デュポン・サークル便り(2月21日)

 2月17日はアメリカではPresident Dayという休日のため、今週末は三連休となりました。もともとは1732年2月22日に生まれたジョージ・ワシントン米国初代大統領の誕生日を記念するこの休日は、「ワシントンの誕生日」として祝われていましたが、エイブラハム・リンカーン第16代大統領の誕生日も2月であることから、1971年に成立した法律により、毎年2月第3週の月曜日を「大統領の日」として連邦の休日とすることが定められました。

 そんな中、アメリカでは民主党大統領予備選が盛り上がってきました。19日に行われた候補者同士の討論会ではマイケル・ブルームバーグ前NY市長が討論会デビュー、彼のパフォーマンスもさることながら、22日にはネバダ州党員集会があります。3日のアイオワ党員集会、11日のニューハンプシャー州予備選でバーニー・サンダース上院議員、ピート・ブディジェッジ氏の2トップに水をあけられた感のある他の候補者、特にエリザベス・ウォーレン上院議員、ジョー・バイデン前副大統領、エイミー・クローブシャー上院議員の3人がどれくらい劣勢を跳ね返せるかが注目されていました。

 候補者が複数いる予備選の討論会では、その時点でのフロントランナーがやり玉に挙げられる光景が多くみられるのが普通です。ところが、19日の討論会では、終わってみればサンダース上院議員もブディジェッジ氏もほぼ無傷、代わりに他の候補者の追随を許さない資金力で、テレビやラジオの広告をアグレッシブに流しているブルームバーグ氏が最大の攻撃対象となりました。また、今までは「常識人」「いい人」のイメージが強く、そのイメージを維持することで討論会でもますますのパフォーマンスを見せていたエイミー・クローブシャー上院議員が、隣に立っているブディジェッジ氏への軽蔑の念を隠そうともせず、なりふり構わない厳しい口調でまくしたてる光景もあり、「クローブシャー頑張りすぎ?」と話題になりました。

 ほぼ全員がブルームバーグ氏の批判に明け暮れる中、異彩を放ったのがブディジェッジ氏でした。実は、現在獲得選挙人数で、一人という僅差ではありますが、予備選をリードしている彼は、今回の討論会中サンダース上院議員批判に集中する作戦をとりました。自らを「旧世代リベラルの象徴のサンダース上院議員の、信頼できる代替候補」として位置付けることを狙った上での戦術だったといわれていますが、結果は、「素晴らしいものではなかったが、手堅いパフォーマンス」という事後評価のようです。

 でも私は、ブディジェッジ氏のこのアプローチは大変賢かったのではないかと思っています。ブルームバーグ氏の最大の強さはその資金力です。1992年の大統領選挙では、ブルームバーグ氏と同じように自己資金をつぎ込んでどちらの政党にも属さない、無所属の大統領候補としてロス・ペロー氏が出馬、これが結果的に共和党支持者の票を割り、ビル・クリントン大統領が漁夫の利を得る形で当選したのではないかと言われています。今回、その気になればペロー氏と同じく無所属で出馬することも十分可能だったブルームバーグ氏があえて民主党側からの出馬を選んだ理由には、この1992年の共和党側の失敗が教訓だったといわれています。逆に言えば、ブルームバーグ氏が大統領選から撤退した場合、民主党大統領候補を資金面で支える重要人物になる可能性が高いということ。つまり、大統領選を撤退した彼がどの民主党候補の支持に回るかで、その陣営の台所事情が大きく変わるのです。されば、ブディジェッジ氏もここであまりブルームバーグ氏をたたきすぎて、その資金力をみすみす逃す手はないわけです。

 私もこのコラムを書くにあたり色々調べてみてビックリしたのですが、世間ではゲイだということを公言していることや、政治経験がインディアナ州サウスベンド市長しかない、といった「弱点」だけに何かと焦点が当たりがちなブディジェッジ氏、実は、なかなかの経歴の持ち主です。ハーバード大学を卒業したあと、あのクリントン大統領も受けたローズ奨学金を受けてオックスフォード大学で学び、大手コンサルティング会社のマッキンゼーに勤務。海軍予備士官としてアフガニスタンに従軍、その時の働きぶりが認められてJoint Service Commendation Medal という勲章までもらっています。しかも、サウスベンド市長になった後にゲイであることをカミングアウトしたにも関わらず、次の選挙で80%の得票率で再選されているのです。そんな彼があえてブルームバーグ氏批判を避けたのにはおそらく、今後、同氏の資金力に頼る場面が出てくるかもしれないと見込んでのことではないでしょうか。

 22日のネバダ州党員集会では、白人が人口の大部分を占めるアイオワ州、ニューハンプシャー州でまさかの大成果を収めたブディジェッジ氏が、民主党の支持基盤として重要な有色人種の間でどこまで票をとれるかが試されることになります。また、これまでパッとしなかった他の候補も、22日のネバダ州と28日のサウスカロライナ州での結果によっては、3月3日のスーパーチューズデー前に選挙戦撤退を余儀なくされる可能性があります。特に、切羽詰まった状況なのがバイデン前副大統領。ヒスパニック系の住人が多いネバダ州でサンダース上院議員が世論調査では圧倒的に他の候補をリードしていると伝えられる中、すでにバイデン前副大統領はネバダ州を諦め、選挙活動の焦点を28日に予備選が行われるサウスカロライナ州に移しているともいわれます。いよいよ、大統領選挙に向けた動きが本格化してきたアメリカ、各候補者の動きに目が離せなくなってきました。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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