東京では7月5日に行われた都知事選は現職の小池百合子都知事の圧勝に終わりました。東京版「疫病管理センター(CDC)」創設や来年夏に延期された東京五輪の簡素化を掲げていましたが、なんといっても頻繁に東京都のコロナウイルス対策ニュースでの露出が増えて、「最前線で頑張ってる」感がプラスに働いたのでしょうか。とは言え、ここ数日、東京都内でコロナウイルス新規感染者数がジリジリと増えているようで、まだまだ警戒感を緩めるわけにはいかないようですね。

 こちらアメリカでも引き続き、新規感染者数が毎日増え続けています。そんな中、学齢期の子供を抱える全米の家庭にとって最大の頭痛の種が「新学期はどうなるの?」問題です。というのも、アメリカでは日本のように、学校の年間スケジュールがどこにいってもほぼ同じというわけではないからです。それぞれの州の教育制度は、州によって異なり、場合によっては同じ州の中でも、自分の住んでいる場所がどの郡や市などの地方自治体に属しているかでも違うのです。例えば、私が住むバージニア州は、毎年、秋学期は8月最終週から始まりますが、お隣のメリーランド州では、秋学期が始まるのは、9月第1週のレーバー・デーの祝日が終わった後です。全米の他の地域では、速いところでは8月の第1週、2週ぐらいに新学期が始まる地域もあります。全米50州のうち、33州で、コロナウイルスの新規感染者数が増え続けている状態で、どのように教育関係者と生徒の両方のリスクを最小化して新学期開始にこぎつけるのか。特に共働き家庭にとっては、子供が3月~6月までのように100%在宅学習になるのか、週の半分は登校・半分は在宅学習という「ハイブリッド」型になるのか、それとも週5日、登校できる状態になるのかは、重要な問題なのです。

 各州の教育関係者が「子供の教育」と「公衆衛生の維持」のバランスに頭を悩ませる一方で、「自分たちの政権はコロナをやっつけた」アピールをする気満々のトランプ政権は、各州に対して「コロナウイルスを学校再開しない言い訳にするな」と圧力をかけ続けています。8日には記者会見でベッツィー・ダボス教育長官が、「学校を再開できないのは現場の関係者の怠慢」とでも言いたげな発言を連発、さすがにまずいと思ったのか途中から、会見に同席していたペンス副大統領がダボス長官に代わって記者団からの質問に応じる事態となりました。それでも、トランプ大統領は「対人教育を再開しない学校に対する補助金の減額を検討する」とこれまた恫喝じみた発言を繰り返し、トランプ政権の浮世離れした対応への批判は強まるばかりです。

 しかも、7月3日の独立記念日前日にサウスダコタ州のマウント・ラシュモア国立公園で行われた祝賀行事や、翌4日にワシントンで行われた記念祝賀行事の際にホワイトハウスで行った演説にも疑問符が付きました。普通このような場では国民の連帯を呼び掛ける内容の演説をするのが通例となっているにも関わらず、トランプ大統領は、南北戦争の時に南軍側で戦った将軍の銅像や、彼らの名前を冠した学校や道路の名前を変更しようという動きを「リベラルがこの国の歴史を抹殺しようとしている」と直球で批判するなど、彼の支持基盤である白人保守派におもねった発言を連発。これに対しても「連邦予算で賄われている行事で選挙演説をしている」との批判が噴出しました。

 最近では「予測不可能な発言をするよね」レベルではなく、「正気を疑う」レベルの支離滅裂な発言を連発しているトランプ大統領ですが、無理もありません。ファミリー企業のオーナーとしてワンマン経営しかしたことがない彼には、思い通りにいかないことが多すぎる日々が続いているからでしょう。

 世論調査の結果が彼にとってますます不利になっているのは序の口。過去数回の「デュポン・サークル便り」では、保守的な判事が過半数を占めている最高裁で、トランプ政権の意向に沿わない判決が次々と出ていることをご紹介してきました。9日にも、最高裁が、トランプ大統領の納税記録や財務関係の書類は、召喚状が出れば検察側に引き渡さなければならないという判決を下しました。トランプ大統領の就任前の不透明な資金の流れなどについて引き続き捜査を進めているニューヨーク地検がこれらの記録を今後も引き続き請求する可能性を残したわけですが、この判決は賛成7、反対2。なんと、ここのところ、中絶問題に関する判断などでトランプ大統領を激怒させているジョン・ロバーツ首席判事だけでなく、トランプ大統領自らが指名したニール・ゴルセッチ判事、ジョン・カバナウ判事まで賛成に回っています。「憲法の番人」である最高裁に終身任命される判事が党派的な判決を出さないことは、常識といえば常識ですが、トランプ大統領にしてみれば、飼い犬に手をかまれたような思いでしょう。

