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2019.12.09

【半歩先を読む経済教室】公立病院424再編リストが問いかけるものー医療関連負担に圧迫される地方財政

Business Journalに掲載(2019年11月28日付)

  • 小黒 一正
  • 主任研究員
    小黒 一正
  • [研究分野]
    マクロ経済
 国の債務残高は1100兆円を超えており、国の財政は厳しいが、その主な原因は恒常化する財政赤字と高齢化の伴う社会保障費の膨張である。内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2019年7月版、ベースラインケース)によると、2019年度における国の財政収支(対GDP)は4.1%の赤字、地方の財政収支(対GDP)は概ね0%の黒字となっている。また、2028年度における国の財政収支(対GDP)は2.8%の赤字、地方の財政収支(対GDP)は概ね0.5%の黒字と予測する。

 このため、マクロ的にみると、国の財政と比較し、地方財政に余裕があるのは確かだが、各地方が直面する人口減少や高齢化のスピードなどは大きく異なるため、ミクロ的には、厳しい財政状況に直面する自治体も増えてきている。この象徴の一つとして挙げられるのが、2019年4月に財政危機の宣言を行った新潟県であろう。

 新潟県は、県の貯金に当たる「財源対策的基金」が2021年度末にも枯渇する可能性を明らかにし、2019年10月下旬に正式決定した「行財政改革行動計画」に従って、財政再建に取り組み始めている。新潟県の財政が危機的な状況に陥った主な原因は、借金返済である公債費の実負担増と、今後も増加が見込まれる社会保障関係経費や県立病院への繰出金の負担増である。

 しかし、このような厳しい状況は、新潟県のみの問題とは限らず、他の自治体にもいずれ到来する可能性が高い。というのも、国土交通省が2014年7月に公表した「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」では、我が国の国土のうち2050年の人口が2010年と比較して半分以下となる地点(全国を「1平方kmごとの地点」で見る)が、現在の居住地域の6割以上(=44%+19%)を占めることを明らかにしているからである。域内の人口が5割以上も減少すれば、その自治体の税収が大幅に減少する恐れがある一方、高齢化で社会保障関係経費には増加圧力がかかる。


深刻さ増す公立病院の赤字拡大

 地方の負担分である社会保障関係経費の推移をマクロ的に確認してみよう。図表1は、国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障費用統計(平成29年度)」から作成したものだが、1970年度から2017年度において、社会保障給付費は直線的に増加し続けている。この増分のうち、地方負担分は赤色の部分であり、1990年度に2.69兆円であった地方負担分は、2017年度に16.61兆円にまで膨張している。高齢化に伴う社会保障給付費の増加は今後も続くため、それは国の財政のみでなく、地方財政も直撃するはずだ。


図表1:社会保障給付費と社会保障財源の推移

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(出所)国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計(平成29年度)」から作成

 年金・医療・介護などの社会保障給付費のうち、地方財政を最も圧迫するのは医療関係の負担分である。特に深刻さを増しているのが、市町村などが運営する公立病院の赤字拡大であり、その裏側で進行する自治体の補填である。総務省「地方公営企業決算状況調査」によると、2013年から2017年において、公立病院の繰入金は年間8000億円程度であり、新潟県の財政問題も県立病院への繰出金の負担問題が関係している。

 また、公立病院・公的病院は、経営にかかわりなく、人事院勧告や年功序列方式などに従って、医師や看護師の給料が上がる仕組みになっており、経営が非効率であるという指摘も多いが、全国783の公立病院のうち671の病院において、各々の「自治体の補填を除いた本業の赤字総額は2017年度に4782億円となり、12年度比で5割増」となっている(2019年4月25日付日本経済新聞)。

 なお、地方公共団体間の財源の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供する財源を保障するものとして、地方交付税交付金もあるが、国の財政も厳しいなか、地方交付税交付金にも実質的なシーリングがあり、それで地方財政の問題を解決することは困難な状況である。


