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2020.05.22

リベラル陣営から飛び出した再生可能エネルギー批判:マイケル・ムーアの「Planet of the Humans」を視る

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年5月2日)

  • 杉山 大志
  • 研究主幹
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 マイケル・ムーアと言えば、反資本主義・反共和党のドキュメンタリー映画で有名だが、彼が4月21日にYoutube上で無料公開した動画「 Planet of the Humans 」が物議をかもしている。英語であるが、字幕注1) があるので、聞き取りにくいところも内容がだいたい分かる。

 この動画、バリバリのリベラルであるマイケル・ムーアが、なんと再生可能エネルギーを強烈に批判している。すでにヒット件数は300万件を超えており、環境問題やエネルギー問題についての動画としては驚異的な件数になっている。一部の環境団体は、公開の撤回を求めている。 

 動画は、再生可能エネルギーが牧歌的なものではなく、巨大な産業となっており、利権に結び付いていて、アル・ゴア等は環境の名の下に金儲けをしている、と実名で糾弾している。

 更に、再生可能エネルギーは、多岐にわたり甚大な環境影響をもたらしている、とショッキングな映像の連発で訴える。矛先は、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電、バイオ発電、バイオ燃料、電気自動車など、あらゆる環境技術に及ぶ。

 カメラが入るのは、太陽電池やバッテリー製造のためのシリコン鉱山・レアメタル鉱山・精錬工場、風力発電の巨大な鉄塔の建築現場、バイオエネルギーのための森林伐採の現場、ごみを燃やして悪臭や排煙が問題となっているプラント等である。建設から40年経って廃墟のようになっている太陽熱発電所や風力発電所の風景も、おどろおどろしい音楽と共に映し出される。

 また再生可能エネルギーの製造においても、セメント・鉄鋼生産等の材料製造やバイオ燃料の製造のために石炭が投入されているという映像が流れる。また再生可能エネルギーを100%使用していると謳っている企業や環境団体のイベントが、実は化石燃料に頼っていることも暴露される。

 以上のことはエネルギーに詳しい人々には常識的なことであった。再生可能エネルギーは化石燃料や原子力燃料に比べてエネルギー密度が薄いため、単位エネルギーを得るための資源投入や土地利用負荷は大きくならざるを得ず、環境に必ずしも優しくない。また大抵は高価であり出力も安定しないから、化石燃料の助けが必要になる。

 ただこのことが、マイケル・ムーアという最もリベラルと思われていた人物から、ショッキングな映像手法によって問題提起された、ということで話題になっている。

 筆者としては、この動画の内容について、一面的で、賛成できないことも多々ある。再生可能エネルギーに環境影響があるのは確かだが、大事なのはリスクや便益の冷静な比較である。その結果として再生可能エネルギーが採用されることもあれば、そうでないこともあろう。だが、そのようなバランス感覚は全く欠落している。この動画のような「悪影響があるからダメ」という発想では、どのように現代社会にエネルギーを供給したらよいのか、解が無くなる。

 結論として、マイケル・ムーアは、再生可能エネルギーは化石燃料と何ら変わらず、資本主義に乗っ取られていて、環境を破壊するばかりであり、持続可能ではない、とする。そして解決策として、ライフスタイルを見直して大量生産・大量消費を止めねばならない、と言っている。だがこれは綺麗ごとを言っているにすぎず、具体性は感じられない。

 マイケル・ムーアが理解していないこととして、技術進歩で生産性を高めることで、経済成長と環境保全を両立してきた、という人類の歴史がある。人類は、石油で化学肥料や農薬を作り、また石油を動力に機械化して、農業の生産性を飛躍的に高めた。これで土地利用圧力は下がり、世界の森林はすでにかなり回復した。もちろんその過程で、局所的には環境影響が出る場合がある。けれども、大局をみて、世界の人々が全体として幸せになる方法を考えねばならない。経済成長と技術進歩こそがその鍵であり、「反経済成長」「反資本主義」は人類を不幸にするだけであろう。


注1) YouTubeの字幕設定を「オン」にし、英語に切り替えて下さい。


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