読者の皆さんが本コラムを読む頃は、日本でもCOVID-19に関する緊急事態宣言が出ているだろう。オーバーシュート(感染例急増)が起きてからでは遅いから、宣言を発出すること自体は基本的に正しい。だが、宣言発出までに一体どれだけの時間がかかったのか。やっぱり、日本は不思議な国なんだなあ、とつくづく思う。

 そもそも緊急事態宣言とは、「緊急かつ特別の危機に対し、緊急かつ特別な措置を発動すること」ではないのか。されば、通常、緊急事態は突然起こるのだから、宣言も基本的には突然出されるはず。実際に、3月初旬に筆者が出張したケンタッキー州では、同州初の感染者が出た時点で直ちに州知事が非常事態を宣言している。

 翻って日本ではどうか。当初は緊急事態宣言を出す法律すらなかった。その後の法改正で発出自体は可能となった。それでも要件が厳しいためか、なかなか宣言は出ない。大都市圏の知事や医療関係者から宣言発出を再三要請された挙句、漸く決断した緊急事態宣言。国民のパニックを起こさないためにはこれが最善なのか。

 日本の緊急事態宣言は誰もが「発出はもはや仕方がない」と思う「コンセンサス」ができないと発出されないのか。理由は恐らく、日本の意思決定が、責任回避のためか、常に「状況対応」型であり、「率先指導」型ではないからだろう。この点は黒船による明治維新の頃から殆ど変わっていないようだ。やはり何かがおかしいと思うのだが・・・。

 不思議な国というならブラジルだって負けていない。ロイターによれば、同国大統領は「新型コロナ感染症を『ちょっとした風邪』と呼び、保健相や州政府が推進する感染拡大を抑制するため社会的距離を保つ政策を経済にとって壊滅的な措置だと批判してきた」そうだ。これって、どこかの同盟国の大統領にそっくりではないか。

 これに対し、ブラジルのスラム街ではギャングが勝手に動いている。車で地域を回り、「誰もがこの問題を真剣に受け止めないので、我々が外出禁止を発動している。街頭でふざけたり、散歩に出かけようとする輩は見せしめとしてそれなりの報いを受けるだろう。家に居るほうがいいぞ」とメッセージを流しているらしい。さすがはブラジルだ。

 だが、今も日米にはブラジル大統領の判断に共感する向きが少なくない。社会的距離やロックダウンでは経済が壊滅的打撃を受ける。命が助かっても経済が破綻すれば終わりではないかと。しかし、逆もまた真だろう。感染症で多数の犠牲者が出れば経済復興もへったくれもないではないかと。当然ながら、筆者の判断は後者である。

 具体的な対応策が国によって異なるのは仕方がない。宣言が出ようと出まいと、国民一人一人が基本を忠実に守らないと自分と家族は守れない。昨日ある友人が転送してくれた「COVID-19の正しい対処法」がここにある。内容は既知のことばかりかもしれないが、今一度をじっくり読んでほしい。皆様の体と心の健康を心からお祈りする。


  • ◆ ウイルスが出てくるのは咳とか唾とか呼気。でも普通の呼気ではうつりません。これまでのほとんどの感染は、①感染者から咳やクシャミで散った飛沫を直接吸い込む、②飛沫が目に入る、③手指についたウイルスを食事と一緒に嚥下してしまうという3つの経路で起こっています。

  • ◆ 感染にはウイルス粒子数として100万個ほど必要です。一回のくしゃみや咳や大声の会話で約200万個が飛び散ると考えられています。つまり感染者がマスクをしているとかなり防ぐことができます。なるべく鼻で息を吸いましょう。口呼吸で思い切りウイルスを肺の奥に吸い込むのはダメです。

  • ◆ 外出中は手で目を触らない、鼻を手でさわらない(鼻くそをほじるのはNG)、唇触るのもだめ、口に入れるのは論外。意外と難しいが、気にしていれば大丈夫です。人と集まって話をする時は、マスク着用。食事は対面で食べない、話さない。食事に集中しましょう。会話は食事後にマスクして。

  • ◆ 家に帰ったら、速攻手を洗う。アルコールがあるなら、玄関ですぐに吹きかけて、ドアノブを拭きましょう。咽頭からウイルスがなくなっても、便からはかなり長期間ウイルスが排出されるという報告があります。

