外交・安保カレンダー(10月29-11月4日)

今週は外交・安保ネタが実に豊富な週だ。まずは日中首脳会談から始めよう。詳しくは30日の産経新聞「正論」欄に書いたので、時間があればご一読頂きたい。要するに、今回の日中首脳会談は、中国がこれまでで最も考え抜いた末の苦肉の策ではなかったのか。これが筆者の現時点での仮説である。

そもそも、中国首脳が参加する会談に失敗は許されない。不愉快なことがあれば首脳会談そのものがキャンセルされる。だから、定義上、日中首脳会談なるものは常に成功する。真の問題は共同記者発表等で語られなかった事項だ。今回の訪中で共同声明等の文書は発表されなかった。されば、これは将来のお楽しみということか。

今回は歴史、靖国、尖閣、南シナ海、一帯一路などについても殆ど言及がなかった。だが、政治や安全保障の問題で中国が戦略的に対日譲歩することは絶対にない。されば、現時点で日本は経済面で取れるものを取りつつ、戦術的利益を最大化すべきなのだろう。それ以上でも、それ以下でもない、というのが筆者の見立てだ。

安倍首相の最初の訪中は2006年10月、筆者も同行したのでよく覚えている。この訪中で同首相は「戦略的互恵関係」を旗印に小泉純一郎首相時代のギクシャクした日中関係を劇的に改善させた。ところが2012年末以降、中国は同首相に尖閣問題で譲歩を迫り、世界各地で安倍孤立化キャンペーンを張るようになった。

しかし、2014年以降主要国では安倍評価が高まり、逆に中国が孤立を深めていく。2017年にトランプ政権が誕生すると、中国の孤立化は益々深まり、更に今年に入って米中「大国間の覇権争い」が一層激化した。さすがの中国も対日関係改善に動かざるを得なかったのだろう。

次は、富士山会合について。先週東京で開かれた同会合は日米の政治家、政府・軍幹部、学者、研究者、ビジネスパーソン、ジャーナリストなど150人以上が一堂に会するフォーラムであり、今年で五回目となる。以前は1960年代から10回開かれた「下田会議」があったが、富士山会合はある意味で下田会議の精神を引き継ぐものだ。

今回参加してつくづく思ったことは、昔筆者が若造だった頃に仰ぎ見ていた日米政府高官が第一線を退く中、以前は鼻たれ小僧だった若者が今や第一線にいるんだな、ということ。要するに、自分が年を取っただけなのだが、当時日米関係を仕切った老兵たちは今のトランプ政権の登場をどのように見ているのだろうか。

〇東アジア・大洋州
今週日本での最大の注目点はシリアで3年以上拘束されていた安田純平氏の解放だろう。同氏の解放に対しては、半ば英雄視する向きもあれば、自己責任論で批判する声もある。しかし、安田氏は腐ってもジャーナリスト、自己責任は当然と思っているはずだ。一方、彼が英雄でないことを最もよく知っているのは彼自身ではないか。

〇欧州・ロシア
28日のドイツ・ヘッセン州議会選挙では、前回の選挙で勝利したメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が大きく議席を減らし敗北した。先般のバイエルン州議会選挙でもCDUの友党が敗北しており、このままでは首相交代を巡る議論が加速するかもしれない。メルケル政権の危険信号が始まったと言って良いだろう。

〇中東・アフリカ
サウジジャーナリスト失踪事件は未だ解決していない。サウジアラビアの対応はちぐはぐで、とても見てられない。イスタンブールのサウジ総領事館は録音スタジオなのか、あらゆる音が盗聴されていたようだ。これがサウジ諜報機関の実力なのか、それともトルコの情報戦があまりに優れているのか。トルコのサウジ叩きは当分続くだろう。

