DC道場フェロー・レポート(下院編・11月9日)

 コミュニケーションとは、一体何であろうか?大雑把に定義付けすれば、感情・意思・情報等を伝え合うことだと言える。私達は日頃のコミュニケーションの手段として、言語(音声や文字等)と、言葉以外の非言語(表情、態度、雰囲気等)を使っている。英語が達者ではない私にとっては、非言語コミュニケーションも非常に重要なツールである。今夜は、私にとっては非常に使い慣れた非言語コミュニケーションのツール(勿論言語も使用するが)を駆使する機会に恵まれた。少年時代に始めて以来、もはや四半世紀以上修業している少林寺拳法を、ワシントンDCでも稽古することになったのである。本ブログの上院編の最初の記事に、「DC道場とは、ワシントンで武道を習おうというものではない」と書かれているが、私は最初から武道もやる気満々で密かに道着を持参していた。DCで稽古できる場所は、世界銀行の少林寺拳法部だけである。なかなかコンタクトが取れなかったが、たまたま知り合った世界銀行のスタッフが親身になって社内で修行者を探し出して下さり、ようやく稽古に参加できるようになった。


 少林寺拳法についての詳細な説明は割愛して、またまた大雑把に言うと、インドで発生した古代仏教の時代から仏僧の修行法の一つとして武術があり、達磨大師によって前漢の武帝の時代に中国に伝わった。禅の修行において武術は、座禅に対して動禅と位置付けられている。大東亜戦争の際に中国大陸で活動していた宗道臣という人物が、敗戦直後の日本国民の意気消沈振りとモラルの低下という体たらくを目の当たりにし、「国造りの基本としての人造りをしたい」という趣旨で、自身が学んだ日本古来の武術と中国大陸で学んだ武術を整理しなおして新しく体系立てて教え始めた。祖国の平和のために同志が団結して行動することを組織目標とし、その考えに賛同する人々が今や海外にも広がり、修行者は世界でみると140万人になる。同志の団結を大切にするので、初対面でも少林寺拳法の拳士であると分かれば、国も宗教も民族も超えて最大限の協力を惜しまないという暗黙の了解がある(一応禅宗の教えを奉じているが、他宗の信者が入門しても構わないし、宗旨替えを求めることも一切していない)。こうした背景があって、私もすんなりと世界銀行少林寺拳法部に参加させて頂けた。これは、拳による非言語コミュニケーションである。


 世界銀行の少林寺拳法部は、その昔日本人の職員によって開設された。今はその方も退職されており、米国人が中心となって運営している。現在定期的に参加しているメンバーは、4名だという。人数が少ないからといって、侮ってはいけない。高段者の教えに接する機会が少ない海外の支部の方が、飢餓感から来る熱意や集中力においては日本人を遥かに上回っており、相当な実力を持っていることは英国留学時代に体験済みである。自分自身を顧みると、事情によってここ2~3年あまりロクに稽古していない上に、DCに来てから凄まじい高カロリーの食事を余儀なくされているため、持参した道着の帯が蝶ネクタイのようになってしまうのではないかと心配であったが、思い切り腹を引っ込めて締め上げると、どうにか恰好がついた。しかし、想像以上に体は重くて固く、準備運動の時点で既に息が上がりそうだ。だがそこはキャリアが長いので、どうにかごまかしつつ進行に従っていく。基本の突き・蹴りになると、いよいよ苦しくなる。しかし、これも気合だけは元気よくこなし、後半の時間は技の解説を担当し、無事に本日の練習を終えた。練習後は少林寺拳法の禅に由来する哲学について、ビールを片手に語り合った。修業をする上で技術の向上よりも力点を置いて説かれるのは、「半ばは自己の幸せを、半ばは他人の幸せを」ということと、「力なき正義は無力なり、正義無き力は暴力なり」ということである。少林寺拳法の修行を通じて、力と愛の調和が取れた心身ともに逞しい自己の確立をした上で、己のことばかりでなく半分は他人のことも思い遣れるような、そんな人間が一人でも多くなれば社会は変わっていくという教えである。例えば世界銀行支部には、後輩の若い拳士のモチベーションを下げたくないという一心で、アナポリスから片道40マイルの道のりをかけて週に2回通ってくる海軍兵学校の教官がいる。現在64歳だという。自分のためのみでなく、後輩を思う気持ちに突き動かされて通ってくる彼は、非常に静かで控えめな態度の中にも熱い情熱を濃厚に漂わせている好漢である。初対面でも同じ価値観を有している仲間というのは、実に有難い。少林寺拳法の仲間であれば世界中のどこで出会っても、共に拳を交わせば瞬時に打ち解けられる。そのような理想を、国際政治の場で実現できるかどうか挑戦するというのは、夢物語に過ぎるであろうか。そんなことを酔っぱらった頭で妄想していたが、酔った勢いで巨大なハンバーガーを平らげてしまい、折角運動して消費した以上のカロリーを摂取してしまったのであった。ウェスト周りをすっきりさせるという理想の実現は、夢物語となりそうである。(了)

(柄山直樹 PAC道場第2期生)

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