先週末、駆け足でワシントンに出張してきた。米国出張中は努めてCNNとFox News(FOX)を見比べるようにしている。これって結構大変、部屋のテレビで10分から15分おきに交代でCNNとFOXを見続けるのだから、実にせわしない。だが、二つの局が同じニュースを全く違う角度から報じる姿は、まるで「一国二制度」のようだ。

これまで米国ケーブルニュース市場は、保守系のFOX、リベラルのMSNBCとその中間にあるCNNというのが相場だったが、今はFOXが視聴者数ではトップらしい。しかも、2016年にトランプ氏が大統領に選出されて以来、中立系CNNと保守系FOXの報道姿勢の差は拡大している。詳細は今週火曜のJapanTimesに書いたので読んで欲しい。

一言で言えば、FOXは越えてはならない一線を越えてしまったが、CNNも最近は中道から左に大きく振れている。要するにどちらも極端で目糞鼻糞なのだ。出張中にニュージーランドで白人至上主義者がモスク礼拝中のイスラム教徒に銃を乱射し50人もの死者を出した事件が発生したが、これに関するCNNとFOXの報道ぶりが全く違うのが典型例。

このように米国社会の分裂は深まるばかり。米国のジャーナリズムはどこへ行ってしまったのか。日本ではこのような非難合戦は決して起きない。放送法第4条で、「放送内容は公序良俗に反せず、政治的に中立を守り、事実を歪曲してはならない」などと定めているからだが、米国は1987年にこの種の「中立原則」を撤廃している。

政治的中立を求めなくなれば、テレビ局は勝手な報道を始める。他方、中立原則を維持したからといって公平な報道が続くとは限らない。そうなれば、問題は中立原則の有無ではなく、ジャーナリズムが成熟しているか否か、かもしれない。少なくとも米国のジャーナリズムの劣化は顕著だ。日本にとっても対岸の火事ではないだろう。

〇アジア
先週北朝鮮の外務次官が記者会見を開き、「米国の強盗のような姿勢は事態を明らかに危険にさせる」「米国は千載一遇の機会を逃した」「最高指導部が近く自らの決心を明らかにする」などと述べたが、翌日の北朝鮮メディアはこのニュースを一切報道していないらしい。
素直に読めば、北朝鮮は米国に強く再考を求め、それが駄目なら深刻な事態を招くと警告するが、米国との決定的な関係悪化は望んでいない、ということだろう。近く金委員長が第二回首脳会談後の行動計画を盛り込んだ公式声明を発表するらしいが、韓国メディアはこれを交渉局面を壊さないための「水位調節」と分析しているようだ。
それにしても、北朝鮮は困っているだろう。今更、核兵器廃棄に応ずる訳にもいかないし、かといってこれ以上の経済制裁は耐え難い。ここは中露と韓国から騙し騙し、かつ秘密裏に、経済支援を獲得していくしかないが、そんなにうまく行くだろうか。北朝鮮の暴発よりも、トランプ氏の変節の方が可能性が高いかもしれない。要注意だ。

〇欧州・ロシア
今週ロシア大統領がクリミアを訪問し、クリミア併合5周年を祝い、新しい発電所二か所の開所式に参加するという。あれからもう5年も経ってしまったのか。ちなみに、ここで使われる発電用タービンは独シーメンス社製だが、同社はそうした事実を知らなかったという。要するに経済制裁違反と言うことだが、ロシア側は否定しているそうだ。

〇中東
14日夜のテルアビブに対するガザからのロケット弾攻撃に報復すべく、イスラエル軍は17日までにガザを実効支配するハマースの拠点約100カ所を空爆したという。被害はなかったとはいえ、ガザからのロケット弾攻撃は2014年以来初めてだそうだ。通常イスラエルの報復攻撃は容赦がないから、攻撃連鎖の可能性も懸念される。
そもそも中東では、どこかで和平の動きがあると、必ずといって良いほど、そうした和平プロセスを潰す動きが表面化する。これはアラブ、イスラエル双方とも得意の常套手段だから始末が悪い。今回もエジプトの仲介で停戦延長交渉が続いていたとの報道もあるから、これに反対するハマースの少数派が妨害に出た可能性もある。

〇南北アメリカ
米大統領が相変わらず炎上している。今週はニュージーランドでのモスク銃乱射事件で、トランプ氏が米国イスラム教徒への同情や白人至上主義者に対する非難の言葉を口にしなかったことが批判されている。ホワイトハウスは大統領が「白人至上主義者ではない」と発表したが、問題は白人至上主義者かどうかではなく、あの多弁な大統領自身が完全に沈黙していること自体なのだ。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

