外交・安保カレンダー(3月16日-22日)

 「状況は悪く(bad)、制御されていない・・・事態は8月、7月またはそれ以降も続くかもしれない・・」ええっ、一瞬筆者は耳を疑った。3月16日、ドナルド・トランプ氏が、米国での感染発生後初めて、常識的かつ悲観的ではあるが、「有事の大統領」らしく、事実に基づいた厳しい現状分析を、神妙な面持ちで、ようやく口にしたからだ。

 13日に国家非常事態宣言を出したものの、15日までのトランプ氏は「(ウイルスは)素晴らしく制御されている」などと嘯いていたのに。これまでの楽観的というか、衝動的で、何の根拠もない、大統領選挙のためだけの、政治プロパガンダを繰り返すトランプ氏は消えた。「勢いと偶然と判断ミス」のトランプ政治は当面封印されるだろう。

 NY株式が再び暴落した3月16日は歴史的潮目として記憶されるかもしれない。直近の市民生活や世界経済の行方だけでなく、本年後半に予定される東京オリンピック・パラリンピックから11月の大統領選挙まで、多くの政治、経済、社会的イベントの行方を暗示していると思うからだ。政治家トランプ氏にとっては文字通り正念場だ。

 トランプ氏に言われなくても、新たなパンデミックは既に深刻だ。仏独伊西など西欧先進国が感染の新たな震源地となり、全世界で入国制限が始まった。しかも、本来の震源地である中国は各国に医療支援を申し出ているという・・・。一ヵ月前なら想像もしなかったことが今や現実となりつつある。遂に中国の反撃が始まったのだ。

 3月12日、中国外交部の報道官は英文でこうツイートした。"When did patient zero begin in US? How many people are infected? What are the names of the hospitals? It might be US army who brought the epidemic to Wuhan. Be transparent! Make public your data! US owe us an explanation!"

 要するに、「武漢にウイルスをもたらしたのは米陸軍かもしれない。アメリカよ、透明性はどうなったのだ?持っている情報を公表せよ。アメリカは中国に説明する義務がある」などと喧嘩を売ったのだ。それにしてもこの報道官、良い度胸ではないか。天下の米国に「ウイルスは米国製で中国は犠牲者かもしれない」と吠えているのだから。

 早速米国務省は東アジア太平洋担当次官補が中国大使を呼びつけ厳重に抗議するとともに、この種の中国による「米国陰謀論」は極めて無責任であり、受け入れられないと反論した。だが、こうした中国のやり方は別に目新しくない。2002年の筆者個人の経験を今週のJapanTimesに書いたので、お時間があればご一読願いたい。

 先週日本では、ウイルス感染拡大に伴い、新型コロナウイルス対策に関する特別措置法が改正された。同法により内閣総理大臣が「緊急事態宣言」をすれば、知事による外出自粛や学校休校などの要請・指示も可能となる。「あれあれ、日本ではまだ非常事態宣言すらできなかったのか」とは思うが、無いよりは遥かにマシだろう。

 新型ウイルスをめぐる日米両国政府の対応振りを比べてみると、私権制限などの強制措置を含め、様々な緊急事態に対応できる包括的制度が日本にはないことに改めて驚愕する。1945年以来、日本は何をしてきたのか。平和国家の名の下に、過去七十余年、本来なら当然片付けておくべき多くの宿題を放置してきたのではないか。

〇アジア
 新型ウイルスは、中国で感染例が減少し始めた。韓国大統領も感染拡大防止に自信を深めている。同国の検査体制が米国で高く評価されたからだろうか。これに対し、日本ではまだ感染者が増え続けている。感染検査例が増えれば、当然感染者数も増えるだろう。日本以外の状況を考えれば、東京オリパラはそもそも難しそうだが・・・。

〇欧州・ロシア
 先週のイタリアに続き、スペインやドイツでも感染対策が大幅に強化された。16日にはフランス大統領が17日正午から買い物・通勤を除き15日間、仏全土で外出を制限すると発表、違反者は処罰されるという。マクロン大統領の認識は、フランスがウイルスと戦争状態にあるということだ。極めて正しい判断である。
 このままでは欧州が中国以外では世界最大の感染地帯となるが、その理由は不明だ。イタリアの一部市民がCNNに対し、「イタリアの失敗を繰り返すな、我々はウイルスを過小評価していた」と述べたという。なるほど、「ミラノの中国人」だけが原因ではなかった。最大の原因は「極度の楽観主義と危機意識の欠如」だったのだろう。

