デュポン・サークル便り(12月13日)

 今週もワシントンは連日、弾劾関連のニュースで盛り上がった。下院司法委員会でトランプ大統領を2つの根拠で弾劾する決議が起草され、この決議をめぐり2日間にわたり司法委員会で討論が行われた結果、13日(金)午前10時に決議案が可決され、下院本会議に送付されたからである。弾劾決議は本会議で18日(水)に投票に付される見込みで、民主党が過半数を占める下院でこの決議が可決されることは確実だ。これで、弾劾決議が上院に送付された状態で新年を迎えることがほぼ確定した。

 弾劾決議の中で、トランプ大統領は(1)大統領としての権力の濫用、(2)議会に対する妨害、の2つの根拠で「弾劾に値する」とされている。(1)は言うまでもなく、ウクライナ大統領に対して、ホワイトハウスでの会談を(言葉は悪いが)餌にして、2020年大統領選で対抗馬になる有力候補のバイデン前副大統領とその息子のウクライナの石油会社との関係を公に捜査するように圧力をかけた疑惑と関係しているが、(2)の「議会に対する妨害(obstruction of Congress)」という言葉はあまり聞かれない言葉だ。調べてみたところ、議会侮辱罪(contempt of Congress)は存在する。「米国連邦議会の任務遂行を妨害すること」というのがその定義で、古くは議員に対する贈収賄を指すのが一般的だったようだが、最近では、議会からの召喚状(公聴会で証言を求める、資料提出を求めるなど召喚状の内容は様々である)に応じない場合に使われるようになってきている。「議会妨害(obstruction of Congress)」は広く定着している言葉ではないようだが、弾劾決議では、ウクライナ疑惑をめぐる議会による捜査が行われていた期間に、ホワイトハウス関係者及び政権閣僚に対して証言しないよう圧力をかけたり、議会が提出を求めた書類を提出しなかったりしたことに言及しているので、議会侮辱と読み替えてよさそうだ。これまで、繰り返し書類の提出や公聴会での証言を召喚状を用いてトランプ政権に対して求め、ことごとく却下されてきた下院民主党の不満が爆発した形だ。

 弾劾決議の内容は、全般的にニクソン大統領に対して可決された決議の内容と非常に似ているというのが全体的な評価のようだ。しかし、今まで聞きなれない「議会妨害」という言葉を弾劾決議の中で使ったことで、かえってトランプ大統領支持層にはこの弾劾決議に対する格好の攻撃材料を与えることとなった。トランプ大統領自身が「議会妨害」という罪状を「三権分立の原則に反している」とツイートで攻撃しているだけはない。超保守的な論陣を張ることで知られるニューヨーク・ポスト紙なども、さっそく「議会妨害は弾劾の根拠としては全くばかげている」と論陣を張っている。

 とはいうものの、弾劾決議が年内に上院に送付されることが確実になった今、民主党も共和党も、このクリスマス・年末年始は、休日返上となることが確実だ。弾劾裁判の進め方・戦い方について作戦を練るだけではない。来年、再選を迎える上下両院の議員は、弾劾決議への投票の結果が自分の再選に向けた選挙活動にどのように影響するかも考えなければならない。トランプ大統領は民主党による弾劾決議可決を「魔女狩り」と呼び、徹底抗戦の構えだ。しかし、大統領選まで10か月足らずの時期に、再選を目指す現職大統領の弾劾裁判が上院で行われることの影響は全く読めない。トランプ大統領支持層を一層、固める結果になり、同大統領の再選に向けた選挙活動にプラスになってしまうという指摘もある。民主党にとっては、トランプ大統領に対する弾劾決議は両刃の剣になってしまった可能性が大だ。

 このように米国内政が弾劾をめぐって動く中、アジア政策専門家のコミュニティでは、ランディ・シュライバー インド太平洋担当国防次官補の辞任が大きな関心を集めた。クリントン政権時に国防省で中国部長を務め、さらにブッシュ(子)政権期では国務副長官首席補佐官ののち東アジア太平洋担当国務次官補代理を務めた同氏は、中国に対する厳しい姿勢で知られている。その後、ワシントンでは「親台湾」として知られるプロジェクト2049という研究所を立ち上げた米中・米台関係の専門家だ。中国政府の新彊ウイグル自治区におけるイスラム教系住民に対する扱いを「強制収容所」とトランプ政権内で初めて称し、厳しく批判した人物でもある。同氏は辞任の理由を「個人的理由」としているが、すでにワシントンの専門家の間では辞任の理由について様々な憶測が飛び交っている。政権末期になると政権から政治任用者の流出が始まるのは「お約束」といってもよいが、シュライバー国防次官補は、トランプ政権内で残り少なくなった、外交政策面での「常識派」であり、特に、米韓特別措置協定(米韓の間の『思いやり予算』協定)交渉が暗礁に乗り上げ、かつ日本も米国との間で「思いやり予算」協定の更新に向けた交渉が来年に控え、米朝の非核化をめぐる交渉も停滞している真っ只中での同氏の辞任が国防省のアジア政策に与える影響については、日本も他人事ではいられないだろう。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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