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2019.10.24

共和党支持者は温暖化脅威論を否定している

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2019年10月7日)

  • 杉山 大志
  • 研究主幹
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境
 「地球温暖化が脅威であり直ちに大規模なCO2削減が必要」とする「温暖化脅威論」は、日本の政治では支配的だ。しかし米国は全く異なり、温暖化脅威論と、それを否定する「温暖化懐疑論」のバランスが拮抗している。この理由は、(1) 温暖化が党派的な問題であり、共和党支持者は温暖化懐疑論であること、(2)米国では既存の権威や学説に挑戦する科学的態度が尊重されること、(3) メディアが(1)(2)を反映してバランスが拮抗した報道をしていること、の3つによる。
 

1.地球温暖化は最も「党派的な」問題

 図1は米国の著名な調査機関ピューリサーチセンターによるアンケート結果で、各項目が米国の福祉にとって重要な脅威であるかどうかを聞いている(方法論についてはリンク先を参照)。

 注目されるのは、気候変動(global climate change)については、民主党支持者の84%が重要な脅威と答えている一方で、共和党では僅か27%に留まることである。米国政治は党派で大きく分かれていることはよく知られているが、それでも、他の問題ではここまで開きが無い。気候変動こそが、もっとも党派間で意見が対立する問題となっている。


sugiyama191007_01.png

図1 ビューリサーチセンターによるアンケート結果

https://www.people-press.org/2019/07/30/climate-change-and-russia-are-partisan-flashpoints-in-publics-views-of-global-threats/



2. 科学者の力

 日本では温暖化脅威論が公式の場では支配的であり、これを否定するとバカ扱いされる傾向がある。しかし米国ではそうではない。共和党支持者がここまで脅威論を否定しているのは、決して科学に無知だからではなく、十分に知識を持った上で否定していると見るほうが妥当であろう。この違いは何によるか。

 米国では、脅威論を真っ向から否定し、議会で毎年証言をする科学者が多くいる。特に有名なのは、アラバマ大学ハンツビル校のジョン・クリスティである。彼はリモートセンシング等による地球規模の気温測定の第一人者であり、「UAH」の略号で知られる重要な気温データセットを40年に亘り構築し発表し続けてきた。その彼が2017年の議会証言で用いたのが図2である。

 図2を説明すると、
(1)赤線: IPCCで用いた気候モデルによる温暖化予測の平均。その周囲の細い線は様々なモデルによるもの。
(2)緑線: 気球による観測
(3)青線: リモートセンシングによる衛星観測
(4)紫線: (2)(3)および測候所での観測データを総合的に再分析した推計値
となっている注1)。

 この図を用いて、クリスティは、過去の温暖化は予想されたほど起きず、気候モデルは何れも大外れであったと論じた。

 この内容について詳しく論じることは他の機会に譲る注2)。今ここで指摘したいことは、日本の議会・政府・大手メディアで、このような意見をきちんと聞いているか? このような図を見たことがあるか? 理解しているか? ということである。行政官も政治家も国民も、このような筋金入りの研究者が正面切って論じている、温暖化脅威論への強力な反対意見を殆ど知らないのではなかろうか。


sugiyama191007_02.png

図2 ジョン・クリスティが米国議会証言で用いた図

Testimony given by four prominent climate scientists to a hearing of the Committee on Science, Space and Technology of the US House of Representatives on 29 March 2017. M

https://www.thegwpf.org/content/uploads/2017/03/Climate-Science-March20171.pdf



3. メディアの力

 科学雑誌のネイチャーに最近載った論文で、「温暖化脅威論」と、それを否定する「温暖化懐疑論」で報道件数を比較したものがあった注3) 。なお念のために言っておくと、ここで懐疑論というのは、地球温暖化を全否定するのではなく、「地球温暖化が脅威であり直ちに大規模なCO2削減が必要(例えば、X市は2050年までにゼロエミッションにする)」といった命題を否定するものである。

ネイチャー論文の結果は以下の通り:


(1)科学論文の件数は「脅威論」が圧倒的に多数
(2)科学論文の被引用件数も「脅威論」が圧倒的に多数
(3)しかしながら、メディア報道の件数は拮抗しており、むしろ「懐疑論」の方がやや多い

 この結果を受けて、このネイチャー論文の著者は「脅威論が負けているのは危険な状況だから、脅威論者はメディアにもっと出る努力をすべし」と結論している。

 しかし筆者は、むしろ別のことを読み取った。科学論文については、「脅威論」には各国の行政機関や国際機関がスポンサーとなって沢山お金を出しているから、「脅威論」が多い状況にある。この状況にも拘わらず、メディアにおいては両者が拮抗しているというのは、驚きである。メディアも米国では民主党系と共和党系と分かれているから、おそらく共和党系のメディアが受け皿となって、懐疑論を報じているものと推察される。そして一般の人々はバランス感覚を持っており、脅威論だけではなく、懐疑論にも耳を傾けているのではないか。



4. むすび: 米国の強さ

 日本の論壇では「温暖化脅威論」が支配的である。しかし、科学的な中身が分かってそう論じている人は稀であろう。殆どの人は、それが権威であり、政府見解であり、それに従う方が政治的に正しいから、そうしているに過ぎない。日本は、寄らば大樹の陰、長いものには巻かれろ、という国である。

 これに対して米国では、特に科学者がそうだが、既存の権威や理論に挑戦する人こそが尊敬される、という気風がある。もちろん、権威主義も陰湿な嫌がらせもあるけれども、日本には無い良さがあり、これは米国の強さの源泉でもある。

 そして温暖化問題の場合は、共和党という政治的受け皿もあることが、懐疑論の科学者やメディアの挑戦を支えている。党派対立というと悪いイメージが多いけれども、こと温暖化問題に限って言えば、他の国よりもバランスの取れた議論が公式の場で行われているようだ。




注1)なお温度は何れも地上ではなく上空(対流圏中部)のものである。

注2)http://ieei.or.jp/2019/10/opinion191004/

注3)Petersen, A. M., Vincent, E. M., & Westerling, A. L. (2019). Discrepancy in scientific authority and media visibility of climate change scientists and contrarians. Nature Communications, 10(1), 3502. https://doi.org/10.1038/s41467-019-09959-4

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