デュポン・サークル便り(12月20日)

 今週の最大のニュースは何といっても、下院本会議でトランプ大統領に対する弾劾決議案が可決されたことだ。投票は先週からの見込みどおり18日(水)に行われ、(1)大統領としての権力の濫用と(2)議会に対する妨害、の二つの弾劾根拠、前者は賛成230反対197、後者が賛成229反対198の票差で、いずれも可決された。投票した下院議員は、共和党に乗り換えることが予想されている2名の民主党議員が決議案の両項に反対票を、1名の民主党議員が(1)にのみ賛成票を、1名の民主党議員が実質的に「棄権」という選択肢をとった以外、残りの全員が党派に沿った投票をした。一方で、共和党側は造反者はゼロで、元共和党選出、現在は無所属に転じている議員1名のみが弾劾決議案に賛成票を投じた。

 今後は、ペロシ下院議長が、可決された決議案をいつ上院に送付するかが焦点になる。下院本会議における弾劾決議投票前は、決議案は可決後、速やかに上院に送付されると考えられてきたが、この1週間、マコーネル共和党上院院内総務とシューマー民主党上院院内総務が、弾劾裁判の形式(何名の証人を呼ぶかなど)についてメディアを通じての激しいやりとりを行うなど、弾劾裁判が、ある程度民主党側の意見が反映された形で行われることが確実になるまでは、決議案を上院に送付するべきではないという見方が一部の民主党議員の間で広がってきているといわれている。実際、ペロシ下院議長は、弾劾決議可決後、メディアの取材に答えて「(弾劾決議を直ちに上院に送付することが)当初意図していたことだったが、あちら(上院側)で何が起こるか次第」と、決議案を上院に送付する時期を明らかにすることを避けている。さらに、ペロシ下院議長には民主党側の弾劾裁判取り扱い責任者を誰にするかを指名する、という大きな決断も残っているが、これについても弾劾裁判の大枠が見えてくるまでは決断をぎりぎりまで引き伸ばしたい意向のようだ。

 また、民主党にとってはより大きな議事手続き上の懸念もある。現在、連邦政府の予算は継続決議により暫定予算で運営されているが、議会で何らかの合意が形成されない限り、今週末でその暫定予算有効期間が終わってしまう。民主党が弾劾決議を今、上院に送付すると、疑似手続き上の規則で、上院はこの決議の取り扱いについて審議を直ちに開始せざるを得ない。共和党が過半数を占める上院が、弾劾決議審議中は、他の議案の一切の審議をしないという方向に舵を切った場合、連邦政府の暫定予算有効期限が今週の金曜日で切れてしまい、来週からは連邦政府が閉鎖され、大量の連邦政府職員が失業状態になったまま、クリスマス休暇に入る状態が生まれてしまう。そうなると、連邦政府閉鎖の責任は民主党にある、というイメージが有権者の間で広がり、年明けから本格化する大統領・議会選挙選で民主党にとってダメージになる、というわけだ。

 しかし、下院議員生活34年という大ベテランのペロシ下院議長には、弾劾決議案を採択したとたん、このような問題が浮上することは、今のきわめて与野党対立が厳しい議会の状況を鑑みれば容易に想像できたことではないだろうか。水曜日に決議案が採択されるまでの過程では、弾劾にはやる党内左派を抑えながら、本会議における投票での造反者を最小限に防ぐよう、慎重にことを進めてきたペロシ下院議長の政治手腕を高く評価する分析が多く見受けられたが、ここにきて、こちらも上院議員歴35年という大ベテランのマコーネル共和党上院院内総務の老獪さを強調する分析が多く見られるようになった。2人の大ベテラン議員の暗闘は、弾劾裁判に決着がつくまで今後も続く。

 因みに、ペロシ下院議長は御年79歳、マコーネル共和党上院院内総務は77歳。自民党の重鎮に年齢的にも引けをとらない大御所である。米国政治では、クリントン元大統領(大統領初当選時46歳)、ブッシュ(子)元大統領(大統領初当選時54歳)、オバマ前大統領(大統領初当選時48歳)と、比較的若い大統領がこのところ続いている。また彼らは、財団を設立して世界中を飛び回るクリントン、突如画家道に目覚めたブッシュ、退職後の生活を満喫するオバマ、とそれぞれが第2の人生を満喫しているだけでなく、「大統領経験者クラブ」のメンバーとして意外と仲良しだったりすることが知られている(2018年に逝去したブッシュ(父)の葬儀会場では、まるで同窓会のようにブッシュ(子)、クリントン、オバマ夫妻が談笑する中、その輪に入れず浮いているトランプ大統領夫妻の姿がテレビで全米のお茶の間に流れた)。このため、大統領当選時に70歳だったトランプ大統領が突出して老けているような印象がある。だが、実はトランプ大統領はクリントン大統領やブッシュ(子)大統領と同い年。上下両院のリーダーよりは何と年下なのだ。そう考えると、年若く大統領になった前述の3名がむしろ例外で、アメリカでも政治の若返りはそれほど進んでいないのかもしれない。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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