 さらに、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官の暴露本に続いて、今週は、自分の姪である、心理学者のメアリー・トランプ博士の手によるトランプ大統領伝が出版されますが、その中で、同博士は、トランプ大統領が、大学入学に必要な統一試験であるSATを、お金を払って代理受験してもらった、と暴露しているのです。また9月初旬には、メラニア夫人と親しかったセレブ広告代理店社長によるメラニア夫人伝も出版予定とか。追い詰められれば追い詰められるほど、支離滅裂ぶりに拍車がかかるトランプ大統領、大統領選挙まであと4カ月もあるというのに、この先、どうなってしまうのでしょうか。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年7月10日(金) | [ ]

 7月4日はアメリカ独立記念日、普段であれば、大多数のアメリカ市民が、老若男女人種宗教を問わず、アメリカ合衆国なる国家の一体感を再確認する数少ない日の一つ。だが、今年ばかりは状況が異なるようだ。コロナ感染拡大が今も止まらない中、大統領は、国民の団結よりも、国家の分裂を助長しているようにすら思える。

 筆者が体験した最初の独立記念日は1976年の7月4日、建国二百周年記念の年だ。当時はミネアポリスのミネソタ州立大学に留学していた。東京の友人から届いた手紙(当時はeメールもツイッターもなかった!)で、「さぞやそちらは二百周年で盛り上がっていることでしょう」と問われ、大いに困惑したのを今でも鮮明に覚えている。

 当時のミネソタにはお祭り騒ぎなどなかった。考えてみれば当然だろう。1776年当時、ミネソタは州ではなかったのだから。バイセンテニアル(二百周年)とは東部13州のお祭りで、ミネアポリスではデパート特売セールのネタでしかなかった。こうしたアメリカの多様性は、あれから44年後の現在も、あまり変わっていないようだ。

 英語にhalf full, half emptyという表現がある。コップは「半分一杯だが、半分カラ」、すなわち、同じ現象でも見方を変えれば、楽観的にも悲観的にもなり得るということだ。本日、7月5日の米フォックスニュースとCNNニュースを改めて見比べて、つくづく今のアメリカはhalf full, half emptyではないかと思った。

 確かに感染拡大は悲劇的だ。しかし、大統領を含め今も多くの米国人はマスクをしないでもコロナ禍には勝てると信じる一方、多くの知識人は現状を危機的だと信じている。しかし、その実態はhalf full, half emptyなのかもしれない。マスクもせず集まる人々は信条からか無知からか淘汰され、マスクをして家に籠る人々だけが生き残る。

 これも過去二百余年の米国の歴史の一部ではなかったか。あの国は昔から自由主義と個人主義の国だった。誤解を恐れずに言うのだが、仮に何十万人がコロナの犠牲になったとしても、米国社会全体には生き残る強靭な力があると思う。それに比べれば、中国の対応はあらゆる意味で、米国とは正反対ではなかろうか。

 その中国・香港で恐れていたことが起きた。6月30日夜23時に国家安全維持法が香港で即日施行された。新法の詳細は既に報じられており、ここでは繰り返さない。簡単に言えば、中国共産党が気に入らないと思ったら、香港人であれ外国人であれ、誰でも何らかの罪状で拘束、訴追できる「魔法の法律」ができてしまったらしい。

 たった一日でこうも状況は変わるものなのか。民主主義とは一体何なのか。6月30日に香港を失ったのは一体誰なのか。今週のJapanTimesと産経新聞のコラムはこうしたテーマで書いている。結論は、香港を失ったのはトランプではなく習近平であり、民主主義とはかくも儚いもの、ということ。ご一読願えれば幸いである。

 それにしても、何故このタイミングなのだろう。昨年11月区議選で民主派が圧勝した後、北京と香港政府が「沈黙」を決め込んだ。その後今年5月に新法制定の動きが急浮上している。今年前半はコロナ騒ぎもあったが、昨年の区議会選挙の結果を見て、北京は遂に腹を決めたのだろう。改めて、香港関連の記述を振り返ってみる。

