外交・安保カレンダー(2月10日-16日)

 この原稿はハワイのワイキキで書いている。考えてみれば、筆者はこの数年間ゆっくり休んだ記憶がなかった。されば、今週ぐらいは世界の出来事のことをしばし忘れたいと思う。こんな休暇も偶には良いだろうと思うのだが、如何だろうか。それにしても先週も世界は、筆者の動向に関係なく、大いに動いたようだ。

 ワシントンでは弾劾裁判で大統領が4日不起訴となる一方、翌日には下院議長が大統領が読み終えたばかりの一般教書演説を破り捨てた。彼女の行為は非礼だが、演説直前に大統領が彼女からの握手を意図的に断ったのも無礼だろう。目●●、鼻●●である。ワシントンについては直近のデュポンサークル便りを参照願いたい。

 一方、日本では新型ウイルス感染で巨大客船3700人の検疫が始まった。この新型肺炎が中国経済、政治、社会、対外関係に与える影響は決して小さくないだろう。第一にこのウイルス拡散が中国の特異な政治社会環境によるものであり、第二に武漢がサプライチェーンのハブであることを考えれば、恐らく長期化すると思うからだ。

 経済面では、ウイルス拡散で中国経済の成長鈍化が早まる恐れが出てきた。対外関係の面でも影響は出るだろう。例えば、対米関係では、米国企業の中国撤退が予想される中、トランプ政権は当面中国の「お手並み拝見」というところだろうし、対日関係では習近平氏の国賓訪日実施も微妙になってくるかもしれない。

 今回ハワイでは仕事をしない筈だったが、ハワイの歴史をもう一度読み返して感じたのは、旧ハワイ王国国王と明治天皇との不思議な縁だ。西洋諸国からの干渉に悩まされていたカラカウア国王は1881年に訪日し明治天皇に拝謁、ハワイの王女と日本の皇族との縁組や日本・ハワイの連邦樹立などの大胆な提案を行ったのだから。

 一方、米国とハワイ王国との関係も微妙だ。1893年、ハワイ王国在住の米国人を中心とする集団がクーデターを敢行、160人の米海兵隊員も投入され王国は崩壊した。その後多くの流血事件を経て、1898年、遂に米国はハワイを併合してしまう。米本土のアメリカ原住民問題と同様、ハワイには未解決の微妙な問題が残っている。

 こうした日本とハワイ王国の関係については今週の産経新聞とJapanTimesに和文と英文のコラムにそれぞれ書いたので、お時間があればご一読願いたい。

〇アジア
 新型ウイルス関連では、最近中国で共産党指導部に対する批判が高まっているというニュースばかりが流れている。確かに、春節の大宴会を止めなかった武漢市の対応は問題だが、医療環境の不備などによる院内感染だって大宴会以上に重大な問題だ。どれか一つが改まれば直るという訳ではないところに中国の巨大な闇がある。
 新型ウイルス以外では、タイ東北部で現役の兵士が銃を乱射した事件に驚いた。容疑者の男は射殺されたが、犯行の動機は「個人的な問題」だったという。米国ならともかく、あのタイで兵士が乱射を始めたら収拾がつかなくなる。この兵士個人の個別の問題であることを祈るしかない。

〇欧州・ロシア
 欧州で気になる選挙があった。8日のアイルランド総選挙で左派民族主義政党シン・フェイン党が第1順位投票で首位に立ったという。シン・フェインといえば一昔前の極左「テロリスト」政党ではないか。EUとの統合に懐疑的な女性党首は「二大政党制は終わり、他の政党と手を組んで連立政権樹立を目指す」と述べたそうだ。
 スコットランド独立を唱えるスコットランド民族党(SNP)の台頭と同じ現象がアイルランドでも起きた以上、これらは決して偶然ではなかろう。英国はEU離脱交渉を進めるのだろうが、その前に、そもそもスコットランドや北アイルランドを繋ぎ留めておけるのか?英国ジョンソン政権の苦境はまだまだ続きそうだ。

〇中東
 在イスラエル米国大使が、最近のイスラエルによる西岸入植地併合の動きを批判し、そのような動きは米国の「新中東和平案」を危うくするとしてイスラエル側に警告したと報じられた。しかし、何を今更、という感じもする。そもそも、イスラエル強硬派の動きを煽ったのはトランプ政権ではなかったのか。天に唾する発言である。