2月25-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
3月4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
11-4月5日 国連総会 第5委員会 再開会期第一部(ニューヨーク)
14-22日 国連麻薬委員会 第62回会合(ウィーン)
14-28日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会 第335回会合(ジュネーブ)
16-23日 薗浦内閣総理大臣補佐官がジブチ、インドネシア及び英国を訪問
17-18日 EU外相理事会(非公式会合)(ブカレスト)
17-30日 エレクトロン(R3D2)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
18日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18日- 日ロさけ・ます漁業交渉の開催
18-19日 日・ベトナム受刑者移送条約交渉第2回会合が開催(ハノイ)
18-19日 第13回日本・シンガポール・シンポジウムを開催(東京)
18-21日 香港インターナショナル・フィルム&テレビ・マーケット(フィルマート)
18-22日 ASEAN-日本科学技術イノベーション共同研究(バンコク)
18-29日 国際化学物質安全性カード(ICSC) 第88回会合(ニューヨーク)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 米ブラジル首脳会談(ホワイトハウス)
19-20日 米国FOMC
19-20日 ブラジル中央銀行、Copom
19-20日 第15回アジア不拡散協議(ASTOP)の開催(東京・三田共用会議所)
19-26日 JENESYS2018・ラオスから高校生や大学生らが訪日
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
20日 英国のEU離脱合意案の3度目の採決
20日か21日 ロシア1月貿易統計発表
21日 ECB一般理事会(フランクフルト)
21-22日 欧州理事会(ブリュッセル)
21-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21-28日 台湾総統が南太平洋3カ国のパラオ・ナウル・マーシャル諸島を歴訪
22日 ロシア中央銀行理事会
22日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
22日か25日 ロシア2月雇用統計発表
22-23日 「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」第4回会合を開催(京都)
23-24日 国際女性会議WAW!(都内)
24日 タイ総選挙投票日
24日 ブルキナファソ・憲法改正を巡って住民投票
24日 コモロ連合・大統領選挙
24-28日 東ティモール・バボ外務・協力大臣が訪日

【来週の予定】
25日 OS-M1(魂鵲一号B(Lingque 1B))打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
25-26日 第16回ASEAN-カナダ対話(カナダ)
25-28日 欧州議会本会議(ストラスブール)
25-4月5日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会B及び非公式・専門家委員会 第52回会合(ウィーン)
26日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
26-27日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(非公式会合・運輸)(ブカレスト)
26-29日 ボアオ・アジアフォーラム(中国海南省)
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
27-28日 ASEAN-米国対話(米国)
28日 米国2018年第4四半期および2018年年間GDP発表(確定値)
29日 第3回持続可能な開発に関するASEAN共同体ビジョン2025とUN2030アジェンダの相互補完の強化に向けた対話
29日 米国2月PCE物価指数発表(商務省)
29日 ブラジル2月全国家計サンプル調査発表
29日 ソユーズST-B(4機の通信衛星O3b)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
30日 スロバキア大統領選挙
30日午前0時〔中央ヨーロッパ時間(CET)〕英国のEU離脱
30-31日 フランシス法王がモロッコを訪問
31日 ウクライナ大統領選挙
31日 トルコ統一地方選挙
31日 長征3B(天鎖二号01星(Tianlian 2))打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
31-4月2日 ブラジル・ボルソナーロ大統領がイスラエルを訪問

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2019年3月19日(火) | [ ]

先週末泊りがけで24時間、キヤノングローバル戦略研究所が政策シミュレーションを実施した。今回のお題は「インド太平洋は新しい戦略空間になるか?」という実にマニアックなもの。インド洋のスリランカ、モルディブだけでなく、アンダマン諸島やココ諸島といった専門家しか知らないような地名が乱れ飛ぶ珍しいゲームとなった。

同シミュレーションの総括は今週のJapan Timesと産経新聞にそれぞれ書いたので関心があれば一読願いたい。2009年に設立されたキヤノングローバル戦略研究所は今年が創立10周年、今回のシミュレーションも第30回目という節目になった。よくぞ30回もできたものだ。ご参加・ご支援くださった皆様には心から御礼申し上げる。

先週あれほど大騒ぎだった北朝鮮問題も、今週ばかりは静かだった。外交実務を経験した筆者から見れば、今回の米朝交渉は全てが異例だ。仮に今回決裂していなくても、いずれ一度は決裂する運命にあったと考える。普通なら相当の冷却期間が必要なのだろうが、何しろ相手はトランプと金正恩だからAnything goes!だ。

トランプ氏といえば、先日共同通信のご好意でSバノン元ホワイトハウス首席戦略官に会えた。大テーブルでの食事会でじっくり話せなかったが、とにかく頭の良い思想家・革命家だと感じた。彼の「反中国」「経済ナショナリスト」「ポピュリスト」的基本姿勢は今も全くブレていない。その意味で、やはり彼は「政治家」ではないのだろう。

彼の中国に対する警戒感は実に強烈だから、日本の保守層にファンが多いのかもしれない。だが、彼の本質は単なる「反中」ではない。彼が「反中」である理由を正確に理解しないと、日本の反中派・嫌中派はSバノンを読み誤ることになる。2020年の米大統領選挙で彼は何をするのか、しないのか。彼の真価が問われるのはその時だ。

