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2019.01.18

成長へ「頭脳還流」進めよ

読売新聞 2019年1月12日に掲載

 ――安倍首相の経済政策「アベノミクス」の「3本の矢」の一つである成長戦略をどう評価するか。

 日本の経済成長率は2012年のアベノミクス開始以来、おおむね0~2%の間で推移している。1990年以降の成長率の標準とほぼ同じで、その意味では成果は上がっていない。

 基本的な理由は、成長戦略に一貫性や整合性がないことだと考えている。過去の内閣と同様、政策は各省庁の施策と政治的な思惑による施策の寄せ集めであり、さらに世論へのアピールを重視して短期間で改訂していることが原因だ。

 その一例は、大学改革だ。大学をイノベーション(革新)の牽引(けんいん)役と位置づけていることは高く評価できる。一方で、大学を含む高等教育の無償化では、実務経験がある教員の授業が1割以上を占めることを要件としている。大学を実業教育学校のように見ていることにほかならず、イノベーションの担い手になり得る大学とは逆方向を向いている。

 核となる政策を明確にして、持続性を持って資源を集中することが望ましい。政策の結果を検証し、不具合があれば見直すことを通じて一貫性を持って追求していくことが必要だ。


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 ――日本はどのような取り組みが必要か。

 今後、労働力人口が減っていくことを考えると、労働生産性を上げていかなければ経済成長を続けることは不可能だ。生産性を上げるイノベーションを自ら起こしていくことが必要となる。もはや一つの企業の中だけでは、新しいアイデアを生み出して実用化していくことは難しい。米西海岸のシリコンバレーのように、複数の企業や大学を含むネットワークを構築していかないといけない。

 核になるのは、人的資本の量と質の向上だ。中国は1990年代以降、戦略的に多くの留学生を欧米諸国に送り込んできた。彼らは知見や技術を母国に持ち帰り、イノベーションの担い手になっている。今では、ハイテク分野で米国を脅かすほどの存在になっている。

 日本は、はるかに後れを取っている。海外への留学生は少なく、海外に出てしまうと日本に戻ってこない人が多い。中国のように人材の還流が起きていないことは深刻な問題だ。主な原因の一つは、海外で活躍できる優秀な人材を呼び込むだけの報酬を用意できていないことだ。


 ――人材の還流を起こすため、政府はどのような政策を講じるべきか。

 多くの日本人が海外に留学しやすい環境を作ることが大事だ。支援策の一つは、留学生に対する奨学金を充実させることだ。人材を呼び戻す方策としては、研究中心の大学を戦略的に選び、世界のトップレベルで活躍している教員や研究者を海外から招く時は、報酬を国際水準に引き上げられるような仕組みを作るべきだ。

 シリコンバレーは人材の宝庫だ。人と人が接触して新しい結合が作られ、イノベーションが生まれている。日本で同様の人材の集積地をつくる手段としては、触媒として外資系企業を日本に多数誘致することが考えられる。報酬体系も日本と違うので優秀な人材を呼び込みやすい。そうすれば流動的な人材市場もできてくる。

 外資系企業を誘致するためには、税制面での優遇措置や規制緩和など活動しやすい環境を整えることが必要になる。ある程度の核ができれば自律的に動いていく可能性がある。国家戦略特区として実施することも一案だろう。

 「頭脳還流」を推進して海外から優秀な人材を日本に呼び込む。研究機関も強化してイノベーションが生まれてくるような基盤を作る。これらを実現する政策を成長戦略の核にしてもらいたい。

(聞き手 豊川禎三)

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