◆ 2019年7月22日号 香港で7週間続く大規模デモにつき、「治安当局が鎮圧する最善の環境は、非暴力を掲げていた活動が過激化し、流血の事態に発展して、民衆の支持が失われること。今こそデモ参加者たちが最大限の自制を示すべき時ではなかろうか。」と筆者は書いた。ところが、実際には一部学生が更に過激化していく。
◆ 8月19日号 中国の介入につき、「中華人民共和国の香港に対する権威が決定的に害されれば、中国は必ず介入すると筆者は思う。言い換えれば、中国共産党の統治の正統性が害されれば中国は容赦しない、というか、嫌でも徹底的に弾圧せざるを得ない、というのが実態に近い。」と筆者は書いている。
◆ 9月2日号 無謀にも筆者は香港に出張し、香港のデモと、1960年代、70年代の日本の学生運動との違いを痛感する。「当時の東京に比べれば、今の香港のデモはまだまだ非暴力的だ。他方、当時の日本の学生運動の参加者には今の香港の若者のような本当の危機感、切迫感はなかったと思う。香港の若者は真剣そのもの、日本の甘っちょろい学生運動とは全く異なるのだなぁと実感した。」と書いている。
◆ 9月16日号 「信頼する現地関係者は一つの『終わりの始まり』が始まっていると見ている。なるほど、ここら辺が『当たらずとも遠からず』かもしれない。」と書いた。振り返ってみれば、どうやらこの頃から潮目が変わり始めたように思える。
◆ 11月11日号 「香港でデモと取り締まりの暴力化、過激化が進んでいる。このまま過激化すれば、学生たちは庶民の支持を失い、香港経済が衰退するだけなのに・・・。」
◆ 11月25日号 「香港の区議選で民主派候補が圧勝した。これで香港の民主化が進む?いやいや、むしろ逆ではないか。これは勝ち過ぎだとすら思う。筆者が習近平氏なら、これ以上の民主化要求には絶対に応じないと決めるだろう。」

 要するに、「過ぎたるは及ばざるがごとし」、ということか。

〇アジア
 先週、中国海軍は南シナ海に加え、東シナ海と黄海でも軍事演習を実施した。中国の海軍力は間違いなく強化されている。日本の海上自衛隊だけでは手に負えなくなりつつある、と言ってよい。一方、米海軍も南シナ海に空母を二隻派遣して演習を行ったそうだ。確かに、米空母二隻は久し振りだが、米海軍には最早余裕はなさそうだ。

〇欧州・ロシア
 主要EU諸国が海外渡航自由化に舵を切り、日本を含むEU域外の国・地域に対し入国規制の緩和と、14日間の隔離制限を解除したそうだ。欧州には観光で生活している人が多いので仕方ないとは思うが、本当に今のタイミングで大丈夫なのだろうか。筆者は絶対欧州なんか行かないが・・。

〇中東
 欧州と表裏一体なのが中東だ。各国とも徐々に平常化を模索し、今月から全面解禁に動きつつあるという。冗談ではない、筆者は中東の実態をある程度知っているだけに、欧州と中東が繋がったら、大変なことになる怖さも理解している。とてもではないが、欧州以上に、当分中東には行かないつもりだ。

〇南北アメリカ
 大統領選まであと4カ月を切ったが、トランプ陣営の数字が軒並み悪い。普通ならここらで選挙結果の予測の一つもしたくなるところだが、今年は9月中旬まで封印するつもりだ。9月の経済状況と、パンデミック第二波のタイミングがうまく重なれば、トランプ氏に勝機が生まれる可能性があると思っているからだ。難しいだろうが・・・。

〇インド亜大陸
 中印係争地帯での両国兵士間衝突事件後、インドのネット上で嫌中感情が爆発、「中国製アプリをスマホからアンインストールしよう、代替の非中国製アプリを利用しよう」などと盛り上がっているらしい。勿論これに中国が黙っているはずはなく、大きな論争になっている。この流れ、当分続きそうだ。今週はこのくらいにしておこう。


6月29日-7月24日 国連自由権規約人権委員会 第129回会合(ジュネーブ)
6日 EU司法・内務相理事会非公式会合(テレビ会議)
6日 国連経済社会理事会 integration segment (ニューヨーク)
6日 エレクトロン('Pics Or It Didn't Happen'キヤノン電子の衛星CE-SAT-IBなど)打ち上げ(ニュージーランドマヒア半島)
6日-7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日-10日 人権理事会 ワーキンググループ 第26回会合(ジュネーブ)
6日-17日 国連国際商取引法委員会 第53回会合(ニューヨーク)
7日 大統領予備選挙(デラウェア、ニュージャージー州)
7日 メキシコ6月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 イタリア・ディ・マイオ外相がロシアを訪問(モスクワ)
7日 マラウィ大統領選
8日-9日 米メキシコ首脳会談(ワシントン)
8日 ブラジル5月月間小売り調査発表
8日- 快舟十一号(吉林一号高文02Aなど)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
8日-10日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
9日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
9日 中国6月CPI発表 PPI発表
9日 メキシコ6月CPI発表 
9日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星10 57機など)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
10日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル6月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
10日 インド5月鉱工業生産指数発表
10日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会
10日 シンガポール総選挙
10日 韓国前大統領に差し戻し審判決
10日 長征3B(中国通信衛星APStar 6D)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
11日 インド6月鉱工業生産指数発表
11日 大統領予備選挙(ルイジアナ州)
11日-12日 香港民主派が立法会(議会)選に向けた予備選
12日 民主党大統領予備選挙(プエルトリコ)
12日 自動車F1第2戦決勝(シュピールベルク・レッドブル・リンク)


【来週の予定】
13日 EU外相理事会(ブリュッセル)
13日-16日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
14日 中国第2四半期貿易統計発表
14日 米国6月消費者物価指数(CPI)発表
14日 フランス革命記念日
15日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
15日 北マケドニア議員選
15日 ベージュブック(FRB)
15日 H-IIA ロケット42号機(UAE火星探査機「HOPE」(Al-Amal):EMM)打ち上げ(種子島宇宙センター)
16日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会非公式会合(健康)(テレビ会議)
16日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
16日 米国6月小売売上高統計発表
16日 中国第2四半期主要経済指標(GDP、固定資産投資、社会小売品販売総額など)発表
17日 ユーロスタット、6月CPI発表
17日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会非公式会合(雇用・社会政策)
17日-18日 特別欧州理事会(復興プログラムおよび次期中期予算)(ブリュッセル)
18日 第3回G20財務相・中央銀行総裁会合
18日-31日 香港立法会選の立候補届出

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年7月 7日(火) | [ ]

 コロナウイルスで外出自粛規制がかかる中、在宅勤務を続けている間に今年も半分が終わってしまいました。東京でもジリジリと新規感染者が増えているようですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 こちらアメリカでは南部諸州やカリフォルニア州で感染が爆発、フロリダ、テキサス、カリフォルニア州などでは、外出や経済活動規制が再び発出されそうな気配が漂い始めました。第2次感染爆発真っ只中のカリフォルニア州を除けば、今回、感染爆発が発生している州は、その全部がもれなく共和党の州知事で、全米に先駆けて外出自粛などの解除に踏み切り、「早すぎるのでは?!」と批判されていた州です。

 先週のデュポン・サークル便りで、コロナウイルスの感染拡大に終わりが見えない今の状態が長引けば長引くほど、共和党は11月の選挙では上院で過半数を失う可能性が大きく、そのような事態になれば、2024年の選挙まで過半数を奪回できるチャンスは巡ってこない可能性が高い、という分析についてお伝えしました。しかし、先週から共和党支持基盤が強い南部諸州でコロナウイルス感染が爆発し、収束の気配を見せないことで、これまでひたすらトランプ大統領の弁護に徹していた共和党議員の間でも、トランプ大統領と距離を置く発言が出始めました。ついに6月27日には、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務が、上院の議場で発言した際に、「公共でマスクを着用することに対する偏見があってはいけない」と発言、マスク着用をかたくなに拒むトランプ大統領に対して、同じく共和党のラマー・アレクサンダー上院議員に「国民とともにある姿勢を見せるためにも、たまにはマスク着用をしてくれたらいいのに」と言わしめる事態となりました。トランプ大統領を強く支持する議員の一人であるケビン・マッカーシー共和党下院院内総務も、選挙区のカリフォルニア州でコロナウイルス感染が再び爆発する中、「7月4日の独立記念日は、赤・青・白三色のマスクをつけて愛国心を示そう」と呼びかけ始めました。トランプ寄りの報道で知られるフォックス・ニュースですら、ここにきて連日、どのニュース番組を見ても、アンカーマンが「マスクを着用しよう!」と呼びかけています。

