デュポン・サークル便り(2月14日)

 14日はバレンタインデー。まだまだ日本では女性から男性にチョコレートなどのプレゼントを送るのが一般的ですが、アメリカでは真逆。毎年この季節になると、奥さんや恋人のためのプレゼントを探す男性をターゲットにした宝石や洋服、ちょっとおしゃれな下着などのセールをどこでもやっています。レストランでもカップルをターゲットにしたバレンタインデー特別ランチやディナーメニューが盛りだくさんです。

 そんな中、今週もアメリカ政治は盛沢山です。先週はトランプ大統領の弾劾裁判が上院で不起訴判決となりひと段落したかと思ったら、今週のニュース・ヘッドラインには、なんとトランプ大統領の側近の一人、ロジャー・ストーン氏の名前が再び登場しました。ストーン氏は2016年大統領選挙へのロシアの介入をトランプ大統領がどこまで知っていたのかについての捜査中に議会公聴会で偽証した罪で起訴されている人です。2月10日には、これまでストーン氏の立件を担当してきた検察官チームが、裁判所に対し「懲役7~9年が適当」と求刑していたことが明らかになりました。ところが、なんと翌11日には司法省幹部がこの求刑内容につき「聞いていない」と述べ、検察官チームの梯子を外したのです。その結果、11日深夜までに、捜査を担当していた検察官4名全員が「抗議辞任」する事態が発生。12日以降、ワシントンではこの司法省の動きに対し「バー司法長官以下幹部が、トランプ大統領の意向を忖度して捜査へ政治介入した」という批判が噴出しています。ナンシー・ペロシ下院議長、チャック・シューマー民主党上院院内総務以下、民主党側は当然司法省の対応を厳しく批判、場合によってはウイリアム・バー司法長官の議会証言招致も辞さない姿勢です。

 このように、トランプ大統領の疑惑をめぐる話題があまりに豊富すぎて、民主党側の大統領選予備選の動きがすっかり霞んでしまっている感じもあるのですが、実はこちらでも大番狂わせが起きています。2月3日のアイオワ州党員集会では、投票アプリに不具合が発生した結果、最終結果が出るまでに1週間近くかかるという前代未聞の事態が発生、民主党の大失態となりました。この責任を取る形で民主党アイオワ州委員長は辞任したのですが、それはともかく、党員集会の最大の話題は、これまで、(1)まだ38歳の若さ、(2)インディアナ州サウスベンド市長しか行政経験なし、(3)同性愛者であることを公言、「夫」をどこでも同伴、などの理由から「櫨牌」候補とされてきたピート・ブディジェッジ氏が、親子はおろか、「おじいちゃんと孫」ぐらい年の差があるバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)を抑えて堂々首位になったことでした。

 更に11日(火)にはニューハンプシャー州で予備選挙が行われました。アイオワ州もニューハンプシャー州も、獲得できる選挙人の数はそれほど多くありませんが、初戦2つで好位置につけられるかどうかが、その後の選挙資金集めやメディア露出に大きく影響するといわれます。つまり、この2州での党員集会・予備選は、3月第1週火曜日(今年は3月2日)に多くの州で代議員選びが行われる「スーパーチューズデー」に向け、どの大統領候補が勢いに乗れるか、失速するかを占うとても重要なものなのです。このニューハンプシャー州でも、ブディジェッジ氏はサンダース上院議員と得票率差で僅か1.3%の大接戦。これで、民主党側大統領候補者の2トップはサンダースとブディジェッチ、という雰囲気が漂い始めました。

 ブディジェッジ氏の大躍進と対照的なのが、大統領選出馬発表以降常に世論調査で支持率上位につけていたジョー・バイデン前副大統領の大失速です。3日のアイオワ州党員集会では4位、11日のニューハンプシャー州予備選でも5位。早くも、2月29日にネバダ州で行われる予備選の結果次第では大統領選から撤退するのでは?という観測すら流れ始めました。失速の理由としては「過去の人」というイメージが払拭できない、政策で日和っている、など色々な要素が挙げられていますが、要は、オバマ政権で副大統領を8年間務めていた間に政治家としての「旬」が過ぎてしまったということでしょうか。

 実は、今回の大統領選挙では民主党支持者の間で面白い現象が起きています。アイオワ州党員集会やニューハンプシャー州予備選のニュースでインタビューを受ける地元の有権者の多くが、どの民主党候補を支持するかの基準として口にするのが「electability」。要は、トランプ大統領とガチンコ勝負で勝てそうな候補かどうか、が今回は重要だということです。ある民主党支持者はさらに一歩踏み込んで「自分にとってパーフェクトな候補を支持して大統領選本選で負けるより、不完全な候補でトランプ大統領を叩きたい」と語っていました。これは、過去の大統領選挙でともすれば理念に走りがちな民主党にはあまり見られなかった現象です。「トランプ憎し」の感情が強いことの裏返しであると同時に、2016年選挙でサンダース支持者とクリントン支持者が溝を埋められないまま本選挙に突入してしまい、結果としてトランプ政権の誕生を許してしまったことへの後悔の念の深さも窺えます。ただ、その結果、現在2トップとして予備選をリードしているのが、片方は自分を「民主社会主義者」と公言してはばからない78歳のおじいちゃん、もう片方はオバマ大統領に近い中道左派とは言え、同性愛者である40歳足らずのお兄ちゃん、というのが実に民主党らしいところではあります。

 そうはいっても、史上最年少で米大統領になったジョン・F・ケネディ大統領の大統領就任時の年齢は43歳。この記録は未だに破られていませんが、1993年に大統領に就任したビル・クリントンは就任当時46歳。8年間大統領を務めた後も、まだまだ若々しいバラク・オバマは大統領就任当時47歳。民主党には若い大統領を輩出してきた歴史があります。しかし、この3名とも大統領選挙に出馬した当初は、その「若さ」がネックになるといわれていました。さらに、ケネディ大大統領以外の二人に共通しているのが、共和党側の対立候補がいずれも「お年寄り」であったこと。そう考えてくると、今年74歳になるトランプ大統領にガチンコで対決できるのは、意外に38歳のブディジェッジ氏なのかもしれません。

 ・・・といろいろ考えながら見ると、一見、候補者が乱立し混迷しているように見える民主党側の大統領予備選もがぜん面白くなってきました。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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