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2019.01.09

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第117号(2019年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 謹賀新年。今年も諸兄姉と共に世界の平和と繁栄を祈ってゆきたい。さて昨年の12月に意見交換のためクリスマス休暇直前のロンドンの空港に到着した時、最初に耳にしたニュースはマチス米国国防長官の辞任であった(次の2の長官の手紙を参照)--2019年の国際関係は一段と霧深いものになる模様だ。

 国際関係の専門家達のなかではリベラル派に比べるとリアリスト派の声が大きくなっている。小誌前号で、シカゴ大学のoffensive realist、ミアシャイマー教授の新刊書(The Great Delusion: Liberal Dreams and International Realities, September)に触れたが、今月号ではハーバード大学のウォルト教授の新刊書(The Hell of Good Intentions: America's Foreign Policy Elite and the Decline of U.S. Primacy, October)に触れた(次の2を参照)。後者は2016年のForeign Affairs誌に両教授が発表した論文("The Case of Offshore Balancing")の主旨と同じで、元々は2016年秋に出版予定であった。同書は大統領選でクリントン候補が勝利した際、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に就任すると思われていたジェイク・サリヴァン氏の要請により国務省で講演した資料を基にしている。出版が2年遅れたが、ウォルト教授はそれが逆に幸いしてトランプ外交の評価をも含める事が出来たと述べ、更にはコロンビア大学のジャーヴィス教授が昨年半ばに編纂した本(Chaos in the Liberal Order: The Trump Presidency and International Politics in the Twenty-First Century, July)にも寄稿している。


 Brexitを巡り感情的な議論が空回りするロンドンに加えて、マクロン大統領に対する批判が今尚くすぶり続けるパリを訪れ、友人達と欧州政治経済等に関して突っ込んだ意見交換を楽しみ、多くを学んだ次第だ。

 3月末のBrexitを控えたロンドンでは、The Times紙の12月19日付記事("Britain Will Fall to 7th in GDP Rankings, Say Experts")が示すように悲観論が支配的であった。Brexitに関して高級誌The Economistの文章が漸く小気味良いほど鋭くなってきた。12月13日付の記事("As Others See Us")の中では、仏La Tribune紙が「シェイクスピア悲劇のBrexit (Le Brexit, une tragédie shakespearienne)」と評した事、また独Der Spiegel誌の英語版が「狂気の沙汰の島(Isle of madness)」と評した事を伝えている。そして嘗ては17年間The Economist誌の編集長を務めたウォルター・バジョットが誇った大英帝国を、最近のエリート達が悲惨な国に堕落させたと述べている。次の週には、エリート達の「お友達政治(chumocracy)」を、記事("The Elite That Failed")の中で非難している。これに関して筆者は友人達に次のように語った--「ボクは楽観的だ。旧弊固陋のエリートは、いずれ有能或いは新興エリートに駆逐される。それが証拠に(次の2で触れた)アイヴァン・ロジャーズ氏の演説は素晴らしい」、と。
 パリでは、美しい街並みを「黄色いジャケットの人々(les «gilets jaunes»)」が汚した様子を直接見る事が出来、そうした中、ポーランドのチャプトヴィチ外相がフランスは「欧州の病人(«l'homme malade de l'Europe»; "chorym człowieku Europy")」と語った事を聞いた。筆者は友人達にドイツの国際安全保障研究所(SWP)の論文を紹介した--その論文はポーランド出身の研究者によるもので、欧州経済を復活させるには、ユーロ圏の人口とGDPの6割余りを占める独仏伊3ヵ国による協調的構造改革が必要だ、と主張している(その実行可能性は別として、次の2の„Deutschland, Frankreich und Italien im Euroraum"を参照)。
 嘗て"欧州の病人(»kranker Mann Europas«)"と揶揄されたが、今では"欧州の経済的スーパースター(»ökonomischer Superstar Europas«)"と呼ばれるドイツに欧州の将来を期待したいところだが、それは非常に難しいようだ。2015年末にメルケル首相は、移民の流入が「明日のための機会(eine Chance von morgen)」と唱えたが、ドイツ国民は必ずしもそう考えていない。


 11月下旬、英国出身の日本専門家ロナルド・ドーア先生がイタリアで逝去された。

 1989年から1994年まで米国ケンブリッジのMITでadjunct professorとして教鞭を執られた先生の最後のクラスを筆者が聴講するという幸運に恵まれた。先生に「(焼き鳥の)砂肝でもかじりに行きましょうよ」と申し上げると快いお返事を頂き、Cambridge Squareから地下鉄で一駅離れたPorter Squareに在る日本料理店で語り合った事を思い出している。当時の日本は過労死等が少しずつ問題化するバブル崩壊後の時期にあり、それらを筆者がクラスで語ったところ、タイ出身の学生から「ジュンはAnti-Japaneseか?」と聞かれ驚いた事がある。それに対し「ボクは日本人。だからこそ母国を良くしたいために日本を厳しい目で見、敢えて厳しい事を述べている」と語ったのが懐かしい。残念な事に先生の訪日時、過密スケジュール故に日本国内では遂にすれ違いに終ってしまった。昨年末、先生の著作を調べて驚いたのは塩野七生氏の『ローマ人の物語』を先生が翻訳されている事だ!! そして今、先生のご著書(『幻滅: 外国人社会学者が見た戦後日本70年』(2014))を読みつつ、知的で"知日"且つ"親日"派であった先生が如何なる経緯で日本に幻滅したのか、疑念を抱きつつ先生を偲んでいる。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第117号(2019年1月)PDF:342.0 KB

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