  • ◆ 感染防御のルールを再度整理します。①マスクと眼鏡の着用②手指の洗浄と消毒③会食は対面ではせず、一人で食事を短時間で済ませる④外から帰宅時は先にシャワーを浴びてから、食事陽性患者さんの多くは、手指から口に入るか、食事の時に飛沫感染しているようです。・・・・・

 今週も先週と同様、世界各地の外交的動きは鈍いまま。当然だろう、各国ともCOVID-19対応で忙殺されているからだ。ウイルス関連以外のトピックスも拾ってみた。

〇アジア
 韓国の朝鮮日報が、「北朝鮮には新型ウイルス感染者が1人もいない」とする北朝鮮労働新聞の記事を報じている。理由は「世界で最も優れた社会保険制度」なのだそうだが、あの国は大丈夫か。検査もできないくせに、何故感染者ゼロなどと言えるのか?どれだけの犠牲者が出ているかすら不明な「不思議の国の金正恩」である。
 もう一つ気になるのは4月8日に中国の武漢市が封鎖を解除することだ。本当に大丈夫なのか。現在世界には8種類のCOVID-19が今も感染を広げているという。これまで「封じ込め」てきた武漢のウイルスとは違う、より感染力の強いウイルスが流入したら本当に経済は元に戻るのか。でも、何が起きても公表されないから、同じか!

〇欧州・ロシア
 集中治療室に担ぎ込まれた英首相の容態が気になる。55歳だから未だ年寄ではないが、もう若くもない。万が一という事態にでもなれば、英国のEU離脱だけでなく、英国の対外政策自体にも大きな影響が出かねない。一方、大陸欧州ではオーバーシュート状態が続いている。欧州の試練はこれからも続きそうだ。

〇中東
 サウジアラムコが先月に続き、月次公式販売価格(OSP)発表を延期した。原油相場急落を受けサウジとロシア間の亀裂は解決しそうにない。サウジの皇太子は本気でロシアを相手に価格競争を仕掛けようとしているのか?勝算はあるのか。良く言えば小気味好い、悪く言えば向こう見ずの「大人の喧嘩」なのだが・・・。

〇南北アメリカ
 米大統領選では、民主党への関心が薄れてきている。ウィスコンシンでは州知事の予備選延期決定が同州最高裁によって覆された。民主党サンダース陣営では複数の選対幹部からサンダース候補に撤退を促す声が出始め、同陣営が分裂しているそうだ。どうやらCOVID-19はバイデン候補に味方しているらしい。

〇インド亜大陸
 カースト制が今も残るインドでは社会格差が新型ウイルスを封じ込める上で障害となっている。ロックダウン中の同国ではスラム街の低賃金労働者に「社会距離」を取る余裕はなく、首都圏では数十万人もの最貧困出稼ぎ労働者が出身地に向かって大移動を始めたそうだ。これがインド社会に何をもたらすのか、気になって仕方がない。今週はこのくらいにしておこう。


4日-6日 中国清明節休暇
6日 ロシア3月CPI発表
6日-24日 軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
7日 大統領予備選挙(ウィスコンシン州)
7日 メキシコ3月CPI発表
7日 ブラジル2月月間小売り調査発表
7日 日本・コロナ感染 拡大を受け緊急事態宣言へ(首都圏・大阪府・兵庫県)
8日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
8日 中国・武漢市の封鎖解除
9日 FOMC議事要旨(3月17-18日開催分)(FRB)
9日 ブラジル3月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
9日 インド2月鉱工業生産指数発表
9日 ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第62次及び63次長期滞在ミッション用ソユーズMS-16)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
10日 中国3月CPI発表 PPI発表(国家統計局)
10日 米国3月消費者物価指数(CPI)発表
10日 民主党大統領予備選挙(アラスカ州)※郵便投票
10日 グッドフライデー(聖金曜日)(為替は通常取り引き、債権、株式、商品市場は休場)
10日 北朝鮮の最高人民会議(平壌)


