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2019.12.10

これからの日本の経済政策はどうあるべきか

中央公論 2019年12月号(2019年11月10日)に掲載

 早いもので筆者の「時評」連載も最終回である。今回は、これからの経済政策の全体像を独断と偏見で考えたい。

 まずは、国債に代表される公的債務の累増にどう対処するか。公的債務は国内総生産(GDP)の240%に達し、増加を続けている。ただ、近年は税収が増え、金利がゼロまたはマイナスに抑えられているため、公的債務の増加ペースは鈍化している。そして、国債の金利が名目GDP成長率(経済成長率)より低い。この状態が続き、基礎的財政収支の赤字が一定の値に収まれば、国債のGDPに対する比率(債務比率)は、一定の値に収束する。つまり、財政は安定化する。

 しかし、そのためには非常に長い間、金利が経済成長率よりも低く抑えられなければいけない。なぜ、金利が成長率よりも低いのかと言えば、産業や技術の将来に不確実性が高まっていることと、国債が安全な資産だという認識が強く共有されているからである。民間資産への投資が高リスクだから、安全資産の国債への投資需要が高まり、金利が低くても国債を持とうとする投資家が増える。だからゼロ金利が続く。

 財政破綻を避けることが財政運営の第一の目標だとすれば、金利が成長率よりも低い状態をできるだけ長く続け、その聞に、基礎的財政収支の赤字を抑える財政改革を行うことが重要になる。

「国債は安全資産だ」という市場からの信認を、これからも維持することが必要で、そのためには、政権トップが国民に対して財政再建への意思を明確に示し続けることが求められる。

 国債への信認があっても、経済環境が変わって金利が成長率より高くなる場合もある。民間部門で大きな投資需要が生まれるときなどだ。そうした場合には、迅速に歳出削減や増税ができなければ、政府債務が急膨張し、財政破綻が起きるかもしれない。このような事態に備え、危機対応プランを平時から用意しておくことが、市場の信認を維持するために必要だといえる。財政危機時に削減する歳出項目の洗い出し(トリアージ)など、平時から政府が責任ある備えをしていると示すことで、市場の信頼が高まるのである。

 財政面では、金利が成長率より低い状況を続けられるよう、前述のような方策で市場の信認を維持すれば、財政引き締めをむやみに急ぐ必要はない。全世代で格差を是正するために、必要な財源は重点的に投入し、財政健全化と国民生活の向上をバランスよく図るべきだ。

 次に金融政策を考える。金利が成長率より低い状況が起きているなら、名目金利をゼロまたはマイナスにする金融緩和政策は、「ゼロ・インフレ」の定常状態をもたらす可能性がある。ゼロ金利がインフレを起こすと言われたのは、「定常状態では金利が成長率より高くなる」という前提があったからだ。金利が成長率より低い状態が長期的に続くならば、ゼロ金利はインフレ率を押し下げてしまう。むしろ「将来的に金利は上がる」という予想が生まれなければ、インフレが起きることは期待できない。経済を悪化させずにインフレ期待を生み出すためには、名目金利をプラスの領域に誘導しつつ、他方では金利を上回る高い名目経済成長率を実現しなければならない。そのためには、継続的な財政刺激が欠かせなくなるかもしれない。

 財政と金融を考えあわせれば、これからの日本の経済政策、むしろ「金利ゼロ、ゼロ・インフレ」の下で、高い実質経済成長率を目指すべきではないだろうか。

小林 慶一郎 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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