ワシントンの寒暖の激しさは、1月20日号でもお伝えしたところですが、とにかく先週末から今週の中盤までは極寒でした。なんといっても一日の最高気温がゼロ℃すれすれです。最低気温に至っては、一番寒かった22日(水)はマイナス7℃。それでも、我が息子は「学校の中は暖かい」と、冬用ジャケットの下は半袖Tシャツのみ。こういうところにも大量消費社会のアメリカを感じてしまうあたりは、渡米して27年とはいえ、まだまだ私もアメリカになじみ切っていないのでしょうか。

 そして極寒のワシントンで、いよいよ22日(水)、トランプ大統領の弾劾裁判が「検事」役の下院弾劾裁判マネージャーチームのリーダーのアダム・シフ下院情報委員長の冒頭陳述によって幕を開けました。

 1月20日号で民主党側の「検事」チームについてはご紹介しましたが、トランプ大統領の弁護団をまだご紹介できていませんでした。トランプ大統領を弾劾裁判で弁護するという重責を担う弁護団は以下の10名です。

 (1)パット・シッポローネ(ホワイトハウス法律顧問)
 (2)ジェイ・セクロウ(トランプ大統領の個人弁護士、ロバート・ムラー独立検査官による捜査でトランプ大統領を弁護)
 (3)アラン・ダーショウィッツ(ハーバード大学教授、専門は憲法、元フットボール選手で映画俳優のO・J・シンプソン氏の妻殺害疑惑をめぐる裁判で同氏を弁護)
 (4)ケン・スター(ブッシュ(父)政権時の訟務長官(solicitor general、司法省No.4のポスト)、クリントン大統領弾劾裁判の時に独立検察官として一躍有名人に)
 (5)ロバート・レイ(元連邦検事、スター独立検察官の後任として、クリントン大統領の不倫疑惑についての報告書を執筆)
 (6)パム・ボンディ(元フロリダ州司法長官)
 (7)ジェーン・ラスキン(弁護士、元連邦検事)
 (8)エリック・ハーシュマン(過去15年間トランプ大統領の弁護を様々なケースで担当した法律事務所に所属する弁護士、元ニューヨーク州検事)
 (9)パトリック・フィルビン(ホワイトハウス副法律顧問)
 (10)マイク・プープラ(ホワイトハウス副法律顧問)

 白人、黒人、男性、女性と多様なメンバーをそろえた下院弾劾マネージャーチームに対して、トランプ弁護団は全員白人で、女性は二人だけ。パム・ボンディに至っては、「トランン大統領を当選させた女性」といわれるケリーアン・コンウェイ現ホワイトハウス顧問を彷彿とさせるプラチナ・ブロンド。民主党の弾劾裁判マネージャーチームとは見た目だけでも対照的です。

 冒頭陳述の後、早速、下院弾劾裁判マネージャーとトランプ大統領弁護団との間で激しい議論の応酬が始まりました。弾劾裁判初日の昨日は、冒頭陳述、その後の討論を併せてなんと計12時間。夜更けまで議論が続くうちに、下院弾劾マネージャーチームの二番手であるジェフリー・ナドラー下院司法委員長と弁護団の二番手ジェイ・セクロウ氏との議論が激化。「節度がなさすぎる」として、弾劾裁判の裁判官を務めるジョン・ロバーツ最高裁長官から双方がお叱りを受けるという前代未聞の事態まで発生しました。初日からこれではということで、弾劾裁判期間中は、上院議員やロバーツ最高裁長官だけでなく、当然下院弾劾裁判マネージャーやトランプ大統領弁護団にとっても、長い長い一日が続くことになるでしょう。一時はルディ・ジュリアーニ元市長も弁護団に加わるという報道が出ていましたが、あのお騒がせおじさんが弁護団に入っていたら、一体どうなっていたことでしょう。