〇中東
 このところ中東は異様なほど静かだが、イラン以外にも、あの地域で新型ウイルスに脆弱な国は少なくないはずだ。検査が行われないため実態が不明である可能性が高いが、大丈夫だろうか。これから気候が温暖になれば必ず中東難民の欧州流入が再開されるが、欧州の現状に鑑みれば、新たな悲劇が起きることを強く恐れる。
 シリアでは先週末から北西部イドリブ県でロシア軍とトルコ軍による共同パトロールが始まった。10日前の露土首脳会談で合意した停戦の監視が目的だが、停戦合意は破られるためにあるようなもので、解決は全く見通せない。これに失敗すれば、欧州への難民移動が再び始まる。EUのシェンゲン協定が崩壊しないと良いのだが。

〇南北アメリカ
3月15日に米大統領選民主党候補指名を争うバイデン前副大統領とサンダース上院議員の二人による初のテレビ討論会が行われたが、テレビ中継を見る限りでは、どちらかというと、バイデン候補に分があったように思う。また、バイデン氏は副大統領候補に女性を起用すると約束した。さて、一体誰になるのだろうか。
 欧州からの米国入国禁止に伴い米国に帰国した米国人が自国の空港で長蛇の列を作っている映像がCNNで流れたのには驚いた。米国よ、お前もか、ということだが、日本にとって決して対岸の火事ではない。ウイルス感染のピークは何度も来る可能性があるからだ。

〇インド亜大陸
 特記事項なしだが、インドの感染状況が気になるところだ。今週はこのくらいにしておこう。


2月24日-3月20日 国連人権理事会 第43回会合(ジュネーブ)
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
16日 中国1-2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日-17日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
16日-19日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
17日 米国2月小売売上高統計発表
17日 ロシア1-2月鉱工業生産指数発表
17日 民主党大統領予備選挙(フロリダ、イリノイ、オハイオ、アリゾナ州)
17日 共和党党員集会(北マリアナ諸島)
17日 賄賂罪などに問われたイスラエル首相の初公判
17日 ソユーズ2.1b(ロシア航法測位衛星GLONASS-M 760)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
17日-18日 米国FOMC(FRB)
17日-18日 ブラジル中銀、Copom
17日-19日 APEC財務相代理・中央銀行総裁代理級会合(クアラルンプール)
18日 EU 2月CPI発表
18日 米、EUからの航空機に対する関税を15%に引き上げ
18日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星6 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
18日-19日 G20農業相会合(サウジアラビア・リヤド)
18日-27日 カイロ国際見本市「CIF 2020」開催(エジプト・カイロ)
18日-4月24日 アフリカ経済委員会(ECA) 第53回会合(アディスアベバ)
19日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
19日 米・2019年10-12月期の経常収支(商務省)
19日 バヌアツ議会選
19日-21日 クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク)
20日 EU競争担当相理事会 非公式会合(域内市場・産業)(ザグレブ)
20日 ロシア1月貿易統計発表
20日 ロシア中央銀行理事会
20日-22日 ケニア国際トレードショー2020(ナイロビ)
22日 熊本県知事選
22日 ソユーズ2.1b(ワンウェブ衛星#3 34機 バイコヌールフライト #2)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)


<23-29日>
23日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
23日-24日 EU農水相理事会
23日-27日 Astra Rocket3.0(低軌道技術実証衛星or 電離層探査 NSLSAT1)打ち上げ(アラスカKodiac)
23日-4月3日 UNESCO執行理事会 第209回会合(パリ)
24日 EU一般問題理事会(結束)(ブリュッセル)
24日 ブラジル1月月間小売り調査発表
24日 ロシア2月雇用統計発表
24日 共和党党員集会(米領サモア)
24日 ヴェガ(小型宇宙機ミッションサービスの実証フライト等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
24日-27日 第24回ASEAN財務大臣会議(AFMM)(クアンニン)
25日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
26日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
26日 メキシコ2月雇用統計発表
26日 米国2019年第4四半期および2019年年間GDP発表(確定値)
26日 フォークランド諸島国民投票
26日-27日 欧州理事会(ブリュッセル)
27日 米・2月PCE物価指数(商務省)
27日 メキシコ2月貿易統計発表
27日 タジキスタン上院選挙
27日 エレクトロン("Don't Stop Me Now" ANDESITE, NRO)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
27日-28日 International Conference on Apparel Textiles and Fashion Design 2020(コロンボ)
27日-29日 Wyawasaya 2020(コロンボ)
29日 民主党大統領予備選挙(プエルトリコ)
29日 マリ国民議会選

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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