〇アジア
北京で全国人民代表大会(全人代)が開かれている。習主席は「2020年末までに全地域を貧困から脱却させる目標を必ず達成する」よう要請し、「衣食の心配がなく、義務教育、医療、住宅が保障されていることが貧困脱却の基準だ。これを引き下げてはならない」と全人代で命令し、背いた幹部は徹底的に取り締まると強調したそうだ。
でも、これって、中間幹部が可哀そう過ぎないか。衣食も、教育も、医療も、住宅も保障なんて出来る訳がないからだ。筆者の短い経験上、中国の指導者が「○○しなければならない」と強調する時は、実際には「○○が実行されていない」ことを意味する。ということは衣食から医療、住宅までまだ貧困地域には問題が山積みということだ。

〇欧州・ロシア
離脱か、残留か、または決断延期か?ハムレット以上に複雑な選択肢が英国首相を悩ませている。しかし、元はといえば、メイ首相自身が打った解散総選挙に敗北したことが全ての始まりだから、自業自得ともいえる。しかし、問題は彼女だけではなく、英国そのものが疑問視され始めたこと。3月29日の期限まで時間はあまりにも短い。

〇中東
理由は不明だが、最近中東からの大きなニュースが少ない。強いて言えば、先週8日、米国の中東和平交渉担当特使の一人がテロリストを支援しているとしてパレスチナ自治政府を厳しく批判したというニュースぐらいか。だが、これも別に目新しくない。米政府がパレスチナ問題に関心を失って久しいが、状況は悪化するばかり。注目すべきは、11日にイラン大統領がイラクを訪問することぐらいか。

〇南北アメリカ
米大統領が相変わらず迷走中だ。今度はメキシコ国境「壁」建設に2020年度予算で86億ドルも要求するそうだ。国家非常事態宣言で使った国防省予算の穴埋めをするのだろう。昨年の要求額57億ドルを大幅に上回るが、昨年は議会側が反発し35日間の米政府一部閉鎖に繋がった。今回の要求により議会との対立再開は必至だろう。

〇インド亜大陸
11日にインドの総選挙日程が発表された。4月11日から5月19日まで7週間かけて全土で実施されるという。最近のパキスタンとの緊張拡大が選挙戦術とは思いたくないが、現首相は再選を狙っている。どうなることやら。有権者9億人の民主主義、というだけで凄いと思う。今週はこのくらいにしておこう。

18-3月15日 国際民間航空機関(ICAO) Council phase 第216回会合(モントリオール)
25-3月15日 国際海底機構(ISA)総会 first part (キングストン)
25-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
3月4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
5-14日 対日理解促進交流・日本の大学生らが韓国を訪問
7-12日 パラオ・レメンゲサウ大統領が訪日
10-14日 日中植林・植樹国際連帯事業・2019年青島市青年代表団が訪日
10-17日 JENESYS2018モンゴル青少年の訪日
10-17日 日中植林・植樹国際連帯事業・2018年度中国大学生訪日団が訪日
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
11日 イラン・ローハニ大統領がイラクを訪問
11-12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
11-12日 OECDデジタル化(Going Digital)会議(フランス・パリ)
11-14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11-15日 第4回国連環境総会(ケニア・ナイロビ)
11-16日 山田外務大臣政務官がフランス、ドイツ及びオーストリア訪問
11-4月5日 国連総会 第5委員会 再開会期第一部(ニューヨーク)
12日 米国2月消費者物価指数(CPI)発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
12日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 英・EU離脱修正案の議会採決期限
12-13日 第35回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース会議(バンコク)
12-13日 「ASEAN日本企業支援担当官会議」の開催(シンガポール)
12-15日 化学兵器禁止機関(OPCW)執行理事会 第90回会合(ハーグ)
12-15日 平成30年度欧州大使会議の開催(外務省)
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
13日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
14日 ブラジル1月月間小売り調査発表
14日 中国2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 パキスタン代表団がシーク教徒の巡礼道を話し合うためインドを訪問
14日 デルタ4(WGS 10)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
14-15日 APEC質の高いインフラ・ハイレベル会議(東京)
14-22日 国連麻薬委員会 第62回会合(ウィーン)
14-28日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会 第335回会合(ジュネーブ)
15日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当理事会(ブリュッセル)
15日 EU2月CPI発表
15日 中国全国人民代表大会(全人代)閉幕、李首相が会見(北京)
15日 ソユーズFG(長期滞在ミッション用ソユーズMS-12)打ち上げ(バイコヌール基地)
16日 スロバキア大統領選
16日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
17日 兵庫県明石市長選
17-18日 EU外相理事会(非公式会合)(ブカレスト)

