本文へスキップ

2019.10.02

FITがイノベーションの邪魔をする

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2019年9月18日)

  • 杉山 大志
  • 研究主幹
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境
 再生可能エネルギー全量買取り制度(FIT)による既存技術(多結晶シリコン太陽電池)への補助は、ペロブスカイト太陽電池等、次世代の太陽電池のイノベーションの邪魔をする。既に普及段階にある多結晶シリコン太陽電池への補助は打ち切るべきだ。一般的に言って、既存の技術を支援するということは、それがどのような制度であれ、新規の技術のイノベーションのためには有害な可能性が高い。いま政府が進めている「FITの抜本的見直し」は、既存技術への「ロック・イン」を回避し、新規技術を育てる制度設計としなければならない。


1. ペロブスカイト太陽電池への期待

Sugiyama190922.pngのサムネイル画像

 一口に太陽光発電といっても、様々なタイプがある。現在、世界的に普及しているのは、多結晶シリコンを使用したものである。これは既に量産技術となっており、生産量の殆どは中国が占めていて、日本はそれを輸入しているのが現状だ。

 ところで太陽電池には様々な方式がある。その中で、いま脚光を浴びているのが、ペロブスカイト太陽電池である。

 ペロブスカイトというのは分子構造の名称で、図の様なものだ。このM,O,Rに様々な分子が入ることで新しい物質が生まれる。ペロブスカイト太陽電池にも様々あるが、基本形としては、Mの場所に鉛(Pb)が入り、Oの場所はヨウ素(I)または臭素(Br)が、Rの場所にNH3CH3が入る。

 このペロブスカイト太陽電池は、高効率、軽量、フィルム状でフレキシブル、製造エネルギーが少ない、といったあらゆる望ましい性質を備えつつある。かつ、材料費、製造費、設置費の全てが安価になって、シリコン系の太陽電池を凌駕すると期待されている(注1) 。


2. FITの抜本見直しのあり方

 さて現在、日本政府はFITの「抜本的見直し」を進めている。見直す理由は、従来のFITでは、賦課金等の費用負担が非常に大きくなり、かつ、太陽光発電の価格の高止まりを招いてきたためだ。(注2)、(注3)

 ただし、これまでの議論を見ていると、何等かの形で「既存技術である多結晶シリコン太陽電池を補助し続ける」という基本スタンスは変わりそうにない。このことに、筆者は危惧を感じる。既存の技術を支援するということは、それがどのような制度であれ、新規の技術のイノベーションのためには有害な可能性が高いからだ。

 例を挙げてみよう。開発途上国では、貧困者への配慮からガソリンに補助金を出している場合が多い。けれども、これはもちろん、ハイブリッド自動車などの省エネ技術や、電気自動車の普及への妨げとなる。

 じつはこれと同様なことが、再エネ技術同士でも起きる。既存の多結晶シリコン太陽電池の普及を促進することは、ペロブスカイト太陽電池にとっての魅力ある市場を奪い、イノベーションの妨げとなる。

 いま、太陽光発電の普及の制約要因としては、電力系統の制約があり、立地場所の制約がある。立地制約には、屋根や空き地といった設置スペースの制約に加えて、景観破壊や森林破壊などの環境問題も関係する。

 多結晶シリコン太陽電池は、急激に普及してきたものの、太陽光発電が世界の電力供給に占める割合は未だ2.6%に過ぎず、エネルギー供給に占める割合では1%に満たない注4) 。太陽光発電は、未だその黎明期にあるのだ。本当に世界のエネルギー供給において主力となる太陽光発電技術が、多結晶シリコン太陽電池であるという保障は全くない。

