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2019.05.07

【半歩先を読む経済教室】増税判断と憲法7条による衆議院解散権...諸外国の動きも参考に検討すべき

Business Journalに掲載(2019年4月24日付)

  • 小黒 一正
  • 主任研究員
    小黒 一正
  • [研究分野]
    マクロ経済

 議院内閣制を採用するイギリスでは、日本と同様、伝統的に首相が下院の解散権を有していたが、1990年代以降に議会の任期を固定するべきという論調が強まり、2011年の議会任期固定法を成立させ、その解散権を封印した。この法案により、政権に対する不信任決議案が下院で可決された場合などを除き、下院の総選挙は基本的に5年ごとの所定の日に行われる。

 改正の背景には、政権与党が有利な時期に解散するという戦略が、選挙の実施体制の公平性に反し、野党が一方的に不利な立場に置かれることに対する是非が問われ始めたことが関係する。

 では、日本ではどうか。周知のとおり、日本国憲法では、69条解散と7条解散が存在する。このうち、憲法69条では「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」とし、内閣不信任案の可決(あるいは信任案の否決)での解散を規定している。この解散に学説上の異論はないが、問題となるのは7条解散の妥当性である。

 憲法7条では「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う」とし、3号で「衆議院を解散すること」と記載しているが、これは天皇の国事行為を定めたもので、天皇は政治的権能を有しない(憲法4条)ため、この条文を根拠に解散することは違憲ではないかという指摘も多い。実際、憲法草案に携わったGHQは「解散は69条のみに限定される」との解釈を示していた。

 しかしながら、いわゆる「苫米地事件」に対する最高裁判決(1960年6月8日)では「衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは(略)あきらかである」とし、違法性に関する憲法判断を回避している。

 その結果、現在のところ、憲法7条で内閣に実質的な解散決定権が存在するという慣行が成立している。7条解散を合憲とする立場では、「天皇の行う解散は、内閣の助言と承認によりなされるものであつて、天皇は形式的儀礼的にこれを行うのであるから、解散権は内閣にあり、事実上、内閣の長である内閣総理大臣が解散権を握っている」との解釈を採用する。

 現行憲法下で衆議院の解散は計24回(2019年4月時点)であるが、そのうち4回のみが69条解散(内閣不信任の可決での解散)であり、残りの20回は7条解散である。最近の事例では、消費税率10%引き上げの延期やその財源の使途変更に対する信を問うため、安倍首相は2014年11月と2017年9月に7条解散に踏み切ったが、このような形での解散権の行使を疑問視する声もある。

 ドイツでは、ワイマール憲法下での大統領緊急命令権と議会解散権を利用してヒトラーが独裁体制を握ったことから、内閣による解散は厳しく制約している。解散権論争を含む憲法7条の問題は、「そもそも憲法の条文の不備に由来するもの」(芦部信喜著『憲法』岩波書店)との指摘もあり、日本においても、イギリスの議会任期固定法やドイツ等の諸外国の仕組みも参考に、7条解散のあり方(解散権の封印を含む)について検討を深める時期にきているのではないか。


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