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2019.04.12

最後にどうなるブレグジット - 三度目の採決はどうなる? -

WEBRONZA に掲載(2019年3月29日付)

  • 山下 一仁
  • 研究主幹
    山下 一仁
  • [研究分野]
    農業政策・貿易政策
英国は正気に戻れるか

 ブレグジットについては、英国議会の動向が主として報じられてきた。EU離脱強硬派、メイ首相がEUとまとめた協定案に近い穏健な離脱派、EU残留派、イギリス本土と同一の扱いを主張する北アイルランド地域政党など、議会内に多様な意見があってまとまりにくい上、メイ首相にこれを調整する政治的な意思も力も全くないことが、この混乱に拍車をかけたといってよい。

 与党である保守党の中にも、離脱強硬派などメイ首相の協定案に反対する意見が強い。また、保守党が過半数の議席を持たないため連立を組む北アイルランド地域政党は、ブレグジットには賛成だが、北アイルランドとイギリス本土の扱いを異なるものとする協定案の中のバックストップ(北アイルランドとアイルランド間の厳格な国境管理を避けるため、北アイルランドにはEUと同一の法律制度・規則を適用しようというもの)に反対している。

 通常の外交交渉で政府が与党と調整しないで、外国政府と交渉をし、その結果について議会承認を求めることはありえない。特に、今回のように与党内に異なる意見がある場合は、なおのことである。

 しかし、メイ首相がそのような意見のすりあわせや調整、EUとの交渉状況の説明、交渉結果への理解を得るための努力を行ったようには思えない。それどころか、EUとの交渉さえも、メイ首相が直接信頼する官僚に任せて交渉させて、担当閣僚は交渉から外され交渉の状況さえ説明されなかったと報道されていた。

 メイ首相の協定案には与党どころか閣僚さえも関与していない。それを、通常の議決では行われる党議拘束もかけずに、直接議会の議決にかければ、歴史的な大差で二度も否決されるのは当然だろう。議会への説得の仕方も、内容を説明するというより、これを承認しなければ合意なき離脱になって大変なことが起きますよといった脅し的なものである。


大変な野心家

 メイ首相は大変な野心家である。

 12歳で政治家を志望し、サッチャーが首相に就任したときは、私が初めての女性首相になるはずだったのにと悔しがったとも伝えられている。キャメロンが国民投票で敗北した後、多くの政治家が尻込みする中で、一人だけの首相候補となり、念願の首相となった。

 彼女はEU離脱を成功させ、歴史に名を残す首相となりたかったに違いない。国民投票時には残留を唱えていたが、首相就任以降頑な離脱派となる。国民投票は僅差で離脱派が勝利した。今国民投票をすれば、残留派が勝利する可能性が高い。

 それなのに、国民は意思表明をしたとして、二度目の国民投票を断固として拒むのは、どうしても自分でEU離脱を実現したいからだろう。"ブレグジットはブレグジットである"という言葉に、EU離脱にかける執念を感じる。逆に、自身の協定案については、議会が反対の強い意思を2度も表明したのに、三度目の採決を目指している。

 したがって、どのような批判を受けても、歴史的な敗北を喫しても、自分がEUとまとめた協定案にあくまでもこだわる。ある意味で、サッチャーと同じく"鉄の女"である。


EUが合意した協定案か、総選挙か国民投票を行うか

 これはEUとの交渉にも現れている。

 協定案を再度否決され、離脱延期の議会決議を受けた後、メイ首相はEUに離脱延期を申し入れた。私が驚いたのは、離脱延期の期限を6月30日までの短期間としたことである。

 6月30日までに、今の協定案をEUと再交渉するのも、議会を解散して総選挙したり国民投票をしたりして、英国の基本的なポジションを見直すことも、不可能である。これはメイ首相の協定案を再度議会に諮り、それを可決させた上で、その実施に必要となる国内の法律や制度を調整するために6月30日までの期間が必要だと言っているだけのものである。つまり、延期をする場合でも、メイ首相は自身の協定案以外のオプションをEUに示さなかったのである。

 あきれかつ怒ったのはEU加盟国である。延期すること自体、マクロン仏大統領は明確な理由がない限り認められないと反対していたのを、メルケル独首相がようやく説得した。二度も大差で否決された協定案をメイ首相が可決まで持って行けるとは思えない。6月30日までとするメイ首相の提案は拒否された。5月23日に5年に一度の欧州議会の選挙が始まる。英国議会が協定案を可決したとしても、それを実施する法律制度を5月22日までに整備して、欧州議会選挙前に離脱するよう求めたのである。

