外交・安保カレンダー(3月2日-8日)

 本日、ついに米国大統領選スーパーチューズデーを迎えた。その結果を見てから本稿を書くことも考えたが、大統領選については当研究所の辰巳由紀主任研究員による「デュポン・サークル便り」の方が詳しい。されば今回は、サウスカロライナ後、スーパーチューズデー前、という内政的に微妙な段階での筆者の見立てから始めよう。

 現状はこうだ。惨敗が続き一時は「ゾンビ」状態だった元副大統領のバイデン候補がサウスカロライナで予想通り?圧勝、何とか息を吹き返した。中道系のブティジェッジ候補とクラブシャー(女性)候補は撤退を宣言、バイデン支持に回るらしい。サンダース候補の躍進を止め、民主党の団結を目指すというが、果たしてどうか。

 44年前の1976年、筆者はミネソタ大学で大統領選挙を勉強していた。当時「purist候補が出る政党は敗北する」と教えられたことを懐かしく思い出す。puristとは純正主義者の意だが、今は原理主義者と訳した方が分かり易いだろう。1972年、ニクソン大統領に大敗したリベラル左派のマクガバン候補などがその典型である。

 民主党主流派はサンダース候補に「マクガバン」の悪夢を重ねる。サンダースがpuristであれば、指名獲得に失敗してもバイデン候補を支持しないから、民主党は割れる。割れれば、トランプ候補で団結している共和党には勝てない。ちなみに、ブルームバーグ候補はpuristではないが、彼も民主党の分裂要因であることは変わらない。

 要するに、サンダースとブルームバーグを何とか説得し、バイデンの下で大同団結するというのが民主党主流の夢。しかし、世の中そう簡単にはいかない。こうした膠着状態を劇的に変え得るのがスーパーチューズデーの結果だ。このような観点から、米国時間3月3日の予備選結果に注目して頂きたい。

 一方、米国国内では新型コロナウイルス感染者から二人目の死者が出た。二人とも西海岸ワシントン州だが、東海岸の首都ワシントン特別区でも危機感がようやく高まりつつあるようだ。今後は米国でも多数の感染者が出て、全米でミニパニックが始まるだろう。連日ペンス副大統領が記者会見しているが、トランプ氏よりは信頼できる。

 先週末までトランプ氏は、コロナウイルスの話を「トランプ政権を貶めようとする民主党側のペテン(hoax)」などと嘯いていたからだ。今回のウイルスは致死性が低い分、感染性が高いので、完全に封じ込めるのは難しい。されば、今週も日米で狂騒曲が続くだろう。筆者は今週米国出張を予定しているが、どうなることやら・・・。

 もうひとつ、筆者が今週気になったのは米国とターリバーン間のアフガニスタン和平合意だ。合意の詳細を読んだが、要するに、①アフガンを反米勢力に使わせない、②外国軍隊は撤退する、③国際監視団が監視する、④ターリバーンはアフガン国内休戦に向け交渉する、ということか。これってデジャヴュ(既視感)じゃないのか。

 1973年1月のベトナム和平パリ協定では、関係国が「ベトナムの独立・主権・統一性・領土を尊重する」が、北ベトナム軍ベトナム領域撤退の明確な規定はなく、2年後には北ベトナム軍が南進作戦を開始、翌年には南ベトナムが無条件降伏した。要するにベトナム和平とは、米国の勝利なき、保証なき、一方的撤退合意だったのだ。

 アフガン和平合意によれば、上記の4項目は全体がパッケージだそうだが、一度完全撤退すれば、米国はもう戻れない。ターリバーンは米軍完全撤退を待ってから、イスラム法に基づくアフガン全土支配に向け動きを加速させる。米国は負けてはいないが、勝利してもいない。そもそも、アフガンを支配できた外国などないのだから。

〇アジア
 北朝鮮がまたミサイルを発射した。今回は短距離のようだが、日本政府は「飛翔体」なる表現を止め、新たに「発射事案」と言い換え始めたそうだ。「危機感が感じられない」との批判に対応したものらしいが、危機感は発表振りではなく、具体的な行動で示すものだ。まだまだ、危機感は不十分である。
 習近平国家主席の訪日が揺れている。筆者は今も訪日自体は中国と実質的な政治協議を行う上で必要だと思っている。他方、今回のウイルス騒ぎで事務レベルの協議はほとんど進んでいない。されば、近い将来日中間で新たな政治文書をまとめるのは無理ではないか。やはり延期になるのだろう。

〇欧州・ロシア
 今の欧州はウイルス感染と中東からの難民再流入という内憂外患に直面している。難民については下記の通りだが、万一ウイルスが欧州で流行し、域内の人の移動制限に繋がるとすれば、EUの結束が再び問われることにもなりかねない。そんな中、英首相は反捕鯨活動家でもある若い交際相手と結婚するという。いい気なもんだ。

