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2019.11.19

マンション所有者に迫り来る現代版「共有地の悲劇」

中央公論 2019年11月号(2019年10月10日)に掲載

 近年の建設ラッシュで、東京都心部にはタワーマンションが林立している。これから深刻になりそうなのが、その建て替え問題である。国土交通省によると、現在、全国の分譲マンション戸数は655万戸、入居者は1,525万人と推計される。うち築40年以上のものは、現在約81万戸、20年後には約367万戸に達し(2018年末現在)、これらの多くは建て替えが必要になる。

 近年は入居者が数百から1,000世帯に及ぶ大規模分譲マンションも多数あり、それらの物件を建て替える場合、1,000世帯の所有者の大多数が建て替えのタイミングと方法に合意しなければならない(都市再生特別措置法により所有者の3分の2の合意が必要)。問題は、誰が合意形成のリーダーシップをとるのか、ということである。マンションの管理会社は、「案」を住民に提案するが、意思決定をするのは住民(区分所有者)で構成される管理組合なので、管理会社はあくまでアドバイスをするにとどまる。

 分譲マンションにはそれぞれの住民の専有部(住居)のほかに共用部(建物の躯体部分など)があるが、区分所有法では、共用部はすべての住民の「共同所有」の財産となっている。海外では、マンションの共用部の所有権を管理会社(不動産開発業者)が所有し、住民は自己の専有部分の所有権だけを持つという形態もあると聞く。

 この形態なら、躯体の所有者である管理会社が強い発言権を持つことになり、建て替えによって利益を得ることにもなるので、管理会社がリーダーシップをとって合意形成することが期待できる。しかし、日本の分譲マンションでは、管理会社は日々の管理と住民へのアドバイスをすることで手数料を得ているだけなので、建て替えの合意ができてもできなくても、懐は痛まない。建て替えを含めたマンション管理は、あくまで管理会社ではなく住民の共同責任であるというのが日本の区分所有法の考え方である。つまり、住民の自由な意思に基づく自発的な「自治」で、マンションは十全に管理できる、という性善説を、日本の法律は前提としているのである。

 ところが、マンション居住者であれば経験した方も多いと思うが、世帯数の少ないマンションでも、建て替えどころか修繕についてすら、住民の意見が割れて合意がとれないことが多い。特に、近年の都心部のタワーマンションでは、投資目的で購入した外国人などの所有者が増えている。投資目的の非居住者は、そもそも連絡がつきにくいなど、合意形成が一段と困難だ。

 資産が共有だとその管理がおろそかになることは様々な経済現象で観察されている。それは、経済学で「共有地の悲劇」と呼ばれる問題である。住民みんなが全体の利益を考えれば共有部分について合意できるが、利己的に振る舞えば共有地は破壊される。分譲集合住宅の区分所有法の制度は、マンションの「共用」部分を住民の「共有」財産と規定したために、新たなタイプの共有地を創出してしまった。マンション建て替え問題は、法制度が作り出した共有地の悲劇ともいえる。

問題を解決するには、管理組合の宰質的な意思決定をする理事会のガパナンスを改革することが必要である。  理事会メンバーの報酬と責任を明確に決める、住民以外のマンション管理のプロを理事に任命できるようにするなど、会社経営に倣った制度設計が考えられるのではないか。

 こうした制度改革を実行し、マンション建て替えラッシュの到来に一刻も早く備える必要がある。

小林 慶一郎 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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