【来週の予定】
13日-16日 ESCWA(西アジア・経済社会委員会) 第31回 ministerial session(チュニス)
13日-19日 パキスタンIMFレビュー会合
14日 中国第1四半期貿易統計発表
14日-16日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
15日 第2回G20財務相・中央銀行総裁会会合(バーチャル形式)
15日 米国3月小売売上高統計発表
15日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
15日 韓国第21代国会議員選挙
15日 仏ノートルダム大聖堂火災から1年
15日 北朝鮮の故金日成主席誕生日
15日 ベージュブック(FRB)
17日 EU3月CPI発表
17日 ロシア1-2月貿易統計発表
17日 中国第1四半期主要経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日 民主党党員集会(ワイオミング州)※郵便投票
17日 仏裁判所でゴーン被告退職金めぐる真理
17日-19日 IMF・世界銀行春季総会(バーチャル形式)
19日 マリ国民議会選挙第2回投票
19日-20日 G20保健相会合(バーチャル形式)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年4月 7日(火) | [ ]

 コロナウイルスをめぐる日本の状況は、前回のお便りを書いていた時とはかなり変わってしまいました。お肉券やお魚券など、「配給制?」と一瞬、耳を疑ってしまうような議論が出たり、「各世帯に布製マスク2枚配布」というある意味、とても日本らしい対応策が突如発表されたり、といろいろありますが、個人的に一番ショックだったのは、コメディアンの志村けんさんが、コロナウイルス感染の診断が下りて入院してからわずか1週間余りで肺炎を併発して亡くなってしまったことです。46年もの長きにわたり、日本人にお笑いを提供してきた、「国民的コメディアン」といっても過言ではない志村けんさんの訃報に接したことで、日本でも、外出自粛要請を真剣に受け止める人が増えることを期待したいものです。

 かくいうアメリカでも、状況は日を追うごとに深刻化の一途をたどっています。3月30日から31日にかけて、ワシントンDC、メリーランド州、バージニア州、いわゆる「首都圏」の3州が足並みをそろえて、「不要不急の外出禁止命令」に相当する「stay-at-home order」を知事(ワシントンDCの場合は市長)の権限で出しました。ニューヨークでは相変わらずクイーンズ地区を中心にコロナウイルス感染者数・死亡者数が毎日、急速に増えています。さらにこの1週間余りで、ニューヨークだけではなく、ニューオーリンズ、デトロイト、アトランタのような他の都市でも感染爆発の兆しが見え始め、加えてシカゴ、フィラデルフィア、ボストン、ダラスといった、ニューヨークほどの規模ではないものの、人口が多く、ダウンタウンの人口密度が高い都市で同じような感染爆発が起こる可能性も懸念されるようになりました。バージニア州やメリーランド州でも、感染爆発に備えて、野外病院を設置する場所の選定が完了しています。州によっては州兵に動員がかけられた州もあり、現時点で、全米50州のうち48州が緊急事態宣言を発令、37州で、Stay-at-homeあるいはそれに準じる命令が発令されている状態です。

 そんななか、3月13日にトランプ政権が発表した「コロナウイルス対策自己隔離ガイドライン」の期限が3月28日で切れた後、トランプ大統領がどのような判断をするのかが注目されていました。というのも、3月13日にこのガイドラインを出した時点のトランプ大統領は「イースター(4月12日)の礼拝に全米の教会が信者で満員になったら、それは何と美しい光景だろう」「確かに感染がひどい地域もあるが、全米各地が一律で同じような被害状況ではない」といった発言を記者会見の檀上で連発し、ツイッターでも、様々な外出自粛に関する規制によりアメリカ経済が大きく停滞していることを指して「治療(cure)が病気よりひどい状態を生んではいけない」などの発言を連発していたからです。このため、早ければ4月中旬にも、自宅隔離や、10人以上の集会の禁止などのガイドラインの一部緩和に向けて踏み出すのではないか、という憶測が流れ、懸念をもって受け止められていました。

 ところが、そのような憶測に反して、3月29日に記者会見を行ったトランプ大統領は、3月13日に出したガイドラインを4月30日まで延長する、と発表したのです。あれだけ規制緩和に前のめりになっていたトランプ大統領がこのような決定を行ったことは、かなりの意外感を持って受け止められましたが、3月31日の記者会見で、なぜ、トランプ大統領がそのような決定を最終的にしたのかが明らかになりました。