 いずれの光景も、今更感が漂うだけでなく、花粉アレルギーの季節や、インフルエンザの季節になるとマスク着用が当たり前な日本から見ると、奇妙に映るのだろうなと思いますが。。。

 そのような中、今週は、コロナウイルスに続いてトランプ政権終焉に向けたダメ押しとなるかもしれないニュースがワシントンを賑わせています。きっかけは、6月27日(金)にニューヨーク・タイムズ紙が、アフガニスタンでロシアが、タリバンに対して米軍兵士その他西側諸国の兵士を殺害することに対する懸賞金(bounty)を出していたと報じたことです。トラプ大統領は当初から、同紙によるこの報道を「虚偽報道(a hoax)」だと否定していますが、ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアによる懸賞金支払いの事実があったことを裏付ける送金記録を米情報筋が入手していたとする続報を6月30日付紙面に掲載。さらに7月1日にも、タリバンに対する懸賞金支払いは9名のアフガニスタン人のグループを仲介して行われていたという続々報を出しています。

 焦点は、ロシアによるこのような行為をトランプ大統領が知っていたのかということ。万が一、トランプ大統領がこの事実を知っていて、何ら対抗策を命じなかったとすれば、米軍の最高指揮官たる米大統領が、ロシア政府の意向をおもんばかって、米軍兵士の命を危険にさらしていたことになり、大統領としてあるまじき行為だからです。当然、議会からは、ホワイトハウス側による詳細な説明を求める声が噴出。現時点で、ホワイトハウス側は、「トランプ大統領は本件についてブリーフを受けていない」の一点張りですが、6月30日の時点で、CNNやワシントン・ポスト紙は、トランプ政権が、ロシア政府のこのような行為の可能性について2019年初頭の時点で既に警告を受けており、今年2月頃の大統領が毎日受ける情報ブリーフィングにも本件が含まれていたと報じています。それでも「ブリーフィングでは聞いていない」の一点張りのトランプ大統領に対して、この報道について聞かれたヒラリー・クリントン前大統領候補は「私だったら、ブリーフィングを最初から最後までちゃんと読むわよ」と、ブリーフィングなどのペーパーをほとんど読まないと言われるトランプ大統領に痛烈なあてこすり。ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官による暴露本に続き、本件も、まだまだ当分、尾を引きそうな気配です。

 このようにトランプ大統領が日々、自殺点を入れ続ける中、バイデン前副大統領は、バーチャル選挙集会以外に選挙活動らしいことはほとんどできておらず、たまにマスクを着用してメディアの前に現れ「マスク着用は愛国心の表現だ」と話す画像や、6月に陸軍士官学校卒業式に出席したトランプ大統領が、演壇に用意された水を両手でこわごわ持って飲んでいたのを意識して、片手でミネラルウオーターのボトルをつかんで水をグイっと飲む映像が流れるだけで、どんどん支持率が上がるという、不思議な状態が続いています。コロナウイルスによりいろいろな影響が表れていますが、今年の大統領・議会選挙も、今までにない選挙となりそうです。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年7月 3日(金) | [ ]

 今回の原稿は今年27回目、ちょうど半年の「折り返し地点」まで来たことになる。「もう半年か」という思いが例年以上に強いのは、今年前半がコロナウイルス一色だったからか。しかし、こうした状態は最低来年まで、下手すると、その後も長く尾を引く可能性が高い。という訳で、今回は久し振りにコロナパンデミックと共生する話から始める。

 今筆者が一番知りたいのは先進国ではなく、開発途上国でのコロナ感染拡大の実態だ。各種報道によれば、4月下旬には欧州・米国など先進国に集中していた感染者が過去数カ月の間に途上国で急速に広がりつつあるという。当時は感染者の4分の3は先進国だったが、6月下旬には途上国が過半数を占めるようになった。

 恐らくこうした状況は今後も続くだろう。ブラジルが筆頭の中南米、インドなど南アジアからイランなど中東にかけては既に多くの感染者が出ている。現地の医療状況に鑑みれば、外国からの支援がなければ壊滅的状況に至る可能性は高い。では、一体誰がこうした途上国の支援を行うのか。先進国は自国だけで手一杯だろう。

 されば、中国が再び手を伸ばしてくるのか。だが、中国だって全能ではない。いつ第二波、第三波が始まるか分からないからだ。こう考えると、来年以降は、どうやって感染爆発が続く途上国を支援するか、そのため如何に早くワクチンや特効薬を開発するか、などが国際政治のテーマになるだろう。日本にその準備はあるだろうか。

 さて、閑話休題、ボルトン元補佐官の暴露本発売から早くも一週間経った。あの保守強硬派ボルトンが昨日曜朝のCNN政治番組に出演し、トランプ政権をこき下ろしていた。やはりトランプに対する私怨なのか。それとも、国家のために敢えてリスクをとっているのか。恐らく、前者ではないかな?