【来週の予定】
18日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18-21日 香港インターナショナル・フィルム&テレビ・マーケット(フィルマート)
18-22日 ASEAN-日本科学技術イノベーション共同研究(バンコク)
18-29日 国際化学物質安全性カード(ICSC) 第88回会合(ニューヨーク)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 米ブラジル首脳会談(ホワイトハウス)
19-20日 米国FOMC
19-20日 ブラジル中央銀行、Copom
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
20日か21日 ロシア1月貿易統計発表
21日 ECB一般理事会(フランクフルト)
21日 PSLV C45(EMISATと相乗り超小型衛星29機)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
21-22日 欧州理事会(ブリュッセル)
21-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
22日 ロシア中央銀行理事会
22日か25日 ロシア2月雇用統計発表
23-24日 国際女性会議WAW!(都内)
24日 タイ総選挙投票日
24日 ブルキナファソ・憲法改正を巡って住民投票
24日 コモロ連合・大統領選挙

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2019年3月12日(火) | [ ]

先週第二回米朝首脳会談が、遂にと言うべきか、本来あるべき形でと言うべきか、やっぱり決裂した。先週の本コラムで「正直言って首脳会談にはあまり期待していない」とは書いたが、まさかここまで酷い結果になるとは思わなかった。最低の予想を更に下回る最悪の結果に終わったと言えるだろう。これだから素人外交は怖いのだ。

北朝鮮は「非核化」、すなわち北朝鮮が現在保有するものに加え、全ての核兵器・運搬手段を含む開発プログラムそのものを廃棄すること、について譲歩することはないだろうと前回書いたが、この考えは今や確信となりつつある。一部本邦専門家は「金正恩は核廃棄を覚悟している」と言うが、それならこんな結果にはならないはずだ。

それにしても気の毒なのは北朝鮮外務省の女性次官・チェソンヒ(崔善姫)女史だ。彼女は数年前筆者が米国のアジア関係団体の訪朝団に紛れ込んで北朝鮮を訪問した際に会った覚えがある。会談決裂の後、異例の北朝鮮外相記者会見に同席していたが、その際の彼女はショックのためか、茫然自失で何か思い詰めたような表情だった。

次回の会合があるかどうかすら不明だが、彼女が責任を取らされる可能性は十分ある。今回の首脳会合決裂の最大の理由は北朝鮮の米国内政に関する認識が不十分だったからだ。トランプ外遊中に行われた下院公聴会でトランプ氏の元個人弁護士マイケル・コーエン氏が爆弾発言を連発し、大統領は政治的窮地に追い込まれた。

トランプ氏にとっては、首脳会談の行方よりも、ワシントンでの彼自身の評判の方がはるかに重要だ。それにも拘らず、北朝鮮はサラミを薄く切り過ぎた(十分な譲歩をしなかった)。彼らはコーエン発言により生じたトランプ氏の窮地を過小評価し、従来通り強気でトランプ氏に経済制裁の大幅解除を求めたが、これは結果的に失敗だった。

この辺の詳細については、火曜日のJapan Timesにコラムを書いたので、お時間があればご一読願いたい。但し、申し訳ないが、日本語版はないので、念のため。簡単に言えば、交渉決裂は今ではなく、昨年6月12日にシンガポールで起きてもおかしくなかった。逆に言えば、過去8か月の米朝交渉は一体何だったのかということだ。

更に気になることがある。米国防総省は米韓両軍が毎年春に実施する大規模合同軍事演習の規模を縮小し内容を絞り込んだ訓練に変更して実施する方針を決めたと報じられた。国防当局は北朝鮮との緊張緩和に向けた措置の一環というが、トランプ氏はこれで巨額の費用が節約されたと主張する。この人は何も分かっていないのだ。

規模縮小対象は野外機動訓練である「フォールイーグル」と、米軍増援・指揮態勢を点検する演習の「キー・リゾルブ」だそうだ。現在新たな訓練内容の策定を進めているらしいが、こんなことを繰り返していたら、在韓米軍の抑止力というか実戦作戦能力は徐々に低下していき、効果的な米韓統合運用自体もいずれ難しくなるのではないか。

練習をしないで金メダルを取れるオリンピック選手などいないが、同様に訓練をしないで効果的抑止力を維持できる軍隊など存在しないだろう。米国防当局者によれば、こうした方針は米朝首脳会談とは無関係であり、これまで長期間検討されてきたというが、北朝鮮が非核化の定義すら示さない今、一体これに何の効果があるというのか。

〇アジア
米中の貿易協議が最終段階に入ったと報じられている。米中首脳会談開催は3月27日とも言われるが、先週の米朝決裂を見て今頃中国は戦々恐々だろうと思う。何しろ、中国ではハノイのようなドタキャンは絶対に許されない。国家指導者のメンツが潰れるからだ。しかし、トランプ氏はそんなこと全く意に介さないだろう。
いずれにせよ今回米中は「合意」を求めており、何らかの「合意」なるものは出来るだろう。問題はそれが内容的に暫定的、限定的、表面的なものに終わる可能性が高いことだ。北朝鮮と同様、中国の貿易政策は中国の国家安全保障と直結しており、前者を変えるということは中国共産党の体制自体を変えることを意味するからだ。

