外交・安保カレンダー(6月3-9日)

 先週末、恒例の「シャングリラ会合」がシンガポールで開かれた。同会合は「アジア安全保障会議」とも呼ばれ、今年で18回目。筆者も昔は結構参加していたが、最近は確かに行っていないなあ。年に一度アジア地域内外の国防大臣や安全保障の専門家などが一堂に集う一種のお祭りだが、今ではインターネットで同時生中継されるので、今年は東京の自宅でぼ~と聞いていた。実に便利な時代になったものだ。

 同会合では、6月1日にシャナハン米国防長官代行が演説を行い、「新たなインド太平洋戦略を発表した」と報じられたが、それは違うだろう。「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」については、2018年6月の第17回会合でマティス国防長官が既に包括的な演説を行っている。今回シャナハン長官代行が「新たな戦略を発表した」訳では全くないのだ。

 誤報ではなく、一種の勘違いだろうが、その理由はシャナハン演説と同時に米国防総省が初めて「インド太平洋戦略に関する報告書」なるものを公表したからだ。英文で55ページ、かなりの分量だ。米国防総省が報告書を作るということは、良きにつけ悪きにつけ、FOIP戦略に予算が付いて実質的に動き出したことを暗示する。FOIPについては、今週の日経BP電子版とJapanTimesに書いたのでご一読願いたい。

 先週はトランプ氏の国賓訪日を取り上げたが、要するにサプライズがなくて良かったねという話だった。今週トランプ夫妻は国賓として英国を訪問しているが、訪日とは異なり、既にロンドンでは大騒ぎになっている。市内では反トランプのデモがあり、トランプはメイ首相やメーガン妃を批判する一方、Brexit強硬派の政治家を礼賛するなど、相変わらずやりたい放題。「日本では静かにしてくれて本当にありがとう」ということかな。

 今週最も重要なことは、4日が天安門事件30周年に当たることだろう。当時同広場を占拠した学生たちももう50代に入るということか。彼らの一部分でも何とか共産党に残り、内部から党を改革するなどということを夢見たこともあったが、それは正に夢のまま終わってしまいそうだ。こうして歴史は消されていく。中国には大躍進博物館も、文化大革命博物館も、天安門事件博物館も未だない。いや、永久に作られないかもしれない。こういう人たちと歴史問題を議論するのは文字通り至難の業である。

〇アジア
 上記のシャナハン演説に対し、8年ぶりでシャングリラ会合に参加した中国の国防部長は演説の中で、「他国が台湾の分離を図るのであれば、全ての犠牲を払って戦うという選択肢しかない」「世界のいかなる国も自国の分離を容認しない」「台湾問題に口を挟む者は必ず失敗する」中国の軍事力は「自衛のため」だが、「他国から攻撃を受けない限り、中国から攻撃することはない」などと勇ましいことを述べたらしい。

 おいおい、ちょっと待ってくれ!一体誰が台湾を独立させようとしているのか?台湾の現状変更など誰も望んでいない。それにもかかわらず、「全ての犠牲を払って戦う」などというのは、中国も戦争を望んでいないことの証だろう。それにしても、可哀そうな中国の国防部長、シャナハンにあれだけ言われたら、反論しない訳にはいかない。トランプがどう動くか一抹の不安は常にあるが、中国も簡単には戦争できないはずだ。

〇欧州・ロシア
 英国のメイ首相は7日に保守党党首を辞任する予定だが、賭け屋の予想では後任候補としてEU離脱強硬派のボリス・ジョンソン前外相が有力視されているそうだ。同氏はツイッター動画で「自分が首相に就任すれば、合意のあるなしにかかわらず、10月31日に離脱する」と表明したという。あの冷静沈着だと筆者が勝手に思い込んでいた英国人も実は結構お調子者が少なくないということ。大英帝国の黄昏は近い。

〇中東
 3日に日本の総理大臣が駐日イスラム諸国大使等を官邸に招待し、「イフタール」(イスラム暦断食月(ラマダン)中に行われる日没後の食事)を開催する。大変結構なことだが、それなら駐日キリスト教諸国大使を呼んでイースターディナーをやるのか、イスラエル大使を呼んで「ハヌカー」を祝うのか。東方教会系はどうするのか。小泉内閣時代に始まったことだが、イスラム以外の宗教への配慮もないと実はバランスを欠くのではないか・・・。

〇南北アメリカ
 トランプ政権内のごたごたはエンドレスだ。最近大統領が決定した対メキシコ関税については、ライトハイザー通商代表とムニューシン財務長官という二人の主要閣僚が難色を示したにもかかわらず、トランプ氏が両者を無視する形で決めたらしい。反対理由はメキシコとカナダとの新協定について議会承認が難しくなることだそうだが、それ自体は極めて正しい判断だ。こういった判断のブレが対日政策で起きないことを祈るしかないのだが、本当に大丈夫だろうか。今もちょっと気になる。

〇インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。



4月29-6月7日 国際法委員会 第71回会合 first part(ジュネーブ)
5月13-6月28日 ジュネーブ軍縮会議(CD)second part (ジュネーブ)
20日-6月17日 第14期第7回ベトナム国会(ハノイ)
21-6月21日 国際民間航空機関(ICAO)council phase 第217回会合(モントリオール)
30-6月5日 米・ポンペオ国務長官がドイツ、スイス、オランダ、英国を訪問
30-6月7日 UNDP、UNFPA、UNOPS執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
2-4日 EU農水相理事会(非公式会合)(ブカレスト)
2-6日 ラマダン明け休暇
3日 第34回日ASEANフォーラムの開催(ハノイ)
3日 日本・カナダ防衛相会談(防衛省)
3日 安倍総理大臣主催による「イフタール」主催
3日 第7回日本・ベトナム戦略的パートナーシップ対話の開催(ハノイ)
3-5日 米・トランプ大統領がイギリスを訪問
3-5日 鈴木外務大臣政務官がベトナム・ハノイを訪問
3-5日 辻外務大臣政務官が米国・ワシントンD.C.を訪問
3日の週 英国離脱協定法案採決
3-14日 国際原子力機関(IAEA)環境研究所の海洋モニタリング専門家が訪日
3-14日 世界気象機關(WMO)世界気象会議 第18回会合(ジュネーブ)
4日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
4日 EU4月失業率発表
4日 天安門事件追悼集会
4日 日米防衛相級会談(防衛省)
4日 ASEAN-Japan Dayシンポジウム開催(ハノイ)
4-5日 ウクライナ・ゼレンスキー大統領がEUとNATOを訪問(ブリュッセル)
5日 デンマーク議会選挙
5日 米・ベージュブック
5日 米・トランプ大統領、アイルランド・バラッカー首相と会談(アイルランド西部シャノン)
5日 長征11(高分解能地球観測衛星Jilin-1 Gaofen 03A, 03B)打ち上げ(海上発射(黄海近海予定))
5-6日 ウランバートル対話(Ulaanbaatar Dialogue)(モンゴル)
5-7日 中国・周主席がロシアを訪問
5-8日 ASEAN電気自動車・ハイブリッド車サミット(ASEAN EV summit)(バンコク)
6日 米国4月貿易統計発表
6日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(リトアニア・ビルニュス)
6日 EU第1四半期実質GDP成長率発表
6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルク)
6日 米・トランプ大統領がフランスを訪問(北西部ノルマンディー地方)
6日か7日 ロシア5月CPI発表
6-7日 国連経済社会理事会(ECOSOC)management segment(ニューヨーク)
6-7日 ASEANスマートシティネットワークワークショップ(ASEAN Smart Cities Network Workshop)(バンコク)
6-7日 G7社会政策担当相会合(フランス・パリ)
6-7日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
6-7日 WTO 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)理事会(スイス・ジュネーブ)
6-8日 世界経済フォーラム・ラテンアメリカ会合(コロンビア)
6-8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルク)6-7日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
6-8日 2019年ベトナム国際テレビ・フィルム展(Telefilm 2019-Vietnam International Exhibition on Film and Television Technology)
6-8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルク)
7日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ルクセンブルク)
7日 米国5月雇用統計発表
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 ブラジル5月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
(ホーチミン)
7日 中国端午節
7日 英・メイ首相辞任
8-9日 G20財務相・中央銀行総裁会議(福岡県)
8-9日 G20貿易・デジタル経済相会合(茨城県)
9日 カザフスタン大統領選挙
9日 メキシコ地方選挙
9日 F1カナダGP決勝(モントリオール)


<10-16日>
10日 中国5月貿易統計発表
10-14日 IAEA理事会(ウィーン)
10-14日 WFP執行理事会 年次会合(ローマ)
10-21日 ILO総会(ジュネーブ)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11-13日 ユニセフ執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
11-13日 第28回ASEAN 税関局長会議(28th ASEAN Customs Directors-General Meeting)(ラオス)
11-13日 米ゲーム見本市「E3」開幕(ロサンゼルス)
11-14日 アフリカ開発銀行(AfDB)総会(赤道ギニア・マラボ)
12日 米国5月消費者物価指数(CPI)発表
12日 中国5月CPI発表、PPI発表
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル4月月間小売り調査発表
12日 シンガポール・米朝首脳会談から1年
12-15日 酪農業フェア(Fieldays)(ハミルトン)
12-16日 ラオスICT展示会(Lao ICT EXPO)(ビエンチャン)
13日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルク)
13-14日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ルクセンブルク)
14日 米国5月小売売上高統計発表
14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
14日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14-15日 上海協力機構首脳会議(キルギス)
15-16日 G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣
16日 グアテマラ大統領および共和国議会議員選
16-18日 国際世界観光機関(UNWTO)執行理事会 第110回会合(バクー)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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