デュポン・サークル便り(3月6日)

 先週までは対岸の火事だったコロナウイルスの影響がジワジワとアメリカでも出てきました。これまで報告されてきた症例は、ワシントン州やニューヨーク州など、ワシントンからは遠い場所でしたが、いよいよ、今日(5日)になって、ワシントン近郊でも症例が報告という報道が出ました。3人の感染者が確認されたのはメリーランド州のモンゴメリー郡という、日本の外交官や駐在員も多く住んでいる地域です。まだ患者数がたった3人であるにも関わらず、メリーランド州は今日の午後、ラリー・ホーガン知事が早くも緊急事態宣言を出しました。私が住んでいるバージニア州でも緊急事態宣言が出るのは近いかもしれません。

 日本でも小中高校が3月一杯休校、学校の卒業式も中止、卒業式は実施しても謝恩会は中止、スーパーではマスクや消毒液はもちろん、日用品や食料も品薄に・・などの影響が出ていますが、アメリカでも少しずつ、身の回りに影響が出始めています。例えば、ワシントンのシンクタンクでは、コロナウイルス発祥の地である中国に先月時点で既に国務省の渡航禁止令に倣って出張禁止令が出ていました。さらにこの数週間で、国務省が出している渡航注意勧告レベル2と3の国、すなわち日本、韓国、イタリアへの出張も禁止する決定が次々と下されています。また、シンクタンクの活動の大きな部分を占める様々なセミナーも「順延」を強く奨励されており、特に、中国、韓国、日本、イタリアから登壇者を招聘してセミナーを開催することは原則、春一杯は禁止となってしまいました。私も、おかげで来週開催するはずだったセミナーや夕食会を数件、予定日の1週間前にキャンセルしなければならず、今週はその手続きで、てんやわんやでした。

 そんなコロナウイルスの対応以上に動きが激しかったのが今週の民主党大統領予備選挙です。コロナウイルス対応のためスティムソンセンターでのセミナー順延などの対応に忙殺されていた3月3日(火)、バージニア州、カリフォルニア州、テキサス州、マサチューセッツ州、アラバマ州など合計14州で予備選挙が行われました。この「スーパーチューズデー」では合計1,331人もの代議員をどの候補が獲得するかが注目されましたが、結果は事前予想を大きく覆すものとなりました。

 3月2日付のデュポン・サークル便りでは、2月29日に行われたサウスカロライナ州予備選で、それまで撤退寸前とすらいわれていたジョー・バイデン副大統領が圧勝し、息を吹き返したことをお伝えしました。そのサウスカロライナ州予備選後、民主党の中では大きな動きがありました。同州予備選終了後、米国政治史上初めて同性愛者であることを公言する大統領候補だったピート・ブディジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長が撤退を表明、さらにエイミー・クロウブシャー上院議員も撤退を表明したのです。二人は直ちにバイデン前副大統領への支持を明らかにしただけでなく、3月2日にはバイデン前副大統領の選挙集会に登場し、「トランプ大統領に本選で勝てるのはバイデン前副大統領!」と民主党支持者に訴え始めたのです。自らを「社会民主主義者」であると公言するバーニー・サンダース上院議員では、本選で勝てない-そんな危機感が、民主党の中で浸透し始めた証左でしょう。

 スーパーチューズデー前に注目されていた点は(1)サンダース上院議員が完全な独走態勢を確立できるほど圧勝できるか、(2)415人もの代議員を抱えるカリフォルニア州で優勢が伝えられていたサンダース議員が中西部や南部でどの程度票を伸ばすか、(3)サウスカロライナ州予備選勝利の勢いを得たジョー・バイデン前副大統領の票がどこまで伸びるか、の3点でした。特に、バイデン陣営は、アイオワ州、ニューハンプシャー州の初戦2戦で低迷したこともあって資金繰りが厳しく、選挙集会の開催やテレビ・ラジオ広告を行えたのはスーパーチューズデーの全14州の一部だけでした。例えば、マサチューセッツ州はエリザベス・ウォーレン大統領候補(上院議員)の地元でもあり、バイデン陣営はほとんど活動らしい活動をしませんでした。多くの専門家は、サウスカロライナ州予備選で息を吹き返したとはいえ、バイデン前副大統領がスーパーチューズデーで厳しい戦いを強いられる可能性は高いと考えていたのです。

