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2019.03.22

【シリコンバレーに見る自動車業界の「価値破壊」の予兆と「価値創造」への道(4/4)】 オーロラ(Aurora):先陣を切る企業を飛び出した起業家たち

  • 櫛田 健児
  • International Research Fellow
    櫛田 健児
  • [研究分野]
    Political Economy, Information Technology, Politics

<CIGS International Research Fellow 櫛田健児 シリーズ連載>

シリコンバレーに見る自動車業界の「価値破壊」の予兆と「価値創造」への道
1. そもそもウーバーとは(2019年3月20日掲載)
2. リフト(Lyft)のグリーンモードの衝撃(2019年3月20日掲載)
3. テスラの「価値」:競争の土俵を変える(2019年3月22日掲載)
4. オーロラ(Aurora):先陣を切る企業を飛び出した起業家たち(2019年3月22日掲載)



 自動運転の「パイロット」ソフトウェアを開発しているスタートアップの数は日に日に増えているが、そのフロンティアに位置している企業として、オーロラがある。オーロラはシリコンバレーそのものを象徴している。

 先日、同僚の誘いでMITの同窓会(シリコンバレーのMIT同窓会は本校があるボストンに続いて規模が大きい)に参加した際、オーロラの創業者たちの話を聞く機会があったが、そこで衝撃的な発言を聞いた。

 まず、オーロラの創業者三名は、シリコンバレー以外には存在しないような優れたキャリアを積んでいる人物たちである。一人は元グーグルの自動運転チームのリーダーで、数名規模の組織を300人体制にまで育て上げた人である。もう一人はテスラのモデルXの開発責任者で、テスラのオートパイロットの責任者でもあった。そして、三人目は元カーネギーメロン大学のコンピューターサイエンスの教授であり(最初の一人もそうである)、ディープラーニングという人工知能の先端技術を作り上げたキーパーソンである。

 グーグル(現在、自動運転プロジェクトはグーグルの親会社であるアルファベットの子会社Waymoが進めている)やテスラといえば、自動運転を目指す自動車業界の他のプレーヤーやAIのスタートアップからみれば先端そのものである。この二社が積み上げてきた自動運転の走行マイル数は、他社とは比べ物にならないほど多い。走行マイルを積み上げて複雑で予期せぬ状況に遭遇することを増やすことで、完全自動運転(レベル4と呼ばれる)の実現を目指している。テスラのイーロン・マスクは、あと数年で完成すると断言している。

 彼らの比較優位性は、それぞれの組織で作り上げてきたプロジェクトを離れて一旦リセットし、2017年時点での最新の深層学習技術と豊富で安価なコンピューターの情報処理能力を活用することにより、新しい高度な手法による自動運転という難しい問題を根本的に解決する本質を見つけた点にある。既存の企業からみればWaymoもテスラも新しい企業であるが、彼らに言わせれば、何年も前に作った土台全てをゼロベースから作り直すのは既存の組織では難しいそうである。バックグランドがあるからこそ、リセットすることがアドバンテージになるのだと言う。衝撃であった。

 彼らがどのように問題にアプローチするかについても、競争相手にとって面白い例を出して説明していた。ひたすら多くの経験を積むことが自動運転に繋がるというアプローチについては、「たくさんジャンプすれば飛べるようになるわけではない」と真っ向から否定した。彼らは問題の本質を捉えおり、最終的に解を導く問題のネットワークの形が見えているという。まだそこまでたどり着いていないが、何をしなくてはいけないか理解しており、そこに向かっているところであるとのことである。

 オーロラは「パイロット」ソフトウェアだけ作って、既存の自動車メーカーに提供するという。それは、正にマイクロソフトのウインドウズがパソコンの「価値」を根こそぎ持って行き、オペレーティングシステムとプロセッサ以外をコモディティ化させてしまった「価値創造モデル」に類似している。どのメーカーの車かということが大事なのではなく、トップクオリティの「パイロット」ソフトを積んでいるかどうかにより車の価値が決まるのである。ライドシェアと併せて考えると、いよいよ自動車メーカーの価値が破壊されていくのを見ることができる。

 もちろん、オーロラが自動運転の開発という大勝負に勝つとは限らない。しかし、他社はこれ程のメンバーが作り出しているものを凌駕せずには勝てないので、勝負のレベルが非常に高いのは間違いない。

 この話を聞いた翌週に、オーロラはアマゾンとシリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタルのSequoiaから5億ドル(約556億円)の融資を受けたと発表された。アマゾンは物流自動化のリーダーであり、2017年時点ではR&Dにかける予算が世界一となった企業である。倉庫間の物流を自動運転にすれば明らかに膨大な利益に繋がるので、自動運転の開発にかける予算についても、他社とは本気度が全く違う。要するに、技術フロンティアを推し進めれば、自らが既存ビジネスで直接恩恵を受けるだけでなく、他の領域にも一気に参入して価値を作り出せるのである。このようなアマゾンの動きは注視する必要がある。日本でも様々な自動運転の開発と実証実験が行われているが、グローバルな展開を含めて、勝つのはなかなか厳しい。

 中国では5Gを活用した独自路線の自動運転が展開されるかもしれない。しかし、5Gのネットワークに依存せずにグローバル規模で「パイロット」ソフトウェアを提供することで車の価値を決め、パソコンの価値創造ロジックにように、ほとんどの利益を持って行ってしまうオーロラのような存在は、既存プレーヤーの価値を奪ってしまうかもしれない。(5Gの価値はどこにあるのかという議論にもつながるが、それはまた別の機会に論じたい)

 シリコンバレーから押し寄せる価値破壊と新たな価値創造の予兆は、ベンチャーキャピタル投資が過去最高額になり「バブルかもしれない」と疑われている現在、未来の革新の予兆シグナルをしっかり捉えて分析することが、日本にとって急務となる。本当にバブルかもしれないが、既存の価値破壊はどんどん進むので、どうすれば新たな価値が作れるのかという答えを見つけた企業が、次の時代で圧倒的な覇者となる可能性が強い。日本はこのような世界で勝負を続けなくてはならないのである。


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