外交・安保カレンダー(5月25日-31日)

 新型コロナ緊急事態宣言が全面解除された。このタイミングでの解除が正しかったかは、2週間後に明らかになる。経済状況を考えれば、選択肢はこれしかないのだろう。過去2カ月間テレワークが染み付いた筆者に今の生活を大きく変える元気はない。ワクチンも、治療薬もない以上、勇んで盛り場に出ていく気にもならない。

 今も世界では感染者と死亡者が増え続けているが、日本のコロナ対策は、他の先進国に比べても、それなりの結果を出している。世界はその真の理由を知りたがっているのではないか。それには今しばらく調査と研究が必要だろう。もし、その理由が日本限定でない普遍的なものであれば、日本が世界に大きく貢献できるチャンスだ。

 一方、筆者が今週最も気になったのは香港情勢。遂に香港にmoment of truthが来たようだ。中国政府は中国本土の国家安全法を香港にも適用する方針を固めた、と報じられているが、報道内容は必ずしも正確ではない。基本的には中国国内法の対香港適用問題だが、調べてみると、これが意外に複雑なのだ。

 報道によれば、同法の適用で香港でのデモ集会の自由は「大幅に制限される」というが、本当だろうか。まずは法的に1994年に合意された香港返還のための中英共同宣言(Joint Declaration)の背景を論じるべきだと思うが、今のメディアにそうした論評は見当たらない。されば、ここで最小限の法的事実関係をまとめることにしよう。

 現時点で入手可能な資料に基づきザクっと言えば、
●中英共同宣言で、香港特別行政区は「外交と防衛を除き、高度の自治を享受」し、「治安(public order)に責任を有する」とされている。
●香港基本法は、18条で「外交・防衛関連を除き、中華人民共和国の国法は香港には適用されず、適用される具体的国法は付属書3に示される」としつつ、23条で「特別行政区が(国家安全に関する)法案を自ら制定しなければならない」と定めている。
●また基本法は、香港に中国のどの国法が適用されるかを決める解釈権限は「全国人代表大会の常務委員会が有する」とも定めている。

 以上を素直に読めば、基本法により香港は「国家安全法」を制定する法的義務はあるが、実際には未だ制定されていない。というか、これまで中国の再三の求めにも拘わらず、香港が事実上制定を拒んでいると見るのが実態に近い。勿論、香港の現状ではこのような法律を香港が「自ら制定する」可能性は限りなく低いだろう。

 そこで中国は、基本法18条の規定を、筆者の見るところ「拡大解釈」し、全人代の権限で23条が定める法律を制定し、それを直接付属書3に書き込むことを考えているのではなかろうか。中国の現行「国家安全法」を付属書3にそのまま書き込むのか、それとも香港用に別途「香港版国家安全法」を制定して書き込むのかは分からない。

 しかし、それは法的に見て無理だ、と香港や英国の法律家は反論するだろう。国家安全法は外交関連でも防衛関連でもない。されば、それは基本法18条と23条が想定するような中国の国法には該当しない。そのことは中英共同宣言の趣旨から見ても明らかであり、中国にそのような法律を制定する権利はない、ということだろう。

 それでも、中国は怯まない。この中英合意は既に効力を失ったと解釈しているからだ。中国に政治的妥協の余地はなく、譲歩する可能性はゼロ。されば、中国政府が事実上香港の治安維持に直接介入するのだから、香港での高度な自治を認めた「一国二制度」の形骸化は一層加速する。少なくとも、その懸念は一層高まるということだ。

 こうした中国のコロナ隠蔽→米国の対中批判→英国の5G用Huawei機器締出策検討→国家安全法の香港適用→米国の対中追加制裁の示唆・・・という一連の流れを見ると、米中間の、いや中国と西側との間の、対立激化は今や「売り言葉に買い言葉」の喧嘩となりつつある。当面収まる可能性はないだろう。

 しかも、トランプ政権が大統領選挙を念頭に中国共産党のコロナウイルス対応を厳しく批判するだろうし、これには中国も黙っていまい。米国のNSC補佐官は対中追加制裁として「香港に対する特別待遇の廃止」までも示唆しており、このままでは米中関係は「口喧嘩」では済まなくなるかもしれない。