 ずばり、「時期尚早なガイドラインの緩和をすると、1.5~2百万人のアメリカ人がコロナウイルスにより命を落としかねない」という結論を、ホワイトハウスのコロナウイルス対策タスクフォースが複数のモデルを検討した結果、叩き出したからです。しかも、ガイドラインを全米の全国民が忠実に守ったとしても、10~24万人のアメリカ人がコロナウイルスにより命を落とすリスクがまだ残っている、という結果まで出たことも明らかになりました。こんな数字を突き付けられては、さすがのトランプ大統領も、ガイドライン緩和には慎重にならざるを得なかったのでしょう。しかも、いつもは根拠なく楽観的な発言を繰り返すことでスタッフをひやひやさせているトランプ大統領が、3月31日の記者会見ではいつになく神妙な面持ちで「これからイースターまでの2週間は、アメリカにとって大きな痛みを伴う2週間になることを覚悟してほしい」と呼びかけたのです。「あのトランプでも、事態の深刻さを直視しなければいけないほどの状態だとは・・・・」と、米国内のコロナウイルス感染状況の深刻さが改めて認識される事態となりました。

 そんな状況のアメリカ各地で、ここのところ議論の焦点になっているのは、「essential」の定義です。というのも、ここが非常にアメリカらしいのですが、外出自粛命令の文言そのものは、「essential business以外の事業の一時停止」や「住民のessential な目的以外の外出の禁止」といったところが共通している場合が多いのですが、何をもって「essential」と呼ぶのか、またこの命令をどの程度強制力を持って執行するのか、などは各州でかなりの差があるのです。特に、個人活動を規制する「essential activities」の定義の差はかなりあり、例えば、メリーランド州は、「essential activities」の定義を「食料品などの生活必需品の購入・通院・ウォーキングやジョギング、犬の散歩など、気分転換と運動に必要な外出」などと定義しているのに対して、バージニア州では、「食料品などの生活必需品の購入・通院」はもちろん「気分転換や運動に必要な外出」にウォーキングやジョギングはもちろん、なんと釣りやゴルフも含まれているのです。ゴルフは一組最多4人でラウンドを回るため、「10人以上の集会」には当たらない、というわけです。また、メリーランドがこのような規制の違反者には「罰金をもって対応します」という姿勢なのに対して、バージニア州が罰金などの強制力を伴う執行を宣言しているのは「10人以上が集まる会合の禁止」のみ。さらに、「essential business」に酒屋と銃器・弾薬販売店を入れるべきか否かが、真剣な議論の対象になっているあたりも、アメリカらしさを感じさせます。兎にも角にも、今からイースターまでの2週間が、アメリカのコロナ対策にとっては正念場になりそうです。

 このような中、今年の大統領選はおろか、夏の党大会すら終わっていないのに、気が早いと怒られてしまいそうですが、コロナウイルス対策で全米が騒然とする中、2024年大統領選挙に向けて、二人の政治家が一気に急浮上してきたような気がします。共和党側は、予想されていたことではありますが、マイク・ペンス副大統領。日頃から、トランプ大統領が破天荒な発言を繰り返しているため、地道に副大統領としての職務に励んでいるだけで安定感と「大統領さ」を醸し出し、これまでの副大統領より数倍立派に見えてしまうという得をしているペンス副大統領ですが、今回のコロナ対策で責任者に指名され、タスクフォースを率いていることでさらに存在感が増しています。

 対して民主党は、現在コロナウイルス被害の最前線で、毎日、それこそ火だるまになって対策に奔走しているアンドリュー・クオモNY州知事が急浮上。今、まさにコロナウイルスが爆発的に感染しているクイーンズ地区出身の弁護士出身の同知事は、クリントン政権時代に都市住宅開発長官を務めたあと、ニューヨーク州司法長官に当選。その後知事選に勝利し、現在、知事として3期目を務めています。行政手法が「強硬すぎる」として決して人気が高いとは言えなかったこのクオモ知事、地元がコロナウイルスの震源地と化す中、毎日記者会見を行い、時にはユーモアを交え、時には連邦政府の対応に怒りをあらわにしながら、丁寧に記者の質問に答えつつ、議会の共和党と妥協しながらも次々に物事を決めていく姿勢が「有事に強い指導者」として突如、好感を持って受け止められるようになり、今では、毎日のクオモ州知事の記者会見は高い視聴率を叩き出しています。2001年の9・11テロ事件の際に指導力を発揮して一時は共和党大統領候補か?というところまで人気が出たルドルフ・ジュリアーニ元NY市長を彷彿とさせます。

 このクオモ知事、父親のマリオ・クオモ氏も、過去に3期続けてNY州知事を務めている、2代目政治家で、弟は攻める姿勢のインタビューで人気が高いCNNのアンカーマンの一人であるクリス・クオモ氏です。ちなみに、3月31日は、このクリス・クオモ氏がコロナウイルスに感染したことが判明し、メディアでも大きな話題となりました。もちろん、感染した当の本人は、自宅の地下室で「自己隔離」しながら、そこからウェブでカメラをつなげて引き続き自分の持ち番組の司会を続けるという根性を見せています。