 トランプ大統領弁護団のリストを見ていて、「ケン・スター」の名前をみた瞬間、私はのけぞってしまいました。実は私にとって、今回のトランプ大統領弾劾裁判は、在米生活27年で2度目の大統領弾劾裁判。前回、クリントン大統領が弾劾された理由は、正式には「宣誓証言での偽証と司法妨害」ですが、偽証の内容は当時ホワイトハウスで研修生(インターン)として働いていていたモニカ・ルインスキーさんという女性との不倫。その時に、クリントン大統領弾劾に結果として結びつく捜査を独立検査官として担当していたのが、まさにこの人なのです。

 当時、スター独立検察官の捜査に基づいて作成された報告書は「スター報告書」と呼ばれ、数百ページ以上ある大作であるにも関わらず、リリースされた瞬間にベストセラー。この時、私は在米日本国大使館専門調査員として働いていたのですが、彼の名前を見た瞬間、当時の記憶が蘇ってきました。まさか、この名前に20年以上たってから再びお目にかかることになるとは...という訳で、弾劾裁判は続きます。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年1月24日(金) | [ ]

 20日から通常国会が始まり、安倍首相が恒例の施政方針演説を行った。今回は初めての試みとして、この演説のうち「六 外交・安全保障」部分を取り上げ、特に重要と思われるパラグラフにつきコメントしたい。まずは(積極的平和主義)なる部分から始めよう。【】内は筆者の勝手な見立てである。


・・・オリンピック・パラリンピックが開催される本年、我が国は、積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算し、新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる一年であります。
【世の中に「消極的」平和主義なんてあるのか寡聞にして知らないが、恐らくは戦後の一時期に「革新勢力」なる一部の人々が弄んだ非武装中立などの「空想的」平和主義を総決算し、中国が台頭し北朝鮮が核武装するという「新たな(地政学的戦略環境の)時代」に、より現実的な外交を推進したいということだろう。】

・・・日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩委員長と向き合う決意です。
【米朝関係が決裂しないと日朝は動かない。金正恩はソレイマーニ司令官の「戦死」にビビっているのか。ここでは「条件」を付けずに、というのが肝だろうが、この表現は従来から使われており、特に目新しい点はないが、今年は何かが動く気もする。】

・・・韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。
【「最も重要な隣国」なる表現は久し振りだと思うが、「元来」という言葉に万感の思いが込められているのではないか。これを韓国側がどう受け止めるかが気になるが、4月の韓国議会選挙を考えれば、日韓関係の進展は難しいのではないか。】

・・・(日露)一九五六年宣言を基礎として交渉を加速させ、領土問題を解決して、平和条約を締結する。この方針に、全く揺らぎはありません。私と大統領の手で、成し遂げる決意です。
【日本の方針に揺らぎがないということは、日露関係に新たな動きもなさそうだということ。米露関係が改善しない限り、中露間の(戦略的同盟には至らない)戦術的パートナーシップは強化されるので、日露関係は動きにくい。残念ながら、これが現実なのだろう。】

・・・日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に、共に大きな責任を有しています。その責任をしっかり果たすとの意志を明確に示していくことが・・・国際社会から強く求められています。首脳間の往来に加え、あらゆる分野での交流を深め、広げることで、新時代の成熟した日中関係を構築してまいります。
【中国は平和と繁栄への責任を痛感すべきだが、習近平国賓訪問は予定通りやるということか。ここでも特に目新しい点は見られないが、日中関係は米中関係の従属変数であり、今後も中国が日本に対して戦略的譲歩をすることはない。今日本は対中関係を最大限、戦術的に改善する時である。】

(安全保障政策)
・・・いかなる事態にあっても、我が国の領土、領海、領空は必ずや守り抜く。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力に他なりません。「宇宙作戦隊」創設・・・更には、サイバー、電磁波といった新領域における優位性を確保するため、その能力と体制を抜本的に強化してまいります。
【尖閣などはまず日本が守り、必要なら戦う気だろう。「在日米軍さん、お先へどうぞ」と言った時点で同盟は崩壊する。新領域で日本の優位を確保するという表現もかなり踏み込んでいる、本気でやれば相当の金がかかるのだが・・・】

