外交・安保カレンダー(3月4-10日)

先週第二回米朝首脳会談が、遂にと言うべきか、本来あるべき形でと言うべきか、やっぱり決裂した。先週の本コラムで「正直言って首脳会談にはあまり期待していない」とは書いたが、まさかここまで酷い結果になるとは思わなかった。最低の予想を更に下回る最悪の結果に終わったと言えるだろう。これだから素人外交は怖いのだ。

北朝鮮は「非核化」、すなわち北朝鮮が現在保有するものに加え、全ての核兵器・運搬手段を含む開発プログラムそのものを廃棄すること、について譲歩することはないだろうと前回書いたが、この考えは今や確信となりつつある。一部本邦専門家は「金正恩は核廃棄を覚悟している」と言うが、それならこんな結果にはならないはずだ。

それにしても気の毒なのは北朝鮮外務省の女性次官・チェソンヒ(崔善姫)女史だ。彼女は数年前筆者が米国のアジア関係団体の訪朝団に紛れ込んで北朝鮮を訪問した際に会った覚えがある。会談決裂の後、異例の北朝鮮外相記者会見に同席していたが、その際の彼女はショックのためか、茫然自失で何か思い詰めたような表情だった。

次回の会合があるかどうかすら不明だが、彼女が責任を取らされる可能性は十分ある。今回の首脳会合決裂の最大の理由は北朝鮮の米国内政に関する認識が不十分だったからだ。トランプ外遊中に行われた下院公聴会でトランプ氏の元個人弁護士マイケル・コーエン氏が爆弾発言を連発し、大統領は政治的窮地に追い込まれた。

トランプ氏にとっては、首脳会談の行方よりも、ワシントンでの彼自身の評判の方がはるかに重要だ。それにも拘らず、北朝鮮はサラミを薄く切り過ぎた(十分な譲歩をしなかった)。彼らはコーエン発言により生じたトランプ氏の窮地を過小評価し、従来通り強気でトランプ氏に経済制裁の大幅解除を求めたが、これは結果的に失敗だった。

この辺の詳細については、火曜日のJapan Timesにコラムを書いたので、お時間があればご一読願いたい。但し、申し訳ないが、日本語版はないので、念のため。簡単に言えば、交渉決裂は今ではなく、昨年6月12日にシンガポールで起きてもおかしくなかった。逆に言えば、過去8か月の米朝交渉は一体何だったのかということだ。

更に気になることがある。米国防総省は米韓両軍が毎年春に実施する大規模合同軍事演習の規模を縮小し内容を絞り込んだ訓練に変更して実施する方針を決めたと報じられた。国防当局は北朝鮮との緊張緩和に向けた措置の一環というが、トランプ氏はこれで巨額の費用が節約されたと主張する。この人は何も分かっていないのだ。

規模縮小対象は野外機動訓練である「フォールイーグル」と、米軍増援・指揮態勢を点検する演習の「キー・リゾルブ」だそうだ。現在新たな訓練内容の策定を進めているらしいが、こんなことを繰り返していたら、在韓米軍の抑止力というか実戦作戦能力は徐々に低下していき、効果的な米韓統合運用自体もいずれ難しくなるのではないか。

練習をしないで金メダルを取れるオリンピック選手などいないが、同様に訓練をしないで効果的抑止力を維持できる軍隊など存在しないだろう。米国防当局者によれば、こうした方針は米朝首脳会談とは無関係であり、これまで長期間検討されてきたというが、北朝鮮が非核化の定義すら示さない今、一体これに何の効果があるというのか。

〇アジア
米中の貿易協議が最終段階に入ったと報じられている。米中首脳会談開催は3月27日とも言われるが、先週の米朝決裂を見て今頃中国は戦々恐々だろうと思う。何しろ、中国ではハノイのようなドタキャンは絶対に許されない。国家指導者のメンツが潰れるからだ。しかし、トランプ氏はそんなこと全く意に介さないだろう。
いずれにせよ今回米中は「合意」を求めており、何らかの「合意」なるものは出来るだろう。問題はそれが内容的に暫定的、限定的、表面的なものに終わる可能性が高いことだ。北朝鮮と同様、中国の貿易政策は中国の国家安全保障と直結しており、前者を変えるということは中国共産党の体制自体を変えることを意味するからだ。

〇欧州・ロシア、中東
イスラエル首相が苦境に陥っている。4月9日の総選挙を前に、検察当局が汚職容疑で起訴する可能性に直面しているからだ。ネタニヤフは在職13年のベテラン政治家だが、この13年でイスラエル内政は大きく変わった。彼が率いるリクードは昔は極右に近かったが、今や中道右派に近いのだから、時代は変わったものである。
一昔前、イスラエル内政といえば小政党乱立で連立政権作りが難航するパターンが多かったが、これは現在も変わらない。全120議席のクネセット(イスラエル国会)で30議席しかないリクードは、これまで超保守や極右政党との連立で政権を維持してきたが、今回はどうか。こういう時に限って軍事的緊急事態が事態を変えるかもしれない。

〇南北アメリカ
昨年最後の本コラムで筆者は、「司法省内で捜査活動を制止できても、民主党が多数派となった下院での動きは止められない。これからは下院のあらゆる委員会で、公聴会、召喚状、宣誓証言といった言葉が乱れ飛び、トランプ氏の身内や側近が多数、公開火炙りの刑に服するだろう」と書いた。これが今週遂に始まったようだ。
3月4日、民主党が支配する下院司法委員会はトランプ氏の息子、娘婿、ホワイトハウス、大統領選挙関係者、トランプ関連企業などを含む81の個人と団体につきロシア疑惑、司法妨害、権力乱用から個人的ビジネス活動にいたる大規模な調査を開始すると発表した。関係者には任意の資料提供を求める書簡が発出されるという。
これで駄目なら召喚状が出され、宣誓証言を求める公聴会が延々と、恐らく一年以上、続くことになる。当然これも2020年大統領選キャンペーンの一環だが、状況はますます1972-74年のウォーターゲート事件に似てきた。今週から米国内政は下院民主党とトランプ氏との死闘一色となるだろう。米国有権者はどこまで耐えられるのだろうか。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

2月11日-3月8日 平和維持活動特別委員会及び作業部会 実質会期(ニューヨーク) 
18日-3月8日 経済的、社会的、文化的権利委員会 第65回会合(ジュネーブ)
18日-3月15日 国際民間航空機関(ICAO) Council phase 第216回会合(モントリオール)
25日-3月15日 国際海底機構(ISA)総会 first part (キングストン)
25日-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
28日-3月7日 対日理解促進交流・「日ASEANスポーツ交流(女子サッカー)」の実施
3月2-9日 外務省が在米日系人リーダー一行を招へい
3-5日 鈴木外務大臣政務官が英国及びフランスを訪問
4日 欧州議会委員会会議
4日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
4-8日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
5日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
5日 第13期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)
5日 元トランプ選対本部議長のマナフォート被告の判決(本連邦地裁)
5日 ミクロネシア連邦・連邦議会選及び住民投票
5日 ジュネーブ国際自動車ショー開幕(一般公開は7日から)
6日 米国2018年12月貿易統計発表
6日 米国ベージュブック(FRB)
6日 ファーウェイ副会長が身柄引き渡しに関する審理に出廷(バンクーバー)
6日か7日 ロシア2月CPI発表
6-7日 マレーシア首相がフィリピンを訪問
7日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策と記者会見)(フランクフルト)
7日 OECD世界経済見通し
7日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
7日 EU2018年第4四半期実質GDP成長率発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7-8日 ASEAN高級実務者会議(タイ・チェンライ)
7-8日 ASEANプラス3金融タスク・フォース会議(香港)
7-8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7-8日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
8日 中国2月貿易統計発表
8日 米国2月雇用統計発表
9日 中国2月CPI発表
9日 ナイジェリア州知事選挙、州議会選挙
10日 マダガスカル国民議会総選挙
10日 ギニアビサウ国民議会議員選挙
10日 米国夏時間入り
10日 長征3B/G2(中星6C)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)

【来週の予定】
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
11日 イラン・ローハニ大統領がイラクを訪問
11-12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
11-12日 OECDデジタル化(Going Digital)会議(フランス・パリ)
11-14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11-15日 第4回国連環境総会(ケニア・ナイロビ)
11-4月5日 国連総会 第5委員会 再開会期第一部(ニューヨーク)
12日 米国2月消費者物価指数(CPI)発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
12日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12-13日 第35回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース会議(バンコク)
12-15日 化学兵器禁止機関(OPCW)執行理事会 第90回会合(ハーグ)
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
13日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
14日 ブラジル1月月間小売り調査発表
14日 中国2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 デルタ4(WGS 10)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
14-15日 APEC質の高いインフラ・ハイレベル会議(東京)
14-22日 国連麻薬委員会 第62回会合(ウィーン)
14-28日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会 第335回会合(ジュネーブ)
15日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当理事会(ブリュッセル)
15日 EU2月CPI発表
15日 ソユーズFG(長期滞在ミッション用ソユーズMS-12)打ち上げ(バイコヌール基地)
16日 スロバキア大統領選
16日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
17-18日 EU外相理事会(非公式会合)(ブカレスト)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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