 筆者の専門ではないが、仮に香港が米国ビザの免除その他の優遇措置を享受できる今の特別な地位を失えば、香港の価値は急落する可能性がある。大混乱の中で対中投資減少の恐れがあるだけでなく、香港で営業する米国企業・金融機関だって大打撃を受けるはずなのだから。全人代の動きには今後とも要注意だろう。

〇アジア
 韓国で慰安婦支援団体の活動を批判した元慰安婦の女性が再び記者会見し、同団体の前代表を改めて批判したそうだ。その前代表とは与党「共に民主党」から当選した次期国会議員だが、その人物を巡る不正疑惑があるというのだから恐れ入る。しかし、ここは韓国の民主主義を見守ろう。不用意なことを言えば逆効果になる。

〇欧州・ロシア
 欧州の夏のバカンス準備が本格化し始めた。スペイン政府観光局は7月から日本人を含む外国人観光客の受け入れを再開するという。旅行業界の関係者の方々には大変申し訳ないが、バカンスであれ、国際会議であれ、今年の夏、欧州に行く気にはなれない。理由は言わずもがな、だろう。

〇中東
 アフガニスタンでターリバーンがラマダン(断食)月明けイード休み3日間を休戦としたのを受け、同国大統領はターリバーン戦闘員捕虜を最大2,000人解放すると発表した。これって出来レースなのか、それともボタンの掛け違いなのか。いずれにせよ、米軍の関心は中東からアジアへ、大統領の関心だけは大統領選挙のままということか。

〇南北アメリカ
 このところ事実上の民主党大統領候補バイデン前副大統領の露出が減っている。大規模な集会もできず、ウェブ集会を企画したらこれが大失敗で逆効果、挙句の果てに人種差別的失言も重なり、勢いがないのだ。恐らく秋の大統領選は、バイデンが勝つか負けるかではなく、トランプが信任されるか否か、をめぐる醜い争いになるだろう。

〇インド亜大陸
 相変わらずのロックダウンで特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


11日-29日 国連子どもの権利委員会 第84回会合(ジュネーブ)
25日 メモリアルデー(ニューヨーク市場は全て休場)
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日-26日 EU農水相理事会
25日-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25日-29日 アフリカ開発銀行総会(アビジャン)
25日-7月10日 ジュネーブ軍縮会議(CD)第2部(ジュネーブ)
26日 EU一般問題理事会(結束)(ブリュッセル)
26日 メキシコ第1四半期GDP発表
27日 メキシコ4月雇用統計発表
27日 ロシア1-3月貿易統計発表
27日 米・ベージュブック(FRB)
27日 中国・全国政治協商会議閉幕(北京)
28日 ロシア4月雇用統計発表
28日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
28日 米国第1四半期GDP発表(改定値)
28日 EU競争担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
28日 中国・全国人民代表大会閉幕(北京)
28日 ファルコン9(Space X社 有人型ドラゴンデモミッション2)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
28日-29日 EU米国サミット(ドゥブロヴニク)
28日-29日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
28日-30日 World conference on Women's studies 2020(コロンボ)
29日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
29日 CIS首相会議(ウズベキスタン・タシケント)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
29日 米国・4月PCE(商務省)
30日 エレクトロン("Don't Stop Me Now" ANDESITE, NRO)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
31日 中国・5月PMI(国家統計局)
31日 インド2019年度GDP暫定推計値発表
31日 ニウエ議会選


【来週の予定】
1日 チリ大統領教書発表(バルパライソ)
1日-2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
2日WTO一般理事会(ジュネーブ)
2日 大統領予備選挙(デラウェア、ワシントンDC、インディアナ、メリーランド、モンタナ、ニューメキシコ、ペンシルベニア州、ロードアイランド、サウスダコタ州)
3日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
3日 EU4月失業率発表
3日-4日 イノブフェスト・アンバウンド2020(シンガポール)
3日-4日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
4日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)
4日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4日 米国4月貿易統計発表
4日 天安門事件から31年
5日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)
5日 米国5月雇用統計発表
5日 ロシア5月CPI発表
5日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
5日 セントクリストファー・ネイビス国民議会選
6日 民主党党員集会(米領バージン諸島)
7日 中国5月貿易統計発表
7日 共和党大統領予備選挙(プエルトリコ)
7日 メキシコ・コアウィラ州議会選挙、イダルゴ州議会選挙
7日-18日 第109回国際労働機関(ILO)総会


(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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