・・・日米同盟は、今、かつてなく強固なものとなっています。・・・日米同盟の強固な基盤の上に、欧州、インド、豪州、ASEANなど、基本的価値を共有する国々と共に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指します。
【一部邦字紙は「首相、施政方針で『台湾』に言及 異例の演説、どよめきと5秒間の拍手も」などと報じていたが、台湾への言及は安保政策部分ではなく、東北の復興に言及した部分で、「オリンピック・パラリンピックに際し、・・・岩手県野田村が台湾・・・の人々との交流を深めます」と述べただけではなかったのか。「異例」「どよめき」とは意味不明のヘッドラインだ。】


 懐かしい。筆者が外務省に入省した頃、施政方針演説といえば、各省庁から「これを入れて欲しい、あれを入れろ」といった無数の要望があり、省内や省庁間の調整が大変だった記憶がある。ところが今は原案を総理官邸が直接作成し各省庁に下ろすのだろうから、演説作成は時間的に随分楽になったのではないか。

 但し、いくら官邸主導とはいえ、演説内容はあまり奇を衒ったものにできない。しかも、それぞれの一言一句が関係省庁間の徹底協議の対象になることは今も変わりがないはず。昔なら徹夜も辞さず戦ったものだが、今は官邸の裁定で一瞬にして決まるのだろう。霞が関の毎年恒例の官僚スポーツも大きく様変わりしたのではないか。

〇アジア
 中国発の「新型肺炎、情報開示に疑念 北京や広東省でも感染拡大」なる記事が注目されている。今回は武漢市から始まったが、2003年には広東省からSARSが大流行した。当時筆者は北京在勤中、「当初は患者数を過少報告し、その後爆発的に増大する」というお得意の発表パターンを思い出した。中国は変わらないなあ。

〇欧州・ロシア
 ベルリンで開かれたリビア和平会議のサイドラインで英首相が露大統領と会談したそうだ。英側は数年前亡命ロシア軍情報機関員と娘が化学兵器で襲撃された事件を取り上げ、「ロシアが英国と同盟国を脅かす活動を止めない限り関係正常化はない」と述べたらしいが、露が止める訳はない。喧嘩を売ったジョンソンは腹を決めたのか。

〇中東
 そのリビア和平会議には欧米やロシア、トルコ、アラブ諸国などが参加し、「恒久的停戦に向けて取り組む」考えで一致したそうだ。「恒久的停戦、取り組む、考えで一致」ということは「総論賛成、各論反対」の同義語だ。トルコの参入がリビア問題解決を更に難しくしている。トルコ介入の理由は地中海のエネルギー利権だけではないからだ。

〇南北アメリカ
 今週米弾劾裁判がようやく動き始めた。一方、この時期は米紙NYTが民主党候補者支持を表明するのだが、今年はウォーレン、クロブシャー両上院議員の女性2人を支持するという。バイデン前副大統領には「以前に戻すことだけでは不十分」「世代交代すべし」と手厳しい。でもウォーレンだって70歳、NYTも困っているのではないか。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


13日-21日 対日理解促進交流2019・ASEAN招へい(カンボジア大学生らが日本を訪問)
20日 EU外相理事会(ブリュッセル)
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
20日 キング牧師生誕記念日で米市場休場
20日 米・トランプ大統領就任から3年
20日 中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長身柄引き渡し審理開始(カナダ・バンクーバー)
20日-22日 ポーランド・モラヴィエツキ首相が訪日
20日-23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
20日-28日 対日理解促進交流2019・インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、ネパール、モルディブ及びアフガニスタンの高校生及び大学生らが訪日
20日-2月2日 テニス全豪オープン(メルボルン)
21日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
21日 メキシコ2019年12月雇用統計発表
21日 タイ憲法裁、野党・新未来党の解党判断
21日 米大統領の弾劾裁判、審理開始
21日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星4 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
21日-23日 グスタフソン国連食糧農業機関事務局次長が訪日
21日-24日 世界経済フォーラム年次会合(スイス・ダボス)
21日-25日 若宮外務副大臣がスイスを訪問し、ダボス会議等に参加
22日 カナダ中央銀行政策金利・金融財政報告書発表
22日 外務省が地方自治体等を対象に「令和元年度地方連携フォーラム」開催(三田共用会議所)
22日 チリ最高裁、不明日本人留学生の元交際相手の身柄引き渡し審理開始
23日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
23日 国際司法裁、ロヒンギャ問題で迫害停止の仮保全措置判断
24日-28日 WFP執行理事会 First regular session (ローマ)
24日-30日 中国春節休暇
24日-3月20日 国連人権理事会 第43回会合(ジュネーブ)
25日 米アニー賞授賞式(ロサンゼルス)
26日 ペルー国会議員選挙
26日 米グラミー賞授賞式(ロサンゼルス)