 この暴露本を読むのに、今回は従来と異なる手法を用いた。直ちに電子版を購入し、全文に目を通したのだ。重要部分に黄色マーカーを引き、個人的感想を書き込んでから、再度関連部分を整理しコメントするやり方は、従来と変わらない。今回異なるのは、こうした事前作業を全てパソコン上で行ったことだ。

 そもそも電子版図書は「食わず嫌い」というか、何故か殆ど利用してこなかった。ところが、実際に使ってみると、これまでの自分の愚かさを憂えた。Kindleアプリは実に便利、自宅のPCでの読みかけも、そのまま外出先のタブレットで読める。「全文キーワード検索」だって簡単。おかげで今回は効率良く原稿がはかどった。もう手放せない。

 だが、これで内容が変わる訳ではない。①トランプは大統領の器ではなく、②2期務めるべきではない、③暴露された内容にあまり新味はなく、従って、④大統領選への影響も少ない、ということに尽きる。同書については今週のJapanTimesや日経オンラインにちょっと視点を変えたコラムを書いたので、ご一読願えれば幸いである。

 さて、ボルトン話はこのくらいにして・・・。今週も国際ニュースは「夏枯れ」が続いている。そんな中、筆者が気になったのは、「ロシアがアフガニスタンのタリバン系武装勢力に対し米軍を含むNATO軍兵士殺害のために報奨金を支払っていた」というニュースだった。確かにけしからん話であり、同情は禁じ得ないが、筆者は「ふーん」だ。

 筆者の第一印象は「えっ、何が問題なの?当たり前じゃない」というもの。米国のCNN等反トランプ・メディアは「大統領は事前に知っていたのか、知っていたのに何もしなかったのか」というお得意の問題提起を始めている。対するトランプ氏も、いつもの通り、「そんな話は聞いていない」と苦し紛れに反論している。相変わらずだな。

 ソ連がアフガニスタンに侵攻した後、中東全域から若く狂信的な現状不満分子を現地に集め、ムジャーヒディーンとしてゲリラ戦術を教え養成したのは、一体誰だったのか。米国の諜報機関が彼らに対し報奨金どころか、武器の扱い方からケシの栽培方法まで懇切丁寧に教えたことは、当時から公然の秘密だった。

 更に言えば、そのムジャーヒディーン達の中から生まれたのが、あの「アルカーイダ」ではなかったのか。今ロシアが米軍に対しやっていることと、1980年代に米国が当時のソ連軍に対しやったことと、一体どこが違うのか。可哀想なのは大国に翻弄されたアフガン人たちだろうが、と思ったらちょっと切なくなってしまった。

〇アジア
 韓国与党幹部が韓国のG7首脳会議参加に反対した安倍首相を批判したそうだ。せっかくお声がかかったのに、こともあろうに日本に反対されたので、ご立腹だろう。理解できない訳ではないが、日本が反対しなくたって、G11のアイディアに欧州が乗る筈はない。初めから実現可能性はゼロだった、と言ったらあまりに不憫だろうか。

〇欧州・ロシア
 英カンタベリー大司教が世界中の教会は「白いキリスト」を「当然」再考すべしと述べたそうだ。しかし、当時のベツレヘムに生まれたジーザスは当然中東のセム系だったに違いないから、そもそも「白い」訳がない。だが、それを「白く」描いたことが「人種差別」だと批判されるのなら、それも違うだろう。今の議論はどこかおかしい。

〇中東
 ユニセフがイエメン児童数百万人がパンデミックで「飢餓の瀬戸際」にある恐れを指摘したそうだ。可哀想に!でも、イエメンは今も内戦の真っただ中、パンデミックがあろうが、なかろうが、子供たちの悲劇は続く。イエメンは筆者がエジプトでアラビア語研修を始めた1979年のはるか前から、ちっとも変っていないのだから。

〇南北アメリカ
 米ミシシッピ州議会が、南北戦争の「南軍旗」が一部入った州旗を変える法案を可決した。この「南軍旗」、正確には「アメリカ連合国(Confederate States of America、連邦を離脱した7つの州、すなわちサウスカロライナ州、ミシシッピ州、フロリダ州、アラバマ州、ジョージア州、ルイジアナ州、テキサス州からなる)」の海軍旗だったそうだ。
 「レベル・フラッグ」が通称とされるらしいが、それは「反逆者の旗」という南軍の矜持なのかもしれない。最初の南軍旗は横長で星条旗と見分けが難しかったらしく、最終的に海軍旗を正方形にしたのだそうだ。それにしても、今でもこの南軍海軍旗を州旗の一部に使っていたとは。1960年代の公民権運動ぐらいで米国は変わらないのか。

〇インド亜大陸
 中印係争地帯での両国兵士間衝突でインドは中国との関係を見直すというが、実際にはそれほど簡単ではなさそうだ。逆に、中国にとっては対印関係改善するなら今だが、果たして北京にその度量はあるだろうか、疑問である。今週はこのくらいにしておこう。


<6月29日-7月5日>
29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 ロシア5月雇用統計発表
29日-30日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
29日-7月2日 UNICEF執行理事会 Annual session(ニューヨーク)
29日-7月3日 WFP執行理事会 Annual session(ローマ)
29日-7月24日 国連自由権規約人権委員会 第129回会合(ジュネーブ)
30日 中国・6月PMI(国家統計局)
30日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
30日 板門店での米朝首脳会談から1年
30日-7月2日 欧州地域委員会(CoR)第139回本会議(オンライン)
1日 ロシア憲法改正の是非を問う国民投票
1日 ドイツ・EU議長国任期開始(12月31日まで)
1日 香港返還から23年
1日 米・メキシコ・カナダ間の新しい合意 USMCAがNAFTAに代わる
1日 ファルコン9(米国航法測位衛星GPS 3-SV03)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
2日 FOMC議事要旨(FRB)
2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
2日 米国5月貿易統計、6月雇用統計発表
2日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
2日 EU5月失業率発表
3日 独立記念日(4日)振替で米市場休場
3日 ゴーン被告逃亡に協力した7人の初公判(イスタンブール)
3日 エレクトロン(キヤノン電子の衛星CE-SAT-IB)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
5日 ドミニカ共和国大統領選挙、国会議員選挙
5日 クロアチア議員選
5日 東京都知事選


【来週の予定】
6日 国連経済社会理事会 integration segment (ニューヨーク)
6日-7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日-10日 人権理事会 ワーキンググループ 第26回会合(ジュネーブ)
6日-17日 国連国際商取引法委員会 第53回会合(ニューヨーク)
7日 マラウィ大統領選
7日 大統領予備選挙(ニュージャージー州)
7日 イタリア・ディ・マイオ外相がロシアを訪問(モスクワ)
7日 メキシコ6月自動車生産・販売・輸出統計発表
8日 ブラジル5月月間小売り調査発表
8日 快舟十一号(吉林一号高文02Aなど)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
8日-10日 欧州議会本会議(ストラスブル)
9日 メキシコ6月CPI発表 PPI発表
9日 中国6月CPI発表
10日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日 シンガポール総選挙
10日 韓国前大統領に差し戻し審判決
11日 大統領予備選挙(ルイジアナ州)
11-12日 香港民主派が立法会(議会)選に向けた予備選

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年6月30日(火) | [ ]

 この数週間でジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官の本の出版、複数の種類の非移民ビザの年内発給停止、警察改革に関する大統領令署名、マイケル・フリン元国家安全保障担当大統領補佐官に対する刑事起訴の終了など、ワシントンは大騒ぎでした。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 先週のデュポン・サークル便りでも、トランプ大統領の再選活動に暗雲が立ち込めているかも?!というニュースをお届けしましたが、 今週も、トランプ大統領にとってあまり嬉しくないニュースは続いています。

 まず、6月20日にオクラホマ州で行われた選挙集会。オクラホマ州は、共和党の州知事が、全米に先駆けて集会人数の制限やソーシャル・ディスタンシングなどの規制を緩和し始めた州でもあり、トランプ陣営としては、ここでの選挙集会を大入り満員にして、「ポスト・コロナ」の選挙活動に向けて勢いをつけたいところでした。実際、事前には、ホワイトハウスは「会場で収容できる人数をはるかに超える応募がある」と強気の発言をし、会場に入りきらない人のために、別途、野外ステージを設けて、選挙集会が終わった後は、そこにトランプ大統領が立ち寄る、と発表していました。

