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2019.02.05

【人類世の地球環境】分解して分かるCO2削減の政策

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2019年1月号に掲載

  • 杉山 大志
  • 研究主幹
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 どうしたらCO2は減らせるか?

 とりあえず分解してみよう! 風力発電機は、様々な部品からできている。一番目に付くのは、巨大なブレード(羽根)だ。

 ブレードは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でできている。炭素繊維は、炭素原子を含む繊維を高温で焼成して作る。これをプラスチックに混ぜると、硬くて軽いCFRPになる。

 昔は羽根をガラス繊維強化プラスチック(GFRP)で作った。しかし、大型化に伴い重くなり、また撓みも問題になった。2000年頃に、羽根の長さが40mを超えるあたりから、CFRPが使われて問題が解決した。これでさらなる大型化ができて、風力発電のコストは以前よりかなり下がった。まさにCFRPの賜物だった。

 では、このCFRPはどこから来たのか? 始まりは、1970年代の釣り竿、ゴルフクラブ、テニスラケットだった。鮎釣りに使う長い竿は相当に重い。はじめは竹だったが、やがてGFRP、そしてCFRPになった。今では10mもある竿でも結構軽い。ゴルフクラブは、昔は文字通りウッド(木)にアイアン(鉄)だったが、いまはすっかりCFRPになった。昔のウッドは芯が狭くてなかなか真っ直ぐ飛ばなかったが、今ではだいぶ簡単になった。テニスラケットも、木製、鉄製、GFRP、そしてCFRPになり、力がない人でも楽にラケットが振れるようになった。

 スポーツの後、80年代からは飛行機用途になった。CFRPで飛行機は軽くなり、燃料費を節約できた。CFRPの比率は上がり続け、最近の旅客機は、部品の半分がCFRPになっている。自動車も、まずはレーシングカーが、次いで最近ではあらゆる車でCFRPが多用されつつある。

 次は太陽電池を分解しよう。今一番使われているのは多結晶シリコン方式である。

 これはシリコンを薄く切り、厚さ200ミクロン程度のウエハにするところから始まる。これにドーピングをして四角く切り出し、電極を付け、ガラス・封止材・バックシート(湿気を防止する機能性フィルム)を重ねて、熱をかけてラミネート加工して作る。

 太陽電池自体は米国の宇宙開発に起源があるが、現在の製造技術はいずれも太陽光以外の目的で発達した。シリコンを薄く切る技術はワイヤーソーであり、これは細い針金(ワイヤー)による鋸(ソー)でウエハを切り出すもので、半導体製造のための技術として発達した。ドーピングと切断加工も、もちろん半導体製造技術だった。電極を付け、カバーに収納して隙間なく封止材を入れるという技術は、半導体でもフラットディスプレイ製造でも、無数の方法が提案され利用された。高機能なフィルムの製造技術は、フラットディスプレイ用途や二次電池セパレータ用途として発達した。

 こうしてみると、風力発電にせよ、太陽光発電にせよ、部品・材料やその製造技術には、他の分野で発達したものが転用されている。もちろん、転用といってもそのまま使うのではなく、新しい用途に合わせて改良し、コストダウンする技術開発が盛んに行われてきた。

 さてそれで、CO2の削減策は?

 風力発電も太陽光発電も、分解してみると様々な用途で培われた技術でできている。CFRPはスポーツと飛行機用途が先行して、後に風力発電機に使われた。半導体・フラットディスプレイ・二次電池は、ノートパソコンなどで製造技術が発達し、それが太陽電池製造にも活用された。

 一見、CO2削減とはまったく異なるが、魅力ある市場を目指して企業が活躍し、技術が発達する。やがて期が熟すると、これがCO2削減技術にもつながっていくということだ。

 では、政府の役割は何か。

 1つには、民間企業だけでは難しい技術開発があれば、それを支援することがある。例えば日本政府は、ワイヤーソーの性能向上やコストダウン等、要素技術をさらに改善するための基礎的な技術開発を支援している。

 もう1つ、大事な政府の役割は、一見温暖化とはまったく関係ない企業活動であっても、それが活発にできるよう事業環境を整えることである。これにより、多様な部品・材料が開発され、製造技術も発達する。その中から、CO2削減という新たな技術開発課題にも挑戦する事業者・技術者が育つ。

 環境問題というと、とかく企業活動を制約することになりがちだが、それでは問題は解決しない。むしろ逆に、企業を活発に活動させることこそが、革新的なCO2削減技術に結び付く。

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