【来週の予定】
27日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
27日 タイ国王の承認を得て予算成立
27日 メキシコ2019年11月小売・卸売販売指数発表
27日 アウシュビッツ強制収容所解放75年式典(ポーランド南部)
27日 H-IIAロケット41号機(情報収集衛星光学7号機)打ち上げ(種子島宇宙センター大型ロケット発射場)
27日-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
27日-30日 アラブ・ヘルス2020(ドバイ)
28日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
28日 メキシコ2019年12月貿易統計発表
28日-29日 米国FOMC
29日-30日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
30日 EU2019年12月失業率発表
30日 米国2019年第4四半期および2019年年間GDP発表(速報値)
31日 EU2019年第四半期GDP速報値(EU統計局)
31日 米国2019年12月PCE物価指数(商務省)
31日 ブラジル2019年12月鉱工業生産指数発表
31日 ブラジル2019年12月全国家計サンプル調査発表
31日 英国のEU離脱期限(見込み)
31日「羽田駐フィリピン大使及び石井駐インドネシア大使による任国治安情勢講演会」開催
2月1日 インド2020年度政府予算案発表
1日 EU英国間の離脱協定が発効した場合、英国のEU離脱移行期間開始(見込み)
2日 京都市長選

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年1月21日(火) | [ ]

 ワシントンはここのところ、寒暖の差が激しい日々が続いています。半袖でも外出できるのでは?と思うほど暖かい日が続いたかと思うと、気温が急下降して雪が降り公立学校が休校となったり、その逆があったり。体調管理にも一苦労です。

 しかし、このジェットコースターのような日々は、ここ数週間のワシントンの動きそのものです。先週15日(水)、ナンシー・ペロシ下院議長がトランプ大統領弾劾訴追決議に署名し、決議は遂に上院に送られました。この弾劾訴追決議は16日(木)の朝アダム・シフ下院情報委員長により再度読み上げられ、これをもって上院で正式に米国建国史上3度目の大統領弾劾裁判の手続きが開始されることとなりました。

 トランプ大統領弾劾訴追のいわゆる「検事」役を果たす下院からの弾劾裁判マネージャーは計7名となります。その顔ぶれは、

 (1)アダム・シフ下院情報委員長(検事出身)
 (2)ジェフリー・ナドラー下院司法委員長
 (3)ハキーム・ジェフリーズ下院議員(ペロシ下院議長に近いと言われる。弁護士出身)
 (4)ゾウイ・ロフグレン下院議員(議会スタッフとしてニクソン大統領の弾劾決議起草に携わり、クリントン大統領が弾劾された時は下院司法委員会委員を務め、今回の弾劾裁判にマネージャーとして加わることで、第二次世界大戦後の大統領弾劾手続きのすべてに関与することとなった)
 (5)ヴァル・デミングス下院議員(警察官出身)
 (6)ジェイソン・クロウ下院議員(弁護士出身、陸軍でイラク・アフガニスタンに駐留経験あり)
 (7)シルビア・ガルシア下院議員(テキサス州ヒューストンの地方裁判所判事出身)

で、白人、黒人、男性、女性、年齢層も幅広い構成のチームとなりました。

 本格的な弾劾裁判は来週からになりますが、手続きはクリントン大統領の弾劾裁判手続きと全く同じになる旨を、すでにマコーネル共和党上院院内総務が表明済みです。最初は「検事」役となる下院の弾劾マネージャーが冒頭陳述を行うことから始まります。

