよう目を光らせなくてはならない。優れた安全保障政策と共に、我々は優れた経済社会政策も必要だ。これに関し、先進諸国における格差問題について討議した会議が米国のピーターソン国際経済研究所(PIIE)で10月17~18日に開催された(リンク先PDFの2ページ目「2.情報概観」参照)。会議では友人のアダム・ポーゼンPIIE所長や来日した際に筆者もお伴させて頂いたハーバード行政大学院(HKS)元校長のディヴィッド・エルウッド教授をはじめ優れた研究者が意見を述べている。そして今、彼等の意見を慎重に検討してみたいと考えている。



 10月中旬から月末にかけて、南洋のソロモン諸島を巡る中国の動きに注目した内外の友人が大勢いる。

 小誌9月号の最後に載せた地図には2017年に発表された中国の戦略(≪"一帯一路"建設海上合作構想≫; "Vision for Maritime Cooperation under the Belt and Road Initiative")に基づき、南太平洋の島嶼国への関与(≪中国-大洋洲-南太平洋藍色経済通道≫; China-Oceania-South Pacific Blue Economic Corridor)を記した。このように中国はグローバルな形でその政治経済的影響力を拡大させようとしており、我々もリンク先PDFの2ページ目に示したLowy Instituteの報告書等を参考にその動きについて注意深く観察する必要がある。

 先月は北京で20~22日に第9回香山フォーラムが、「国際秩序の維持とアジア太平洋平和の共同構築」を主題として開催された。また珠海で21~23日に第3回21世紀海洋シルクロード・フォーラムが、「広東・香港・マカオ大湾岸圏の発展により促進された海洋シルクロード統合」を主題として開催された。筆者は参加した友人からの情報とTVでしか観察出来なかったが、香山フォーラムではシンガポールのウン・エンヘン国防大臣の米中衝突を憂慮する演説が印象的であった。海洋シルクロード・フォーラムではノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン先生が貧困からの大脱出における中国の貢献を讃える演説が記憶として残っている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第127号(2019年11月)PDF:1.6 MB

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