〇欧州・ロシア、中東
イスラエル首相が苦境に陥っている。4月9日の総選挙を前に、検察当局が汚職容疑で起訴する可能性に直面しているからだ。ネタニヤフは在職13年のベテラン政治家だが、この13年でイスラエル内政は大きく変わった。彼が率いるリクードは昔は極右に近かったが、今や中道右派に近いのだから、時代は変わったものである。
一昔前、イスラエル内政といえば小政党乱立で連立政権作りが難航するパターンが多かったが、これは現在も変わらない。全120議席のクネセット(イスラエル国会)で30議席しかないリクードは、これまで超保守や極右政党との連立で政権を維持してきたが、今回はどうか。こういう時に限って軍事的緊急事態が事態を変えるかもしれない。

〇南北アメリカ
昨年最後の本コラムで筆者は、「司法省内で捜査活動を制止できても、民主党が多数派となった下院での動きは止められない。これからは下院のあらゆる委員会で、公聴会、召喚状、宣誓証言といった言葉が乱れ飛び、トランプ氏の身内や側近が多数、公開火炙りの刑に服するだろう」と書いた。これが今週遂に始まったようだ。
3月4日、民主党が支配する下院司法委員会はトランプ氏の息子、娘婿、ホワイトハウス、大統領選挙関係者、トランプ関連企業などを含む81の個人と団体につきロシア疑惑、司法妨害、権力乱用から個人的ビジネス活動にいたる大規模な調査を開始すると発表した。関係者には任意の資料提供を求める書簡が発出されるという。
これで駄目なら召喚状が出され、宣誓証言を求める公聴会が延々と、恐らく一年以上、続くことになる。当然これも2020年大統領選キャンペーンの一環だが、状況はますます1972-74年のウォーターゲート事件に似てきた。今週から米国内政は下院民主党とトランプ氏との死闘一色となるだろう。米国有権者はどこまで耐えられるのだろうか。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

2月11日-3月8日 平和維持活動特別委員会及び作業部会 実質会期(ニューヨーク) 
18日-3月8日 経済的、社会的、文化的権利委員会 第65回会合(ジュネーブ)
18日-3月15日 国際民間航空機関(ICAO) Council phase 第216回会合(モントリオール)
25日-3月15日 国際海底機構(ISA)総会 first part (キングストン)
25日-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
28日-3月7日 対日理解促進交流・「日ASEANスポーツ交流(女子サッカー)」の実施
3月2-9日 外務省が在米日系人リーダー一行を招へい
3-5日 鈴木外務大臣政務官が英国及びフランスを訪問
4日 欧州議会委員会会議
4日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
4-8日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
5日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
5日 第13期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)
5日 元トランプ選対本部議長のマナフォート被告の判決(本連邦地裁)
5日 ミクロネシア連邦・連邦議会選及び住民投票
5日 ジュネーブ国際自動車ショー開幕(一般公開は7日から)
6日 米国2018年12月貿易統計発表
6日 米国ベージュブック(FRB)
6日 ファーウェイ副会長が身柄引き渡しに関する審理に出廷(バンクーバー)
6日か7日 ロシア2月CPI発表
6-7日 マレーシア首相がフィリピンを訪問
7日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策と記者会見)(フランクフルト)
7日 OECD世界経済見通し
7日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
7日 EU2018年第4四半期実質GDP成長率発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7-8日 ASEAN高級実務者会議(タイ・チェンライ)
7-8日 ASEANプラス3金融タスク・フォース会議(香港)
7-8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7-8日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
8日 中国2月貿易統計発表
8日 米国2月雇用統計発表
9日 中国2月CPI発表
9日 ナイジェリア州知事選挙、州議会選挙
10日 マダガスカル国民議会総選挙
10日 ギニアビサウ国民議会議員選挙
10日 米国夏時間入り
10日 長征3B/G2(中星6C)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)

【来週の予定】
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
11日 イラン・ローハニ大統領がイラクを訪問
11-12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
11-12日 OECDデジタル化(Going Digital)会議(フランス・パリ)
11-14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11-15日 第4回国連環境総会(ケニア・ナイロビ)
11-4月5日 国連総会 第5委員会 再開会期第一部(ニューヨーク)
12日 米国2月消費者物価指数(CPI)発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
12日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12-13日 第35回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース会議(バンコク)
12-15日 化学兵器禁止機関(OPCW)執行理事会 第90回会合(ハーグ)
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
13日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
14日 ブラジル1月月間小売り調査発表
14日 中国2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 デルタ4(WGS 10)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
14-15日 APEC質の高いインフラ・ハイレベル会議(東京)
14-22日 国連麻薬委員会 第62回会合(ウィーン)
14-28日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会 第335回会合(ジュネーブ)
15日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当理事会(ブリュッセル)
15日 EU2月CPI発表
15日 ソユーズFG(長期滞在ミッション用ソユーズMS-12)打ち上げ(バイコヌール基地)
16日 スロバキア大統領選
16日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
17-18日 EU外相理事会(非公式会合)(ブカレスト)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2019年3月 5日(火) | [ ]