 ところが、蓋を開けてみると、バイデン前副大統領は14州のうち10州で勝利を収める圧勝。しかも、50ポイント近い差をつけて大勝したアラバマ州を含め、南部諸州はすべてバイデン氏が勝利しています。この原稿を書いている時点では、カリフォルニア州の予備選の結果がまだ確定していないため、同州が抱える415人の代議員のうち、最終的に誰が何人獲得するのかは不明ですが、このカリフォルニア州を除いても、現在民主党予備選は、バイデン前副大統領が代議員522人を獲得し首位に立つという、先週までは誰も予想しなかった結果となりました。ちなみに、私が住むバージニア州も代議員を99人抱える、それなりに大きな州ですが、3日の予備選ではバイデン前副大統領が2位のサンダース議員に30ポイント以上の大差で圧勝しました。

 メディアはこの結果を「奇跡のカムバック」と報じ、バイデン前副大統領を、数々の政治的逆境から復活したクリントン元大統領のあだ名の一つである「カムバック・キッド」と呼びました。

 一方、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は、テレビ・ラジオ広告に巨額の自己資金をつぎ込んだ割には全く精彩を欠き、スーパーチューズデー終了直後に早くも大統領選からの撤退を表明しました。この決定により民主党大統領予備選は、早くも「バイデン VS サンダース」の一騎打ちになることがほぼ確実になりました。今後米国メディアは、民主党の主要政治家がこの二人のうちどちらを支持するかを競って取材するようになるでしょう。

 それにしても、まさか、バイデン前大統領が再び予備選で首位を争うようになるとは、私も予想していませんでした。2月29日のサウルカロラナイ州予備選のわずか2日間でこれだけ状況が変化することになるなんて、まさに政治は水物ですね。

 また、誰も予想しなかった驚きの選挙結果もさることながら、今回のスーパーチューズデーでは、「ジル・バイデン前副大統領夫人がすごい!」と話題になっています。3月3日の夜、複数の州で「勝利確実」予想が出た直後、ハプニングが起きました。大興奮の集会所で演説を始めたバイデン前副大統領に向かって突如ビーガン信奉者の一人が「乳製品にノーを!」なるプラカードを掲げ、壇上のバイデン一家に突進してきたのです。これを体を張って止めたのがジル・バイデン夫人で、その時の写真がツイッターなどで拡散したからです。アメリカン・フットボール選手並みの力強いブロックで夫である大統領候補の安全を守ったバイデン夫人に対しては、「ジル・バイデンを国防長官に」「NFLのスカウトの皆さん、良いディフェンス選手が必要でしたら、バイデン夫人をぜひ」といったツイートまで流れています。

 実は、私、バイデン前副大統領とジル夫人には、まだオバマ政権時代に別々の場所でそれぞれ一度ずつお会いしたことがあります。ジル夫人にお会いしたのは、退役軍人を支援する団体のレセプションでした。ノースリーブのワンピースを見事に着こなしていたジル夫人、小柄で華奢ではありますが、ぜい肉のほとんどない、いわゆる「細マッチョ」でした。ワンピースから見える二の腕も、筋肉の筋がパリっと走っていて、同じ女性ながら、ほれぼれしてしまったのを覚えています。今回の「ジル夫人、体を張って夫を守る」報道についても、とっさにそうした行動をとるなんてすごい!と思う一方、あれだけ筋肉質だったら、そりゃそうだろうな~、と妙に納得してしまいました。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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