 今後最も注目されるのは、弾劾裁判に証人を呼ぶか否かであり、この共和党と民主党の間の最大の対立点がどのような決着を見るのかになります。民主党は弾劾手続きに関する共和党との交渉が始まった時から一貫して計4名の証人を呼ぶことを求めており、この4人にはジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官が含まれています。対する共和党は、証人を呼ぶのであれば、ハンター・バイデン氏(バイデン大統領候補の息子)も呼ぶことを求めており、交渉が暗礁に乗り上げている状態です。

 なぜこれが重要かというと、この対立点が如何に解決されるかは共和党が一枚岩を保てるかどうかのカギを握るからです。弾劾裁判での大統領の罷免には上院の3分の2の議員が賛成票を投じる必要がありますが、弾劾裁判の進め方は過半数の議員の賛成で決まります。現在、少なくともリサ・マカウスキー上院議員、スーザン・コリンズ上院議員、ミット・ロムニー上院議員の3名が、証人を呼ぶことに賛成するか否かについては「冒頭陳述を聞いて決めたい」と態度を保留していて、あと一人、共和党の上院議員が、証人喚問支持に回ると、マコーネル上院院内総務の「証人喚問はせず、速やかに2週間程度で弾劾裁判を終わらせる」という目論見が崩れてしまうのです。

 しかも、CNNは、トランプ大統領の顧問弁護士であるジュリアーニ元NY市長の関係者のレブ・パルナスという人物の重大発言を報じています。この人物が、ヨバノビッチ元駐ウクライナ米大使を更迭し、ウクライナ政府にバイデン大統領候補と息子のハンター・バイデンに対する捜査を行うよう圧力をかけるため、ジュリアーニ氏とともに動いていたことを示す大量の証拠を下院情報委員会に提出したというのです。さらに、会計検査院(GAO,現在はGovernment Accountability Office に正式名称を変更している)がトランプ政権による対ウクライナ軍事援助凍結は「法律を犯した行為」と断じる報告書を発表しました。今後の動きによっては、さらに穏健派共和党上院議員の間に動揺が広がる可能性も排除できなくなっています。

 いずれにせよ、今週、来週の動きで弾劾裁判が速やかに終わるか、大統領選と並行して「ずるずる」と長引くかが決まることになります。今週もトランプ大統領の弾劾裁判をめぐる民主党と共和党のバトル・ロワイヤルからは目が離せません。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年1月20日(月) | [ ]

 この原稿はインドネシアのジャカルタ空港で書き始めた。この空港、正式にはジャカルタ・スカルノ・ハッタ国際空港というらしい。ハッタとはスカルノと並ぶ建国の父だ。今回は久し振りにシンガポールとインドネシアに出張したが、どちらも羽田空港が利用できるので助かった。逆に、成田がますます遠く感じるようになったが・・・。

 シンガポールではパネル討論会、インドネシアでは大学での講演などをいずれも英語で行った。シンガポール英語は相変わらず独特だが、インドネシアの学生が英語を喋るようになったのは大きな進歩だ。一昔前はシンガポール人が英語でASEANを代表するかのように喋る姿をインドネシア人が苦々しく思っているという話をよく聞いた。

 インドネシアの国際的地位が向上しつつあることを象徴する話だろう。勿論、一般にインドネシアの英語のレベルは、教授レベルの能力も含め、まだまだ改善の余地がある。だが、インドネシアという国の将来性を考えれば、この国の英語力向上の努力は正当に評価すべきだと思った。

 これに比べると、日本の英語教育はまだまだではないか。インドネシア在留邦人の方に伺ったら、今回の「民間企業の英語テスト導入」騒ぎで、日本の英語教育は再び10年を無駄にする、と言っていた。正にその通り、インドネシアのような国から見ると、実に歯痒い気持ちになってしまうのだが・・・。今週はJapanTimesと産経新聞に「2020年に起きないこと」について書いた。ご関心の向きはご一読願いたい。