 有事の時は、平時では想像できなかったような政治家が浮上してくるのはよくあることですが、このままでいくと2024年の大統領選はペンスVSクオモの「コロナ対決」なんてことになるかもしれません。


(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年4月 3日(金) | [ ]

 今日から不定期に、筆者が気になった朝鮮半島関連のニュースの中で、日本で報道されていないものを中心にご紹介していきたいと思います。時々筆者の関心事に偏りが出ることをお許しください。

今日筆者が選ぶニュースはこちら↓
2020年4月2日付『韓国日報』「韓国初の軍専用通信衛星7月に発射」

 韓国初の軍事衛星が今年の7月に米国で発射される予定とのニュースです。ここでの筆者の注目ポイントは、韓国軍が初めて単独運用する軍事通信衛星を獲得するということだけでなく、衛星を米国ロッキード・マーチン社から獲得したという点です。
 2014年に韓国政府はF-35Aを導入する際に、米国ロッキード・マーチン社とオフセット取引契約を結びました。その契約内容は韓国政府がF-35Aを購入する見返りに、ロッキード・マーチン側が軍事衛星1基を韓国側に提供するというものでした。しかし、契約締結時よりもコストが増えたことを理由にロッキード・マーチン社が一方的に事業を中断、両国間で問題になっていました。筆者はそこまでの情報まで追いかけていたのですが、どうやらその後両者の間で折り合いがつき、今回の発射計画にまで至った模様です。
 昨年3月の段階では同年11月に発射予定との報道が出ていましたが、今回の報道によれば今年7月になったとのことです。ただし、コロナ・ウイルスの影響により、欧州のエアバス社で組み立てられた衛星が米国に移送される際の検疫過程において、遅延が生じるのではないかとのことです。
 米韓関係は昨年の韓国政府によるGSOMIA終了決定を巡る動きや米国側が求める駐留経費負担の大幅な増額要求によって揺らぎを見せてきました。ついに本年4月1日から在韓米軍基地で働く韓国人労働者の半分が無給休職状態になってしまいました。その一方で、防衛産業の技術面における両国関係は昨年末ごろから「協力強化」への動きを見せています。こうした関係の変化については後日別稿にて紹介したいと思います。

(キヤノングローバル戦略研究所 研究員 伊藤 弘太郎)

2020年4月 3日(金) | [ ]

 遂に芸能界の大御所もCOVID-19の犠牲者となった。ほぼ同年代の筆者にとってこれは他人事ではない。医療関係者一部からも「緊急事態宣言」を望む声が出てきたという。オーバーシュート(感染例急増)は「時間の問題」という危機感なのだろうか。

 先週末、CIGS外交安保ユニットで国際テレビ会議を行った。東京とバンコクとワシントンを結び、一時間半近く外交安保ユニットの今後の活動について話し合った。それにしても便利になったものだ。新ウイルスにより、少なくとも今後数か月、下手をすれば一年、従来のような活動ができなくなるかもしれないからだ。危機感は募る。

 先週までなら、「まさかね!」とは思っていたが、今週になって考えが変わった。今後日本でオーバーシュートが起きなかったら、日本人は奇跡的に幸運なのだろうと思い始めたのだ。大規模な会場に多数の聴衆に来てもらい大講演を打つなんて、当分無理かもしれない。オオカミ少年はやりたくないが、これが今の筆者の本音だ。

 きっかけは一通のメールだった。ある国立大学に籍を置く高名な感染症専門家名で、「ウイルスと共存する長期戦略は存在しない・・・爆発的な感染拡大を止めるには我々の生存をかけた短期決戦」が必要だとするある学者の小論文を送ってきたのだ。正直なところ、最初は新手のスパムメールだと疑ったほどである。

 添付ファイルを下手に開くと「感染」する恐れもあったが、そこに書いてあったURL(https://www.fttsus.jp/covinfo/)を恐る恐るを開いたら、何と本物だった。横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科の佐藤彰洋特任教授の小論は極めて衝撃的かつ黙示録的だった。概要を紹介させて頂く。

