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2020.05.29

温暖化で死亡リスクは減少する

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年5月11日)

  • 杉山 大志
  • 研究主幹
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 地球温暖化によって、死亡率はどう影響を受けるか。熱中症の増加ということがよく言われる。だが他方で、寒さが和らぐため、むしろ通年での死亡率は下がる。これを統計的に示した医学誌Lancet の論文を紹介する注1) 。東京では、通年の死亡のうち、寒さによるものが9.81%に上るのに対して、暑さによるものは0.32%しかない。


 地球温暖化によって、熱中症が増える、という意見があり、日本政府資料にも掲載されている注2)

 しかし他方で、温度が上昇すると、寒さは和らぐので、冬の死亡率は下がるだろう。それでは通年で合計すると差し引きどうなるか。

 同論文によると、東京についての結果は以下の通りになっている。


①東京において、日平均気温でみると、最も死亡率が低い「最適気温」は、26℃と高い。

②東京において、大半の日(86%の日)はこれよりも寒く、通年では、「寒さによる死亡率」の方が、「暑さによる死亡率」よりもはるかに大きい。

③「極端に暑い日」と「極端に寒い日」の死亡率は確かに高い。しかしそのような日数はさほど多くないので、年間を通じての死亡率に及ぼす影響は少ない。


 以上の結論は、世界各地でほぼ同じ傾向だった。以下に、グラフで説明する。

 図1は、東京における日平均気温と死亡リスク(Relative Risk, RR。左軸)の関係である。ピンクのヒストグラムは年間の日平均気温の分布。曲線は死亡リスクであり、26℃で最低になり、それより寒くても暑くても死亡リスクは高くなる。極端に暑い日(30度以上、縦破線の右)と寒い日(3度以下、縦破線の左)の死亡リスクは高いが、日数が少ないことが分かる(なお「極端に寒い」は気温分布の2.5パーセンタイル以下、「極端に暑い」は97.5パーセンタイル以上としている)。曲線とRR=1.0の直線の間に挟まれた面積が、暑さ・寒さによる死亡リスクの増分に相当する。最適気温が26℃と高いため、寒さによる死亡に相当する面積が圧倒的に大きくなることが読み取れる(なお右軸はこの論文の分析で対象となった死亡者数で、死亡リスクに比例する)。

 地球温暖化による影響については、同論文では定量化はしていないけれども、図1を見ると、殆どの日(年間の86%の日)が「最適気温」である26℃以下だから、平均気温が上昇することで、年間の死亡率が減少することが想像できる。


 sugiyama200511_01.png ※クリックでオリジナル画像表示

図1 東京における日平均気温と死亡リスク(Relative Risk, RR)の関係


 図1を基に、暑さ・寒さによる死亡リスクの増分を計算し、世界各地について示したものが図2である。

 この図では、極めて暑い(extremely hot)、やや暑い(moderately hot)、やや寒い(moderately cold)、極めて寒い(extremely cold)の4つに分けて関連する死亡リスクを示している。世界各地に共通して、最も死亡率の増大に寄与するのは「やや寒い」時期である。東京については、寒さによる死亡(=きわめて寒いとやや寒いの和)は全体の9.81%であるのに対して、暑さによる死亡(=きわめて暑いとやや暑いの和)は全体の0.32%しかない注3)

 この寒い時期の死亡率の増大は、呼吸器系疾患、循環器系疾患等によるものと考えられている。これは日本人の直感にも合っているだろう。

 論文の著者は、既往の気温と死亡率の関係の研究は、地球温暖化への関心から、極端に暑い日の死亡率増大について偏って焦点を当てていた、としている。そして「やや寒い日」を含めて通年での死亡率に着目した研究が重要であると述べており、医療・保険の公共政策も、地球温暖化への適応政策も、そのような知見の充実を踏まえるべきだ、としている。


 sugiyama200511_02.png
※クリックでオリジナル画像表示

図2 世界各地における暑さ・寒さによる死亡リスクの増大


注1) Gasparrini, A., Guo, Y., Hashizume, M., Lavigne, E., Zanobetti, A., Schwartz, J., ... Armstrong, B. (2015). Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: a multicountry observational study. The Lancet, 386(9991), 369-375.

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(14)62114-0

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(14)62114-0/fulltext


注2) https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full_high.pdf
なおこの政府資料には問題点がある。これについては以前書いたので参照されたい:
https://www.canon-igs.org/column/energy/20190605_5809.html


注3) 数値は同論文のTable 2による。


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