 台湾の総統選挙は予想通りだった。でも、これは中国のオウンゴールだ。一昨年まで蔡英文は内政的に劣勢で再選すら危ぶまれていた。状況を劇的に変えたのが昨年来の香港「民主化運動」。北京政府の判断ミスがなければ、蔡英文の圧勝はなかっただろう。中国の「強圧的」外交の限界を見る思いだ。

 それにしても、台湾民主主義は定着したなとつくづく感じる。「自由民主」という新しいアイデンティティを台湾の若い世代が正確に理解し始めたのか。台湾のみならず、東アジア全域での方向性は、自由で開かれた制度か、それとも閉鎖的統制下での経済的安定なのか、という究極の選択肢に行き着くだろう。

 近年米国の台湾政策は変わりつつあり、ワシントンでも新たな米台関係を模索する動きが出てきた。一部のASEAN諸国と台湾は水面下で密接な関係を維持してきている。これからは「インド太平洋」なる概念の中で中国や台湾の位置付けを考える必要が出てくるかもしれない。

 そうこうしている内に羽田に着いた。日本ではバドミントンの有力選手がマレーシアで交通事故でケガをしたニュースが流れていたが、筆者の関心はイラン国内での反政府デモの動向だ。各種報道によれば、13日までに、イランがウクライナ旅客機を撃墜した事件に抗議する反体制デモがテヘランで3日連続で行われたという。

 BBCによれば多くの学生が「優秀な人たちが殺され、宗教指導者が権力にしがみついている」と抗議したそうだ。折角スレイマーニ司令官殺害で国内不満勢力を「反米」で一致させたのに・・・、今回の革命防衛隊のミサイル誤射事件はイラン・イスラム政権にとって極めて大きな痛手となるかもしれない。

 それにしても、革命防衛隊の戦闘技量は大丈夫なのか。いくら緊張状態にあったとはいえ、民間航空機には識別信号があるはず。それを確認できない革命防衛隊は本当に精鋭なのか、それともロシア製防空システムの欠陥なのか、それとも、考えたくはないが、誰かがジャミングでもしたのだろうか。実に謎の多いお粗末な話である。

〇アジア
 米中貿易交渉の関連で、米財務省が主要貿易相手国・地域の通貨政策を分析した「外国為替報告書」を公表し、中国の『為替操作国』認定を解除したそうだ。中国に対する譲歩のようにも思えるが、どれだけ実質的効果があるかは疑問である。米中とも「狐と狸の化かし合い」は得意、形式よりも実質をしっかり見ないといけないと思う。

〇欧州・ロシア
 先週欧州で一番悲しいニュースは、イラン革命防衛隊によるウクライナ民間旅客機撃墜事件だろう。多くの犠牲者はイラン人留学生だともいわれるが、ウクライナ政府も踏んだり蹴ったりではないか。ウクライナ以外で大きなニュースはなかったが、英国のEU離脱はどうなっているのだろうか、気になるところだ。

〇中東
 安倍首相がオマーン、サウジ、UAEを訪問している。オマーン訪問の前日に同国のカブース「国王」が亡くなった。オマーンは中東湾岸地域で数少ない「良心の国」、ご冥福をお祈りしたい。ちなみに、カブースは正確にはスルタンであり、国王ではない。スルタンは政治的権力と宗教的権力を兼ね備える、国王よりも格上の存在である。

〇南北アメリカ
 米大統領弾劾問題がようやく動き始めた。未だ上院に送付されていない状況は解消されるだろうが、今度はトランプ氏の個人弁護士であるジュリアーニ元NY市長が、上院での裁判に関与すると言い出した。毎度お騒がせのジュリアーニだが、彼も含め、トランプ氏の周辺の人々は一体どうやって仕事をしているのか、実に不思議だ。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