●COVID-19は・・・理論的には、「ウイルスを消滅させ終息させる」か、「全員がウイルスにかかり病気になる」かのどちらかしか、解はない。
●「オーバーシュート」・・・が発生すると、日本国の全人口に向かって1週間で約10倍の増加速度で感染者が増加していく。
●これが起こり始めるのは、4月9日頃・・・我々の意思決定でそれを制御できるのはその14日前の3月26日頃だった。
●今何もしないと、4月9日以降、感染者数1万人を超えた頃から、10万人までその1週間後、100万人までその2週間後、1000万人までその3週間後、と増えていく。

 佐藤教授の推測が間違いであることを祈りつつ、最悪の事態には備えるべきだと痛感する。政治を考える必要のない「感染症専門家」が、現時点で考え得る最も現実的な予測と提案なのだろう。多少なりとも危機管理をかじった者として、この種の「悪い話」は常に念頭に置く必要があると感じた。

 されば、CIGSは今何をすべきなのか。この新型感染病はソ連崩壊後の1990年代から人々が信じた「グローバル化」に対する反論ではないか。COVID-19は政治、社会、文化面でのグローバル化を後退させる一方、経済的グローバル化を促進する可能性がある。されば、我らがユニットがこれを研究する価値は十分あるだろう。

 今週のJapanTimesでは「Can a dictatorship better control COVID-19?」と題するコラムを書いた。感染症封じ込めについては、民主主義よりも独裁主義の方が優れているとの声もある。だが、それは民主か独裁かの選択ではなく、教訓を学んだか否かの違いでしかない、というのが結論だ。お時間があればご一読願いたい。


 今週は世界各地の外交的動きが鈍い。当然だろう、各国ともCOVID-19対応で忙殺されているからだ。ウイルス関連以外のトピックスを含め幾つか拾ってみた。

〇アジア
 4月4日から中国では清明節の休暇に入る、はずだった。清明節とは、春分の日から15日後にあたる祝日。人々はお墓参りや宴会で先祖を思いながら食事を楽しむというが、今年はどうだろう。中国のCOVID-19封じ込めは本当に成功しているのか。今後COVID-19の第二波が来たとき、中国政府は一体何と説明するのだろう。
 一方、日韓では通貨スワップ協定再締結をめぐり両国が再びギクシャクしているらしい。韓国側が再締結に前向きなのに対し、日本の財務大臣は「金を貸す方が頭を下げるという話は聞いたことない」と言い放ったそうだ。なるほど、日韓関係は理屈ではない。されば、この問題も容易には解決しないだろう。

〇欧州・ロシア
 欧州でのオーバーシュートの原因は中国の「一帯一路」だという人がいる。イランもイタリアも一帯一路の重要国で中国人が多くいるからだというが、本当にそうか。中国系が多いというなら、台湾、香港、シンガポールはどうだ。日本にだって多くの華僑がいるではないか。事実に基づく議論が今ほど必要な時はない。
 その欧州では、中国に感激したセルビアの大統領が五星紅旗にキスしただけでなく、習近平氏を「兄弟であり友人」とまで呼んだそうだ。欧州で孤立気味のセルビアとはいえ、実に節操がない話だ。それはともかく、他の多くの欧州諸国が最近の中国の動きを懸念していることは事実。これがアジア系差別にならないことを祈るしかない。

〇中東
 原油相場下落が止まらない。3月30日、ニューヨーク原油は一時19.92ドルとなった。パンデミックによる需要減退と露サウジ間の価格競争激化で安値は続くという。それにしても、サウジ皇太子は強気だ。生産量1050万BD(バレル / 日)を1200万BDにしてでもシェアを取りに行くらしい。どの程度勝算があるか知らないが、不安は募るばかりだ。

〇南北アメリカ
 流石の米国も今は大統領選挙どころではないのか。予備選挙が予定通り行えなくなってくると、バイデンの優位は動かないだろう。ちなみに、ワシントン・ポストの世論調査でトランプ(47%)とバイデン(49%)の支持率が拮抗しているという。前回はバイデンが7%リード、トランプが挽回しているというが、これを日本語では「目糞鼻糞」という。

〇インド亜大陸
 インド在住の友人が「ニューデリーでもCOVID-19 のロックダウンは時間の問題」だと言ってきた。インドでオーバーシュートが起きたら文字通り「地獄」になるが、それは他の途上国でのパンデミックの序曲に過ぎないのかもしれない。今週はこのくらいにしておこう。


