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2018.03.05

ベビー・ステップ -早めに少しずつ- のすすめ

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 不確実性が高いときには、金融政策は少しずつ動かしていくことが望ましい。漸進主義とかベビー・ステップと呼ばれるアプローチだ。少しずつというと政策の小出しだ、出し惜しみだと批判されることもあるが、そうではない。状況判断に応じて少しずつ動くので間違った場合の調整が容易だし、実態が明確になるまで待ちすぎて、後に大きな調整を余儀なくされることを回避出来る。この場合、リスクがあってもある程度の確信がえられれば、赤ん坊のような小さな歩幅であるが早めに一歩踏み出す必要がある。濃霧の中を運転するときにうっすら道がみえ始めたときに動きだすかきれいに晴れるのを待つか。晴れるまで待っていたら到着が遅れスピード運転となり危なくなることを回避するためには早めにゆっくりと出発し、霧の濃度に合わせてスピードを調整しながら進む方が望ましいという考え方だ。

 例外もある。黒田東彦総裁下の日銀は漸進主義を否定し、非常にアグレッシブな金融政策を行った。日本がデフレ均衡に陥っていると診断したからだ。泥道にはまってしまったときにゆっくりとエンジンをかけていたのでは抜け出せないということだ。もちろんデフレ均衡という診断には議論がある。多くの人が中長期的には物価が上昇するとみている中でデフレが長引いたのは、様々なショックが断続的に起こった結果とみることも可能で、実際リーマンショックの前には政府はデフレ状況にはないと判断していた。そのような見方に立つと漸進主義を否定しなくてもよかった。経済物価情勢の変化に応じて機敏に調整しない現在の政策運営は、市場との対話が不十分となり過度の反応を引き起こしかねない。また結果が見えるまで動かないでいると出口に向けての対応が遅れすぎることにならないか心配だ。漸進主義への回帰が望まれる。

 企業についても同様だ。グローバル化・IT技術革新が進み不確実性が高い中、業務をどう変革していくか、企業の大まかな将来像は描けても具体的な目標とそこに到達するまでの道筋・手立てがなかなか見えない。異業種からの参入に加え新興国の台頭で、行動パターンが読める同業者と競争していたときとは競争の質が異なってきているのでなおさらだ。しかし事業環境が目まぐるしく変化している状況で目標と手段が明確になるまで待っていては競争には勝てない。

 ソフトウェア開発手法に大きく言えばウォーターフォール型とアジャイル型の二つがある。前者は日本が得意な従来型で、事業案件やシステム案件を定め、詳細な設計を行ったうえで計画に従って開発作業を行う方法だ。後者は環境変化が激しい下で考え出された方法で、技術革新や事業環境の変化に応じて途中で変更を可能とする適応的な開発方法だ。関係者との対話と検証を重ねつつ少しずつ進んでいく方法だ。

 リスクがあってもある程度の確信があればまず一歩動いてみる、そして動きながら試行錯誤を続けて望ましい道を探っていくというアジャイル的なやり方は、ソフトウェア開発に限らず現在の日本企業には必要なアプローチだ。このような漸進主義で、不確実性が高い中で他よりも一歩先んじることができる。撤退のコストも小さくてすむ。

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