6日-15日 対日理解促進交流プログラム2019・韓国大学生らが訪日(静岡県)
7日-13日 中国・王外相がエジプト、ジブチ、エリトリア、ブルンジ及びジンバブエを訪問
10日-13日 若宮外務副大臣のアラブ首長国連邦訪問
10日-18日 対日理解促進交流2019・ASEAN派遣(日本の高校生らがベトナムを訪問)
11日-15日 安倍首相がサウジアラビア、UAE、オマーンを訪問
11日-18日 対日理解促進交流2019・ニュージーランド、フィジなど大洋州の大学生らが訪日
12日-13日 ロシア・ラブロフ外相がウズベキスタンを訪問
12日-16日 河野防衛相がハワイ、ワシントン訪問、日米防衛相会談
13日 安倍首相がUAEムハンマド皇太子と会談(アブダビ)
13日 米アカデミー賞ノミネート発表
13日-14日 茂木外務大臣が米国訪問(サンフランシスコ )
13日-14日 香港アジア金融フォーラム(Asian Financial Forum)
13日-15日 中国・劉鶴副首相が米国との貿易協議の合意文書の署名のため欧米
13日-16日 欧州議会本会議(ストラスブール)
13日-16日 秋葉外務事務次官が中国出張(西安)
13日-16日 香港ファッション・ウイーク(秋/冬)
13日-16日 ワールドフューチャーエナジーサミット2020(UAE・アブダビ)
13日-18日 中山外務大臣政務官が東ティモール及びネパール訪問
13日-21日 対日理解促進交流2019・ASEAN招へい(カンボジア大学生らが日本を訪問)
14日 UNウィメン執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
14日 UNICEF執行理事会 Election of Bureau (1 meeting)(ニューヨーク)
14日 米国2019年12月CPI発表
14日 中国・19年12月の貿易統計(税関総署)
14日 米民主党の大統領選候補者討論会(アイオワ州)
14日 米韓外相会談(サンフランシスコ )
14日 安倍首相とオマーン・アスアド副首相兼国王特別代理が会談(マスカット)
14日-16日 Rasina Dialogue 2020(インド)
14日-19日 鈴木外務副大臣がホンジュラス共和国、ニカラグア共和国及びベリーズ訪問
15日 ブラジル2019年11月月間小売り調査発表
15日 米中が貿易協議「第1段階」合意文書に署名(ホワイトハウス)
15日 ベージュブック(FRB)
15日 長征2D(吉林一号、アルゼンチンの地球観測衛星)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
15日 GSLV(GISAT 1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
16日 米国2019年12月小売売上高統計発表
17日 EU2019年12月CPI発表
17日 中国2019年10-12月期の中国GDP(国家統計局)
17日 アリアン5(インド通信衛星GSAT-30、Eutelsat Konnect)打ち上げ(仏領ギアナ基地)


【来週の予定】
20日 EU外相理事会(ブリュッセル)
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
20日 キング牧師生誕記念日で米市場休場
20日 中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長身柄引き渡し審理開始(カナダ・バンクーバー)
20日-23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
21日 メキシコ2019年12月雇用統計発表
21日-24日 世界経済フォーラム年次会合(スイス・ダボス)
22日 カナダ中央銀行政策金利・金融財政報告書発表
23日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
24日-30日 中国春節休暇
25日 米アニー章授賞式(ロサンゼルス)
26日 ペルー国会議員選挙
26日 米グラミー賞授賞式(ロサンゼルス)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年1月14日(火) | [ ]

 遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。2020年が皆様にとって良い一年となりますように。今年も「デュポン・サークル便り」をよろしくお願い申し上げます。

 年末に子連れ帰省して年明けにワシントンに戻ってきたら、ワシントンは大騒ぎになっていました。日本にたった1週間滞在しただけなのに、その間に全くワシントンの動きが見えなくなってしまったため、必死にいろんなものを読み、ラジオを聞き、テレビを見て、ようやく皮膚感覚を取り戻せたと思えるまでに1週間かかりました。

