オバマ大統領の一般教書演説-再選運動スタート

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 1月24日、オバマ大統領は第一期目最後の一般教書演説(State of the Union Address)を行いました。毎年、1月の第3火曜日に必ず行われるこの演説は、日本で言うと総理の「施政方針演説」に一番近いものだと思いますが、メディアの注目度は施政方針演説の比ではありません。一般教書演説の日はどのメディアも午後6時以降は一般教書演説の特集を組み、それぞれの番組に昔、民主党、共和党それぞれの選挙アドバイザーを務めていた人がコメンテーターとして登場し、ニュースアンカー(日本でいうキャスター)と、演説の注目点、演説で予想される内容などについて延々と議論を続けます。深夜近くまであれやこれやと議論しているようすは、政治番組版の紅白を見ているようです。
 今年の一般教書演説は、今年再選を控えたオバマ大統領が、選挙活動に向けてどのようなメッセージを発するか、という視点から非常に注目されたものでした。演説は、1時間5分という長さでしたが、うち外交・安全保障政策に費やしたのはわずか6分。残りは経済政策に費やされました。
 経済政策では「経済格差の是正」「中産階級の再活性」「アメリカの製造業、アメリカのエネルギー産業、アメリカの技術労働者を基盤とする長持ちする経済の構築」をかかげ、「議会でこの目標を達成することに合意する誰とでも協力することを厭わない。ただし、昔のやり方に固執し、目標を阻害する勢力とは断固として戦う」と宣言しました。これは、膨らみ続ける財政赤字の現実を突きつけられても、歳入増に直結する税率の引き上げを頑なに拒否する一方で、ブッシュ政権時代に始まった減税措置の恒久化を求める、という昔ながらの主張を展開し続ける共和党への宣戦布告以外の何ものでもありません。
 さらに「国際貿易でアンフェアな商慣行を維持する国のケースを捜査する部署を新設する」という発表までありました。自動車のジープの宣伝を連想させる「長持ちする(built to last)経済」という言い回しも含めて、自動車業界のビッグスリーを含む製造業や不況にあえいでいる労働者人口へのこれほど露骨なアピールもないわけですが、ここで槍玉にあがったのは中国。1980年代であれば、日本が同じように槍玉に上がっていただろうなぁ、と思いながら演説を聴きました。
 ここまで再選アピールがはっきりしている演説をオバマ大統領が今回した背景には、おそらく世論調査の結果があるのではないでしょうか。演説の10日前の1月15日にワシントン・ポスト紙とABCニュースが共同で実施した世論調査では、回答者の大統領支持率と不支持率はどちらも48%と拮抗しています。さらに政策分野別の支持・不支持を見ていくと、今年の大統領選の最大の争点となることが確実な「経済政策」の分野でオバマ大統領のパフォーマンスを支持しているのは41%、対して不支持が57%。「雇用創出」の分野でもオバマ大統領の不支持率は51%、さらに政府の債務問題については不支持は58%となっています。さらに、演説の次の日にピュー・リサーチ・センターが発表した世論調査では、回答者の実に81%が、大統領は国内問題にフォーカスすべきだ、と答えています。

選挙の争点になる政策分野で不支持が支持を上回る、という極めて厳しい状況で再選運動に打って出るオバマ大統領が出来ることはただ一つ。一方では経済政策の分野で一般の有権者に分かりやすいメッセージを打ち出すことで「事態の打開に頑張るオバマ」「普通の国民の味方のオバマ」のイメージを押し出し、その一方で共和党が候補者選びでもたついている間に「金持ちの味方の共和党」「中産階級に冷たい共和党」「格差社会を容認する共和党」「財政赤字が危機的状況なのに、頑なな共和党」のイメージを先手を打って定着させることで、自身への批判をかわすことです。一般教書演説で打ち出したメッセージをよりきめ細かく有権者に伝えるため、オバマ大統領が翌25日からアイオワ州をはじめ、選挙戦略で重要と見なされている数州に行脚に出かけていることが、何よりの証拠でしょう。
 1期目最後の一般教書演説もすませ、完全に再選運動モードに入ったオバマ大統領。他方、共和党の予備選を見れば、党内が一番本選でオバマ大統領に勝てる可能性があると言われているロムニー元知事支持でまとまりきらないどころか、サウスカロライナ州での予備選以降、一時は大統領選撤退間近かとささやかれていたギングリッチ元下院議長が完全に息を吹き返し、予備選初期の節目となる1月31日のフロリダ州予備選ではロムニー氏と互角の戦いを演じています。ブッシュ大統領が再選した2004年の大統領選挙も、ブッシュ大統領への支持は衰えていましたが、民主党側の候補者がジョン・ケリー上院議員というあまりに魅力のない候補であったという「敵失」に助けられ、危なげなく再選を話しました。今回、候補者の一本化に時間をかけすぎた共和党があの時の民主党と同じ命運をたどるのかどうか、今後の展開が気になるところです。
 ところで、私がワシントンの日本大使館に務めていたとき、一般教書演説のときは何故かいつも「日本が何回言及されたか」(そもそも日本が言及されることは殆どない)に始まり、「スタンディング・オベーションは何回、全部でどれくらいの時間続いたか」といったことも当時の北米一課の担当官の方に報告を求められました。あれは一体、なぜだったのでしょう。

(辰巳由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)
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