3月30日-4月2日 欧州議会本会議
30日-4月3日 国連人口開発委員会 第53回会合(ニューヨーク)
31日 ブラジル2月全国家計サンプル調査発表
31日 ヘンリー英王子夫妻が王室離脱
31日-4月2日 国連人間居住計画 執行理事会 2020第1回目定期会合
1日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
1日 EU2月失業率発表
1日 宿泊税導入(トルコ)
1日-2日 国連経済社会理事会 Youth forum(ニューヨーク)
2日 米国2月貿易統計発表
3日 国連経済社会理事会 Partnership forum(ニューヨーク)
3日 米国3月雇用統計発表
4日 G20教育相会合(リヤド)
4日 民主党大統領予備選挙(アラスカ、ハワイ、ワイオミング州)
4日 英労働党が党首選出
4日-6日 中国清明節休暇
5日 徳島市長選


【来週の予定】
6日 ロシア3月CPI発表
6日-24日 軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
7日 大統領予備選挙(ウィスコンシン州)
7日 メキシコ3月CPI発表
7日 ブラジル2月月間小売り調査発表
8日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
9日 FOMC議事要旨(3月17-18日開催分)(FRB)
9日 ブラジル3月IPCA発表
9日 ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第62次及び63次長期滞在ミッション用ソユーズMS-16)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
9日 インド2月鉱工業生産指数発表
10日 中国3月CPI発表、PPI発表(国家統計局)
10日 米国3月CPI発表
10日 グッドフライデー(聖金曜日)(為替は通常取り引き、債権、株式、商品市場は休場)
10日 北朝鮮の最高人民会議(平壌)
15日 米国3月小売売上高統計発表

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2020年3月31日(火) | [ ]

 日本では一斉休校終了、宝塚劇団の公演再開など、少しずつではありますが、生活が日常に戻りつつあるのとは対照的に、アメリカは、3月13日(金)午後にトランプ大統領が「国家緊急事態宣言」を出して以来、緊張感が日ごとに増しています。私のワシントンDCでの職場、スティムソン・センターをはじめ、DCのシンクタンクは軒なみ公開イベントを中止・延期、職員も全員、在宅勤務が基本となりました。DCでは毎年3月下旬から4月上旬にかけて行われる桜まつりも中止となり、毎年、地元住民と観光客でにぎわうワシントンDCの桜の名所であるタイダル・ベイスンは、今年は、コロナウイルス拡大のリスクを抑えるため、23日(月)から封鎖となっています。

 各州でも、ジムも、プールも軒並み閉館、レストランもテイクアウトかデリバリーのみとなりました。Social Distancing (家族以外の人との間の距離を6フィート以上に保つこと)、Self-quarantine(自己隔離)といった言葉がすっかり毎日の会話の一部となりました。23日(月)にはメリーランド州もバージニア州も、州内のすべての学校(デイケアを除く)を年度が終わる5月下旬~6月上旬まで休校することを決定、共働き家庭に大きな打撃となるのは確実です。連銀の複数回にわたる介入と、経済を回すための金融緩和措置にも関わらず、株価は先物市場を含め、乱高下が続いています。

 トランプ大統領は、先週の国家緊急事態宣言以降この1週間、頻繁にコロナウイルスに関する記者会見を開き続けています。記者会見にはトランプ大統領だけではなく、本件対策の責任者であるマイク・ペンス副大統領、エボラ熱や豚インフルなど、これまでもパンデミックが国外で発生するたびに、メディアに引っ張りだこになっているアンソニー・ファウチ全米伝染病統制センター所長、1980年にエイズが流行し始めた際に陸軍の医官として対応に奔走、一気に知名度を上げた伝染病の専門家であるデボラ・ビルクス博士を含むコロナウイルス対応のためのタスクフォースの主要メンバーが勢ぞろいし、記者団の質問に答えています。

 23日(月)もトランプ大統領を筆頭にしたこのタスクフォースの記者会見があったわけですが、今回の記者会見でトランプ大統領のメンタリティーのシフトを感じました。先週までの記者会見では、トランプ大統領をはじめ、ペンス副大統領、ビルクス博士、ファウチ全米伝染病統制センター所長のいずれの発言を聞いても、「コロナウイルスによる被害は数か月続く」というどんよりしたムードが漂っていました。