 内政問題では、弾劾裁判の進め方をめぐって、上院で与党共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務と、民主党のチャック・シューマー上院院内総務のバトル・ロワイヤルが進行中です。さらに、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官は、弾劾裁判に証人としての出席を求められた場合にはこれに応じる姿勢を1月8日(月)に明らかにしました。これにより、従来トランプ大統領擁護でなんとか一枚岩を保ってきた上院の共和党議員の間、特にトランプ大統領との距離が微妙な穏健派の上院議員の間で足並みが乱れ始めるのでは、との観測も広がりました。ところが、その後穏健派共和党議員の代表格ともいえるスーザン・コリンズ上院議員(メイン州選出)とリサ・マカウスキー上院議員(アラスカ州選出)の二人が、証人の有無を弾劾裁判開始前に決めないというマコーネル上院院内総務の立場を支持したことで、なんとか共和党が一枚岩を維持したまま弾劾裁判に進む可能性が高まったようです。

 それにしても、1月に入ってからの最大の出来事は何といっても米・イラン間の緊張の急速な高まりです。年明け早々、1月2日(木)に国防総省が、イラン革命防衛隊のエリート部隊である「クドゥス部隊」のカセム・ソレイマニ司令官をイラクで殺害したと発表、さらに報復措置としてイランが7日に米軍が駐留しているイラク軍基地に対してミサイル攻撃を行ったことで、一気に情勢が流動化しています。すでに空挺部隊を含めて3000人余りの海兵隊員が、基地防護その他の任務のためにイラクに増派されています。これまでオバマ大統領を含め「自分の前任者たちは、明確な目的なく中東に米軍を派遣していた」と批判していたトランプ大統領が図らずも、自分が批判していた前任者と同様、中東への米軍増派の決定を下すという皮肉な状態が生まれています。しかも、7日のイランによるミサイル攻撃の前に、トランプ大統領は記者からの質問に答え「イラクが米国に対して攻撃を加えた場合には、すぐに報復の対象となる場所を52か所すでに特定している」と述べ、歴史的文化遺産に対する攻撃も厭わない姿勢を見せました。これに対しては国際社会からも一斉に強い批判の声があがり、エスパー国防長官が「米国は戦時国際法を遵守する」と、弁明に追われる事態となりました。さらに、米国内では、年明けのソレイマニ司令官殺害のための作戦行動の是非については事前に議会の承認を得るべき決断だったのではないか、という声も上がっています。

 ただ、今回のイランによるミサイル発射は、国内向けパフォーマンスであったことを匂わせる要素が、最初からいくつか指摘されていました。一つは、ミサイル発射の数時間後に、ザリフ・イラン外相がツイッターで「我々はこれ以上の緊張の高まりを望まない」とツイートしたことです。しかも、当初は7日夜に米国民に対するメッセージを出す、と言われていたトランプ大統領が、ザリフ外相のツイート後しばらくして「万事無事 (All is well)!」「正式な声明は明日の朝!」とツイート、トランプ大統領にありがちな逆切れモードのツイートを一切しませんでした。さらに、当初から米軍は、イランが発射したミサイルが米軍のいない場所を狙って発射された可能性が高いという情報を入手していたらしいこと、なども徐々に報道され始めました。今やワシントンでは「あの一瞬の緊張の高まりは何だったの」感が漂い始めています。

 とは言え、トランプ政権が1月2日(木)のソレイマニ司令官殺害を米議会に事前通知することなく行ったことは、今後しばらく尾を引きそうです。というのも、アメリカには戦争権限法という法律があり、米国が外国と戦争する際に宣戦布告をする権限は行政府ではなく議会にあると考えられているからです。今回、特に、下院では民主党が多数党であることもあり、9日には早速、「イランに対する武力攻撃は『米国に対する攻撃が迫っていると判断される場合を除き』議会の承認を得る必要がある」という内容の決議を賛成多数で可決、上院に送付しました。

 しかし、弾劾裁判モード一色でクリスマス休暇に突入したアメリカが、年明け早々、イラン関係のニュース一色となり、弾劾裁判関連報道が常にトップニュースになっている状態はとりあえず終わりました。もし、トランプ大統領の狙いがそこにあったとしたら、政治的には極めてしたたかな決断だったといえるのかもしれません。殺害されたソレマイニ司令官や、7日のイランによるミサイル発射の犠牲となった人がいれば、迷惑以外の何物でもないわけですが・・・。


(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年1月10日(金) | [ ]

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