 太陽光発電全体を考えるならば、多結晶シリコン太陽電池を急いで大量に導入するよりも、やらなければならないことがある。第1に、電力系統の制約に対処することで、これにはバッテリー等の技術開発を進める必要がある。第2に、立地制約に対しては、土地を多く利用する現状の太陽電池ではなく、効率が良くて場所を取らず、多様な形に加工出来て、他の建造物と一体化した施工がやり易い、といった特徴を有する太陽電池が望ましい。ペロブスカイト太陽電池はまさにこの性質を備える有力候補である。

 多結晶シリコン太陽電池の大量導入を続けることは、系統制約や立地制約のある中で、条件のよい太陽光発電案件のポテンシャルを食い尽くしてしまうことになる。多結晶シリコン太陽電池によって、やりやすい立地場所が占められてしまい、あるいは、電力の系統制約の限界に達してしまえば、ペロブスカイト太陽電池の性能が向上しても、その普及は困難になる。

 再び例えるならば、ブラウン管テレビが全盛で、液晶型のフラットディスプレイが黎明期だった20年前に、「高効率ブラウン管テレビ」を政府の補助金で大量導入していたならば、何が起きたであろうか。補助金が無駄になるのみならず、液晶型のフラットディスプレイの導入は遅れ、イノベーションは進まなかったであろう。

 以上の検討から、既存の多結晶シリコン太陽光発電については、その普及策を停止ないし大幅に縮小すべきだ。それに変えて、ペロブスカイト太陽電池を初めとして、多様な太陽光発電技術の技術開発を支援すべきだ。これに加えて、更に、バッテリー等、電力系統制約を除くための技術開発を支援すべきだ。

 産業政策としても、多結晶シリコン太陽電池はすでに中国で量産されている段階であり、日本企業は太刀打ちできない。これに対して、ペロブスカイト太陽電池は、技術開発に多くの日本の研究機関・企業が関わっており、これから日本の産業として育つ可能性がある。日本は材料設計の研究開発、製造技術の開発、製造設備の開発などにおいて、優れた産業基盤があり、これから世界を席捲する可能性がおおいにある。

 本稿で述べてきたことは、決してぺロブスカイト太陽電池のみに留まるものではない。重要なことは、①太陽電池は様々な材料によって製造されうること、②その性能は飛躍的に向上する可能性があること、そして、③材料研究は急速に進歩することである。

 これには計算機能力が向上して原子サイズのシミュレーションが出来るようになったこと、またナノテクノロジーと呼ばれる微細な物理現象の理解や加工技術が発達したことが効いている。ぺロブスカイト太陽電池もこれらの技術の蓄積をフル活用して生まれてきた。そしてこれからも、続々と新しい太陽電池が考案され、開発されてゆくだろう。このイノベーションの躍動の波をどのように育てるか、このことこそが、未だ黎明期にある太陽電池技術の支援政策において、もっとも肝要な点である。


注1)ペロブスカイト太陽電池の分かり易い解説として、松本真由美、次世代の革新的太陽電池の可能性
https://www.sankei.com/premium/news/190902/prm1909020004-n1.html

注2)「抜本的見直し」の解説として、例えば、松本真由美 FIT制度の抜本見直しに向けて: 国際エネルギー機関の論客が語る日本への提言
http://ieei.or.jp/2019/08/special201310_01_069/

注3)太陽光発電価格の高止まりについての分析は、例えば:日本の太陽光発電の発電コスト:現状と将来推計、木村啓二、日本自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/Report_SolarCost_201907.pdf

日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較 ~日本の太陽光発電はなぜ高いか~木村啓二、日本自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/images/pdf/20160113/JREF_Japan_Germany_solarpower_costcomparison.pdf

注4)発電量のデータは2018年のもの。国際エネルギー機関・太陽光発電システム研究協力プログラム(IEA PVPS)報告書 世界の太陽光発電市場の導入量速報値に関する報告書 (第7版、2019年4月発行)(翻訳版) IEA PVPS報告書 T1-35: 2019 p15
https://www.nedo.go.jp/content/100785821.pdf

杉山 大志 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

杉山 大志 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

資源・エネルギー、環境 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる