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2017.11.22

リスクを追って涎を垂れ流す

公益財団法人資本市場研究会 『月間資本市場』2017年11月号 に掲載

  • 福井 俊彦
  • 理事長
    福井 俊彦

 これまでの資本市場のイメージを、「美しいフォーメーションを形成し、整然と投資資金の仲介をする市場」と表現するならば、これからの資本市場については、「毒を持っているかもしれない獲物を追って涎を垂れ流しながら捜し回るプレーヤーが、ランダムに押し寄せる市場」と言い表すことが出来よう。勿論、勝ち負けのみにリスクを賭ける投機家が集まる市場という意味ではない。リスクは高いが、投資先の新しい事業が生み出そうとしている価値の素晴らしさに惹かれ、涎を垂れ流しながら駆け込んでくる投資家によって機動的に形成される市場ということだ。

 戦後の日本の経済発展は、「先行する欧米諸国に追い着け、追い越せ」、これが基本目標であった。日本の企業はその過程で多くの技術革新を成し遂げたが、textbook approachがベースであったので、新規の起業と較べると、相対的にリスクの度合いは低かった。よって、ともすれば資本市場よりも金融市場に期待される役割の方が大きかった。

 これからは違う。それも日本だけではない。18世紀半ば以降の産業革命に端を発して、資本主義はそれ以前の商業資本主義から産業資本主義に衣替えしたが、その産業資本主義も先進国においては総じて成熟段階に到達し、今や、次のパラダイムを求めて模索の段階に入っている。情報通信革命の延長線上に浮上して来たAI、IoT、フィンテックなども、本当にどのような大きな役割を担うのか、まだ必ずしも明らかではない。

 ただ最近の動きを見ると、新しい価値創出は既存の大企業の中からというよりは、未来に向けて夢を抱く若い人達が(多くの場合グローバルな連携のもとに)立ち上げるプロジェクトの中から芽生える傾向が強まっている。そして、事業に伴うリスクの度合いやプロファイルをきちんと読み込んで、タイムリーに投資資金を供給するダイナミックな資本市場の形成が求められている。株式市場や債券市場の刷新のみならず、その域を超えて様々な態様のファンドの組成を含む概念である。大学の研究所の中での奨学金を出発点として、世に出て起業するまでの間、幾段階の特許を得て製品やサービスを高度化する段階、それらを本格的に売りに出す段階など、イノヴェーションの時系列に沿って異なる性格の資金が必要になる都度、求めなくとも資金の方から嗅ぎつけて寄って来る、そんな状況に到達して、はじめて、真に国際競争力を備えた市場が確立された、と人々が感ずるようになろう。