今週はベトナムで第二回米朝首脳会談が予定されているが、正直言って首脳会談にはあまり期待していない。今回も北朝鮮の「非核化」、すなわち北朝鮮が現在保有するものだけでなく、全ての核兵器・運搬手段を含む核兵器開発プログラムそのものを廃棄することについて北朝鮮が譲歩する可能性は極めて低いと考えるからだ。

しかし、「それでは身も蓋もない。何かコメントせよ」、とお叱りを受けそうなので、今回はもう少し大局的見地から、なぜ北朝鮮が核開発を止めないのか、なぜ韓国が北との関係改善を急ぐのか、について考えてみたい。これから述べることが正しければ、米国の大統領が誰であれ、こうした歴史的潮流を止めることはできないだろう。

何故そう考えるようになったのか。視点を変えて、北朝鮮と韓国の立場で考えれば、全てが合点がいく。筆者の仮説はこうだ。


● 1990-91年のソ連崩壊は北朝鮮の金日成と金正日にとって建国後最大のショックだったに違いない。ソ連の次は北朝鮮だと一時は確信したのではなかろうか。


● 北朝鮮がこの状況下で生き延びるためには核兵器を保有するしかない。1994年以降の核兵器開発は北朝鮮生き残りのための金正日の確信犯的行動である。


● 朝鮮半島の歴史は周辺の強国への半従属の歴史だった。半島で強大な独立国家が栄えたことは稀で、多くは最も強大な隣国との冊封関係で生き延びてきた。


● こうした歴史を知れば、北朝鮮の「主体思想」なるものも、朝鮮民族の「他に依存せず、自らの歴史の主体となりたい」という願望の一側面であることが判るだろう。


● 韓国の文大統領は確かに左翼だが、彼も左派のナショナリストだと考えれば合点がいく。彼は韓国が米国の影響下にあることが耐えられないのだろうと思う。


● 北朝鮮だって同じ。中国やソ連の影響下にあることへの不満は小さくない。中朝は基本的に相互不信であり、最近の関係改善はあくまで戦術的なものだろう。


● 21世紀に入り、こうした南北朝鮮の歴史的願望が叶う可能性が出て来た。しかも、北朝鮮は核兵器開発に漸く成功し最低限の対米、対中抑止力まで手に入れた。


● 一方、米国にトランプ政権が誕生し、半島からの米軍撤退の可能性が出てきた。韓国では文在寅・左派ナショナリスト政権が誕生し、南北に共通言語が戻った。


● 今回の平和攻勢は、最終的にどちらが生き残るかは別にして、南北が戦術的に協力して朝鮮半島への周辺大国の影響力を減らす南北共同のシナリオではないか。


● 文在寅にとって北朝鮮の核は当面気にならない。彼は北が韓国に対し核兵器を使うことはないと信じ切っているだろうからだ。これでは「非核化」が進むはずはない。


● しかし、こうした南北共同シナリオはいずれ破綻する。南北朝鮮には中国や米国の意図を挫くだけの十分な国力・政治力がないからだ。


● 現下の状況はトランプ政権が続く限り変わらないだろうが、トランプ氏が政治の舞台から退場すれば、南北共同シナリオのモメンタムは失われるだろう。


● それが数カ月後か、二年後か、もしくは六年後かは判らない。だが、文在寅政権が続く限り、こうした南北共同シナリオに沿って動き、日韓関係は更に悪化するだろう。


今週は国内移動中につきこのくらいにしておこう。

2月11日-3月8日 平和維持活動特別委員会及び作業部会 実質会期(ニューヨーク) 
18-3月8日 経済的、社会的、文化的権利委員会 第65回会合(ジュネーブ)
18-3月15日 国際民間航空機関(ICAO) Council phase 第216回会合(モントリオール)
19-26日 対日理解促進交流・「日ASEAN学生会議」参加者の大学生らが訪日
19-28日 第25回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉会合(バリ)
19-28日 対日理解促進交流・韓国の大学生らが訪日
22-27日 薗浦内閣総理大臣補佐官が米国ワシントンD.C.を訪問
23-28日 辻外務大臣政務官が米国およびスイスを訪問
23-3月1日 平成30年度日豪若手政治家交流・豪議員団が訪日
24-25日 EU・アラブ連盟首脳会議(エジプト)
24-26日 ベトナム・グエン・フー・チョン書記長兼国家主席がラオスとカンボジア外遊
24-27日 パキスタン・クレーシ外務大臣が訪日
25日 米・ペンス副大統領がコロンビアを訪問
25日 メキシコ2018年第4四半期GDP発表
25日 イギリス領ヴァージン諸島の議会選挙
25日か26日 ロシア2018年貿易統計発表
25-26日 平成30年度エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議を開催
25-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-3月1日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 first regular session(ローマ)
25-3月3日 対日理解促進交流・中国青年公益事業交流団が訪日
25-3月15日 国際海底機構(ISA)総会 first part (キングストン)
25-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
26日 メキシコ2018年12月小売・卸売販売指数発
27日 メキシコ1月貿易統計、雇用統計発表
27日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
