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2018.04.27

日中韓協力と北朝鮮

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2018年4月26日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 先週、東京である国際機関が開催するフォーラムに招待された。主催者はTCS(日中韓三国協力事務局)、といっても多くの読者はご存じないかもしれない。平成23年に日中韓3国の平和と繁栄の促進を目的に設立された国際組織で、本部は韓国のソウルにある。恥ずかしながら、TCSについては筆者もほとんど知識がなかった。今回はこの小さいながら大きな可能性を秘めた国際機関の視点から北朝鮮問題を考えたい。

 まずはTCSの生い立ちから始めよう。同事務局は21年に北京開催の第2回日中韓サミットで設立が決まった。23年9月から正式に活動を開始し、過去7年間に政府と民間レベルで政府間協議や大学・民間シンクタンク・研究機関との協力案件を実施可能な分野で数多く手掛けてきた。肝心の日中韓サミット会合が27年以降開かれず、あまり目立たないが、毎年3国の政府が運営予算を3分の1ずつ負担し、現役外交官を出向させるなど活動内容は本格的である。

 今月18日、東京で開かれた国際フォーラムで筆者は率直に次の通り述べた。


●3国協力を語るのは簡単だが、さまざまな経緯もあり、実施するのは想像以上に難しい。

●東アジアで戦略的環境変化が起きている以上、3国協力にも戦略的議論が必要だ。

●3国協力活動には可能なものと不可能なもの、戦略的なものと戦術的なものがある。

●これまでは経済・文化分野を中心に戦術的に可能な案件に絞って実施してきた。

●これからは戦略的に実施不可能な難しい案件こそ意識的に取り上げていくべきだ。

●具体的には3国間で不必要な誤解や誤算を最小化し、合意を最大化するため (1)普遍的価値をどこまで共有できるか (2)中国の台頭はどこまで進むのか (3)東アジアにおける米国のプレゼンスをいかに評価するか、などにつき合意点と相違点を明確にする議論が必要だと考える。

●そのためには、日中韓の政府ではなく、在野の戦略思考家たちがTCSの枠内で率直に議論することが望ましい。


 筆者がこう考えるのには訳がある。今年に入り、朝鮮半島情勢は大きく変わりつつある。特に、北朝鮮外交・内政の変化はトランプ氏の米朝首脳会談受け入れ発言後、急速に進みつつある。

 日本語には2つの相反する諺(ことわざ)がある。「三度目の正直」と「二度あることは三度ある」がそれだ。歴史が動くとき、最初は楽観論が有力となる。ベルリンの壁崩壊時も、中東和平進展の時もそうだった。しかし、北大西洋条約機構(NATO)・欧州連合(EU)の東方拡大や「アラブの春」の際は楽観論の限界が露呈した。先週北朝鮮が核実験と長距離ミサイル発射実験の中止を発表した際、日本の論調は幸いにも懐疑論が多かった。しかしこうした状況がいつまで続くかは未知数である。

 北朝鮮の「微笑外交」により始まった現状が今後さらに進めば、例えば、南北首脳会談で朝鮮戦争の終結方法が真剣に議論され▽米朝首脳会談で「非核化」プロセスに妥協が成立し▽経済制裁の段階的解除の可能性が具体化し▽平和条約締結やそれに伴う在韓米軍撤退議論が始まり▽北朝鮮経済の改革開放や日朝関係正常化の議論が勝手に動き出すかもしれない。

 一方、北朝鮮が容易に核兵器開発を断念するとは思えないので、一定期間経過後は希望が失望に変わり、信頼が不信に急変するときが来る可能性も考えておく必要がある。

 それこそTCSの真価と存在意義が問われるときではないか。日中韓3国の戦略的合意点と相違点を正確に理解することは、将来3国間の不必要な誤解や誤算を回避し、3国に正しい判断をもたらすだろう。二度あることは三度あるのだから。

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