〇南北アメリカ
28日のブラジル大統領選挙決選投票で、極右ポピュリストの元軍人ボルソナロ候補が勝利した。昨晩は珍しく、ある放送局のワイドショー番組からブラジルについて取材を受けた。ブラジルでもナショナリズム・ポピュリズムの嵐が吹き始めたということか。恐ろしいことである。
恐ろしいと言えば、ピッツバーグのシナゴーグで乱射事件があり、11人が犠牲になった。「遂に来るべきものが来た」という印象を持つ。日本での報道は「米国で再び銃の乱射事件が発生」程度だったが、これは反ユダヤ主義の恥ずべき犯罪だ。この事件を自分自身の問題として捉えないと、今の米国の病理は理解できないだろう。

〇インド亜大陸
28-29日にインドのモディ首相が来日したが、安倍首相はインド首相を河口湖の自身の別荘に招待したという。日印関係の進展を象徴するようなエピソードだが、これ以外に特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。

8-11月2日 自由権規約人権委員会 第124回会合(ジュネーブ)
23-30日 対日理解促進交流プログラム・ミャンマー大学生及び社会人が訪日
25-11月8日 国際労働機関(ILO)理事会及び委員会 第334回会合 (ジュネーブ)
28-29日 インド・モディ首相の訪日
28-11月6日 対日理解促進交流プログラム・米国、韓国、フィリピン高校生が訪日
29日 米国・9月個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
29日 北方四島の共同経済活動について人の移動に関する局長級作業部会を開催(東京)
29日 「日韓文化・人的交流推進に向けた有識者会合」のメンバーが韓国を訪問
29日 長征2C(中仏協力海洋衛星)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
29日 H-IIAロケット40号機(いぶき2号など)打ち上げ(種子島宇宙センター)
29-30日 米国・ビーガン北朝鮮担当特別代表が訪韓
29-30日 EU運輸・観光担当相非公式会合(オーストリア・グラーツ)
29-11月1日 ネパール・バンダリ大統領がカタールを訪問
29-11月2日 林鄭月娥(キャリー・ラム)・香港特別行政区行政長官が訪日
29-11月16日 国際民間航空機関(ICAO)理事会 第215回会合(モントリオール)
30日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
30日 EU7-9月GDP発表
30日 北方四島における共同経済活動のプロジェクトに関する局長級作業部会を開催(モスクワ)
30日 韓国で元徴用工訴訟の最高裁判決
30-31日 ブラジル中銀、Copom
30-11月16日 国際麻薬統制委員会(INCB)第123回会合(ウィーン)
31日 EU9月失業率発表
31日 日露次官級協議の開催(モスクワ)
31-11月2日 国連世界観光機関(UNWTO)執行理事会 第109回会合(マナマ)
1日 英中銀が金融政策発表
1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表
1日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
2日 米国9月貿易統計、10月雇用統計発表
2-5日 パキスタン・カーン首相が中国を訪問
4日 ニューカレドニア・フランスからの独立を問う住民投票
4日 米国が冬時間入り
4日 ソユーズ2.1b(ロシア測位衛星GLONASS-M)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)

【来週の予定】
5日 世界津波の日
5日 ユーログループ(ブリュッセル)
5日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 米国が対イラン制裁第2弾(原油禁輸)を発動
5-10日 第1回中国国際輸入博覧会(上海)
6日 米国中間選挙
6日 グアム知事・副知事選及び総選挙
6日 EU経済財務相理事会(ブリュッセル)
6日か7日 ロシア10月CPI発表
7日 ブラジル10月IPCA発表
7日 マダガスカル大統領選挙
7日 ソユーズST-B(欧州気象衛星MetOp C)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
7-8日 米国FOMC
8日 欧州委員会秋季経済予測発表
8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8日 中国10月貿易統計発表
8日 メキシコ10月CPI発表
8-9日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)理事会(ジュネーブ)
9日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
9日 中国10月CPI発表、PPI発表
9日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
10日 アフガン下院選暫定結果発表(12月20日に最終結果発表)
11日 パリで第1次世界大戦終結100周年記念行事を開催
11日 米国・トランプ大統領がパリを訪問
11-15日 第33回ASEAN首脳会議、AEC協議会

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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