27日 ソユーズST-B(OneWeb衛星10機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
27日 アルメニア首相がイランを訪問
27-28日 米朝首脳会談(ハノイ)
28日 ブラジル2018年第4四半期GDP発表
28日 米国2018年第4四半期および2018年年間GDP発表(改定値)
28日 リビア・新憲法を巡って国民投票
28-3月1日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
3月1日 EU1月失業率発表
1日 米・PCE物価指数(商務省)
1日 米中貿易協議の交渉期限
1日 朝鮮「三・一独立運動」から100年
2日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン デモミッション1)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
2-3日 外務省及び在ロシア連邦日本国大使館が「地域の魅力海外発信支援事業」を開催(モスクワ)
3日 第13期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)
3日 エストニア議会選挙
3日 東京マラソン

【来週の予定】
4日 欧州議会委員会会議
4-8日 国際原子力機関(IAEA) 理事会(ウィーン)
4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
5日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
5日 第13期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)
5日 ミクロネシア連邦・連邦議会選及び住民投票
5日 元トランプ選対本部議長のマナフォート被告の判決(本連邦地裁)
5-7日 スリランカビジネス投資会議2019開催
6日 米・ベージュブック(FRB)
6日か7日 ロシア2月CPI発表
7日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ブリュッセル)
7日 米国1月貿易統計発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
7日 EU2018年第4四半期実質GDP成長率発表
7-8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7-8日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
8日 中国2月貿易統計発表
8日 米国2月雇用統計発表
9日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
10日 マダガスカル・国民議会選
10日 ギニアビサウ・国家人民会議選
10日 米・夏時間入り

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2019年2月26日(火) | [ ]

先週、遂にトランプ氏は憲法問題に発展しかねない「禁じ手」を使った。行政の長である合衆国大統領の非常大権を使い、「国家非常事態」を宣言し、予め米軍に割り当てられている軍事建設費の一部等を流用して、国境に壁を建設すると発表したからだ。トランプ陣営は「伝家の宝刀」のつもりだろうが、やはり「禁じ手」じゃないのか。

関連法令としては1976年国家非常事態法があるが、そこには何が「非常事態」かの定義はない。米国基本法であるUS CodeのSection 10(米国法典第10篇)により、確かに大統領が各軍工兵部隊の軍事建設用予算を使うことは可能だろうが、それが自由に使えるんだったら連邦議会の予算権限など全く意味がなくなるだろう。

これが認められれば、将来民主党大統領が誕生したら銃乱射事件の際に「国家非常事態宣言」を濫用し、警察や軍隊を使って「刀狩り」をやるかもしれない。地球温暖化について「国家非常事態」を宣言し、強制的に温暖化ガス排出を停止させるかもしれない。民主党議員はもちろん、共和党員の中にも疑問を呈する声は少なくない。

報道によれば、共和党の上院議員の中にも数人(一説には10人近く)がトランプ氏の今回の決定を憲法違反または議会の権限を犯す行為として賛成しない可能性があるという。今後は下院民主党が今回の大統領決定を認めない法案を提出して可決、これを上院に送付して成立を図るということになりそうだが、泥仕合は免れないだろう。

仮に上院共和党議員の一部が造反して法案が可決されたとしても、トランプ氏はこれに拒否権を行使することは確実だから、法案は議会に指し戻される。この場合は両院が3分の2以上の多数で再可決しない限り、法案は成立しない。されば、問題は結局法廷闘争ということになる。

既に一部の州ではトランプ氏の「非常事態宣言」を憲法違反とする訴えを起こすと言われており、問題は最終的に最高裁までもつれ込むだろう。下級審では違憲判決が出る可能性が高いが、問題は最高裁だ。今の最高裁は保守系が過半数を占めているが、だからといってトランプ氏の判断を追認するとは限らない。

いずれにせよ、トランプ氏は最高裁での勝敗など全く関心がないだろう。トランプ氏は2020年の大統領選で、トランプ候補が国境の壁の問題につき非常事態宣言を含む全ての手段を尽くして、ワシントンの既存政治家やメディアと戦っている姿が有権者の目に映ればそれで良いのだから。統治に関心のない大統領こそは最強である。

