デュポン・サークル便り(11月15日)

 トランプ大統領が、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して、ホワイトハウスでの米ウクライナ首脳会談開催と引き換えに、2020年大統領選挙でトランプ大統領と対峙することになる有力な大統領候補者と目されるジョー・バイデン前副大統領と彼の息子のハンター・バイデン氏がウクライナの石油企業とどのようなつながりを持っているかどうかを捜査するよう迫ったことが、大統領府の権威の乱用であり、弾劾に値するものかどうか、をめぐる下院における公聴会が俄然、ヒートアップしてきた。

 過去数週間、下院情報委員会が実施してきた秘密会の公聴会で多くのトランプ政権中堅幹部や高官が議会からの召喚状に応じる形で公聴会に出席し、証言をしてきた。当初の疑惑はトランプ大統領が「首脳会談」をエサにゼレンスキー大統領に対してバイデン親子の捜査を迫ったのではないか、という点のみだったが、その後、秘密会での証言が進むにつれ、疑惑はトランプ大統領が「ホワイトハウスでの会談」だけではなく、米国の対ウクライナ軍事援助も圧力をかける材料に使われていたのではないかというところまで拡大している。すでに、下院情報委員会は、これまで行われてきた非公開公聴会のトランスクリプトの一部公開を開始している。これまで公開されているトランスクリプトは計8名のトランプ政権高官の証言で、総ページ数は2,600以上に上る。

 この公開されたトランスクリプトの中にはフィオナ・ヒルNSC欧州・ロシア担当上級部長やアレクサンダー・ヴィンドマンNSC欧州担当部長(現役陸軍中佐、ウクライナ担当)、マリー・ヨヴァノヴィッチ前駐ウクライナ米大使の証言のトランスクリプトも含まれている。先週半ばから後半にかけては、特に、ヒルNSC欧州・ロシア担当上級部長とヴィンドマンNSC欧州担当部長の証言のトランスクリプトの内容が、そもそも、この疑惑の発端となった、トランプ大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の電話会談の内容に関する情報コミュニティからの内部告発者(ホィッスルブローワー)の告発内容を裏付けるようなものであったこと、つまり、トランプ大統領が、ホワイトハウスでの会談実現と引き換えにゼレンスキー・ウクライナ大統領に対して、バイデン前副大統領とその息子であるハンター・バイデン氏のウクライナ企業との関係について公開捜査をするよう圧力をかけた可能性があることを強く示唆するものであったことが、ワシントンでは大きな話題となっており、週末の政治討論番組などでもこの話題がトップニュースで扱われていた。

 特にヴィンドマンNSC欧州担当部長が、「(ホワイトハウスでの米ウクライナ首脳会談とバイデン親子に対する捜査)が引き換え(tit-for-tat)であったことは疑いようもない」と明言するトランスクリプトが公開されたことから、議会共和党はこれに対抗して、今週水曜日から行われる公開公聴会にハンター・バイデン氏や情報コミュニティの最初の内部告発者を召喚するように求めており、トランプ大統領も「ゼレンスキー大統領との電話会談は何の問題もない(perfect)なものだった」とツイートするなど、火消しに躍起になっていた。

 このような中で始まった公開の公聴会だが、今週の目玉は公開公聴会初日の11月13日に証言したウイリアム・テイラー駐ウクライナ米大使代理による証言である。同氏は2006~2009年、ブッシュ政権からオバマ政権にまたがる3年間、駐ウクライナ大使として赴任した経験を持つ、陸軍出身の職業外交官で、自身が職務上見聞きしたことについては極めて詳細なメモを残すことで知られており、彼が、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談内容や、会談をセッティングする過程でホワイトハウスとどのようなやり取りをしたのかについてどのような記録を残していたのかが明らかになることが予想されており、その内容に高い関心が高まっていた。ABC、CBS、NBCの米三大ネットワークは当然、CNNやMSNBC、FOXニュースなど主要テレビ局は軒並み特番を組んで公聴会をフォローしている。

 さらに、公開公聴会が始まる前日の11月12日には下院情報委員会が来週、公聴会で証言する証人を発表した。なんと、その中にはペンス副大統領側近をはじめ、秘密会の証言内容のトランスクリプトがすでに大きな波紋を呼んでいるヴィンドマンNSC欧州担当部長(陸軍中佐)やヒルNSCロシア・欧州担当上級部長をはじめ、ボルカー前ウクライナ特使、ソンドランド駐EU米大使、クーパー欧州担当国防次官補代理、ヘイル政務担当国務次官など、秘密会に出席した高官が多数、名を連ねている。

 実際に公聴会が始まってみると、テイラー大使がカメラの前で「米国のウクライナ外交に正規の(外交チャンネルを通じた)ルートと(ジュリアーニ元NY市長が中心になっている)非正規ルートがあることを認識するにつれ、懸念を覚えるようになった」「ソンドランド駐EU米大使から、『(対ウクライナ軍事援助は)バイデン親子のウクライナ企業との関係について公開捜査をするとゼレンスキー大統領が発表するかどうかとセットだという指示をトランプ大統領から自分は受けている』と聞いた」などと淡々と話す姿は確かに迫力があった。

 何週間か前に、いかにナンシー・ペロシ下院議長が今回の弾劾手続きを注意深く、用意周到に進めており、これまでの民主党側の動きに対して、いかにトランプ大統領もその側近達も、「魔女狩りだ」「政治ショーだ」「リベラルの陰謀だ」といった逆切れに近いスローガンを連呼する以外、有効な反撃ができていないか、という分析を冷静にしたコラムをオンライン版のCNNで読み、「なるほどな」と思ったのを覚えているが、今週までの動きをみると、納得である。唯一、今週の前半に、トランプ政権の閣僚の中では唯一の「円満退職組」といってもいいニッキー・ヘイリー前国連大使が自伝を出版し、その中で、ティラーソン前国務長官や、ケリー元大統領首席補佐官が、トランプ大統領に忠実に仕えていなかったかを批判していることが話題になったが、テイラー大使の証言で、13日にはヘイリー前国連大使の手記はすっかり主要ニュースのネタからは外れてしまった。

 トランプ大統領は、ここまで自分を取り巻く政治状況が厳しくなってきても、このピンチを支持基盤固めのチャンスに生かす気200%に見える。しかし、今後の公開公聴会の内容によっては、もしかして、もしかすると2020年大統領選に出馬できるかどうかが怪しくなるかもしれない。もしかすると、ヘイリー前国連大使の自伝出版がこのタイミングになったのは、トランプ大統領が再選を目指さないと決めたときに、あわよくば大統領選出馬、少なくても、そうなった場合に禅譲候補として大統領選に出馬する可能性が高いペンス副大統領候補に、副大統領候補として指名してもらうためなのか?などとついつい勘ぐってしまった。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

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