 ところが、23日(月)の記者会見でトランプ氏は「我が国は2つのことを同時にできる」と発言。3月13日から15日間という期間で設けられた「自宅待機期間」が終わる3月末をめどに、少しずつ現在の外出規制などを緩和する方向に向けて方針転換したい雰囲気をムンムンと漂わせていました。また、タスクフォースの責任者であるブリックス博士も、世界各国から集まってきているデータを調査した結果、(1)15歳以下の子供の羅患率、致死率は極めて低い、(2)感染した人の80%は自然治癒するなどの傾向がある、と強調しています。また、感染者数が急ピッチで増加しているニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州のデータを具体的に上げて、この3州で起きている現象がいかにユニークなものであるかを強調しています。

 特に興味深かったのが、記者会見でブリックス博士が繰り返していた「personal responsibility 」という言葉です。ちょうど23日(月)はランド・ポール上院議員がコロナウイルスに感染したニュースで朝から持ち切りでした。特に、コロナウイルス感染テストを受けた後に、結果を待たずにポール議員が上院のジムを使い、プールで泳いだりしていたことが、一般の国民にはSocial Distancing を励行しておきながら矛盾している、と批判の対象になったのです。この件について「議員の行動は軽率だったとは思わないか」と質問されたブリックス博士は、3月13日の記者会見でホワイトハウスから出たガイドラインの資料を掲げながら「先週、このガイドラインを発表した時に、どうしても仕事に行かなければいけない人たちがいる状況の中で、どのように自分たちの健康を守るかというのは自分でも責任を持って行動しなければならない問題だと言いました。たとえ自分の周りに軽率な行動をとる人がいたとしても、このガイドライン(手洗いの徹底、菌の生存率が高い場所の除菌の徹底、体調の不調を感じた場合の検温)に従えば自分の身を守ることは可能です」と答えたのです。

 トランプ大統領は、2週間前のガイドライン実施以降、米国内の経済活動が停滞していることにいら立っていると報じられています。すでにトランプ大統領の支持層である保守派の間では、自己隔離政策などが経済を直撃していることに対する不満が広がりつつあると言われており、24日にはダン・パトリック・テキサス州副知事が、「米国経済は、現在のような閉鎖に長期間耐えられるようにはできていない」「仕事に戻ろう。普段の生活に戻ろう」と発言したことが報じられています。

 各州が学校の一斉休校、レストラン内での飲食禁止(デリバリーか持ち帰りのみ)などの対策を次々と打ち出す中、この感じだと、トランプ大統領が「感染率が特に高い州を除いて」という例外条項付きで、自己隔離策などの緩和を各州に求める方針を打ち出してもおかしくないなと感じました。

 このような状況の中、ニュースの重要度という観点からは「1にコロナ、2にコロナ、3,4がなくて5に民主党大統領予備選」と化した感のある民主党大統領予備選では、着実にバイデン前副大統領がサンダース上院議員に対するリードを広げています。バイデン前副大統領は、3月17日にイリノイ、フロリダ、アリゾナの3州で行われた予備選のすべてで勝利し、3月23日の時点では、民主党予備選で大統領候補指名を獲得するために必要とされる代議員1,991人中の半数以上を占める1,139人をすでに獲得、サンダース上院議員に獲得代議員数で300人以上の差をつけています。今後、「早く撤退してバイデン支持を表明しろ」という圧力がサンダース陣営にかかるのは必至です。

 そこで気になるのが、リベラル派候補としてサンダース上院議員と支持層を奪い合った結果、大統領選撤退を表明したエリザベス・ウォーレン上院議員の動向です。彼女がバイデン前副大統領への支持を表明すれば、サンダース陣営にとっては、とどめの一撃となるでしょう。逆にウォーレン上院議員にしてみれば、バイデン前副大統領に対する支持表明を出すことで、バイデン陣営に大きな貸しを作ることができ、政策プラットフォームに彼女の意向を反映させるチャンスが大きくなります。それだけでなく、「バイデン政権」の中での彼女自身、そして彼女のスタッフの人事にも影響力を行使することができるわけです。「引き際が肝心」とはいろいろな世界でよく言われますが、早めに大統領選撤退を表明したことで、かえって自分の影響力を増すことに成功したウォーレン議員はまさのその典型でしょう。

 コロナウイルスをめぐるトランプ大統領の動きに民主党予備選と、アメリカ政治は相変わらず盛沢山です。


(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 辰巳由紀)

2020年3月25日(水) | [ ]

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