デュポン・サークル便り(1月10日)

 遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。2020年が皆様にとって良い一年となりますように。今年も「デュポン・サークル便り」をよろしくお願い申し上げます。

 年末に子連れ帰省して年明けにワシントンに戻ってきたら、ワシントンは大騒ぎになっていました。日本にたった1週間滞在しただけなのに、その間に全くワシントンの動きが見えなくなってしまったため、必死にいろんなものを読み、ラジオを聞き、テレビを見て、ようやく皮膚感覚を取り戻せたと思えるまでに1週間かかりました。

 内政問題では、弾劾裁判の進め方をめぐって、上院で与党共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務と、民主党のチャック・シューマー上院院内総務のバトル・ロワイヤルが進行中です。さらに、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官は、弾劾裁判に証人としての出席を求められた場合にはこれに応じる姿勢を1月8日(月)に明らかにしました。これにより、従来トランプ大統領擁護でなんとか一枚岩を保ってきた上院の共和党議員の間、特にトランプ大統領との距離が微妙な穏健派の上院議員の間で足並みが乱れ始めるのでは、との観測も広がりました。ところが、その後穏健派共和党議員の代表格ともいえるスーザン・コリンズ上院議員(メイン州選出)とリサ・マカウスキー上院議員(アラスカ州選出)の二人が、証人の有無を弾劾裁判開始前に決めないというマコーネル上院院内総務の立場を支持したことで、なんとか共和党が一枚岩を維持したまま弾劾裁判に進む可能性が高まったようです。

 それにしても、1月に入ってからの最大の出来事は何といっても米・イラン間の緊張の急速な高まりです。年明け早々、1月2日(木)に国防総省が、イラン革命防衛隊のエリート部隊である「クドゥス部隊」のカセム・ソレイマニ司令官をイラクで殺害したと発表、さらに報復措置としてイランが7日に米軍が駐留しているイラク軍基地に対してミサイル攻撃を行ったことで、一気に情勢が流動化しています。すでに空挺部隊を含めて3000人余りの海兵隊員が、基地防護その他の任務のためにイラクに増派されています。これまでオバマ大統領を含め「自分の前任者たちは、明確な目的なく中東に米軍を派遣していた」と批判していたトランプ大統領が図らずも、自分が批判していた前任者と同様、中東への米軍増派の決定を下すという皮肉な状態が生まれています。しかも、7日のイランによるミサイル攻撃の前に、トランプ大統領は記者からの質問に答え「イラクが米国に対して攻撃を加えた場合には、すぐに報復の対象となる場所を52か所すでに特定している」と述べ、歴史的文化遺産に対する攻撃も厭わない姿勢を見せました。これに対しては国際社会からも一斉に強い批判の声があがり、エスパー国防長官が「米国は戦時国際法を遵守する」と、弁明に追われる事態となりました。さらに、米国内では、年明けのソレイマニ司令官殺害のための作戦行動の是非については事前に議会の承認を得るべき決断だったのではないか、という声も上がっています。

 ただ、今回のイランによるミサイル発射は、国内向けパフォーマンスであったことを匂わせる要素が、最初からいくつか指摘されていました。一つは、ミサイル発射の数時間後に、ザリフ・イラン外相がツイッターで「我々はこれ以上の緊張の高まりを望まない」とツイートしたことです。しかも、当初は7日夜に米国民に対するメッセージを出す、と言われていたトランプ大統領が、ザリフ外相のツイート後しばらくして「万事無事 (All is well)!」「正式な声明は明日の朝!」とツイート、トランプ大統領にありがちな逆切れモードのツイートを一切しませんでした。さらに、当初から米軍は、イランが発射したミサイルが米軍のいない場所を狙って発射された可能性が高いという情報を入手していたらしいこと、なども徐々に報道され始めました。今やワシントンでは「あの一瞬の緊張の高まりは何だったの」感が漂い始めています。

 とは言え、トランプ政権が1月2日(木)のソレイマニ司令官殺害を米議会に事前通知することなく行ったことは、今後しばらく尾を引きそうです。というのも、アメリカには戦争権限法という法律があり、米国が外国と戦争する際に宣戦布告をする権限は行政府ではなく議会にあると考えられているからです。今回、特に、下院では民主党が多数党であることもあり、9日には早速、「イランに対する武力攻撃は『米国に対する攻撃が迫っていると判断される場合を除き』議会の承認を得る必要がある」という内容の決議を賛成多数で可決、上院に送付しました。

 しかし、弾劾裁判モード一色でクリスマス休暇に突入したアメリカが、年明け早々、イラン関係のニュース一色となり、弾劾裁判関連報道が常にトップニュースになっている状態はとりあえず終わりました。もし、トランプ大統領の狙いがそこにあったとしたら、政治的には極めてしたたかな決断だったといえるのかもしれません。殺害されたソレマイニ司令官や、7日のイランによるミサイル発射の犠牲となった人がいれば、迷惑以外の何物でもないわけですが・・・。


(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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