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2020.03.24

【緊急提言】コロナ・ショックの経済対策の基本的方向性について

  • 政策提言

 新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するための自粛等の措置のため、経済が急激に悪化している。以下では、いま日本で必要とされる経済政策の基本的な方向性について、キヤノングローバル戦略研究所の有志が共有する見解を提示する。我々の見解が、今後の政策論議の一助となることを期待する。


 新型コロナウイルス感染症の蔓延はパンデミック(世界的大流行)の段階に入り、終息の時期はまったく見通しがきかなくなった。経済への悪影響は基本的には一時的とみられるが、東京五輪への影響を含め、今後どれほど深まり、かつ、長引くか、現段階ではまったく不可測である。経済の悪化が、歴史的な深刻さとなる可能性も否定しえない。経済への悪影響を緩和し、将来の回復を円滑化するためには、やはりマクロ経済対策が適度に、かつ、タイムリーに打ち出されることが肝要である。主要国の中央銀行が口火を切りつつ、この努力は既に始まっている。ただ、新型コロナウイルスの問題に適切に対処していくためには、それだけでは足りない。イベントや外出の自粛などの「隔離措置」がホテル、レストラン、航空会社など特定業種に特に大きな打撃を与えるのに加え、雇用面の悪影響にもかなりの偏りがみられるからである。したがって、打撃を受けた企業や個人への直接的な支援を強力に実施することが必要である。

 まず確認すべきことは感染症対策と景気対策の関係性である。本来は、新型コロナウイルスを征圧して、自粛や渡航制限のような経済活動への制約を取り払うことが一番の景気対策ではある。

 しかし、現状では、イベントや外出の自粛などで、人と人との物理的接触を強制的に減少させ、消費活動を人為的に縮小させる政策を感染拡大防止のために実施せざるをえない。感染拡大の防止という大目標のために、景気をあえて悪化させているのが現在の政策である。感染拡大が続いている今、景気を刺激する政策はとれない。消費活動が無差別に活発になれば、人と人の接触が増えて感染リスクが高まるので、感染防止という景気よりも重要な大目標の達成が困難になるからである。

 一方、強制的な消費の縮小によって、収入が途絶し、資金繰りがつかなくなっている企業や就労者(主に非正規雇用の労働者やフリーランスなどの個人事業主)は、感染防止政策の犠牲者であるから政府が責任をもって救済しなければならない。

 資金繰りがつかなくなった企業は、債務返済ができなければ倒産するし、収入が途絶した個人は家賃・公共料金などの支払いや生活必需品の購入ができなければ生活が維持できなくなる。政府がやるべきことは、これら債務返済・家賃等の支払い・生活必需品の購入などの最低限の出費に必要な資金を支援することである。これは景気の拡大を目的とした景気刺激の政策ではない。重ねて言うが単純に景気刺激のみを意識し過ぎて策を施すと、感染リスクを高めるので、これを優先して実施すべきではない。

 資金を支援する方法は、さまざまなものがあり得る。例えば、個人に対する無審査・無担保での緊急融資で生活維持を支援する方法もあろう。マイナンバーカードで管理して納税に上乗せして返済するようにすれば、事後的に貸し倒れになるリスクを軽減できる。事後的に所得が低くなった人には返済を減免するようにすれば、必要な人に現金給付することと同じになり、公正な救済策となる。企業の資金繰り支援も、同様の緊急融資のかたちで実施できるだろう。以上はあくまで政策案の例だが、基本方針として維持すべきことは、資金繰りが逼迫した個人や企業に重点的に資金支援を行うということである。

 一方、商品券の給付、外食や旅行への補助といった「消費を増やす」ことを目的とした政策案が提案され、緊急経済対策の議論で注目されている。人と人との接触をともなうタイプの消費を増やすことは、感染リスクを高めるので、あきらかに感染防止という大目標に背反する。消費を無差別に喚起するこれらの政策は実施すべきではない

 なお、消費税の減税によって便宜的に経済への悪影響を緩和しようとの考え方も出されているが、消費減税による拙速な消費刺激は感染リスクを高めるため、感染拡大防止という大目標と矛盾する。それのみならず、消費税は、これから何世代もの将来にわたって、社会保障と税財政の基本構造を形成する恒久税制である。特に、消費税は医療・介護を支える重要な財源である。コロナ・ショックという突発的で一時的な危機に対応するために、社会の長期的な骨格を決める消費税を便宜主義的に動かすと、長期的な国家運営に対する国民の「信認」を大きく損ねてしまうリスクがある。したがって、消費減税は採用すべき政策ではない。突発的で一時的な危機には、臨時の一時的な政策(緊急融資や現金給付など)で対応するべきである。

 感染症の拡大が国内外で続いている現在、最優先すべきは、感染拡大の防止である。その次は、企業の資金繰りと個人の生活維持に必要な資金について、政府が十分な金額を支援することである。以上2つは今すぐ同時に実行する必要がある。感染症が終息すれば、経済活動への制約を取り除き、景気拡大を目指した政策を実行できる。こうした優先順位と時間的順序を頭において経済政策を決定することが求められている。


岡嵜 久実子
岡崎 哲二
柏木 恵
鎌江 伊三夫
栗原 潤
小手川 大助
小林 慶一郎(世話人)
杉山 大志
須田 美矢子
瀬口 清之
林 良造
福井 俊彦
堀井 昭成
松山 幸弘
宮家 邦彦
山下 一仁

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