デュポン・サークル便り(11月22日)

 今週のワシントンは、下院情報委員会で開催された、トランプ大統領の弾劾をめぐる公聴会の話題で持ちきりとなった。

 特に、先月、同委員会が開催した非公開公聴会で証言した、トランプ政権の対ロシア・対ウクライナ政策に深くかかわっていた複数の元高官が公開公聴会にも出席したことから、水曜日以降のテレビはABC,NBC,CBSの三大ネットワークはもちろん、CNN、FOXニュース、MSNBCなど大手ケーブル局や「アメリカ版NHK」ともいえるPBSに至るまで、公聴会特番を組み、公聴会における証言の委細が速報で全米のお茶の間に流れた。

 疑惑の焦点は、「トランプ大統領が、米合衆国大統領の権威を利用して、ウクライナ政府に対して、2020年大統領選挙で対立候補になる可能性が高いバイデン前副大統領と彼の息子のハンター・バイデン氏のウクライナの石油・天然ガス企業のブリスマ社との関係を捜査するように圧力をかけ、さらに、対ウクライナ軍事援助を圧力をかける際の材料に使ったか否か」だ。すでに元駐ウクライナ米大使や現駐ウクライナ大使代理の証言、NSCロシア・ウクライナ担当部長が非公開公聴会でも公開公聴会でも、トランプ大統領の顧問弁護士であるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が、公式の外交チャンネルではない別ルートでウクライナ政府関係者と接触していることを憂慮する発言などがメディアを賑わせていたが、このような証言に対して、トランプ政権側はこれまで、「証言者の誰一人として、トランプ大統領と直接話をしていない、また聞きの情報に基づいて証言している」という反論を使っていた。

 しかし、トランプ大統領や彼の側近の発言を直接聞く立場にあった20日(水)にソンドランド駐EU米大使、21日(木)にフィオナ・ヒル元NSC欧州・ロシア担当上級部長が、証言の中で、対ウクライナ軍事援助は、バイデン親子に対するウクライナ政府の捜査の取引材料だったと発言したことで、トランプ政権も共和党も、この言い訳が使えなくなった。そこで、トランプ大統領が使い始めたのが「ソンドランド大使のことはよく知らない」という、日本で国会議員をめぐる献金疑惑が起きるとまず渦中の議員が使う「妻が・・・」「秘書が・・・」という言い訳を思わず連想してしまう、言い訳にならな言い訳である。

 しかも、トランプ大統領が自分の行為を正当化し続ける一方で、コンウェイ大統領顧問や、トランプ大統領の義理の息子のジャレッド・クシュナーを含む少人数の側近が弾劾裁判に対応するための対策会議を開いたことも報じられている。

 議会ではペロシ下院議長が来週以降も弾劾公聴会に証人を召喚する可能性があることをにおわせる一方で、すでに、来週には下院情報委員会は、下院司法委員会に提出する公聴会報告書の作成作業に入ること、早ければクリスマス休暇直前に弾劾決議が下院本会議で投票に付される可能性があること、などが報じられ始めている。

 このような中、21日(木)は民主党大統領候補10名による公開討論会が開催された。これまでバイデン前副大統領が最有力候補と目されてきたが、来年1月に大統領選予備選が最初に行われるアイオワ州や、早い時期に予備選が開催されるニューハンプシャー州の世論調査で、ピート・ブディジェッジ氏(インディアナ州サウスベンド市長)がトップに躍進し、さらに、経済紙のブルームバーグ紙のオーナーで大富豪のマイケル・ブルームバーグ氏(前ニューヨーク市長)も、民主党から大統領選に出馬を表明するなど、混戦模様にさらに拍車がかかってきている。トランプ大統領が弾劾公聴会で連日出てくるネガティブなニュースに防戦を強いられている今だからこそ、速やかに候補者を一本化して、2020年の大統領選に向けて力を蓄えればいいのに・・・と筆者などは思うのだが、そうならず、あいかわらず民主党では大統領候補者乱立が続く、というのがアメリカ的といえばアメリカ的だ。

 しかも、弾劾公聴会がニュースを独占しているため、実は今週は、トルコのエルドアン大統領のワシントン訪問や、香港の人権状況を憂慮し、香港における人権弾圧に加担した中国政府関係者に対して厳しい内容の法案が上下両院で可決されるなど、外交問題でもそれなりに話題はあったというのに、弾劾に始まり弾劾に終わった1週間となってしまった。弾劾されるかどうか、おそらくトランプ大統領は気が気ではないと思われるが、来週以降は一体、どうなってしまうのか。年末に向けて、連邦政府予算をつなぐ法案も成立させなければいけない大事なこの時期に、大統領が自分の弾劾問題のせいで、弾劾とは無関係な問題で逆切れする可能性が年末までついて回るワシントン、この数週間に何が起こるか、要注目だろう。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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