〇東アジア・大洋州
米中貿易交渉が佳境に入った。双方とも、3月1日の期限を過ぎてでも、何らかの合意を発表したいのではないか。中国側が政治面または政策面の譲歩を行う可能性はほとんどないが、対米貿易黒字削減など操作が可能な数字なら喜んで譲歩するだろう。トランプ氏も市場へのメッセージが必要だからだ。
という訳で、米中間で短期的、一時的、限定的な妥協が成立する可能性は十分あるだろう。しかし、それで米中貿易戦争が「打ち止め」には決してならない。2020年の大統領選に向け、トランプ氏は中国と、イランと、ベネズエラを最大限利用するはずだ。これから一年半、世界中の関係者が振り回されることだけは確実である。

〇欧州・ロシア、中東
先週最も気になったニュースは14日にロシアのソチでロシア首相、トルコ大統領とイラン大統領が会合を持ったことだ。中身はシリア問題で、例のイドリブ県で先送りになっていた総攻撃の時期が議論されのだろう。米国が過早に撤退を発表してしまったので状況は一層複雑化したが、トルコがどこまでロシアを説得できるかがカギとなる。

〇南北アメリカ
ベネズエラに対する国際的干渉が続いている。米国は隣国コロンビアに米軍と大量の支援物資などを運び込んでいるというが、マドーロ現大統領も黙ってはいないだろう。それにしても、これを対外非干渉主義のSバノン元首席戦略官が聞いたら何と言うか。ベネズエラなどに関与することが米国の利益などと言うのは旧ネオコンの連中である。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

11-22日 国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)科学技術小委員会第56会期
11-3月8日 平和維持活動特別委員会及び作業部会 実質会期(ニューヨーク) 
12-19日 対日理解促進交流・ベトナムの枯葉剤被害障がい者支援関係者らが訪日
12-19日 対日理解促進交流・カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの若手公務員らが訪日
13-18日 薗浦内閣総理大臣補佐官がポーランド、スリランカ及びタイ訪問
13-19日 平成30年度イスラエル・パレスチナ合同青年招へいの実施
13-22日 対日理解促進交流プログラム・韓国の高校生らが訪日
18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18日 米国・大統領の日(ワシントン誕生日)(ニューヨーク市場は全て休場)
18日 「平石駐チリ大使及び山田駐ブラジル大使による任国治安情勢講演会」開催
18-19日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
18-22日 UN人権理事会諮問委員会 第22回会合(ジュネーブ)
18-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18-23日 阿部外務副大臣がバングラデシュ、コソボ及びオーストリアを訪問
18-3月8日 経済的、社会的、文化的権利委員会 第65回会合(ジュネーブ)
18-3月15日 国際民間航空機関(ICAO) Council phase 第216回会合(モントリオール)
19日 国連環境計画(UNEP)常任代表委員会 第145回meeting(ナイロビ)
19日 ASEAN-ロシア高級実務者会議(ASEAN-Russia Senior Officials'Meeting(ARSOM))(バリ)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 外務大臣及び愛媛県知事共催レセプション(飯倉公館)
19-22日 平成30年度中南米大使会議(東京)
19-28日 第25回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉会合(バリ)
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
20日 FOMC議事要旨(FRB)
20日 米・オーストリア会談(ワシントン)
20日 ソユーズST-B(OneWeb衛星10機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
21日 ロシア・イスラエル首脳会談(モスクワ)
21-22日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
22日 EU1月CPI発表
22日 ソユーズ2.1b(EgyptSat-A)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
22日ファルコン9(インドネシア初のハイスループット通信衛星PSN 6等)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
22日か25日 ロシア1月雇用統計発表
24日 セネガル大統領選挙
24日 キューバ・改憲案を問う国民投票
24日 タイ総選挙投票日
24日 モルドバ議会選挙
24日 第91回米アカデミー賞授賞式(ロサンゼルス)
24-25日 EU・アラブ連盟首脳会議(エジプト)

【来週の予定】
25日 メキシコ2018年第4四半期GDP発表
25日 イギリス領ヴァージン諸島の議会選挙
25日か26日 ロシア2018年貿易統計発表
25-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-3月1日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 first regular session(ローマ)
25-3月15日 国際海底機構(ISA)総会 first part (キングストン)
25-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
26日 メキシコ2018年12月小売・卸売販売指数発
27日 メキシコ1月貿易統計、雇用統計発表
27日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
27日 ソユーズST-B(OneWeb衛星10機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
27-28日 米朝会談(ハノイ)
28日 ブラジル2018年第4四半期GDP発表
28日 米国2018年第4四半期および2018年年間GDP発表(改定値)
28日 リビア・新憲法を巡って国民投票
28-3月1日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
3月1日 EU1月失業率発表
1日 米・PCE物価指数(商務省)
1日 朝鮮「三・一独立運動」から100年
2日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン デモミッション1)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
3日 第13期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)
3日 エストニア議会選挙
3日 東京マラソン

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2019年2月19日(火) | [ ]

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