デュポン・サークル便り(5月8日)

 日本では緊急事態宣言が5月末まで延長されました。7日夜には外交評論家の岡本行夫さんがコロナウイルスで先月末に亡くなっていたことが報じられ、当地では私も含め多くの人の間で衝撃が走りました。謹んでご冥福をお祈りします。

 こちらアメリカでは4月30日に、連邦政府が出していたソーシャル・ディスタンシングなどのガイドラインが、大きな注目も集めないまま失効しました。それからというものトランプ政権のコロナ対策の軸足は、段階的規制緩和に向けた「オープニング・アップ・アメリカ・アゲイン」という新たなガイドラインに移りましたが、トランプ大統領の支離滅裂ぶりは相変わらずです。火曜日にホワイトハウスのコロナウイルス対策タスクフォースの活動を徐々に停止する、と突然発表したかと思えば、その24時間後には前言を撤回、「あの発表後にいろいろな人の声を聞いて考えを変えた」としてタスクフォースを「無期限で」継続すると述べる始末です。4月28日に米国疾病予防管理センター(CDC)はタスクフォースの求めに応じ、経済活動再開にあたっての指針として、公衆衛生の観点からどのように規制を解除していくかについて全17ページの報告書を作成しました。ところが、今日7日にはトランプ政権にCDCの指針内容を実施する意向がほとんどないことが明らかになったと報じられています。

 こうした連邦政府の動きに合わせて、全米の大多数の州でも、外出自粛令など種々の規制の段階的緩和に向けた動きが確実に進んでいます。私の住んでいるバージニア州では当初州知事が6月10日を期限とするstay-at-home orderを出していました。この知事命令の期限は全米の州でも突出して期間の長いものです。ところが、連邦政府のガイドラインが失効した翌日の5月1日には、病院で入院患者を受け入れる十分なスペースと、医師や看護婦、技師などが着用する医療用マスクや防護服などの準備態勢が整ったとして、elective surgery (緊急を要さない手術)の再開や、歯科医院の営業再開を発表しています。さらに、5月5日には、現行のstay-at-home order を5月15日をめどにsafer-at -home order(※)に置き換える意向であることを明らかにしています。お隣のメリーランド州では早くも、今週末には「付近の住民対象」という規制は残しつつも、オーシャン・シティというビーチタウンを再オープンすると発表されています。今後は各州とも、いかに感染再爆発を防ぎつつ経済活動を緩やかに再開させるかに政策の軸足を移していくことになるのでしょう。

※小売店や飲食業、美容院、ネイルサロン、床屋やジムなどの営業再開にあたっての規制は維持し、高齢者や呼吸器官に疾患を抱えるなどコロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクが高いグループには引き続き外出規制を求める一方で、それ以外の住民に対しては ソーシャル・ディスタンシングの維持を前提に緩やかに外出自粛規制を緩和する

 でも、今週は暗いニュースばかりではありません。連邦食品医薬品局(FDA)が医薬品会社のモデルナ社が開発中のコロナウイルス用ワクチンの実験段階を進める許可を出したという、ちょっと明るいニュースもありました。

 アメリカを含め世界ではまだまだコロナウイルス関連が断然トップニュースですが、今週は米国内政で重要な出来事がありました。5月7日に司法省がマイケル・フリン元国家安全保障担当大統領補佐官の起訴取り下げを決定したのです。フリン元補佐官は、2016年大統領選挙中のロシアの情報操作、特にヒラリー・クリントン候補に不利な情報の拡散をトランプ大統領がどこまで知っていたのかという疑惑の関係で、FBI捜査官に対し過去のロシア政府との接触について虚偽の証言をした罪で2017年に起訴されていました。同元補佐官は2017年12月に一旦有罪を認めましたが、2019年になって突如立場を180度方向転換、有罪を認めた自分の当初の判断を撤回しました。今回の司法省の決定は、司法省たたき上げの検事ではなく、新たにトランプ政権に任命され、ワシントンDCの地方検事代行に今年1月31日に就任するまでウイリアム・バー司法長官の上級顧問を務めていたティモシー・シェイ氏の署名により出されています。しかも、この発表が司法省から出される直前に、フリン元補佐官に有罪を認めさせた検事が辞任するというおまけつきでした。

 コロナウイルスであまり注目を集めていませんが、この件、11月の大統領・議会選挙で上院も民主党が多数党となれば、再度大きな注目を集める可能性大です。本件は今から頭の隅に留めておきたいと思います。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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