〇中東
 イランでコロナウイルス感染者が急増し、1500人を超えたそうだ。死者も66人だというが、これだって氷山の一角かもしれない。金曜礼拝も十分「密室内の濃厚接触」である。厳しい経済制裁下でイランが十分な衛生環境を維持することは容易ではなかろうが、これでイラン国民の反米感情が増々拡大することを恐れる。
 一方、トルコ軍とシリア政府軍の衝突は今も続いている。シリアの裏にはロシアがいることは明らかだ。ロシアは強かだが、シリア難民などの欧州側への流出を事実上黙認し、EU諸国に無言の圧力をかけているトルコも相当なものだ。今週のロシアとトルコの首脳会談の結果次第ではEUに再び大量の難民が流入するかもしれない。

〇南北アメリカ
 冒頭述べた通り、米大統領選は今週3月3日のスーパーチューズデーで一定の方向性が見えてくるかもしれないが、バイデン候補とサンダース候補が拮抗しても、ブルームバーグ候補が善戦しても、民主党にとって何一つ良いことはない。今週民主党は正念場を迎える。

〇インド亜大陸
 先週の米インド首脳会談は両首脳にとって実に美味しい「選挙キャンペーン」だった。CNNで見る限り、米国はインドとの連携アピールを優先し、貿易、関税、5Gなとの懸案は事実上先送りとなったが、トランプ氏にとってはこれで十分なのだろう。今週はこのくらいにしておこう。


2月17日-3月6日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第67回会合(ニューヨーク)
2月17日-3月6日 国際海底機構 第26回会合 part1(ナイロビ)
2月17日-3月13日 平和維持活動特別委員会及びワーキンググループ 実質会期(ニューヨーク)
2月24日-3月20日 国連人権理事会 第43回会合(ジュネーブ)
2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
2日 英EU自由貿易協定(FTA)交渉スタート(ブリュッセル)
2日 イスラエル総選挙
2日-3日 在京外交団を対象とした、千葉県及び福島県内のエネルギー関連施設の視察
2日-6日 子どもの権利委員会 第84回会合(サモア・アピア)
2日-6日 国連麻薬委員会 第63回会合(ウィーン)
2日-6日 香港インターナショナル・ダイアモンド・ジェムパールショー
2日-15日 ジュネーブ国際自動車ショー(一般公開は5日から)
2日-27日 国連総会 第五委員会 First part of the resumed session (ニューヨーク)
2日-27日 自由権規約人権委員会 第128回会合(ジュネーブ)
3日 EU1月失業率発表
3日 大統領予備選挙・スーパーチューズデー(アラバマ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、メーン、マサチューセッツ、ミネソタ、ノースカロライナ、オクラホマ、テネシー、テキサス、ユタ、バージニア州、バーモント州)
3日 民主党党員集会(米領サモア)
3日-4日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
3日-6日 ASEAN 高級実務者会議(ASEAN Senior Officials' Meeting )(SOM)(ダナン)
3日-6日 フード・アンド・ホテル・アジア2020年(シンガポール)
4日 ブラジル2019年第4四半期GDP発表
4日 ベージュブック(FRB)
4日-6日 EU外相理事会 非公式会合(ザグレブ)
4日-8日 香港インターナショナル・ジュエリー・ショー
5日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
5日 GSLV(GISAT1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
5日 筑波大生不明事件でチリ最高裁が容疑者引き渡しに関する審理開始
5日-6日 OPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会合(ウィーン)
5日-7日 中東フィルム・コミコン2020(UAE・ドバイ)
6日 米国1月貿易統計、2月雇用統計発表
6日 ロシア2月CPI発表
6日 日本アカデミー賞授賞式
7日 中国1-2月貿易統計発表(税関総署)
7日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン20号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
8日 米国が夏時間入り
8日-10日 スウェーデン・ローヴェン首相が南アフリカを訪問
8日-11日 第26回ASEAN経済大臣リトリートおよび関連会議(ダナン)


【来週の予定】
9日 メキシコ2月CPI発表
9日-10日 ジュヌ・アフリック主催「第8回アフリカCEOフォーラム」(コートジボワール・アビジャン)
9日-12日 欧州議会本会議(ストラスブール)
9日-13日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
10日 中国2月CPI発表、PPI発表
10日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
10日 EU第4四半期実質GDP成長率発表
10日 大統領予備選挙(アイダホ、ミシガン、ミシシッピ、ミズーリ、ワシントン州)
10日 民主党党員集会(ノースダコタ州)
11日 米国2月CPI発表
11日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
11日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星6 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
11日-14日 Vietnam International Furniture & Home Accessories Fair 2020(ホーチミン)
12日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 共和党党員集会(米領バージン諸島)
12日 2国間ビジネス環境改善委員会(ケニア・ナイロビ)
12日-13日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
14日 共和党党員集会(グアム)
14日 民主党大会(北マリアナ諸島)
15日および22日 フランス市町村議会選挙
15日 F1豪州GP決勝

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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