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2019.05.10

交錯する景気観測と日本経済の実力

中央公論 2019年5月号(2019年4月10日)に掲載

 内閣府が3月7日に発表した1月の景気動向指数は大きく下降した。一方、3月15日に日銀は景気判断を据え置き、政府は3月20日の月例経済報告で、三年ぶりに下方修正した。景気の先行きについては、強気と弱気が交錯する視界不良の時期となった。

 いま考えたいのは、消費税増税と、そもそもどこが日本経済の実力かという、二つの問題だ。

 もし景気後退に入れば、10月の消費税増税の反対論が勢いづくかもしれない。消費税の増税は、将来の財政健全化への道筋を確かなものにして、長期的な経済成長を促すための政策であることを再認識する必要がある。財政について将来不安があることが、経済活動を萎縮させて長期的な経済成長を悪化させるからだ。一方、短期的には、消費税増税が消費を冷え込ませ、景気を一層悪化させることも確かだ。

 このジレンマをどう解決するか。

 消費税の増税は予定通りに実施して、短期の景気への悪影響を打ち消すのは別の景気対策(公共インフラ更新の前倒しなど)を打つことで対処すべきだろう。そうすれば、長期的な財政についての信頼感を損ねることなく、短期的な景気への悪影響も緩和できる。もし消費税の増税を中止してしまったら、短期の消費低迷という悪影響はなくなるかもしれないが、長期の信頼感も失われ、長期的な経済成長は悪化する。

 なお、大事なことは「消費税」という形態ではなく、長期的な財政再建への道筋を明らかにすることである。それができれば「消費税」を増税する必要はない。消費税増税反対論の人は、消費税に代わる財政再建の案(たとえは所得税増税や医療費窓口負担の増額など)を提案するべきではなかろうか。

 景気の方向に変化の兆しが見え始めたいま、日本の経済政策の目標は何だったかを改めて考えるのは無意味ではあるまい。

 長い景気拡大期だったアベノミクスの六年間、実質の経済成長率(年率)は、ほぼ1%であった。これ以前の1990年代後半からの25年間の平均成長率も、ほぼ1%である。これは先進7ヵ国ではイタリアと並んで最低の成長率ではあるが、一人当たりに直すと、見方が変わる。90年から現在までの約30年間で、生産年齢人口一人当たりの経済成長を比較すると、日本は、他国と比べてさほど遜色のない成長を達成している(順位は7ヵ国中5位だが、米国とほぼ同程度の成長といえる)。

 つまり、現役の労働者一人当たりでみると、日本人は他国の人々と同程度には成長してきた、といえるのである。それでも国全体の経済成長率が1%程度で低迷しているのは、高齢化による就労入口の減少などが原因だ。要するに、高齢化がこれからも進むことを前提とすれば、1%成長が、日本経済の実力だ、ということである。もし日本の国全体のGDPを2%成長に持っていくと言うならば、すでに他の先進国の労働者と同じ程度に成長している日本の労働者に、もっと働いてもっと価値を生み出せ、と言うに等しい。それはあまりにも酷だろう。

 つまり、「金融政策や財政政策によって景気を刺激すれば経済成長率が2%や3%にまで上昇する」に違いない、という私たちの暗黙の前提が間違っているのだ。

 戦後最長の景気拡大でも1%成長しか達成できなかったことから見れば、これからも1%成長がせいぜいだという前提で、無理に高望みしない経済政策を考えるべきではないだろうか。


小林 慶一郎 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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