 もちろん可決される可能性は低い。その場合は、合意なき離脱をするか、議会の解散や国民投票を行うために必要な長期の離脱延期をするか、これを決定する期限を4月12日としたのである。もし長期間の延期となると、イギリスはEU加盟国に留まるので、5月23日からの欧州議会選挙に参加することになる。その場合を考慮して、4月12日までに選挙準備を終える必要があるという判断である。

 そのうえで、EU側は、何をするのか明らかにしなければ長期間の延期は認められないと主張した。これは当然の主張だが、イギリスの離脱強硬派に心理的な影響を与えた。長期間の延期なら、合意なき離脱は既にオプションとしてなくなっている。合意なき離脱をするなら、4月12日にそうすれば良いだけだからである。

 とすると残るオプションは、メイ首相とEUが合意した協定案か、総選挙か国民投票を行うか、しかない。

 後者の場合は、EU残留の結論が出る可能性が高い。それならメイ首相の協定案を支持した方が、意に沿わないが離脱は離脱なのでましだと、ボリス・ジョンソンなどの一部離脱強硬派は考えるようになった。


「協定案可決なら辞任」の賭け

 このような中でメイ首相は、3月27日、協定案を可決するのであれば、自分は辞任するという賭けに出た。

 しかし、前回の投票結果を可決に持っていくためには75名の議員の翻意が必要だが、ボリス・ジョンソンは翻意したものの、離脱強硬派の全てが態度を変更するまでには至っていない。10名と議員数は少ないものの、議決結果を左右する票を持っている北アイルランド地域政党が、賛成はしなくても、せめて棄権してくれれば、可決の可能性はあるが、同党はあくまで反対するという立場を変えなかった。

 こうした中で、3月25日、下院は議会での議論の主導権を少なくとも一日政府から議員に移すという案を、メイ首相の3人の閣僚の造反も得て、賛成329、反対302で可決した。こうして27日下院はブレグジットに関する8つのオプションを議員の投票にかけた。その結果を(英国BBCのテレビ放送とその記事をもとに)以下示す。〇が賛成票で×が反対票の数である。


 1.合意なき離脱~〇160、✕400

 2.メイ首相の協定案からバックストップを除外し、代わりの合意を加える案~〇139、✕422

 3.ノルウェーなどの自由貿易協定EFTAと単一市場EEAに参加するがEUの関税同盟には参加しない
(注:EUと異なる関税を適用でき日本やアメリカ等と自由貿易協定を結べる、EUの単一市場とともに拡大した市場を形成し、域内ではヒト・モノ・サービス・資本の自由な移動を保証するが、EEAの既存制度に従うものの、施行にはイギリスの裁判所の承認を必要とする案)~〇65、✕377

 4. 3.と同様EFTA・EEAに加入するが、3よりも単一市場を実施するためのEEAの既存制度に従う案~〇188、✕283

 5.EUの関税同盟に残留(注:3とは逆の効果)~〇264、✕272

 6.労働党案:関税同盟に加盟するとともに単一市場そのものではないがこれとの「緊密な連携」を図る~〇237、✕307

 7.国民投票を実施する~〇268、✕295

 8.離脱撤回~〇184、✕293


 この結果を踏まえて4月1日再度下院で議論することとなっている。

 この結果について、ブレグジット担当閣僚は、どれにも過半数の票が集まらなかったので、メイ首相の協定案を基礎として議論すべきだと討論したが、ある独立派の議員から、メイ首相の協定案が集めた242という票を上回る票が、5.EU関税同盟への加盟と、7.国民投票の実施に集まったことを考慮すべきだという反論を受けている。これは説得力を持っている。また、7の結果を踏まえ、少数党の議員からは解散・総選挙を行うべきだという主張も行われた。

 3月18日、下院議長ジョン・バーコウは1604年の前例を引用して、会期内に議決された同じまたは実質的に同じ議案(メイ首相の協定案)の採決は許されないという見解を示し、27日にも強調した。この前例は古すぎるという批判があるが、よほどの事情変更がない限り、何度も議決して結果を変更することが妥当とは思えない。27日の投票結果も踏まえると、メイ首相の協定案を再度採決にかけることは、相当困難になったと思われた。

 しかし、メイ首相は協定案のうち将来のEUとの関係を規定した政治的文書の部分を切り離してとりあえず離脱に関する部分(バックストップを含む)だけ29日の採決にかけるという奇手を考えた(政治的文書の部分も採決されないと協定案全体を批准したことにはならない)。これだと"同じまたは実質的に同じ議案"ではないという理屈である。29日の採決がどうなるか現時点では予断を許さない。

 しかし、メイ首相の協定案が二度も否決されたことや8つのオプションがすべて否定されたことは、今の議会にはブレグジットに関する政治的な選択を行う力がないことを示している。やはり、総選挙か国民投票によって国民の意思を確認するしか途はないだろう。



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