〇南北アメリカ
 横浜で巨大客船の検疫が長期化している問題で、CNNが連日、同客船からの下船・帰国できない米国人の不満をスカイプ電話を通じ直接報じている。幸い今のところ日本政府に対する強い批判は聞かれない。問題は検疫等の医療行為であり、米国人だけを差別したものではないからだろう。
 一方、ハワイでは8日、メキシコからホノルルに着いた日本のクルーズ船乗客のハワイ上陸が認められなかったという。現地報道によれば、「日本丸」の乗客に新ウイルス感染の症状は見られないが、ハワイ当局は念のため上陸を禁止したという。幸い、今ハワイでマスクをする人はいないが、東京に帰ったら絶対必要だろうなぁ。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

3日-22日 APEC第1回高級実務者会合
4日-11日 対日理解促進交流JENESYS2019・日本の大学生がシンガポールを訪問
6日-14日 カナダ・トルドー首相がエチオピア、セネガル、ドイツを訪問
7日-11日 スリランカ・ラージャパクサ首相がインドを訪問
7日-14日 木原内閣総理大臣補佐官が米国を訪問(ワシントンD. C.)
9日-10日 第33回アフリカ連合(AU)首脳会議(エチオピア・アディスアベバ)
9日-11日 中山外務大臣政務官がベトナム訪問
9日-18日 対日理解促進交流JENESYS2019・「日ASEAN学生会議」の実施
10日 中国1月CPI及びPPI発表
10日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機13号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
10日 アトラスV(ESAの太陽観測衛星Solar Orbiter)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
10日-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
10日-14日 エストニア・ラタス首相が訪日
10日-3月13日「国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(アジア及び同周辺地域)」実施(ハノイ)
11日 米大統領予備選挙(ニューハンプシャー州)
11日 メキシコ2019年12月鉱工業生産指数発表
11日-12日 第26回国際地中海観光市場展(イスラエル・テルアビブ)
11日-13日 UNICEF執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
12日 ブラジル2019年12月月間小売り調査発表
12日 インド2019年11月鉱工業生産指数発表
12日-14日 ロシア投資フォーラム「ソチ2020」(ロシア・ソチ)
13日 米国1月消費者物価指数(CPI)発表
13日 欧州委員会冬季経済予測
13日 南ア大統領一般教書演説(SONA)
13日 金正男氏殺害から3年
13日-14日 トルコ・エルドアン大統領がパキスタンを訪問
14日 UN Women執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
14日 米中貿易協議「第1段階合意」が発効
14日 米国1月小売売上高統計発表
14日 中央アフリカ共和国・国民投票(第二回目)
14日-16日 第56回ミュンヘン安全保障会議(ドイツ)
16日 故金正日総書記誕生日・生誕78周年
16日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星5 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
16日-17日 International Conference on Management, Economics & Social Science 2020(コロンボ)
16日-20日 ガルフード2020(アラブ首長国連邦・ドバイ)


【来週の予定】
17日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
17日 EU外相理事会(ブリュッセル)
17日 ロシア1月鉱工業生産指数発表
17日 大統領の日(ワシントン誕生日)(ニューヨーク市場は全て休場)
17日 長征2C(遥感30号-6 A, B, C)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
17日-18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
17日-20日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
17日-21日 人権理事会諮問委員会 第24回会合(ジュネーブ)
17日-22日 第7回IAEE アジア・オセアニア会議(オークランド)
17日-3月6日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第67回会合(ニューヨーク)
17日-3月6日 国際海底機構 第26回会合 part1(ナイロビ)
17日-3月13日 平和維持活動特別委員会及びワーキンググループ 実質会期(ニューヨーク)
18日 国連軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
18日 UNEP 常駐代表委員会 第149回会合(ナイロビ)
18日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
19日 米民主党の大統領選候補者討論会(ネバダ州)
19日 アリアン5(JCSAT17、GEO-KOMPSAT-2B)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
20日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(教育)(ブリュッセル)
20日 FOMC議事録(FRB)
20日 シンガポール・エアーショー2020年(シンガポール)
20日 インド2019年第3四半期GDP発表
20日 ソユーズ2.1a(通信衛星Meridian-M9)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
20日-3月1日 ベルリン映画祭
21日 EU 1月CPI発表
21日 ロシア1月雇用統計発表
21日 イラン国会議員選挙
21日-23日 パキスタン・オートパーツ・ショー(PAPS)(カラチ)
21日-24日 米トランプ大統領がインドを訪問
22日 民主党党員集会(ネバダ州)
22日 トーゴ大統領選挙
22日-23日 第1回G20財務相・中央銀行総裁会合(サウジアラビア・リヤド)
23日 ドイツ・ハンブルク州議会選挙

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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