「2040年の医療提供体制を見据えた改革」

 この問題の解決を図るため、財務省や厚生労働省はいくつかの政策を打ち出している。その一つが「2040年の医療提供体制を見据えた改革」であり、改革の柱は3つで構成されている。第1の柱は「医療施設の最適配置の実現と連携」で、これは2025年までに目指すべき医療体制の将来像を示す地域医療構想の実現とも表裏一体の課題である。第2の柱は医師・医療従事者の働き方改革で、病院勤務医の過酷な時間外労働の上限規制であり、第3の柱は実効性ある医師偏在対策である。

 急速な人口減少が進む地方で、この3つの課題に同時に対応する方策は、域内の人口減少の将来予測を見据えつつ、医療施設の再編統合を行い、医療機能の重点化や効率化(選択と集中を含む)を進めるしかない。選択と集中を行えば、現在のところ地理的に分散化されている病院勤務医の人的資源も有効活用でき、その過酷な時間外労働の是正も一定程度は進むことが期待される。また、胃がんに対する手術件数が多い医療施設のほうが、実施件数が少ない医療施設と比較して死亡率や周術期合併症の発症率が低いという研究結果もあり、医療機能の重点化は、医療の質を向上することも期待できる。

 地域医療構想において、この中核を担うことを期待されるのが、公立病院や公的医療機関であり、民間医療機関では限界がある高度・先端医療の提供のほか、高度急性期・急性期機能や不採算部分、過疎地等の医療提供などである。

 また、地域医療構想の推進や医療提供の質的向上を図る観点から、総務省も2015年3月、「新たな公立病院改革ガイドライン」を通知し、例えば、公立病院の運営費に関する地方交付税措置につき、その算定基礎を従来の「許可病床数」から「稼働病床数」に見直している。このような見直しは、医療施設の最適配置の実現に資することが期待されたが、「稼働病床数」の定義が「最も多く入院患者を収容した時点で使用した病床数」となってしまい、患者延べ数から算出する「病床利用率」と乖離し、再編統合を促す誘因が骨抜きになるといった問題も明らかになっている(図表2)。


図表2:「稼働病床数比率」と「病床利用率」とのギャップ

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(出所)厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ」第19回資料

医療システム堅持のために再編統合の検討を

 このような状況のなか、改革に向けた検討の参考情報として、厚生労働省が2019年9月26日開催の「地域医療構想に関するワーキンググループ」で公表したのが「公立・公的医療機関等の診療実績データの分析結果」である。

 この分析結果によると、公立病院・公的病院の25%超に相当する全国424の病院が、診療実績が少なく、非効率な状況であり、再編統合の検討が必要であることを示唆する。この424再編リストは、厚生労働省が強引なかたちで再編統合を促すものではない。重要なことは、地方財政にも限界があるなか、必要な医療システムを堅持するため、この分析結果を参考に、政治や我々がどのような具体的対応を行うか冷静に検討することあるはずだ。

 なお、最近の内閣府・世論調査によると、「複数の医療スタッフで業務を分担しながら24時間診療が行えるよう、いくつかの医療機関を統廃合することにより、医療スタッフを集めるという考えに賛成か、それとも反対か」との問に、賛成が約7割、反対が約3割という結果も出ている(図表3)。「政令指定都市」「中都市「小都市」「町村」といったセグメントでいずれもほぼ似通った結果になっているが、人口減少のスピードがより速い地域が多いと思われる「町村」が(若干だが)最も賛成の比率が高いという結果も興味深い。各々の公立病院等の地理的位置関係は、厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ」(2019年6月21日開催)で示された「構想区域の公立・公的病院等を中心とした機能分化・連携の状況」で確認できるため、こちらの資料も利用しながら、医療施設の最適配置の実現と連携などについての議論を深めることが望まれる。


図表3:医療機関の統廃合の賛否

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(出所)内閣府の世論調査「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」(2019年7月調査)。なお、「賛成」とする者の割合は「「賛成」+「どちらかといえば賛成」」の合計、「反対」とする者の割合は「「どちらかといえば反対」+「反対」」の合計を表す。

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