 ところが蓋を開けてみると、大入り満員とは程遠い6千人程度しか選挙集会に集まらず、会場はスカスカ。隣接する野外ステージでの演説はキャンセルとなり、このオクラホマ州での選挙集会を終えてホワイトハウスに戻ってきた時のトランプ大統領の疲弊した様子を撮影した写真は、直後からメディアはもちろん、SNSなどで急速に拡散しました。しかも、選挙集会が始まる数時間前に、先遣隊としてオクラホマ入りしたトランプ大統領スタッフのうち、少なくとも6名がコロナウイルスに感染していることが発覚(感染しているスタッフの数はその後12名まで増加した)。さらに、トランプ大統領の身辺警護を担当するシークレット・サービスの警護官のうち2名がコロナウイルスに感染していることも判明、今日の時点で10名あまりのシークレット・サービスの警護官が自宅隔離を命じられています。

 また、先週、フォックス・ニュースなど、トランプに優しい(?)メディアが発表した世論調査ですら、バイデン前副大統領がトランプ氏を10%以上引き離してリードしているという結果が出ていることはすでにお伝えしましたが、それに追い打ちをかけるように、6月25日には、同じくフォックス・ニュースがテキサス州のように、これまで確実に共和党が勝ってきた州でも、バイデン前副大統領がリードしているという結果を発表しました。もちろん、その差は1%と、かなりの僅差なのですが、テキサスといえば、ブッシュ大統領の地元でもあり、常に「レッド(共和党)州」として見られている州です。そんな州でも、バイデンが優位に立ち始めているというのは、トランプにとってはショックでしょう。

 しかも、同じく25日に公表された、「バトルグラウンド州」における世論調査のいくつかの結果に基づくと、11月の大統領選挙ではトランプ大統領が「地滑り的敗北」を喫する可能性がでてきたようです。ニューヨーク・タイムズ紙がシエナ・カレッジと共同で実施した世論調査の結果によれば、いわゆる「バトルグラウンド州」とされるミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、アリゾナ、フロリダの全州でバイデン前副大統領が最低でも6%、最大で11%の差でトランプ大統領をリードしていることが明らかになりました。しかも、この世論調査の結果を報じたCNNは、バイデン前副大統領が11月に当選するためには、これらの州のうち、2016年大統領選挙でヒラリー・クリントン候補が抑えたウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州で勝利すれトランプ大統領に勝てると分析しています。

 また、大統領選だけではなく、議会選挙も、共和党にとっては厳しい戦いとなることが予想されています。現在、すでに民主党が過半数を握っている下院はもちろん、上院でも、今年の選挙で民主党が多数党の座を奪回する可能性がどんどん高くなってきており、「今年の選挙で過半数を失うと、次に共和党が上院で過半数を奪回できるチャンスは2024年の選挙まで来ない」という分析もあるほどです。上院は、政権が指名する閣僚や判事の承認や条約の批准など、政権運営をスムーズに行うには欠かせない権限を持っています。昨年秋に下院がトランプ大統領の弾劾を決定した時も、結局大統領が罷免されなかったのは、上院で共和党が過半数を握っていたからです。この上院の過半数まで民主党が握ることになれば、11月の選挙でもしトランプが再選を果たしたとしても、2期目の政権運営は相当厳しくなります。

 このような中、26日には、民主党は、コロナウイルスの拡散状況を鑑み、党大会はほぼバーチャルで開催することを正式に決定、8月下旬に予定どおり対人で党大会を行う予定を変えていない共和党との違いが鮮明になりました。また、バイデン候補は、ここ数週間の人種問題をめぐる緊張の高まりを考慮し、有色人種の女性を副大統領候補に選ぶことがほぼ確実視されています。今週は、これまで副大統領候補の一人として有力視されていたエイミー・クロウブシャー上院議員が「バイデン氏は有色人種を副大統領候補に選ぶべきだ」という理由で、自ら副大統領候補から降りました。

 バイデン氏は現在77歳。11月の選挙で勝利しても、来年、大統領に就任する時には78歳となり、2期目を目指す年には82歳となります。このため、バイデン副大統領は、自分の任期は1期に限り、2024年の大統領選挙では副大統領に大統領候補の座を禅譲する可能性が非常に高いため、彼が誰を副大統領候補に選ぶかに、今後はますます、注目が集まることになりそうです。

(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年6月26日(金) | [ ]

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